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85.隠し事

 エレノアは、遠い目をしながらこれまでを振り返っていた。


「エシーがあのように笑わなくなってしまったのも、私のせいね。私が、アルフレッドをもっと丈夫な体に産んであげていれば……」

「そのように簡単に産み分けられるものなら、皆そうしてきたであろう」


 エミリーによって閉じられていたはずの扉が開けられ、そう言いながら部屋に入ってきたのはアレクサンダー国王と国王付きの精霊だった。その後ろからエミリーが怯えた表情を浮かべながら入室し、再び扉を閉めて魔法をかけた。


 エレノアは顔をこわばらせ、さっと中央の席をアレクサンダーに譲り渡すと、その隣りの椅子に座り直した。マヤは慌てて、


「国王陛下にご挨拶申し上げます」


と頭を下げた。精霊の魔法は精霊のみが解除することができる。


(国王付きの精霊がエミリーの魔法を解除したのね。今の話、陛下はお聞きになられたのかしら? だとしたら、どこまで?)


 恐らくエレノアも同じことを考えているだろうことは容易に想像できた。俯き加減で目を見開き、ひどく青ざめている。


 マヤは、これまで姿を消していた自分がここにいることを、どう言い繕えばよいのかと、目の前の床を睨みながら考えたが、冷や汗が出るばかりで、何の言葉も出てこなかった。そんな二人の様子をじっと見ていたアレクサンダーが先に口を開いた。


「久しいな、マヤ。私の息子を育ててくれておったそうだな。まずは、礼を言おう」


マヤは、いきなり核心から衝かれたことに、恐怖で縮み上がりそうになりながら、どんな沙汰が下されるのかと目をぎゅっと閉じた。



「エレノアよ……」


アレクサンダーがそこまで言うと、エレノアは、


「陛下! マヤは……マヤは私の命に従ったまで。罰するのでしたら私を!」


とマヤの前に立ちはだかった。驚いてエレノアを見上げているマヤと、震えながらもアレクサンダーの目を真っ直ぐに捉えて一歩引かないと決意を固めているエレノアを見て、アレクサンダーは、


「はっはっは!」


と笑い出した。



「エステルは、そなたに似たのかのう? 自分よりも人を優先する。美しい心だ。しかし、王族たる者、それだけでは、真に民を守ることはできぬ。そなたも、王家に男児の双子が生まれた場合、災いをもたらすことは知っておろう」

「……はい。そのことは心得ております。ですがそれは、王位継承権を持つ者として、ここで一緒に育てられた場合なのでは? 外の世界で、何も知らせずに育つならば、争いは起きぬのではないかと……」

「あぁ……私も、そう思いたかった。だから、それに賭けようと思った」

「……え?」

「だから、そなたがマヤに育てさせていることを知った後も、様子を窺っておった」

「陛下! ご存じだったんですか?」

「私の部下は非常に優秀でな。いつ、そなたから話してくれるかと待っておったが、それがいかに難しいことかも分かっておった。そなたも苦しかったであろう。私から話すべきだった。すまなかった」

「あぁ……」


アレクサンダーの思いもよらぬ謝罪の言葉に、エレノアは泣き崩れた。アレクサンダーはエレノアの肩に手をそえながらマヤに尋ねた。


「マヤ、そなたも夫にこの事実は伝えていないのであろう?」

「あ……はい」



 マヤは、喉が燃えるように熱いのを感じながら、なんとか声を絞り出して答えた。


 龍司が自分のことを信じてずっと何も聞かずにいてくれたことは分かっていた。二人でアンをアーム王国に送り出したとき、龍司がどんな思いで自分に尋ねてきたかも。しかし、それに答えることができず、どれほど苦しかったか……何度打ち明けてしまいたいと思ったことか……。マヤは、これまでを振り返るだけでも胸が締め付けられる思いだった。


「幸いそなたの夫は国王ではない。もはや、この話を隠し立てする必要もないだろう。それに、これまで調べさせてもらったが、そなたの夫は、どんな時もそなたの話に真剣に耳を傾け、また不用意に口外することもない信頼に足る男と見えたが、違うかな?」

「……仰せの通りでございます」

「うむ。愛する妻に隠し事をされるのは寂しいものだ。そなたの夫には、私のような思いはさせんでくれ」

「……」


 マヤは目頭が熱くなった。言葉を発することができず、ただ、深く深く頭を下げることしかできなかった。確かに、龍司ならば、きっと分かってくれただろう。しかし、マヤはエレノア王妃に忠誠を誓っていた。誰にも知られないよう育てること、そして、その成長ぶりを王妃に報告すること。



 エレノアは、ようやく顔を上げると、目を腫らしながら、


「マヤ、ごめんなさい。あなたにも辛い思いをさせていたわね」


と涙ながらに謝った。マヤは慌てて、


「とんでもございません! 私は、陛下のお子を育てることができて幸せでございました!」


そう言って顔を上げると、王妃が両手で口を覆い、青ざめた表情でマヤの後方を凝視しているのが目に入った。




「どういうこと?」


マヤにとって聞き慣れた声が、背後から聞こえてきた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、マヤの背後にいたのは……


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