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76.四つ目の石

(三種の神器の一つと言われる草薙剣(くさなぎのつるぎ か?)


 シンは、ヤマタノオロチの尾から出てきた剣を抜き取った。そのズッシリとした重みと伝説の劍を手にしているのかもしれないと思うと打ち震えた。その瞬間、エステルからもらった剣の柄に埋め込まれた魔石から、


キーン、キーン……


と、剣を打ち鳴らしているかのような音がした。エステルが、魔石の付いたその剣を拾い上げ、二人は向き合った。エステルが持つている剣に、シンが軽く自分が手にしている剣を振り下ろして当てると、同じように、


キーン、キーン……


という音がした。すると、それが合図となったかのように、どこからともなく二人を覆うように風が巻き上げ始めた。シンは咄嗟にエステルを抱き寄せた。風は、二人の周囲をぐるぐると竜巻のごとくうねっていたかと思うと、一気にスーッと引いていった。



 二人は、鏡の場所に戻っていた。シンとエステルは、それに気づくとすぐに、ルビー、アンナ、リアムを確認した。三人はまだ同じ場所で倒れていた。


「大丈夫だ。三人とも今も気を失っているだけだ」


シンがそう言うと、エステルがほっとした顔をした気がした。



「日本の伝説では、ヤマタノオロチ、さっき見た頭と尾が八つある怪物のことだが、そいつを倒した時に出てきた剣を草薙剣と言い、天照大神に献上してる。そして、もし、あの未来を映す鏡が八咫鏡(やたのかがみ)だとしたら……一説には、その鏡と天照大神は繋がっているとも言われてるんだ。となると……」


シンがそこまで言うと、エステルが、


「献上してみましょう」


と続けた。シンはエステルを見て頷くと、手にしている剣を両手で鏡の前に差し出した。真っ暗で何も映っていない鏡の中で赤い煙が渦巻き始めると、その中心に吸い込まれるように剣がスーッと入っていった。暖かな、いや、少し暑いくらいの空気が辺りに充満し始め、目が眩むほどの眩しい光で辺りを照らし出した。


 シンはエステルを覆うようにしながら、自らも目を閉じ、全身の神経を尖らせて周囲の気配を感じ取ろうとしていたとき、頭上に何かがいるのを感じた。シンは、サングラスを取り出してかけていたが、それでも目を開けるのは危険だと肌で分かるほどの眩しさの中で、美しい女性の声が頭の中に響いてきた。



-------

面白い組み合わせじゃな。火の加護を受けし者と水の加護を受けし者よ、ようヤマタノオロチを退治してくれた。あれには手を焼いておった。褒美として、そなたらの望む物を授けよう。

-------



 声が止むと、あれほど眩しかった洞穴の中が、再び暗闇に包まれ、ヒンヤリとした空気に変わった。シンとエステルは目を開け、目が暗さに慣れるのを待った。


徐々に周りが見えてきたとき、鏡を見ると、その中央に石が浮いていた。シンは鏡に手を伸ばしたが、ガラスに当たり、石まで届かなかった。エステルも同様に試してみたが、やはり鏡の表面を触ることしかできなかった。


「どうやったら、あの石を手に入れることができるんだ?」

「鏡に映っているだけで、本物は別の場所にあるのかしら」


二人は、鏡に映り込む範囲に石があるのではないかと辺りを探してみたが、そこにも見当たらなかった。二人はその場で考え込んだ。


「こまれでは、紋様が出てきて、それを重ね合わせると石が現れたんだったな」

「でも、今回は紋様なんて……」


二人は、それぞれの手や互いのおでこを見てみたが、紋様も現れていなかった。


「どうなってるんだ?」


シンが頭を掻きながら横を向いたとき、エステルが、


「シン……」


と言いながら、シンの左のこめかみを指差した後、自分のサイドの髪を両耳にかけた。シンは、


「え?」


と言いながら、エステルの顔を覗き込むと、左のこめかみ辺りに紋様が現れていた。


「こんなところに……」


シンが口ごもると、エステルは頭を少し傾け、顔の左側をシンの方に向けた。エステルの耳が真っ赤になっているのを見たシンは、自分の鼓動が明らかに早くなったのを感じた。シンは、エステルの紋様の向きを確かめると、自身のは対照になっているだろうと想定し、


「……合わせてみるぞ」


と言いながら、エステルの顔に自分の顔を近づけていった。おでこのときと同様に、なかなか紋様が上手く重ならず、手間取った。シンは、


「……固定してみよう」


と断ってから、左手をエステルの腰に回し、右手を後ろから回して、エステルの右のこめかみの上辺りに置くと、ぎゅっと抱き寄せるようにしながらこめかみをそっと押し当てた。シンは、自分だけでなく、エステルの心臓もドキドキと大きく早く打っているのが伝わってきて、顔だけでなく、体まで熱くなっていくのを感じた。


 その時、こめかみの間に何かが現れたのが分かった。二人は、それを落とさないように、そっと顔を離し、エステルがそれを手にした。エステルが、手のひらにのせてシンに見せようとしたとき、


「石、出てきたんですね!」


とアンナの声がした。シンとエステルが驚いて振り返ると、アンナがニマニマしながら立っていた。その横で、ルビーが恥ずかしそうに顔を赤くして微笑んでおり、リアムは横を向いて立っていた。


「お前ら……いつから?」


シンが顔を真っ赤にして尋ねると、アンナが、


「まぁ、いいじゃないですかぁ、そんなことは〜」


と、妙に嬉しそうな顔で返してきた。ルビーは、そっぽを向いて口笛を吹くというベタな誤魔化し方をしている。


(こいつら……)


シンは、穴があったら入りたい心境だったが、それはエステルも同じだったようで、いつもなら動じないエステルが、心なしか、皆から隠れるかのように、シンの後ろに立っていた。シンは、そんな風に恥じらっているエステルを見て、


(エステルにも、こんな一面があったんだな……)


と思うと、知らぬ間に顔が綻んでいたようだった。アンナがすかさず、


「シン様〜、石、見てみなくていいんですかぁ?」


と、少し揶揄うような口調で言ってきた。シンは、ハッと我に帰ると、コホンッと一度咳払いをし、エステルの手にのっている石を見た。



 石は、勾玉の形をしていた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、皆んなを待っていたアンは……


毎日一話投稿していこうと思っています。

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