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78.焼き芋

(八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)か?!)


 シンは、エステルの手から、赤みがかったその勾玉を両手で包み込むように受け取ると、裏返したりしながら、いろんな角度からその石を眺めた。


(もしこれが本物なら、三種の神器全てをこの目で見、この手で触れたことになる……)


シンは興奮を抑えきれそうになかった。こんな時、今までなら、アンとこの興奮を分かち合っただろうが、今回、ここにアンはいない。

以前は、アンと任務で一緒になることはほとんどなかった為、これが当たり前だったというのに、今は寂しく感じるほどに、アーム王国に来てからの二人の親密度と信頼度は増していた。



 アンのことを考えていることを見透かしたように、


「目的も果たしたことじゃ。そろそろ友の元へ戻りたくなっておるのではないか?」


と風の精霊の声がした。皆がそちらを振り向くと、いつの間にか、龍神たちが寝そべる大広間の前に戻っていた。小さな龍神は目を覚まし、ソワソワと体を波のようにくねらせている。


「そうかそうか。送って行ってやりたいのじゃな?」


風の精霊は、小さな龍神の頭を撫でながら、ルビーの方を見た。


「すっかり懐かれたようじゃのぉ。この幼き龍神が帰り道の案内を申し出てくれておる。ついて行くがよい」



 ルビーは、初めて会い、そしてもう二度と会うことはないかもしれない母親を前に、自分でもよく分からない感情が蠢いていた。ルビーが立ち尽くしていると、リアムがルビーの肩にポンっと手を乗せた。


「確かめて来たらどうだ?」


ルビーは、リアムのその言葉に後押しされ、おどおどとした足取りで風の精霊の元へと進んで行った。どうしたいのか分からないまま歩いていくうちに、ついに、風の精霊の目の前まで着いてしまっていた。ルビーはただ、風の精霊の目をじっと見つめていた。風の精霊もまた、ルビーの目をじっと見つめ返した。



しばらく沈黙が続いた後に、風の精霊の温かな声がルビーに届いた。


「娘よ。よう来てくれた。じゃが、そなたには、すべきことがある。戻るがよい。『風の玉』のこと、忘れるでないぞ」


ルビーの目から自然と涙が溢れ出た。風の精霊は広間から降り、ルビーの正面に立つと、両手でぎゅっとルビーを抱きしめた。ルビーは、温かく力強い何かが自分を包んでくれている安心感に浸った。生まれて初めての感覚に、離れ難さを感じたが、ルビーは顔を上げ、母の目をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。



 風の精霊は微笑み、ゆっくりとルビーに回していた腕を解くと、皆に向かって言った。



「五つ目の大災害の芽は既に出ておる。そして、それは徐々に広まりつつある。急ぎ五つ目の石を見つけ、此度こそ、世界の浄化を成し遂げよ」



*******



 来た時は、裏口からだったようで、その全体像を窺い知ることはできなかったが、帰り際に振り返って見ると、そこは竜宮城を思わせる煌びやかな城だった。


 小さな龍神を先頭に岩戸のところまで送ってもらうと、岩戸はこともなげに開いた。


シンは、歩きながらも、今し方聞いた風の精霊の言葉が頭から離れなかった。


(五つ目の災害……既にその兆候が現れているだと? 一体、どこで? どんな災害なんだ?)



 シンが、深刻な顔をしながら拝殿前まで戻ってきたとき、アンは、じいとともに、中で焼き芋を食べていた。



「あーっ! アンドリューったら、全然来ないと思ったら、自分だけずるーいっ!!」


アンの姿を目にし、心底ホッとしたルビーは、いつものようにツッコミを入れた。アンも、それに応えるように、


「ちゃんとお前の分もとっといてやったよ」


と、自分の食べかけをルビーの口に放り込み、自分は新しい芋を取って食べ始めた。ルビーは、


「ひょっほー! らんれ食べかけらろよーっ!」


と、芋をモゴモゴさせながら、嬉しそうに文句を言った。その様子を見て、緊張が解れたアンナが笑い始め、それを見たリアムが微笑んだ。エステルも、心なしか和やかな表情をしているように見えた。


(やっぱりアンだな)


いつものように場を和ませてくれるアンに、シンも内心ほっとし、自然と笑みが溢れた。




「で? 石は?」


アンがワクワク顔で聞いてきた。


「これだ」


シンが腰ベルトのポケットから取り出すと、


「勾玉かぁ……これ、今までのに比べてデカくない? 王冠に嵌るのかなぁ?」


シンとエステルが顔を見合わせた。そう言われてみればそうだった。が、二人とも、アンに言われるまで気づいていなかったのだ。

アンは、二人の距離が微妙に縮まっているのを感じ取り、


「あれ? お二人さん、何かあった?」


と聞いてきた。アンは、こういう勘が妙に鋭い。とはいえ、アンナはにまにましているし、ルビーは顔を赤らめ、リアムはそっぽを向き、シンとエステルは不自然に互いに別方向を見ている、となれば、アンでなくとも勘は働いただろう。アンは、


「ふうん」


と、にんまりしながら、次の焼き芋を頬張った。



 アンナは、来たときもしたように、エステルの分の焼き芋の皮を向き、お皿にのせてナイフとフォークを渡そうとしたが、その前にエステルが焼き芋を手で掴んだ。アンナは目を丸くし、


「お嬢様、手が汚れてしまいます!」


と嗜めたが、エステルは、隣で皮を剥いているシンを見て真似し始めた。シンは、


(見られてる感が半端ないな……)


と、すぐ側でじっと手元を見てくるエステルからのプレッシャーに冷や汗が出そうだった。シンの緊張をよそに、エステルは、皮をむき終わると、そのままパクリと口にした。アンナは口を開けたまま、その様子を見守り、リアムも固まっていた。彼らにとって、王族がこのような食べ方をするのはあり得ないことなのだろう。


当のエステルはというと、ポンペイ遺跡で、初めて自分でチケットを買った時のように、初めての体験に高揚しているようにも見えた。


(なんだろうな……なんか、ものすごく可愛い生き物に見えてきた……)


すぐ横で、両手で大事そうに焼き芋を持ち、少しずつ口に入れてはモグモグと味わっているエステルを見て、シンは自分の気持ちが明らかに変化していっているのを感じていた。アンが、


「こんなに品よく焼き芋食べてる人、初めて見たわ。これじゃ目を離せなくなるよなぁ、シン?」


と、シンがエステルを見過ぎているのを揶揄ってきた。シンは、咄嗟に言い返す言葉が見つからず、手にしていた焼き芋をアンの口に目がけてビュッと投げ入れた。


「ぐわっ……らにすんらよー!」


焼き芋は見事にアンの口を塞ぎ、一同大笑いした。



 一息つくと、シンが、


「じい、世話になったな」


と言いながら立ち上がった。皆んなもシンに続いて立ち上がり、じいに挨拶をした。


「なんの、なんの。焼き芋で良ければ、また食べに来てくだされ」


じいのその言葉に、ルビーは、


「うん! また食べに来るね!」


と言った。ルビーは、母のお膝元にあるこの神社の居心地がとても気に入ったようだった。



*******



皆が、元の船着場に戻ると、船首は川下を向いていた。


「帰りを待ってくれていたようだな」


シンはそう言いながら、エステルを船へとエスコートした。皆が乗り込むと、それを確認したように、船はゆっくりと進み始め、ゲートの中へと入って行った。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、勾玉は王冠にはまるのか?


毎日一話投稿していこうと思っています。

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