79.マヤの記憶
「龍司殿は、シン様とあのご令嬢のこと、どう思われましたかな?」
一行の気配が完全にここから消えてから、じいが投げかけると、木陰から龍司が現れた。
「あのお二人ならば、きっと成し遂げられることでしょう。宮司は、どうお考えに?」
「そうですなぁ……まず、幼きシン様が、ここへ最初に来られたときは驚きました。服部一族であっても、ごく一部の者にしか結界を通過できる呪文を伝えておらんというのに、何なくここへ来られた。
ここへ来る前に、あのご令嬢と既に出会っておったと言っておりましたから、二人の力が合わさって起こったことだったのかもしれませんがのぉ。
まさか、生きておる間に、人類を導いて来られたお二人にお目にかかれることになるとは……代々ここで服部一族の氏神様をお守りするお役目を仰せ使ってきた者にとって、身に余る誉れです。あの二人ならば、これまで誰も成し得なかったことも可能にしてくれるのではないかと思っておったのですが……気になるのは、ご令嬢のお体ですな」
「と言いますと?」
「気丈に振る舞っておられるから、周りの誰も気づいておらんのかもしれませんが、相当無理をなさっておられるはずじゃ」
宮司はそこまで言うと口をつぐんだ。
(力を少しずつ奪われていっていることは、ご令嬢も気づいておられるはずじゃ。なのに何故一緒におられるのか……)
龍司は、宮司が考えていることが、自分の推測と同じではないかと確かめたい衝動に駆られたが、同時に、その推測が当たってしまっていたらと葛藤していた。
*******
マヤは思い出していた。子どもの頃から、アンはとにかく愛想がよく皆から可愛がられた。ちょっと出かけると、道ですれ違う人や出かけた先の見知らぬ人から、
「あら可愛いわね~」
などとよく声をかけられ、人懐っこいアンは嬉しそうにそれに答えていた。それだけにマヤは常に、アンに知らない人についていってはいけないと教えていた。
が、いつものように公園で遊んでいたときだった。マヤが他の子どもが転んで泣いているのを助けた後、すぐに振り返ったが、アンの姿が見当たらず、一緒に遊んでいたはずのシンもいなくなっていた。マヤは、
(しまった! ほんの一瞬の隙を狙われた)
マヤが全身全霊の気を放って二人の居場所を探ると、シンの波動を掴むことができだ。公園からどんどんと離れて行っている。マヤは、波動を追って駆け出した。しばらくすると、マンションらしき建物に入り、そこから動かなくなったのを感じた。マヤは、すぐに警察に届けを出し、龍司にも連絡をした後、そのマンションに向かった。当時、アンとシンは五歳で、まだ二人とも修行を始める前の幼子だった。
(この短時間にそんな遠くまで子ども達だけで移動できる訳がない。やはり……)
マヤは胸騒ぎがした。無我夢中で駆けていき、目的地に近づいて来た辺りで、前方からシンが、気を失っているアンを背負いながら走ってくるところに出くわした。
「シン様! ご無事でしたか。北斗は?」
「大丈夫」
マヤは、アンをシンの背中から抱き上げると、
「北斗!」
と言いながら、ぎゅうっと抱きしめた。さっきまで眉間に皺を寄せ、恐怖に顔を歪めていたアンだったが、安心したようにマヤの腕の中でスヤスヤと寝息を立て始めた。マヤがほっとしながらアンの温もりを確かめていたとき、後ろから、犯人と思われる女がすごい形相で追いかけてきた。
(あの女は……王族派の魔法師!)
マヤは周りに誰もいないことを素早く確認すると、シンに見つからないように小声で呪文を唱え、女の体を見えないロープで縛り上げた。女は、
「ギャッ!」
と叫び、その場に頭から倒れ込んだ。女が、マヤをキッと睨み、口を開きかけたので、マヤは瞬時に呪文を唱え、女が呪文を唱えられないよう口をふさいだ。そのとき、龍司が現れた。
「遅くなって済まない!」
「あなた! ごめんなさい! 私がちょっと目を離した隙にこんなことに……」
「君たちが無事なら、それでいいんだ」
龍司は、アンを抱いているマヤの肩にそっと手を置いた。
ようやくパトカーの音が近づいて来た。警察が犯人を拘束したのを確認すると、マヤは龍司に分からぬよう、こっそりと呪文を唱えた。警察が、犯人の女に身元を確認しているのが聞こえたが、女は口をパクパクさせるだけで話せないようだった。マヤは、それを確認した後、シンを見た。
(マンションからここまで相当の距離があったはず。それを五歳の男の子が、意識を失っている上に、自分とそれほど体の大きさが変わらない子をおぶって走って来るなんて、かなりの体力とバランス感覚も必要だったはず……)
後で警察官から聞いた話によると、この辺りの住宅地は昔ながらの地形を保っていて、道がかなり入り組んでいる。土地勘のある者でなければ大人でも迷ってしまうということだった。にも関わらず、シンは警察官の問いに対し、かなり詳細かつ正確に公園から監禁されていたマンションの一室までの道のりを説明したと言う。自分も怖い思いをしただろうに、淡々と事の起こりからマヤと再び会うまでの話をし、とても五歳の子とは思えない落ち着きようで驚いたとも言っていた。
(やはり、シン様が勇者なのかしら……だとしたら北斗は……)
マヤはその時、
(北斗のことは何があっても私が守らなくては!)
と、改めて心に誓ったのだった。
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次回、マヤの行き先は?
毎日一話投稿していこうと思っています。
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