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97.秘宮の最奥

シンとリアムの話が終わると、アンは、


「なるほどね~」


と言いながら立ち上がり、


「じゃ、行きますか! あとよろしくね~」


と、ヘンリーに向かって手を振った。王太子がこんなに軽々しく手を振っている様子は、本物の王太子を知る者にとっては違和感しかなかったが、ヘンリーはともかく一礼した。


シンが、ヘンリーを見て再確認するように頷くと、ヘンリーは厳しい表情で答えた。


「こちらの件はお任せください。お戻りまでに調べておきます」



*******



 リアムを先頭に三人が向かったのは、秘宮だった。リアムは、シンとアンドリューを秘宮の最奥へと案内した。そこには、秘密の礼拝堂前と同じ、複数の柱が立ち並んでいた。



「ふーっ」


と息を吐きだしながら、王太子のヘアスタイルに似せた長髪のカツラを外し、人差し指でくるくると回しているアンに向かって、


「お嬢様が、礼拝堂に入る際にどのような順で柱を回っていたか覚えているか?」


とリアムが尋ねた。アンは、


「あ~、そういうことね」


と答え、カツラをぽいっとリアムに投げ渡すと、柱の周りを右に左にくるくると、正確な回数と順序で回り始めた。アンは、エステルがしていたこの光景を二度しか見たことがないはずだったが、その複雑な順路を、いとも簡単に通って見せただけでなく、こちらも二回しか聞いたことがないはずの呪文をさらっと唱えたことに、リアムは素直に感心していた。



 服部一族では、一度通った道や聞いたことを記憶する訓練は幼少期から生活の中で行われている。シンも当然覚えていたが、ここで魔法を使えるのは直系王族のみだ。精霊魔法も通用しない。アンが呪文を唱え終えたとき、さっきまでただの壁だったところに一つの扉が現れた。アンが扉の前に立つと、自動ドアのように勝手に扉は開かれた。


リアムが二人を先導するため、先に中に入った。中には曲がりくねった一本の細い通路があり、その先は行き止まりとなっていた。そこには、西宮にあるゲート塔を小さくしたような空間が広がっており、その壁には扉が幾つも設置されていた。



「これは?」


もはや習慣なのだろう。新しい場所へ来たときにいつもするように壁をペタペタと触りながらチェックしているアンを放置し、シンが尋ねた。リアムは、


「王族専用の牢獄に繋がっている」


と答えた。地名の書かれた扉もあれば、個人名が書かれているものもある。アンが、


「これ……」


とある扉を指さしながら振り向いた。その扉のプレートには、



『アルバン・カークハム』



と書かれていた。エステルの元婚約者アーサーの父親の名だった。



(そうか……アーロンの名と公爵の位は剥奪されたんだったな)


シンがその名をじっと見つめていると、


「あぁ。王太子殿下及び王女殿下暗殺未遂で終身刑になったんだ」


 リアムの声には、同情の欠片すらも感じられなかった。それも当然のことだろう。エステルとアーサーの婚約披露パーティーの場では証拠不十分だった為、不問に付されたが、その後、王女付きの侍女であるジュリアを拉致し、王女を屋敷におびき寄せて暗殺しようと企てていたことが発覚。また、その後の調べで王太子の暗殺未遂の証拠も揃い、王族としては一番重い終身刑が課されたのだ。



 リアムは、カークハムの屋敷に突入したときのことを思い出していた。


(あの時、まさかお嬢様までいらっしゃるとは……しかも、一緒に突入すると言い出されて、俺は引き留めることしか頭になかったが、こいつはお嬢様の意を尊重して、必ず守ると約束し、一緒に突入した。そして、あれだけ不利な戦況の中、本当に守り切ってくれた。大した奴だよ)


リアムは、隣りで各扉のドアプレートに目を向けているシンをちらりと見て、ふっと笑った。そして、あの日もう一人、エステルを、それから自分たちを助けてくれた者のことを思い出しながら言った。


「俺たちが行くのは、ここだ」


リアムが見ている先にあるドアプレートを見ると、『home』と書かれていた。


「家?」


アンがマジマジと見つめていると、リアムが、


「行けばこの意味も分かるだろう。アンドリュー、ここから先は、アルフレッド王太子として行ってくれ」

「秘宮の外に出るのか?」

「あぁ。国王から許可はもらっている」

「……分かった」


アンは、リアムから再びカツラを受け取ってかぶると、緩めていた気をスッと一瞬で整え、背筋を伸ばし、キリっとした表情に切り替えた。こうなると、王太子と見分けのつけられる者はほぼいないだろう。シンも、


「俺たちは、王太子の護衛ってことでいいのか?」


と言いながら、リアムの返事を待たずに、剣を腰に差した。その束に埋め込まれている魔石は、エステルの瞳と同じく赤黒い色へと変貌していた。これを見るたびに、この剣でエステルを刺したのだと、まざまざと思い出させられる。シンが暗い沼に落ちそうな感覚になったとき、リアムの声が引き戻してくれた。


「そういうことだ」


リアムは、シンとアンの飲み込みの早さには密かに感服していた。事細かに説明しなくても、大抵のことは状況から汲み取り、適切に対応してくれる。


(こんなに仕事がしやすい奴らはいないな)


目の前の『home』と書かれたゲートの扉を開け、こちらへどうぞと執事の真似をして立っているアンの前を、リアムはふっと笑みをこぼしながら通り、中に入った。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、「home」とは一体どんな所なのか?


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