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99.homeの住人

ここまで黙って聞いてたリアムが、腕を組み、顔を横に向けて、腹立たしそうにハッと短く息を吐き出した。アーサーは一瞬、ビクッと肩をすくめたが、気持ちを落ち着けようと一度目を瞑り、深呼吸をした後、ゆっくりと目を開け、再び話し始めた。


「私は、もうこれ以上、父上にはついていけないと思った。けれど、父上を説得し、思い止まらせることなど私にできるはずもなく、そうこうしているうちに、父上は本当にエステルの侍女を拉致してしまった。

 父上が、その侍女を人質とし、交渉の場を設けるフリをしてエステルを暗殺しようとしていることを知った私は、何としてもエステルが屋敷に入る前に足止めしようと、密かに外で待機していた。しかし、まさか君たちと一緒に突入してくるなんて……エステルがあのようなやり方で屋敷に入って行ったのを見た時は、心臓が止まるかと思うほど驚いたよ」


リアムも、それには同感だったようで、うんうんと大きく頷いていた。リアムが気持ちを汲んでくれたように感じたアーサーは、少しほっとし、話を続けた。


「万一、彼女の身に何かあったらと思ったら、怖くてたまらなかった。とにかく、絶対に彼女を生かして返さなければ、どうしたら彼女を助けられるか、ただそれだけを必死に考えた。

 抜け道は、父上と母上と私の三人、それから抜け道を作った精霊の子孫のみが開閉できた。私は、万一父上に気づかれても、エステルを逃す時間稼ぎぐらいにはなるだろうと、出入口の見かけ上の位置をずらした。けれど、それも父上にはお見通しで、先回りをされていたけど……」


苦笑いをしたアーサーに、


「いや、あの時お前が道を示してくれなければ、無傷で脱出することは困難だった」


とシンが言うと、アンも、


「だね。あん時は、前後から敵に挟まれてて、マジで結構~やばかったからね。助かったよ」


とウィンクした。そんな王太子を見て、驚いた表情で固まっているアーサーに気づいたリアムが、


「あぁ、こいつはアンドリューと言って、王太子殿下の弟君だ」

「お、弟君? では、屋敷で一緒だったのは……」

「あぁ、こいつだ」


アーサーは、なるほどと納得しかけたが、


「王太子殿下に、こんなにそっくりな弟君がおられたとは……」


と、やはりまだ驚きの方が大きいようだった。シンがリアムに、


「いいのか?」


と確認すると、


「あぁ、今のアーサーなら話しても大丈夫だ」


と言うと、アーサーはふっと笑みを浮かべ、


「リアム、こんな俺のことを信じてくれてありがとう」


と、深々と頭を下げた。そこへ、タッタッタッタと、小走りで近づいてくる足音が聞こえた。皆がそちらを向くと、


「リアムさ……」


と言いかけて、両手で口を覆い、目を丸くして立ち止まった女がいた。女はすぐさま、姿勢を正すと、王太子に向かって深々とお辞儀をした。シンは、その所作から、王宮で働いていた経験のある者だと一眼で分かった。シンは、自分の記憶が正しいか確認した。


「お前は……王太子付きの侍女だった……」


女は、地面に頭が付くのではないかと思うほど頭を下げ、


「はいっ!」


と泣きそうな声で答えた。アンが、


「あぁ! 話だけはパトリックから聞いてたけど、君だったんだ。あ、俺、王太子じゃないから、顔上げて」


と軽く言うと、侍女はひどく驚いた顔で、お辞儀をしたまま、ちらっと目線をアーサーの方に向けた。アーサーがコクリと頷くと、それでも信じられないといった表情で、恐る恐る顔を上げた。リアムが再び、


「ボニー、こいつはアンドリュー。王太子殿下の弟君だ」


と紹介した。弟君であれば、やはり高貴な人に変わりはないと、ボニーは尚も恐縮していたが、アーサーがボニーの肩にポンっと手を置いて微笑むと、やっと安心したようだった。それを見たアンがすかさず、


「あれ~? もしかしてお二人さん……」


と言うと、二人は顔を赤らめた。


「その……実は……今、リアムが見えたからそれを伝えようと思って来たんだが……」


そう言うとアーサーは、ちらっとシンの方を見た。察したシンは、


「良い報告なんだろ?」


と笑みを浮かべた。アーサーは、確認するようにもう一度ボニーと目を合わせた後、シン達の方に向き直った。


「私は、ボニーと一緒になろうと思うんだ。彼女の人生を変えてしまった私には、責任がある。残りの人生を、彼女と彼女の家族を幸せにすることに使っていきたい。あ! もちろん、責任を果たすためだけではなく、その……今は、ボニーのことを本気で愛しているんだ」


アーサーは慌てた様子でボニーをチラッと見ながら言い加えた。



―――



 アーサーは裁判で、王太子及び王女暗殺未遂の罪で、王族としては最も重い罪である終身刑を言い渡された。先に判決を言い渡されていた父親同様、独房に入れられ、二度と陽の下に出ることはできないものと思っていたが、リアムに連れて行かれたのは「home」と書かれた扉の向こう側の世界だった。


野花が咲き乱れる一本道を進み、幾つかの民家を通り過ぎた後、リアムは小さな一軒家の前で止まり、ようやく口を開いた。


「今日からここがお前の家だ」


突然そう言われて呆気に取られているアーサーをよそに、リアムは玄関のドアを開けた。質素ではあるが、清潔感があり、一人で暮らすには十分な広さがあった。小さなテーブルに椅子やベッド、調理器具等、生活に必要な最低限の物は既に用意されていた。リアムは、中に入ると真っ直ぐ突き進み、奥の扉を開けて見せた。


「裏には畑がある。自分が食べる分くらいの作物は十分育てられるだけの広さがある。まぁ、畑作業などしたこともないだろうから、近隣の住人に教えてもらうといい」


リアムは、素気なくそう言った後、アーサーの方に向き直った。そして、厳しい目をして語り出した。


「お前の罪は消えるものではない。しかし、お前がお嬢様を救った事実もまた消えない。エステル王女殿下は、追跡魔法を用いるなど、あらゆる手段を使ってそれを証明し、お前に更生の余地があることを国王陛下に直訴された。そして、独房ではなく、ここで暮らしていけるよう、陛下からお許しを得たんだ」

「エステルが、そんなことを……?」


アーサーが、信じられないといった顔で立ち尽くしていると、リアムはさらに、


「エステル王女殿下よりご伝言だ。落ち着いたら、ここに書かれている場所に行ってみるようにと」


と一枚のメモを手渡した。アーサーは、それを見てすぐにリアムの顔を見た。


「自分が何をしたのか、自分の目で確かめて来るんだな」


と言い残し、リアムは出て行った。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、アーサーが目にしたのは?


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