表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/106

98.謝罪

 真っ暗なゲートをくぐり抜けると、光り輝く空の下に、色とりどりの小さな花が咲く野原が広がっていた。


「ん~っ! 空気がうまい気がする! やっぱ外はいいわ~」


アンが腕を広げて大きく伸びをしながら、久々に出る外の世界で開放感を味わっているその横で、シンも、


「ここは……?」


と、ゆったりと辺りを見回しながら、王宮の庭園にはない素朴な美しさと、のどかな空気が漂うこの地に、ふっと心が軽くなったのを感じていた。リアムは、そんな二人を見て、


「いいだろ?」


と自慢げに微笑んだ。普段は見せないリアムのその目の優しさに二人は驚きつつも、


「あぁ」

「めっちゃいい!」


と笑顔で答えた。リアムは、二人の答えに満足すると、


「こっちだ」


と言って先へ進んだ。





 しばらく野原の中の一本道を歩いて行くと、民家が一つ、また一つと現れた。

どの家にも畑があり、家族分は裕に賄えるだけの様々な野菜が育てられている。


それぞれ隣の家までは少し距離があり、二階建て以上の建物もないため、心地よい風が辺りを吹き抜けていく。


家の壁は石造りで、その上には、家主の遊び心の溢れたユニークな瓦葺きの屋根がのっている。

ある家の屋根は、チューリップ帽子のような、なだらかな曲線を描いていたり、ある家は、何層にも重ねて色を変え、人魚の鱗のように美しく輝かせていたりする。

どの家にも庭先と窓際には幾つもの鉢が並べられ、そこから溢れるように咲いている花々が、家々に温かな彩りを加えている。



 三人が、ある家の近くまで来たとき、庭先で水やりをしていた女性が顔を上げ、


「あら、リアム様!」


と言いながら、嬉しそうに駆け寄ってきた。後ろにアンがいることに気づいたその女性は、


「まぁ! アルフレッド様もお越し下さったんですか?」


と目を輝かせている。リアムは、


「あぁ。久しぶりに皆に会いたいとおっしゃられたので、お連れしたんだ」

「まぁ、私どものことまでいつも気にかけてくださり、感謝申し上げます」


と頭を下げた。アンは、何のことか分からなかったが、とりあえずニッコリと笑っておいた。

その後も、出会う住人は皆、リアムを見つけると、満遍の笑顔で寄ってきては話しかけていくのだった。


リアムもその度に気さくに受け答えしているが、アーム王国においては、これはあり得ない光景だった。何故なら、王族付きの精霊騎士ともなれば、平民が気軽に声などかけてよい存在ではないのだ。ましてや、王太子殿下ともなれば、間近で顔を見ることすら許されない。




 住人達がそれぞれ家に戻って行き、再び三人になったタイミングで、


「ここの人達、なんか皆んな人懐っこいね。リアムのこともだけど、王太子のことまで名前呼びだもんね」


アンが不思議そうな顔をしながら、素朴な感想を述べた。リアムは、


「ここは、アーム王国にあって、アーム王国ではないからな」


と言って、ニッと笑った。


「え? どゆこと?」



アンが聞き返したところで、この先にある、建設中と思われる家の方から、一人の男が近づいてきた。


「リアム! 久しぶりだ……」


シンは、声の主が途中で話すのを止めたのを不思議に思い振り向くと、そこには、


「あぁ、久しぶりだな、アーサー」


と言うリアムの返答が耳に届いていないかのように、ただ、シンを見て固まっている男がいた。

エステルの元婚約者、アーサーだった。



「お前は……」


シンは、アーサーに気づくと瞬時に手を剣の柄に添え、答えを求めてリアムを一瞥した後、アーサーの挙動を見守った。しかし、シンの警戒モードとは裏腹に、リアムが口を開く前に、


「あの時は、すまなかった!」


と、アーサーは深々と頭を下げた。シンは、内心驚きつつも、状況を把握し切るまではと、尚も構えを崩さずにいると、リアムが割って入った。


「お嬢様が、ここへ連れて来られたんだ」

「エステルが?」


アーサーは、本当に申し訳なさそうな顔をしながら、ゆっくりと頭を上げ、シンの目を真っ直ぐに見た。その瞳に、あの決闘のときのような敵意は微塵も感じられなかった。シンは、剣から手を離すと、アーサーに真っ直ぐに相対した。それを見たアーサーは、これまで堪えてきたものを少しずつ絞り出すように、ポツリポツリと語り出した。



「私は……私は、子どもの頃からずっと、父上の言いなりだった。父上は、思い通りにならなければ、子どもだろうが容赦無く手をあげた。母上は、止めようとしてくれたが、そうすると今度は母上に手を上げようとするから、私は父上の足にすがって、泣きながら許しを乞うことしかできなかった。完全に萎縮していた母上からは、父上の言うことに逆らってはならないと散々言い聞かされていたし、母上はもちろん、父上の周りにいる誰もが、父上の言う通りか、意を汲んでそれ以上のことをやっては、父上を喜ばせようと躍起だった。だから私も、父上は絶対的な存在なのだと、信じて疑わなくなっていた。


 しかし、エステルと婚約して、定期的に会って話すようになってから、必ずしも父上が正しいとは限らないのではないかと疑問を抱くようになった。エステルは、いつでも自分の考えを持っていたし、国王陛下に対しても、異を唱えることを躊躇しなかった。私は、エステルに初めて会った時に一目惚れをしていたが、エステルのことを知れば知るほど、憧れの気持ちも抱くようになり、それは次第に愛へと変わっていった。 

 父上は、そんな私の気持ちにつけこみ、エステルと一緒になりたいのであれば、王太子暗殺に協力するようにと脅してきた。エステルと結婚して王位継承権を得ても、王太子がいては意味がないと。父上に『言っている意味は分かるな?』と念押しされたとき、私は恐怖を覚えた」


アーサーは、リアムの後ろに立っている王太子の方をちらっと見た。王太子がじっとアーサーの方を見ていることに気づくと一礼し、俯いたまま再び話し出した。



「しかし、私が最も嫌悪したのは、王太子殿下暗殺よりも、エステルとの婚約解消を恐れた自分自身だ。僕は、唯一の心の支えだったエステルを失いたくなかった。ましてや、他の男のものになるなど考えるだけで耐えられなかった。私は……弱かった。自分のことしか考えられない愚かな男だったのだ。

 あの時、君と決闘することになったときも、正直、なんでこんな目に遭わなくてはならないのかと、恨みがましい気持ちもよぎった。そして、結果はあの通り。君を前に、手も足も出なかった。」



それまで黙って話を聞いていたシンが、ふ~っと軽く息を吐き出すと、


「だがあの時、お前は正々堂々と決闘に臨もうとしていた。違うか?」



と聞いた。アーサーは、目を見開いた。


「なんで……」

「これから戦おうとしている相手がどんな心持ちでいるかぐらい、剣を構えれば分かる」


シンの言葉に、アーサーは胸が熱くなるのを感じていた。と同時に、喉が詰まったように痛くなるのを感じると、いつの間にか目から涙がこぼれ落ちていた。


「……初めてだった。父の支配によってではなく、自分の力でエステルを繋ぎ止めたいと思ったのは……」


アーサーは言葉を詰まらせ、落ちる涙を隠すことなく肩を震わせた。少しして落ち着きを取り戻したアーサーは、話を続けた。



「屋敷に帰った後、怒りが頂点に達していた父上は、私を罵倒しながら殴り続けた。そして、私が王位継承権を得られなくなった為、父上はやり方を変えると言い出した」

「エステル暗殺か……」


シンが低い声で問うと、


「あぁ。エステルだけじゃない。すべての王位継承者と、国王陛下までも手に掛けると言い出したんだ」

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、もう一人、見覚えのある人物が現れて……


ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ