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 今日は彼岸の中日。これぞ秋晴れというように、雲ひとつない真っ青な空が広がっている。真理子は両親の墓参りに来ていた。一人娘の彩夏と彩夏の夫祐樹、それに今年3歳になる孫の祐太も伴っている。真理子の家は過去帳で時代が分かるものだけで天正三年とあるから戦国時代真っ只中まで遡ることができ、その出自は農民であってもそれなりに由緒があるそうだ。従って、そんな時代が起源であるにもかかわらず墓地の埋葬敷地はかなり広い。聞けば2世代ぐらい前まではこの辺りも土葬だったそうで、棺をそのまま埋葬するための広さを確保したためだということだった。現在は火葬になっているので、将来ひと柱ごとに墓石を建てていっても当分は余裕があるなどと以前はよく笑いながら話したものだった。真理子の夫克洋は先祖の墓地の有無など話したこともないまま不幸な事故で早逝してしまい、そのとき克洋の両親はすでに鬼籍に入っていたので、問い合わせる縁戚も不明だったため、その遺骨もここに埋葬し、墓石も新たに建立してある。

 真理子が父康彦、母芳江、祖母ハルと夫克洋、それに写真でしか見たことのない祖父喜一の墓前にそれぞれ線香をあげて、ひと柱ごとに丁寧に手を合わし、彩夏と祐樹もそれに倣った。祐太はその横で不思議そうにきょとんとしながら真理子の袖を掴んで立っていた。


「おばあちゃん?おばあちゃん?」

「ん?祐太くんか?どうかしたんか?」 

ロッキングチェアに座っている真理子の袖を掴んで呼びかけている祐太に気が付いた。

「お母さんがお菓子焼けたから呼んできてって」

そういえばバターの焼けるいい匂いがしている。

「見て、見て!これ。僕が作ったクッキー!どう?カッコええやろ?」

「へーっ、祐太くん、もうそんなことができるんやなあ」

真理子は差し出されたラタンのデザートトレーを見て、驚きで一瞬声が出せなかった。そのトレーにはあのト音記号のペンダントブローチの形に焼かれたクッキーが載せられていた。

真理子はハルの思いが詰まったあのピアノを膝の上に載せたまま、ロッキングチェアに揺られて眠っていたらしい。祐太が焼いたト音記号形のクッキーを見つめながら、また微睡のなかに入っていくようであった。

「カラン、カラン、カラン」

真理子の頭の中に何故か《レ・ファ♯・ラ》とDの和音が響いたように思えた。



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