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70.岩戸

じいは、話を続けた。


「パトリック神官は、この近くに住む者らの心の温かさにすぐに気づかれたそうじゃ。何せ、言葉も通じず、髪も肌も瞳の色も違う大男が四人、見たこともない服装で突然現れたのにも関わらず、皆、身振り手振りで『何か困ったことはないか』『あれはあるか?』『これもあるといいだろう』と、頼まんでもよう世話を焼いてくれたそうで。この森の民があまりに親切だったものだから、その調子で川下の村まで行ってみたら、石を投げられたり、罵声を浴びせられたりと、ひどい扱いを受けたそうじゃ。森の民の有難みを一層実感した神官が、何かお礼がしたいと思われたとて不思議はない。


 当時は、この森の民達の生活が豊かであることは方々で知られておって、何度も何度も襲撃に遭っておった。戦いを好まぬ森の民達は、その度に逃げ隠れ、終息するとまた戻って来て荒らされた田畑を一から作っていく、そんなことを繰り返しておった。

 ずっと恩返しがしたかった神官は、戦うのではなく、身を守る方法を教えてやれば、彼らの役に立つのではないかと考えた。神官は、アーム王国から来る時に持っていた剣の使い方を教えていった。相手を切るのではなく、動けなくし、かつ戦闘意欲を削ぐ手法じゃ」



リアムは、


(あぁ、喉先一ミリ手前で剣先を止めるあれとかか)


と、これまでのシンの戦いぶりを振り返った。



「森の民は、人を傷つけずに追い返すことができると分かると、次々に剣に興味を持つ者が増え、剣が足りんようになった。すると、ないなら作ればよいと、自分らで小刀やらいろいろ作り始めたそうで、なんと賢い民よと、神官はさぞ驚かれたそうな。身を守る為の戦い方も自分らで考えるようになり、それに合わせて新たな武器や道具を作っていくうちに、今の忍術に近いものになっていったのじゃ」

「へ〜、そうだったんだ。俺らの先祖、やるじゃん、な?」


と、アンが目を輝かせながらシンの顔を覗き込んだ。シンは、少し複雑な表情を見せながら、


「あぁ……そうだな」


と短く答えると、じいに話を進めるよう促した。じいは、シンをじっと見た後、


「アーム王国のアーロン王も、それほどまでに素晴らしい民達ならば、共に良い世界を作っていけるだろうと、違いが代替わりする度に、内密に引き継ぎを行うようにしたのじゃ。特に服部一族の当主となる者は、アーム王国との連絡を一手に引き受けることになる大役じゃ。その者が本当にアーム王国とやりとりをしていくにふさわしい当主となり得るのか、代替わり前に試練を課すことにした。今回、パトリック様、いや、もうシン様でよろしいのかな? シン様もアーム王国から招待状が届いたのでは?」

「あぁ、届いた。出かけて行ったら、大量のナイフをプレゼントされた」


シンがリアムの方をチラッと見ると、じいもリアムを見て、


「シン様の身のこなし、見事でござったじゃろう?」


と、ニコニコしながら聞いてきた。リアムは、目をそらしながらも、


「……はい」


と答えた。シンは、リアムが素直に答えたことに驚いたが、


「お前の腕にも驚かされたがな」


とにっと笑うと、リアムもようやく笑みを浮かべた。




「試練というのは、もちろんそれだけではござらんがのぉ」


じいはシンをチラッと見ると、シンは重々承知していると頷いた。



「さてさて、私からの話はこの位にして、皆さんが今回ここに来られた目的は、四つ目の石なのでは?」


皆、じいのその言葉をきき、ピリッと顔を引き締めた。じいは、皆が焼き芋を食べ終えていることを確認すると、


「では、ご案内しましょう」


と言って、外へ出た。



*******



本殿の裏に回り、獣道のようなところをじいが降りて行く。アンナはそれを見るや、サッと前へ出て、素早くピクニックバッグから剣を取り出した。それに気づいたリアムが更にその前に出て、道幅を広げるように、低い木々を切っていった。アンナはリアムを見て微笑むと、エステルの手足に傷がつかないよう、自分は枝葉を綺麗にカットしていった。アンは、


「マジか……」


と呟いた。王女付き侍女と騎士の仕事ぶりに感服したのはアンだけではなかった。大分見慣れてきたつもりでいたシンとルビーも、これには、


「参ったな……」

「すごいね……」


と言ったきり、絶句した。エステルが、


「ありがとう」


と言うと、当然のことをしたまでといった顔で、アンナとリアムは一礼し、エステルの後について行った。



 細道を下りきると、正面には崖が立ちはだかり、その手前に、いや、その崖に半分埋め込まれたような大きな岩が一つ、目に入った。187cmあるシンよりも、さらに一回り大きい岩を見上げながら、一番おチビなルビーは、


「うわぁ……」


と圧倒されていた。シンがじいに、


「ここが入口か?」


と聞くと、


「はい。この岩戸を開けて……」


と答えかけたところでアンが、


「岩戸? 戸なの?」


と何度も確認した。じいは、


「ほっほっほ。戸には見えませんわな」


と笑ったが、皆は笑えなかった。アンナが、


「こ、これは、どのようにすれば開けられるのですか?」


と真剣な面持ちで聞くと、じいはにこやかに、


「さぁ……私も知らんのです」


と答えた。そのあっけらかんとした様子に一同が唖然としていると、それを破るようにアンが、


「岩戸を開けるんなら、やっぱ、何か面白いことしなきゃダメなんじゃない?」


と、自信ありげに言った。シンが、


「天の岩戸か……」


と答えると、じいは、


「それとは関係ないと思います」


と、にこやかに否定した。シンとアンとルビーが顔を見合わせて笑い出すと、意味が分からなかったアンナまでも、その様子から察したのだろう、一緒に笑い出した。リアムは苦笑している。



 皆が笑っている間に、エステルが岩戸に近づいて行ったのに気がついたシンが、


「エステル? どうした?」


と尋ねると、


「これ、扉なんでしょう? 挿さるか試してみようかと……」


と言いながら、ゲートの鍵を取り出し、おもむろに岩に鍵の先端を付けて押してみた。すると、まるでそこに鍵穴があるかのように、鍵はスッと挿し込まれた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、岩戸の奥はどうなっている?


毎日一話投稿していこうと思っています。

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