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「真理子!何してんの?お父さん帰ってきてはるから降りてきなさい」

芳江が階下から声を掛けてきた。仕方なくクローゼットを閉めてリビングへ降りる。

「おかえり。お父さん。元気そうやね」

真理子はリビングのソファにどっかと座っている康彦に笑顔を投げ掛けた。

「おう、来てたんか。変わりなそうやな」

康彦も頬を緩める。

「うん、まあまあってとこやけど」

「彩夏も大丈夫か?」

「うん、ま、なかなか云うこと聞いてくれへんけどな…」

「なんや、それ。おまえがちゃんとせーへんからとちゃうんか?」

「そんなことないよ」

「そっか、それやったらええけどな。ま、ゆっくりしていき」

「うん、ありがと」

真理子は頷きながら微笑んだ。

芳江も急須の茶葉を新しく入れ替えながら微笑んでいる。

「あんたもお茶飲むやろ?」

康彦にお茶を淹れた芳江は真理子に向き直って顎を上げる。

「うん、いただく。ありがと」

真理子は先ほど経験した不思議な出来事を話そうかどうかと戸惑いながら頷いた。

「そんで、どうしたん?彩夏のことで相談って?何やのん?」

芳江は自分の湯呑み茶碗にお茶を注ぎながら真理子の目を見て尋ねた。

「うん…あのな…」

真理子は言いかけたが、さきほどの出来事を思い返して先に訊ねてみることにした。

「それはそうと、お母さん。いま2階のあたしの部屋覗いてみたら、クローゼットのなかの《くまくん》の奥にピアノがあってんけど、あんなん、前からあったん?」

「ん?ピアノって?どんな?」

芳江は眉根を寄せて首を傾げた。

「これぐらいのグランドピアノの形をした玩具っていうか…」

真理子は両手を広げて60センチ角ぐらいの大きさを示した。

「ああ…」

芳江は何かを思い出した様子で頷いた。

「あれ?知ってんのん?」

真理子は意外そうに芳江を見返した。

「それ、あのピアノと違うんか?」

それまで二人のやりとりを聞くでもなくお茶を飲みながら、詰将棋の問題集をページ確認しながら開こうとしていた康彦がいきなり割り込んできた。

「たぶん、そうやと思うわ…。それあんたの部屋で見たんか?」

芳江も訝しながら康彦を見て、思いついたように真理子を睨んだ。

「真理子っ、あんた、彩夏に何かしたやろっ」

「えっ、なに?いきなり?」

「せやから、彩夏に手上げたりせえへんかったかて聞いてるねん」

「えっ?さっき、彩夏が何か言うたん?」

「彩夏は何にも言うてへんよ」

「ほんなら…、何でそんなこと言うのん?」

「こっちが訊いてるねん。どうやのん?」

「うん…、そう、ちょっと…」

「やっぱり…」

芳江は湯呑み茶碗を手に持ったまま視線を落とした。

「彩夏があたしの云うこと、ぜんぜん聞いてくれへんから…。彩夏のことで相談って言うたんはそのことやってん」

真理子はちょっと涙目になって続けた。

「あたしが仕事のこととかで苛ついてるときなんかはほんまに腹が立って、つい手を上げてしまうねん…。あかんと思うてるねんけど…」

「それで、そのピアノで何を見たんや」

康彦がまた割り込んで訊ねた。

「ちょっと変な…。信じられへんような場面…。映画観てるみたいに目の前に現れて…。若いお母さんと子供のあたしが話してるっていうか、お母さんがあたしに言い聞かせてるような場面やったわ。約束は絶対に守らなあかんとか、なんとか、お母さんがそんなこと言うてた」

康彦と芳江はその話を聞いて顔を見合わせると小さく頷き合った。


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