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68.光の柱

 暗いゲートを進むと、川のせせらぎのような音が聞こえてきた。ようやく少し光が差し込んできたと思ったら、そこは森の中で、鬱蒼としげる木々の間から差し込む木漏れ日が、川の水面に反射してキラキラと光っていた。



「パトリック、あれ!」


 ルビーが指を指すまでもなく、少し先には小さな船があるのが見えた。十人ぐらいは乗れるだろうか。不思議なことに、川の流れはそれほど急ではないとはいえ、その船はどこに括り付けられている訳でもないのに、川岸にぴたりと止まっていた。それに、船首が川上を向いている。



「タペストリーによると、これに乗って川を遡れってことかな?」


アンは、船に特殊な装置でも付いているのではないかと一通りチェックした。シンが、


「呪術がかかってる」


と言うと、アンが、


「なるほどね」


と言った後、すぐに、


「あ! 今回は本当にちゃんと分かってるよ!」


とエステルにツッコまれないように先手を打った。皆、一瞬にして緊張がほぐれ、声を上げて笑った。アンが、


「やばい呪術じゃないんでしょ?」


と確認すると、シンは、


「大丈夫だろう」


と言って、最初に乗り込んだ。


(全く揺れないな)


シンがエステルをエスコートし、船首近くに横に渡してある木に座らせた。全員が乗り込むと、船はゆったり川上へと進み始めた。アンナが、


「私、船に乗るの初めてです!」


と目をキラキラさせている。リアムは、アンナが川を覗き込むので、落ちはしないかとハラハラしながら見守っている。シンは、アンとルビーに、


「お前達は、この先に行ったことあるのか?」


と聞くと、


「ううん。初めてだよ」

「え? パトリックは行ったことあるのか?」


と逆に聞き返された。


(二人は行ったことないのか……)




 シンは、じいとの約束を思い出していた。


(じいは、『善き人と一緒に』と言っていた。俺が『お嫁さんにしたいと思うような素敵なお方』だとも……)



シンは、あの時会った女の子がエステルかどうか、確信を持てずにいた。


(エステルも、俺を見ても何も言わないしな……)



こんな不確かな状態で、じいに会いに行ってよいものかと思う一方で、行けば何かハッキリするのではないかという期待もあった。



 船が、砂浜のような川岸に着いた。シンが子どもの頃に来た時と変わらぬ景色がそこにあった。



(あそこだな)


シンは、森の奥の小高くなっているところに赤い鳥居の先端を見つけた。シンが皆を率いて神社に向かうと、赤い鳥居が見えてきた。子どもの時に、見上げていた鳥居に描かれたマークは、アーム王国の紋様だった。それに気づいたエステルが、シンを見た。他の皆んなも鳥居のマークに見入っている。



「ここは、服部一族の氏神様が祀られている神社だ」


シンがそう説明すると、アンが、


「え……じゃぁ、服部一族とエステルちゃんとこ、昔から関係があったってこと?」

「そういうことになるかな。エステルは、何か聞いてないか?」

「いいえ」

「そうか……」


と言ったとき、シンは懐かしい気配を感じた。


「じいか?」


と尋ねると、どこからともなく姿を現し、


「はい。パトリック様、ようお越しくださった。何とまぁ、ご立派になられて……ほぅ、そちらのお方ですかな?」


じいはニコニコしているが、シンがパトリックと呼ばれていることを察し、咄嗟に対応できるのは年の功といったところだろうか。皆は、年老いた日本の老人が流暢な英語を話し出したことに驚いた。シンは顔を赤らめ、


「俺が今、最も信頼を置いている仲間を連れてきた」


と言った。アンナは、感無量と言った感じで、目を潤ませている。じいは、アンに目をやると、


「もしかして、龍司殿の?」


と聞いてきた。アンは、


「親父のこと知ってるの?」


と人懐っこく聞き返してきた。じいは、


「はい。よう知っておりますとも」


と笑った。シンが、


「じい、皆んなにもあの掛け軸を見せてやってほしいんだが……」


と言うと、


「もちろんですとも。皆さん、こちらへどうぞ」


と本殿へ案内した。中に入ると、祭壇脇の壁に墨で描かれた大きな掛け軸が飾られていた。皆、それを見て固まった。ルビーが、


「タペストリーにそっくりだ……」


と呟いた。シンは、


「じい、ここの鳥居に描かれているマークは、ここにいるエステル達の国、アーム王国の紋様と同じなんだ。アーム王国と服部一族は、昔から何か縁があったのか?」


と尋ねた。じいは、一瞬真顔になったがすぐさまにっこり微笑み、


「お茶でもすすりながら話ましょうかね」


と言い、場所を拝殿へと移した。いつの間に用意したのか、皆の前にはお茶と焼き芋が用意されていた。


アンナは、いつも用意する側なので、このおもてなしに、


「まぁ、なんていい匂いなんでしょう! 畳の色とお芋の色のコントラストも素晴らしいですわ。それにこの茶器、私、初めて見ました」


と、痛く感動していた。実際には、神社には、その湯呑みと皿しかなかっただけなのだが……



ルビーが、


「頂きま〜す!」


と手に取って食べ始めると、アンナは、ピクニックバックからナイフとフォークを取り出し、エステルの焼き芋の皮剥いて、一口サイズに切り揃えて、


「お嬢様、どうぞ!」


とエステルの前に置いた。じいが、


「これはこれは、手際が良いですな」


と褒めると、アンナは一礼し、自分も食べ始めた。シンは、


「前に来た時も、芋を食わせてくれたな」


と懐かしんだ後、


「そうだ。あの時、聞き忘れたことがあったんだ。『光の柱から降りて来られたお子』って言ってたと思うんだが、あれは、どういう意味だったんだ?」

「ほぅ……昔のことを一字一句違えずに覚えていらっしゃるとは……」


じいは満足そうな笑みを浮かべると、語り始めた。



「それはそれは、不思議で美しい光景でしたなぁ……夜空を眺めておったら、北斗七星の柄杓から、北極星に水をかけるかのように光が注がれると、そこから光の柱となって地上まで伸びて来たのです。その光が降り立った先で、赤子が産声を上げた。それが、パトリック様なのですよ。光の柱が降臨するとき、これすなわち、勇者、もしくは、始まりの令嬢の誕生の知らせなのです」

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、四つ目の石を守るのは……


毎日一話投稿していこうと思っています。

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