87.集結
皆が入口に視線を移すと、アンと瓜二つの顔をしたアルフレッド王太子が入って来た。アンとアルフレッドは、互いの顔をじっと見合った。アンが先に、
「ハハ……鏡見てるみたいだな。違うのは髪色だけ? あとは服?」
と冗談めかして切り出した。アルフレッドは、アンを見ながらも視線を合わすことなく、
「そのようだな。ここまで似ているとは……ようやく会うことができた、我が弟よ」
と言った。エレノアが、
「アルフレッド……?」
まさかアルフレッドが弟の存在を知っていたとは思いもしなかったエレノアはうろたえた。アルフレッドはエレノアに、優しく、しかしどこか寂しげな笑顔を向けながら語り出した。
「母上、私も驚いているところです。この目で確かめるまでは、私の考え過ぎかもしれないと思おうとしていました。
あれは、偶然だったのですが……いや、今思えば、あれも神によるお導きだったのかもしれません。
私が禁書の間で調べ物をしていたとき、とある書物を見つけたのです。その内容が気になり、さらに調べようと思っていた頃、私が内密にあちこちに出かけているようだとの噂が家来の間で広がっていることを知りました。最初は、ただの噂と気に留めていなかったのですが、書物のことを調べていくうちに、もしかすると、私と似た人物が本当に存在していて、その者が出入りしているのではないかと思うようになりました。
精霊に探らせたところ、今日、私にそっくりの人物が、エステル達とともにゲートから現れ、その後、母上の部屋の方へ向かったと報告を受け、真相を確かめるため、こちらに参りました」
アルフレッドが、その後はアンを避けるかのようにエレノアの方ばかり向いていたのに対し、アンは、アルフレッドの頭から爪先まで、まじまじと観察していた。二人の様子をじっと窺いながら話を聞いていたアレクサンダー国王は、
「して、アルフレッドよ。その書物とは、どの書物のことだ? 気になった内容について、もう調べはついたのか?」
と尋ねた。アルフレッドがようやくエレノアから国王へと目線を移し、
「それは……」
と言いかけたとき、またも扉が開かれた。いつの間に出ていたのか、エミリーが再び入って来た。と思ったら、その後からエステルがシンに抱えられながら入って来た。
「エステル!」
エステルが苦しそうに顔を歪めていることに気づいたエレノアが、名を呼びながら、すぐに駆け寄ってきた。
「私は…大丈夫です。パトリック…おろしてちょうだい」
エステルが、シンに寄りかかりながらも床に足を下ろしたとき、リアムとルビーも到着した。エステルの様子がいつもと違うことに気づいたリアムは、
「お嬢様!」
と駆け寄ろうとしたが、国王、王妃、そして王太子を前に姿勢を立て直し、跪き、俯いた。ルビーもまた跪き、俯きながらも、扉を僅かに開けたままま後方を気にかけていた。程なくして、息を切らしながらアンナがやって来た。中にいあるエステルの様子をチラッと見てとると、血の気が一瞬で引いたように顔を青ざめ、
「失礼致します!」
と、深々とお辞儀をして入ってきた。通常は許可なく入室するなどもってのほかだが、国王も、エステルの様子を見たアンナが冷静さを欠いていることを察したのだろう。自分付きの精霊に目配せすると、その精霊が扉を閉めて魔法錠をかけた。
アレクサンダー国王が、
「勢揃いしたな」
と笑いながら言ったが、その目は笑っていなかった。エステルは、真っ青な顔色でありながら、毅然として問いかけた。
「兄上は、何故こちらに?」
「私とそっくりな人物がいると聞いてね。確かめに来た」
「……それだけですか?」
アルフレッドは、エステルから一瞬目を逸らし、
「それだけだ。ここまで似ているとは……今、驚いていたところだ」
と言うと、これまでいつもそうしてくれていたように、エステルに向かって優しく微笑みかけた。エステルは、
「兄上は、嘘がお上手ではありませんね」
エステルは、シンから離れ、自分の足でゆっくりとアルフレッドの方へと歩んで行った。シンは、その後ろ姿が消え行くように感じられ、手を伸ばしそうになったが、よろめきそうな危うい足取りで、自分の方へとやって来るエステルにアルフレッドが手を差し伸べたのを見て、動きを止めた。
アルフレッドは、エステルを労わるように、
「そなたは、いつも無理をする。もっと自分を大切にしなくては」
「そのお言葉、そのまま兄上にお返し致します」
アルフレッドは、ふぅっと小さくため息をつくと、声をひそめ、
「エシー、そなたも知っておろう? 私はもともと丈夫ではない。そして、それには意味があったのだ」
そう言うと、エステルにだけ見えるよう、そっと額の髪をかき上げて見せた。それを見たエステルが大きく目を見開いたのと、アルフレッドが、
「アルバート!」
と言いながら、アンの方に向き直ったのは、ほぼ同時だった。エステルが、
「兄上! なりませぬ!」
と大声を上げたことに、その場にいた全員が、何事かとざわついた。
さっきまで、自分を避けるようにしていたアルフレッドから名指しされたアンがそちらを向くと、アルフレッドのまっすぐな視線がアンに向けられていた。アンが、
「ようやく目を合わせてくれたね……」
と言い終わらないうちに、見つめ合う二人の髪が、下から巻き上がる風を受けているかのように、ゆらゆらと逆立ち始めた。
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次回、二人の目が合ったとき、何かが起こる?!
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