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真理子は少々呆気に取られたまま自分の部屋からリビングに戻って、何も考えられないまま思いついたように訊ねた。
「晩御飯どうする?」
「なんやのん、入ってくるなり」
彩夏に紐の結び方を教えてくれていた芳江が頭を上げた。
「相変わらずやな、おまえは」
康彦は地上波では放映されていない野球中継が始まるとかで、CS放送のチャンネルを検索しながら応えた。
「まあ、ええやんか。台所にあるもんであたしが何か作るわ。それでええ?」
真理子が微笑みながら同意を求めた。
「あやか、からあげたべたい!」
彩夏が嬉しそうに手を挙げる。
「それやったら冷凍庫に胸肉が冷凍してあるから、それ使ってくれたらええよ」
芳江も微笑みながら真理子に頷きかけた。
「OK!お母さん、エプロン貸してな」
真理子はカウンターの向こう側に掛けてある白いエプロンを指差した。
真理子はキッチンスペースに入って準備を始めながら芳江に訊ねた。
「お母さん、あたしって逆子で生まれたん?」
「えっ!今度はなんやのん、ほんまにいきなりやなあ、この子は…」
芳江は驚いてキッチンの真理子を見てから康彦へ目を向けた。
「何や?それがどうかしたんか?」
康彦は普段見ないようなスポーツ専門チャンネルで見つけたタイガースとドラゴンズの試合にチャンネルを合わせてから真理子に訊き返した。
「うん、さっきな。またおばあちゃんのピアノの音がして、あたしが生まれた病院でお母さんが入院してるとこ見てしもた」
「えっ?ほんまに?」
芳江が驚いたように電子レンジで解凍した鶏の胸肉をひと口大にカットしている真理子に振り向いた。
「うん、お母さんが入院してて、あたしと一緒にベッドで寝てて…。逆子やけど帝王切開せんと無事に分娩できたってお医者さんが言うてた」
「そうなんや…。そんなことまで知らせてくれてるんやね…」
芳江は感慨深げな顔付きで呟いた。
「いよいよ不思議なピアノやな。あれって。これからも大事にせんとあかんな」
康彦も何かを確信したような顔つきになって芳江と真理子へ交互に眼を向けた。彩夏は3人の会話を聞きながら不思議そうにきょとんとしながら芳江の袖を掴んで完成させた蝶々結びを見せていた。
「おばあちゃん、できたあ!ほらっ」