表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/106

90.鏡の予言

「エシー、何を……」


エステルが微笑んだまま、目に力を込めた瞬間、アルフレッドは理解した。


「……! ダメだ!」


アルフレッドが制止するより前に、エステルの手から大きな球状の閃光が放たれた。アルフレッドの声がかきけされるほどの爆音と共に、二人の姿が眩しさで見えなくなった。



「エステル!」


シンが呼びかけると、中からエステルが叫び返した。


「パトリック! 私に何かあれば、あなたのその剣で私を刺しなさい!」

「な……!」


(エステルを刺せだと?)



皆が一斉にシンの方を見た。光の中からは、アルフレッドの苦しそうなうめき声だけが聞こえてくる。


「う……ぁあ! ぐっ……がはっ!」




両手で口を覆って、オロオロと涙を流し続けているエレノアの肩を抱きながら、アレクサンダーもまた、我が子の苦しみもがくその声を、耐え難い胸の痛みと共にただ聞くことしかできないでいた。そして、姿も見えず、声も発しないエステルの姿を、目を細めて、眩いその光の中に探し続けた。




突然、アルフレッドの声が途絶えた。と当時に、光が収まり始め、二人の影が床に倒れているのが見えてきた。



「ひっ! お嬢様ーっ!」


アンナが半狂乱になって叫びながらエステルの方に駆け寄ろうとしたとき、シンが、


「待て! 俺が行く」


と言って、剣に手をかけながら近づいて行った。リアムは咄嗟に、アンナを後ろから羽交い絞めにして止めた。アンナは、



「待って! パトリック様、何をするおつもりですか? ダメダメ……お願い! 刺さないで! お嬢様を刺さないでーっ!」


と泣きじゃぐりながら叫んでいる。



「離して! 離しなさいリアム! お嬢様! お嬢様ーっ!」


リアムを振りほどこうと、物凄い力でバタバタと暴れている。




「こ、これは……」


シンは、目の前で起こっていることを信じられない思いで見つめていた。アルフレッドの髪色は元の銀髪に戻り、その代わりに、エステルの髪が真っ黒になっていた。シンは、なおも慎重を期しながら、


「エステル?」


と呼びかけたが、何の反応もない。エレノア王妃も、


「アル? エシー?」


と、何とか声を絞り出した。




二人とも全く動く気配がない。



と思ったそのとき、エステルの手がピクリと動いた。それを見逃さなかったシンが、


「エステル!」


と言いながらさらに近寄ると、ゆっくりとエステルが上体を起こし始めた。シンが支えようと、ふらついているエステルの肩に手を回したとき、視線を感じた。


 シンがそちらに目をやると、瞳の色が赤色に変わったエステルが、こちらをじっと見ていた。そして、その眉間には、王室の紋様を逆さまにし、上から剣を突き刺したような絵が浮かび上がっていた。


 エステルの瞳が徐々に赤黒くなっていく。そして、完全に赤黒くなったとき、エステルが突然カッと目を見開きながら、ガバッと両手を上げ、シンに襲いかかってきた。誰も声すらあげることができない程、一瞬の出来事だった。



 シンは瞬時に剣を抜いた。

エステルの眉間の紋様に、その刃先が突き刺さり、エステルの顔に血が滴り始めた。




風の精霊の鏡に映っていたことが現実となった。



それを見たアンナは、その場で気を失った。




*******




 マヤを探していた龍司が、服部一族の伝令から一度屋敷に戻るよう言われたのは昨夜のことだ。伝令に言伝をせず、戻るように命じたということは、直接話さなくてはならないほど、重大な何かが生じたということだろう。


 龍司は、不吉なことが起こっていなければよいと願いながらも、考え得る最悪のシナリオも想定し、ある程度覚悟しながら、全速力で屋敷に戻った。まだ夜が開け切らぬうちに、屋敷へと通じる森の仕掛けをくぐり抜けて、北斎のいる館へ着いた。



中から、


「龍司か……早かったな」


と声がした。


「気が急いてね」

「そうだろうな。皆、下がっていなさい」


姿は現していないが、当主の側には、常に数名の忍びが警護のために潜んでいる。彼らの気配が消えると、北斎は障子戸を開け、


「まぁ、入って楽にしてくれ」


と、部屋に上がるよう勧めた。龍司が座布団に腰を下ろすと、北斎の妻が、スッとお茶を運んで来て、すぐにまた出て行った。



 北斎は、茶菓子を摘んで頬張ると、龍司にも食べろと顎で茶菓子を指し示した。龍司は、ふっと笑いながら、手に茶菓子をとり、


「で、俺をここへ呼んだのは……?」


と尋ねた。北斎は、一口茶を飲み、湯呑みを置くと、龍司を真っ直ぐに見据えた。龍司の胸の内に、ピリッと緊張が走った。


「マヤが見つかった」

「……それで?」

「安心しろ、無事だ。怪我一つしてない」


龍司の顔に、ようやく安堵の色が浮かんだ。


「どこで?」


少し気が抜けた龍司が聞き返すと、


「アーム王国だ。マヤの祖国だ」

「アーム王国って……え? マヤの祖国? じゃぁ、北斗もアーム王国の人間だったってことか? それは、北斗も知っていたのか?」



質問が一旦落ち着くところまで待ってから、北斎は一つひとつ答えていった。



「北斗は、知らなかった。いや、ちょうど今ごろ聞いているところだろう。マヤも自分もアーム王国出身であること、そして、母親はマヤではなく、アーム王国の王妃であることも……」

「ん? 王妃? え?」



二人の無事が確認できた時点で、すっかり緊張が解けていた龍司は、一瞬理解できず、二度聞きした。


「王国との約束で、これまでお前に話すことができなかった。許してくれ」


そう言うと北斎は、25年前、マヤと北斗がゲートを通って服部一族の森に逃げ落ちてきたことを、龍司からマヤについての報告を受ける前に、王妃より内密に通達を受けていたことを明かした。



 龍司にとって、北斗がマヤの子かどうかは、どうでも良いことだった。マヤの過去がどうであれ、マヤが大切にするものなら、何だって一緒に大切にしていく、そう心に誓って一緒になったのだから。しかし、出会ったあの時からは、二人は、いや三人は、苦しみも悲しみも楽しみも喜びも分かち合ってきていたつもりだった。が、実際には、事実を自分に話してくれなかったことに、いや、何か隠していることは分かっていたはずなのに、本当に聞いてしまったら、こんなにもショックなものなのかと、自分でも情けなくなるくらい驚いていた。



龍司は、そのショックに加え、あまりに想定外の話に、一瞬心の持って行き場を失いそうになっていた。しかし、そんな龍司の心の奥までを汲み取っているかのように、北斎はボソッと付け加えた。



「マヤは、王妃付きの精霊だった。王妃に忠誠を誓っている者として、この25年、誰にも話すことなく、一人で秘密を守り抜いてきた。お前に話すことができず、さぞ苦しかったことだろう」



龍司は、自分だけが苦しい訳ではない、いやむしろ、マヤの方がずっと、この長い年月、心を痛めてきたのだろうと思うと、何もしてやれなかった自分の無力さに打ちのめされそうになっていた。


「そうだな……」


北斎は、気落ちしている龍司を見て、言葉を続けた。



「だが、マヤがお前を必要とするのは、これからだ」

「これから?」

「あぁ……北斗は本来、生かしておいてはならない存在だった」

「え?」



 北斎から、アーム王国には、古来より、王族に双子の男児が生まれると国が滅ぶとの言い伝えがあること、双子の片割れを生かし続けた前例がないこと等を聞かされた龍司は、


「じゃぁ、北斗はこれからどうなるんだ?」


と、北斎ににじり寄った。


「誰にも分からん……」



北斎はそう言うと、指先で軽く机をトントンと叩いた。襖の外に誰かがやって来た気配を感じ取ると、


「入れ」


と中に通した。北斎付きの忍びの一人だ。その忍びは、懐から手紙を取り出して北斎に渡すと、またすぐに退室し、気配を消した。北斎は、その手紙の中を見ることなく、龍司に手渡した。


「アーム王国へとつながるゲートの通行証だ。マヤと北斗の元へ行ってやれ」



龍司は、手にした通行証を裏表さっと確認すると、北斎を見て、


「恩に着る!」


と言い残し、姿を消した。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、エステルとアルフレッドはどうなったのか?


ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ