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69.服部一族の初代当主

「パトリック様がお生まれになった二年後にも、光の柱が降りてきたとアーム王国から知らせがありました。失礼ですが、そちらのご令嬢はおいくつでいらっしゃるかな?」

「二十三よ」

「そして、パトリック様は二十五歳」


じいは、シンとエステルが顔を見合わせたのを見届けた後、エステルに問いかけた。


「始まりの令嬢のことはお聞きになっておられますかな?」

「石を探しているときに出会った精霊達から少し」


じいは、うんうんと納得したように何度も頷いた。



「じい、アーム王国から知らせがあったということは、それまで交流があったということか?」

「はい。本来は、正式に代替わりされてから、この話は受け継ぐことになっておるのですが、当主より、パトリック様がここへ……」


じいは、チラッとシンを見て、


「お仲間と一緒に来られたときは、私から話してもよいと仰せつかりました」


と言い換えた。シンは、内心ヒヤッとしていたが、じいが『善き人』とは言わずにおいてくれたことにホッとしていると、アンが、


「え? 俺達も一緒に聞いちゃっていいんだ?」

「こちらにいらっしゃるのは、これからのアーム王国及び服部一族を率いていかれる方々です。是非知っておいて頂きたい」


じいにそう言われ、アンは珍しく姿勢を正した。ルビーもそれを見て正座した。



「服部一族の初代当主がヨーロッパから来られたというのはご存じかな?」

「え? そうなの?」


とアンが驚いて、じいの方に身を乗り出してきた。


「ほっほっほ。意外でしたかな? まぁ、厳密に言えば、裏ヨーロッパからということになりますかな」


じいは、エステルの方を見た。エステルは、納得した顔で頷いた。


「あ、じゃぁ、初代当主は、アーム王国出身ってこと?」

「さよう。アーム王国初代アーロン王の双子の弟パトリック神官がゲートを作り、日本へ来たのが始まりじゃ」

「パトリック神官……あ、あの王宮にある礼拝堂で、初代王と語り合ってたっていう?」


じいは、にっこりと微笑んだ。


「パトリック神官もアーロン王も元は民兵でした。そこから建国し、アーロン王が戴冠され、パトリック神官も最初は大公として政務も司っておられた。しかし、いつの世も反対勢力というものがいて、パトリック神官を担いで内乱を起こそうと画策するものが後を絶たなんだ。そこで、パトリック大公は一線から身を引かれ、神官になられたのじゃ。しかし、パトリック神官が意のままにならないと分かった反対勢力は、神官を首謀者の屋敷の地下室に閉じ込め、その間に、神官の名を語って、ついに内乱を起こしたのじゃ」

「地下室って……まさか、内乱を起こしたのはカークハム家ですか?」

「その通り。よくご存知で」


と、じいはリアムの質問に答えた。


「昔、その地下室には精霊を閉じ込めていたと聞いたのですが……」

「こちらでは、パトリック神官を捕らえるためにその部屋が作られたと聞いておりますが、その後、その部屋がどのように使われてきたのかは聞いておりません。当主でしたら、もしかしてご存知かもしれませんがな。

 内乱は結局失敗に終わり、首謀者は断罪されたものの、アーロン王は次の世代の者達には、忠誠を尽くすことを約束させ、お許しになられた。忠誠の証として、日本でも昔はよくあったようじゃが、人質の意味も込め、嫁や婿を差し出させたのじゃ。そうやって、内乱に加担していた家紋の中に、王族の直径の血が流れる者が誕生していった。現在、王族派と言われているのは、元は内乱を起こした者達の子孫で、パトリック神官側についていた者たちは、騎士派として、今も受け継がれておるということじゃ」

「わ〜、カークハム家ってそんな昔からあったんだ。ていうか、この間また王太子の命狙って、ついにお家断絶になっちゃったよ? せっかく代々頑張って来たのに何やっちゃってんだろうね〜」


とアンが呆れ顔で言うと、じいは大きく頷いた。シンは、エステルが遠い目で何か考えているように感じた。


(アーサーのことか……)


シンは、人のことを一番に考えるエステルが、今どのような気持ちでこの話を聞いているのだろうかと考えた。その時、アンが思い出したように尋ねた。


「あ、じゃぁ、シンが使ってるヒューカムっていうのは……」

「パトリック神官とその直径親族が使われていた家名です。神官が日本に来られた為、残られた親族が名乗っておられたのじゃが、男児が生まれなかった代があり、そこで終わったと聞いております」


シンは、服部一族の初代当主の家名を、任務とはいえ、自分が使うことになった不思議な縁に想いを馳せた。



じいは、話を戻した。


「アーロン王はもちろん、内乱がパトリック神官の仕業でないことは分かっておった。信頼できる三名の家来に神官を探し出させ、王宮に連れ戻すと、結界を何重にも張った建物へ案内し、そこでゲートを作って逃げるように導いてくださった。初代王が強力な結界を張り続けている間に神官は神に導かれるままにゲートを作り上げ、神官を助け出した三名の家来と共に行き着いたのが日本じゃった」

「そんなことがあったんだ……」


ルビーが悲しそうに言うと、


「実の兄や妻と子供との別れは、この上なく悲しいものじゃったろう。しかし、そのゲートを作ったことで、命を狙われていた神官自らは帰ることはできなくとも、使いの者を送ることはできるようになった。

 パトリック神官は、初めてみる日本という国のことをよう手紙に書いて送られた。王も神官のご家族もそれを楽しみにしておられたそうじゃ。

 ある時、神官が日本の者に名前を尋ねられ、『パトリック』と答えたら、外国人の名前など聞いたことのなかった彼らに『服部か』と言われ、以来、服部を名乗るようになったそうじゃが、神官は服部が苗字だとは知らなんだのじゃろう。これは笑い話じゃが、本当のことらしい」


シンとアンとルビーは顔を見合わせると、噴き出した。


「ハハハ! そういうことだったのか!」

「なるほど。逆パターンだった訳ね」


ルビーは、何も言えないほどお腹を抱えて大笑いしている。アンナとリアムは、何事かときょとんとしている。エステルは、


「では、パトリックではないの?」


と真顔でシンに聞いてきた。


「あぁ、任務名だと思ってるからパトリックで構わないが、普段は『シン』って呼ばれることが多いな」

「ハットリ シン?」

「あぁ」

「ハットリ シン……」


エステルは、その名前を繰り返し呟きながら、何か考えているようだった。じいは微笑みながら、その様子をじっと横目に見ていた。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、服部一族のご先祖ってこんな人たちだったんですね〜


毎日一話投稿していこうと思っています。

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