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96.忍び寄る魔の手

 次期当主として、服部一族の任務をこなすため、ゲートの行き来を特別に許されているシンは、内外の情報に、今や誰よりも通じていると言っても過言ではなかった。


一般市民に知らされているニュースはもちろん、表には決して出ることのない裏の情報に至るまで、シンの元には集まってきていた。


(親父は、今までこれを一人で捌いてたのか……)


今はまだ、当主であるシンの父も、同じ情報を共有しており、シンの判断に抜けがあれば、すぐに指摘された。シンは、この立場になって、改めて父親との力の差を思い知らされていた。



(あの時、親父ほどの判断力があれば、エステルを、そして王太子も助けることができたんじゃ……)


そんな後悔の念が頭をよぎる日々だった。が、そのことを父、北斎に相談する時間などなかった。外の世界にいれば、次から次へと依頼されてくる任務をこなし、アーム王国に立ち寄る時間を何とか捻出するだけで精一杯だった。




 そんなある日、外の世界の小さな村で、原因不明の病が発見された。最初に発症者が出たのはイギリスだった。


(イギリスといえば、アーム王国があるところだ)


シンは嫌な予感がしていた。そして、シンのこうした悪い予感は、残念ながら外れたことがなかった。

この件は、北斎の指示により、すぐにアレクサンダー国王に報告されることとなった。



*******



 アンナは、皆に休めと言われているのに、ずっとエステルにつきっきりで看病していた。シンが来ている時間以外は……。


 今日も、シンがエステルの部屋に入って来ると、アンナは避けるように、無言でスーッと部屋を出た。その様子を何度も目撃しているリアムが、廊下でふぅっと小さくため息をつき、出てきたアンナに向かって、


「パトリックのせいじゃない」


と言った。アンナは、一瞬ビクッとした後、


「わ、分かってるわよ! そんなこと私にだって! でも……」


アンナの目から大粒の涙が零れ落ちた。アンナにとって、エステルは単にお仕えしている主人ではなく、家族も同然だった。両親を亡くし、生きる希望を失っていたとき、救いの手を差し伸べてくれたのはエステルだった。そのエステルがこのようなことになり、心の持って行き場を失っていた。リアムが念を押すように、


「お嬢様がパトリックに、自分を刺せとおっしゃったんだ」


と言うと、アンナはリアムの胸をドカドカと叩き始めた。


「何よ! 知ってるわよ! 私だって聞いてたわよ! お嬢様が……そう……おっしゃるのを……」


叩く力も気力も無くなり、崩れ落ちそうになったアンナをリアムはガッと掴むと、優しく抱き寄せた。アンナは、リアムの腕の中でしゃくりあげながら、


「でも……でも……どうしても、許せないのよぉ……許せな……」


と、繰り返し言い続けた。リアムは、


「あぁ……」


と、アンナが泣き疲れ果てるまで、相槌を打ち続けた。



*******



アンは、いつものようにエステルの見舞いに来ていた。



「本当に綺麗だよな……」


何の外傷もなく、病という病もない。肌艶も良いし、今にも目覚めそうなのに、ずっと眠ったままだ。アンが、


「エステルちゃん、また来るよ」


と言って部屋を出ると、


「アンドリュー」


と呼び止められた。リアムだった。



「パトリックの今の任務がいつ終わるか聞いてるか?」

「まぁ、どの任務もいつ終わるかは、その時になってみないと分からないけど、そろそろ片を付けるとは言ってたな。でも、放っときゃ、またすぐ別の任務を引き受けるだろうよ。何でそんなことを?」


リアムは辺りをパッと見回し、アンドリューをアルフレッドの部屋に入るよう促すと、寝ているアルフレッドと自分達二人しかいないことを確認した上で、アンに言った。


「パトリックに見せたいものがあるんだ」



*******



 アンから、時間を作ってほしいと言われていたシンは、任務に一区切りつけると、アンを訪ねた。


アルフレッド王太子として執務をこなしているアンは、日中は王宮にある王太子の部屋にいることがほとんどだった。ドアをノックするとヘンリーが扉を開け、シンと見るとスッと中に通してくれた。シンが入室し、完全に扉が閉まると、


「シン、お疲れ~。今回の任務はどうだった?」


と、いつものアンに戻り、気楽に話しかけてきた。ヘンリーは横でため息をついた後、


「気を抜き過ぎませんように」


とアンにくぎを刺した。隣りにいたリアムは、ヘンリーの肩をポンっと叩き、


「お前は、ちょっと息抜きが必要なんじゃないか?」


と苦笑した後、シンを見て、


「忙しいところ悪いな」


と言った。リアムにこのように気遣われたことのなかったシンは、少し驚いた顔をし、


「いや、俺も話したいことがあったから、ちょうど良かった」


と言いながら、ソファに腰を下ろした。アンは、持っていたペンを机上に放り、


「何? 話って」


とシンの隣りに座りながら、ヘンリーとリアムに向かって、おいでおいでと手招きした後、ヘンリーにウィンクした。それを受け、ヘンリーが左手を一振りすると部屋のカーテンが全て閉じられ、同時にろうそくに火が灯った。ヘンリーの魔法により、外部に情報が漏れない状態になったことを確認したシンは、


「気になることがあるんだ」


と話し始めた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、リアムがシン達に見せたいものとは?


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