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 真理子は静かになったリビングで、急須に少し残っていたお茶を自分の湯呑み茶碗に注ぎ足して、それを飲みながらしばらくボーッとしていた。彩夏は芳江に対してなぜあんなに素直に振舞うんだろう。母のあたしにはあんなに頑なになるのに…。真理子はそんなことを考えながら何となく結婚するまで使っていた自分の部屋を覗いてみたくなり、その部屋がある2階へ上がってみた。この部屋はあたしが出ていった後も何故か以前のまま何も触らずに維持されている。夫の克洋が存命だった頃、実家に宿泊したときはこのセミダブルのベッドで2人窮屈に寝たことを思い出す。さすがに布団は片付けてあったがベッドの位置もそのままで、ヘッドボードの上では真理子が幼いころからの友達だった3体のテディベアも当時のまま健在で真理子に微笑みかけていた。真理子は思わず3体まとめて抱きしめた。

「みんな、元気してたぁ?」

子供のように嬉しそうな声をあげた。真理子は結婚して新居に引っ越す際に、この子たちも連れていこうと思っていたのだが、他の荷物と一緒に詰め込まれるのが嫌で、そうかといって抱えて持っていけるようなものでもないので、今度来たときにでもと思いながら、そのまま何年も経っていたことを自嘲しながら目の前のクローゼットを開けてみる。真理子が幼少期に遊んだ玩具などがきれいに整頓されて収納してある。その横で中学生の頃に買ってもらった全長1メートル以上ある大きなテディベアがじっと真理子を見つめていた。

そうだった。この子が大きすぎて持っていけなかったのだと思い直した。

「くまくん、久しぶりっ!」

また声を出して掌を頭の上に乗せて子供によしよしするような動作で撫ぜると、何かが転がるようなカランという音を立てた。あたしはもちろん、両親からも《くまくん》と呼ばれていたこの大きなテディベアの後ろに玩具のピアノが横向きに立て掛けてある。グランドピアノ型のそれは隙間に突っ込んであるといったほうが正しい状態かもしれない。

「こんなんあたしのと違うなあ…。誰のんやろ?」

真理子はそう呟きながらそのピアノの玩具を引っ張り出してみた。またカランとさっきの音がする。床の上に置いてみたが、3本あるはずの脚部の内、左前部分が折れてしまったのか無くなっていて、ひじょうに不安定でグラグラしている。しかし黒鍵も付いていて、どちらかといえばレベルが高いほうのピアノ玩具だ。こんなものがあったことすら真理子の記憶にはない。適当にキーを1つ2つたたいてみる。さっき聴いたカラン、カランという音が鳴った。

「ちゃんと鳴るやん」

真理子はひとり呟きながら《ド・ミ・ソ》を一度に叩いてみると、それなりにCの和音に聴こえる。子供用なので指が隣のキーに当たって弾きづらいが、黒鍵も大丈夫なのかなと《シ♭・レ・ファ》とたたくと、B♭の和音とともに目の前に白いベールのようなものが現れて、真理子の顔に覆い被さってきた。

「えっ、なに?」

真理子は慌ててそれを押し退けようと両手を前へ突き出した。

「わっ、なんやこれっ!」

もう一度右手を前に突き出して払い除けようと大きく右側に腕を振ると、頭に被さっていたベールがそのまま取り払われた


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