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93.代役

「シン……大丈夫?」


ルビーが声をかけたが、シンは何も答えない。エステルが横たわるベッドの脇に座り、今日もただ、エステルを見守っている。ルビーは、それ以上かける言葉が見つからず、そっと部屋を出た。



「自分の手で刺したんだ。そう簡単に受け止められるもんじゃないだろう」


エステルの部屋の外で壁にもたれて立っていたリアムが話しかけてきた。


「アンドリュ……アルフレッド王太子に付いてなくていいのか?」


リアムの質問に、ルビーは苦笑いしながら、


「昼間は、ヘンリーやら帝王学の先生やらが付きっきりだからね。私の出る幕なくってさ」


今や、表向きアルフレッドということになっているアンの側には、王太子付きの精霊のヘンリーが、日中は片時も離れずに付いている。アルフレッドの話し方や身のこなし方など、誰が見てもアルフレッドだと信じて疑わないように振舞えるまで、指導を任されているのだ。アンはさらに、アルフレッドの代わりを務められるよう、国の歴史から始まり、政務、財務など、ありとあらゆることを叩き込まれていた。

 これまで何度も任務で誰かに成り代わったことのあるアンにとって、それらはさほど難しいことではなかった。だが、今までと違うのは、それをいつまで続けなくてはならないのか見当がつかないということだった。もしかしたら、この先一生、アルフレッド王太子として生きていかなくてはならないかもしれない、そんなことが不安と共に頭をよぎると、いつもきまってルビーのことが思い出された。



 ルビーとは、今は、その日の全ての講義や執務をこなした後に、少しの時間だけ会うことが許されている。


 夜になり、いつものように、コンコンッと部屋のドアをノックする音がすると、まずヘンリーが顔を出し、ルビーしかいないことが確認できると入室を許可された。


「ここまで来る間に……」


ヘンリーが言いかけたところでルビーは、


「ちゃんと誰にも会わないように来たわよ」


と遮るように言った。ヘンリーは、ふぅっと一息つくと、アンに一礼して部屋を出た。扉が魔法錠で閉められ、アンとルビーの二人きりになった。アンにとって、今はこの時間だけが、唯一心を緩ませることのできる時間だった。


「よっ。お前、ちゃんと食ってるのか?」

「食べてるわよ。私が食いしん坊って知ってるでしょ?」


ルビーがにっと笑った。その食いしん坊が、最近あまり食欲がなく、心配したシェフが、ルビーのためにあれこれ新作スイーツを作ったり、滋養のある食事をとらせようとするものの、いつも食べきらずに残してしまっている、という話をアンは耳にしていた。が、元気に振舞おうとしているルビーに、アンは、


「そうだったな」


とだけ答え、話題を変えた。



「シンは?」

「仕事してるよ~、これまで以上に。服部の代替わりも見据えて、前にも増して難しい任務も任されるようになってるみたいだし……ていうより、自分で取りに行ってる感じかな。まるで自分を痛めつけようとしてるみたいに……。どんな激務の中でも合間を見つけて、毎日お嬢様の様子を見に来てる」

「……そうか」



アンは、シンの心情を思うと居たたまれなかった。


(俺だって、あの正気を失っていたときに、ルビーをこの手にかけてしまっていたら……)


アンは、自分の両手を見ながら身震いした。想像しただけで、耐えられなかった。アンは、おもむろにルビーの腕を掴んで引き寄せると、力強く抱きしめた。突然のことに、ルビーは、


「え? アン? どうしたの?」


と戸惑ったが、アンはさらにルビーをぎゅっと抱き寄せると、その頭にキスをした。ルビーは、アンが震えていることに気づき、そっと抱きしめ返した。しばらくそうしているうちに落ち着いたアンが、ようやく力を緩め、自分の腕の中にいるルビーをまじまじと見つめて、


「お前はここにいろよ」


と言った。



 王家の秘密を知った者が、生かしておいてもらえるなど、建国以来、前例のないことだった。この国で生まれたことを、数日前に知ったばかりのアンでも、マヤを王国追放で済ませてくれた国王の慈悲に感謝しなければならないことは理解できた。が、そこに気持ちを追いつかせることは容易にはできなかった。


 アンが、マヤと龍司のもとで、どれだけ大切に育てられてきたか、また、彼らがどれほど互いを大事に思い合いこれまで暮らしてきたのか、ずっと側で見てきたルビーには、アンの心の奥深くにある悲しみや寂しさが伝わってくるようだった。


「えぇ。帰れって言われたって居残ってやるから」


とルビーが小さくウィンクすると、アンは僅かにほっとした表情をして見せ、再びルビーを強く抱きしめた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、あの日のことを思い出し……


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