表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

10

 「どうかされましたか?」

すぐに高坂弘美が顔を出した。

「いえ、ちょっとみんなで表出ようかと思うてな。お天気も良さそうやし…」

ハルは両手を広げてみんなを見渡しながら弘美に笑顔を向けた。

「そうですか。それはいいですね。ちょっと待っててください。車いす準備しますね」

弘美も微笑みながら、部屋の片隅に折り畳んで置いてある車いすをセットすると、ハルを抱き起して座らせる。

「じゃあ、行きましょうか」

弘美はハルを乗せた車いすを押して、みんなに付いてくるよう促した。

 施設の屋上はちょっとした展望台になっていて、六甲山麓の山々はもちろん、今日は天気が良いので大阪湾の海まで望むことができた。

「それでは、あとよろしくお願いします。部屋に戻られるときはこのボタンを押して呼んでください」

弘美は携帯型のナースコールを康彦に渡して戻っていった。

「へーっ!きれいなんやね」

真理子はこの施設にこのような場所があることを初めて知った。

「お義母さんはこれが気に入って、この施設に決めたんやから」

芳江は車いすのハルに眼を向けて微笑んだ。

ハルもうんうんと頷きながら思い出したように訊ねた。

「ほんで、どうしたんや、今日は。みんな揃うて」

「うん、また、あのピアノから記憶が飛び出たっていうか…何ていうか…」

康彦が景色を見渡しながらハルに答えた。

「えっ!ほんまにっ?」

ハルは一瞬驚きの顔になってすぐに続けた。

「誰か何かしたんか?」

「あたし…みたいやねん。彩夏のこと叩いてしもうた」

真理子が申し訳なさそうな顔をして、車いすのハルに目線を合わせるように腰を折った。

真理子が昨日体験した若い芳江と子供の自分の会話と情景をすべて話し終えると、それまで時折頷きながら黙って聞いていたハルはポツンと呟いた。

「そうか…、子供叱るな来た道…。やな」

「えっ?なにそれ?」

「まりちゃんにも子供のときあったやろ?みんなおんなじことしてきたんやから、手なんか上げたらあかんってことや」

ハルは膝を折って目線を合わせてくれている真理子に眼を合わせた。

「あのピアノはな、和音を通して自分自身の大切な記憶を呼び覚ますことができるんや」

「記憶を呼び覚ますって?どういうこと?」

「せやから、あのピアノは記憶を呼び覚ましてくれる特別な力を持ってるって言うてるんや」

ハルは懐かしむように目を細めて周りの山あいを見渡しながら、言葉を選ぶように話し始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ