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81.出生の秘密

「お前は……あの時の!」


神殿の入口に立っていたのは、シンの探偵事務所近くで、シンに『デキヨワ』の漫画を押し付けていった女子高生だった。いや、女子高生ぐらいに若く見えたというだけで、制服を着ていた訳でもなく、実際には何者かは分かっていなかった。



(この服装からすると、近衛の女性騎士か何かか?)


シンが探りを入れているのを察したエステルが答えた。


「リアムの双子の妹よ」

「リアムの? てことは、精霊か」

「えぇ」



精霊と聞いて、シンはピンと来た。


(そうか! この匂いは、最初にここに来るときに森の中で見たあの影のものと同じだ! どうりであのスピード……追いつくのがやっとだった訳だ)



「エミリー、今皆んなはどこに?」


納得しているシンをよそに、エステルは少し苦しそうな表情を見せながら、エミリーに尋ねた。


「エレノア王妃殿下のお部屋に集まり始めています」

「……そう……急ぎましょう」


胸騒ぎがしたシンは、


「エステル、何が起こってるんだ?」


と聞いてみたが、心配するシンの問いには答えず、エステルは、


「エミリーについて行って」


とだけ言った。シンは、それ以上聞くのはやめ、


「……分かった」


と言って、エミリーの方を見た。エミリーはエステルを気遣うように、シンが揺れなく走れる速度で移動し始めた。シンがエミリーの後を追い始めると、エステルは安心したように目を閉じた。



*******




久しぶりに訪れる城は、今も昔と変わらぬ佇まいで、マヤにあの日のことをまざまざと思い出させた。


-------


 王妃付きの精霊だったマヤは、その日もエレノア王妃が無事に出産できるよう、立ち会っていた。


 出産時の精霊の役割は、王妃にも、産まれてくる子にも負担がかからぬよう魔法を施すことだ。マヤは、これまでにも、王族の出産に何度か立ち会ってきた。しかし、今回はいつもとは何かが違うことに気がついた。



(ん?……これは! まさか……今まで分からなかっただなんて!)


王妃に直ちに伝えるべきか迷ったが、そうこうしているうちに立派な男児が産まれた。その場にいた者たちが一斉に、


「おめでとうございます、殿下!」

「立派なお世継ぎですよ!」

「まぁ、国王陛下の見事な銀髪を受け継がれていらっしゃるわ」


と祝いや喜びの言葉を次々に述べた。しかし、王妃はまだ苦しそうに、何とか笑みを浮かべて見せるのがやっとのようだった。マヤは、


「殿下のお体を整えるための魔法を施します。集中力が必要なので、皆さん、一旦お下がりください」


そう言われて、皆は、


「はい! 分かりました!」


と、お祝いムード冷めやらずといった感じで、嬉しそうに部屋を出ていった。



 マヤは、全員退室したことを確認すると、パチンと指を鳴らし、部屋中のドアと窓のカギを閉めた。さらに、両腕を大きく回しサラサラとした光のひだを作ると、それを王妃と自分の周りにかぶせ、結界を張った。


(ここまですれば、外に音がもれることはない。外から誰かが侵入してくることも、この結界の中の様子を見ることもできないはず)



 エレノア王妃は、不安そうな顔でマヤのすることをじっと見ていた。マヤは、ようやく口を開いた。


「殿下……お腹の中に……もう一人おられます」


王妃は目を見開いた。嫌な予感がしていた。王妃は、違うと言って欲しいと願いながら聞いた。


「……男の子なの?」

「……はい」

「……髪の色は?」

「……黒でございます」


答えを聞いた瞬間、王妃は両手で顔を覆った。


「あぁ……なんてこと!」


王妃の頭の中は一瞬真っ白になった。ついさっきまでは、もうすぐ産まれてくる新しい命との出会いを心待ちにしていた。そして、実際に生まれてきてくれた姿を見て、これまでに味わったことのない幸せを感じることができた。しかし今、もう一人の我が子と会うのが怖くてたまらない。



 この国の者ならば、誰もが知る古い言い伝えがある。それは、



『王族に男児の双子が産まれると国が亡びる』



 王族の男児の双子は、一人が銀の髪、もう一人が黒の髪を持って産まれる。そして、黒の髪を持った男児はいずれ国を滅ぼすと言い伝えられている。故に、産まれるとすぐに、黒髪の赤子は人知れず抹殺されてきた。そして、王族に男児の双子が産まれるのは不吉だとして、その出産に立ち会った者も全て、男児と共に処分されてきたという記録が残っている。王族の墓の片隅に、名前の刻まれていない大きな石碑がある。そこには、黒髪の男児とその出産に立ち会った精霊や侍女らが葬られている、というのは王族でもごく一部の者にしか知らされていないことだった。



 王妃は力を振り絞り、もう一人を産み落とすと、その子を胸に抱いた。黒髪の男の子が元気よく泣いている。王妃は瞳いっぱいに涙を浮かべながら、しばらくその子の頭をなでていた。


「私はこの子も愛おしくてたまらないの。本当にこんな無垢な子が、国を亡ぼしたりするのかしら……」


王妃が赤子に笑みを向けると、赤子は泣き止み、


「きゃっ、きゃっ!」


と嬉しそうに笑った。王妃は、悲しみに顔を歪めながら、


「いい子ね……この子に会ったら、きっと皆んなこの子を好きになるわ」


マヤは、ただ頷いた。


「マヤ、皆を守るために、この事実を皆が知る前に、退室させたのですね。お前一人が犠牲になるつもりで……マヤ、私は、この子を失うと思うだけでも胸がはち切れそうよ。その上、お前まで失うなど……到底考えられない」

「私のことはお考えにならずとも結構です。私は命に従うのみ。覚悟はできております」


マヤのその言葉を聞き、ついに耐えきれなくなった王妃の目から涙が溢れ出した。それを止めることもせずに黒髪の子を真っ直ぐに見つめ続ける王妃に対し、マヤはそれ以上何の言葉も浮かんでこず、ただ黙って跪いていた。


少しの間を置いて、王妃は顔を上げると、意を決したように言い放った。


「ならば……マヤ、この子を国外に連れ出し、育て上げることを命ずる」

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、思わぬ再会に……


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