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95.秘宮の夜

 連日の診察により、少しずつアルフレッドに変化が見られていることが報告された。アルフレッドは、幼い頃から病弱であった為、一度に魔法を使い過ぎると、エネルギーが枯渇してしまう可能性があることは昔から注意されていた。今は、完全にエネルギーがなくなっている状態だが、他の感染症などに気を付けながら、エネルギーを補給していけば、いつか目を覚ます日が来るかもしれない、という診立てであった。


一方、エステルに関しては、額の傷は医師も驚くほど早く綺麗に消失したが、エネルギーがあるのかないのか、そもそもエネルギーの源がどこなのかも特定できず、こんな症例は初めてだということだった。つまり、なす術がないのだ。



 しかし、できることはなくとも、この医師がこの王宮から出ることはこの先も許されない。王太子が双子であったことを知ってしまったからだ。今、アンに帝王学等を教え込んでいる教師らもまた同様だ。それを見越して、国王は、王族専属の地位を持ち、かつ家族のいない医師と教師らを呼ぶよう命じていた。そして、秘宮内で不自由なく暮らせるよう、手厚い待遇も受けられるようにした。


 秘宮で働く侍女らは、もともと身寄りのない者達だ。外に出ることはできないが、国の法律で所有や使用を禁止されている物以外であれば、外の世界の物であっても、大抵は取り寄せることができた。マヤが描いていた「通称デキヨワ」は、ここ秘宮でも、侍女らの間で大人気であった。そのモデルだと噂されている王女が運び込まれたとあって、侍女らは仕事の手があくと、皆、エステルのもとへ見舞いに来ていた。




エステルの世話を志願したアンナも、国王の取り計らいで秘宮の侍女長として働かせてもらえることになった。秘宮の存在は内密となっているため、事情を知らない城内で働く者達には、エステル王女は難病を患ったため、王宮の特別室にて専属医師のもと治療中であると伝えられている。


アンナの代わりに北宮の侍女長を努めることになったジュリアが、


「お嬢様が完治されるまでの代わりですからね! 必ず治りますから!」


と言って引き受けてくれた。アンナは、そんなジュリアに、


「当たり前よ! ほんの少しの間なんだから、しっかり頼むわよ!」


と託して出てきた。


(ジュリアごめんなさい。一度秘宮へ行けば、お嬢様がお元気になられても、私がそこを出られる日は来ないわ。それでも私は、お嬢様のお側で少しでもいいからお力になりたいの!)


自分のことを信じて侍女長を引き受けてくれたジュリア、そして自分が戻ってくるまで待っていると言ってくれたジュリアに対して、アンナは心苦しさでいっぱいで胸が痛んだが、


(私の我儘なのだから、この痛みは引き受けなければ……)


と口をぎゅっと結び、北宮を後にした。



あれから三ヶ月、エステルが目を開けることのないまま、時間がだけが過ぎていった。



*******



 シンは、自分がしたことが正しかったのか、あれ以来ずっと自問自答を繰り返していた。エステルが身を挺して守ろうとしたアルフレッドも、顔色は良くなってきているものの、まだ目を覚まさない。エステルも命に別状はないことは分かっているが、何の変化も見られないままだ。専属医師も、何故二人が目を覚まさないのか、どうしたら目を覚ますのかは皆目見当もつかないという。


 エステルの眉間には、シンが刺した剣の傷跡も、あの恐ろしい紋様も残っていない。出会ったときと同じ、彫刻のように美しい顔のまま眠っている。但し、髪は、あのとき変化した黒色のままだ。




 シンは、このような状況の中でも、日々新たな任務をこなしていた。そして、任務の合間に少しでも時間を見つけては、こうしてエステルの様子を見に来ているのだ。



(あれから三ヶ月か……どんだけ強靭な精神力だよ……)


シンの様子をエステルの部屋の片隅で見守っていたアンは、シンが任務は任務と切り替えて、これまで同様、いやそれ以上に完璧に仕事をこなしていっていることに恐ろしさすら感じていた。


(何かしてなきゃ、やってられないんだろうけど……)


シンの気持ちを察しながらも、どうしてやることもできず、アンもまた苦しんでいた。



 アルフレッドの振舞い方を完璧にこなせるようになり、王宮内であれば、どこでも自由に出入りすることが許可されたアンも、エステルの部屋に毎日立ち寄るようになっていた。エステルのことももちろん心配だったが、シンのことも気になっていたからだ。

 服部一族が受ける依頼の中に、楽な任務など一つもない。次期当主ともなれば、その役目は、身体的な苦痛や疲労だけでなく、神経も相当磨り減らすものに違いなかった。アンは、小声でボソッと、


「無理し過ぎんなよ……」


と呟くと、シンの邪魔をしないよう、そっとエステルの部屋を出た。エステルの部屋を訪れた後は、隣りのアルフレッドの部屋に寄るのが、最近のルーチンになっていた。


 ドアには、王族と彼らにつく精霊にしか開けられない魔法錠がかかっているが、今は難なく開閉することができる。アンはその度に、自分にこの国の王族の血が流れていること、生まれてはいけなかった自分がここで生まれ、今まで生きながらえてしまったこと、そのために、アルフレッドとエステルが今も眠りから覚めなくなってしまっていることを、まざまざと思い知らされるのだった。それは、全てを投げ出したい衝動に駆られるほどアンにとって苦しいものだった。


「でも、俺にはルビーがいる。それに、母さんが何のお咎めもなく、父さんと服部一族の元へ戻ることを許されただけでも感謝しなきゃな……」



何の物音もしない静寂な部屋の中、ベッドの傍で自分と瓜二つの顔をした兄の寝顔を眺めながら、アンが自分に言い聞かせるようにアルフレッドに語りかけていた頃、月明かりしかないアーム王国の暗い夜道を、音も立てずにある場所に向かう者達がいた。


この時は、まさかこれ以上に最悪な事態が起きようとは、誰も想像すらしていなかった。



ただ一人を除いては……

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、この上、一体何が起ころうとしているのか?


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