66.じいとの約束
「僕に伝えたいこと?」
「はい。いつか善き人に出逢われたら、その方と共に、またこのじいに会いに来てくだされ」
「善き人って?」
「会えばすぐに分かるじゃろう。坊ちゃんが、お嫁さんにしたいと思うような素敵なお方じゃ」
「あ、それなら僕もう会ったよ!」
「ほう。どのようなお方かな?」
「えっとぉ……」
シンは、少し照れくさそうにモジモジすると、
「お父さんとお母さんは信じてくれなかったんだけど……」
と切り出した。
「僕、森の中で洋館を見つけたんだ。そこで、すごく綺麗な女の子に会って、一緒に花冠や指輪を作って交換したんだ」
「それはそれは……どんな女の子で?」
「すごく色が白くて、髪は銀色で長くって、目が大きくて……お姫様みたいなドレス着てた! 本当にお人形さんみたいだった。笑うとすごく可愛くって……」
「おやおや、これは止まりそうにありませんな」
と、じいがニコニコして言うと、シンは顔に火をつけたように真っ赤になり、
「……じいは信じてくれる?」
と上目遣いで聞いてきた。じいは、
「もちろんですとも。今度来るときは、その女の子と是非一緒に来てくだされ。続きの話は、またその時に」
「でも僕、あれから何回も森に探しに行ってるんだけど、女の子どころか、洋館すら見つけられないんだ……」
「時が来れば、必ずまた会えるじゃろう。じいともな」
そう言うと、じいは鳥居まで送ってくれた。
「ここを下って行けば、船着場に出られる。そこからは、川沿いを降りて行けば、一人でも戻れるじゃろう。また会える日を楽しみに待っておるよ」
「うん! じい、ありがとう。必ず来るよ!」
そう言って手を振り、少し下ったところで、もう一度振り返ってみたが、じいの姿は既になかった。
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(俺のことを知っていたし、あのみ身のこなしからすると、服部一族の縁の者だと思うが、親父からじいのことは聞いたことがないな。まぁ、代替わりするまで伝えないこともあるだろうから、その類いか? そういやぁ、芋食ってて、掛け軸に描かれてた物語のこと聞き忘れたな)
シンは、子どもだった自分を思い返してふっと笑った後、
(それより、『光の柱から降りて来られたお子』って言ってたよな。あれは、何のことだったんだ?)
シンが眉間に皺を寄せて考え込んでいる横で、エステルが、
「船着場に神社……このタペストリーの絵と確かに似ているわね。では、四つめの石はそこに?」
「かもしれないな」
シンは、女の子のくだりは何だか気恥ずかしく、『心から信頼できる仲間と共に来るように言われた』というように言い変えて、エステルには伝えた。
「パトリックが、私達のことを信頼のおける仲間だと思ってくれるのなら、アンナに日本行きの申請を出してもらおうと思うけど」
「もちろん、そうしてくれ」
そう答えると、エステルはシンを改めてじっと見つめてきた。
「パトリック、あなたの国なのね」
エステルにそう言われ、シンは妙にソワソワした気持ちになった。
「あぁ。アンの国でもあるしな」
「そうね」
心なしか、エステルが日本行きを楽しみにしてくれているように見えた。それが単に石探しのためだとしても、エステルに、少しでも自分のことを知ってほしいという気持ちが奥底にあることに気づき、シンは自分でも驚いていた。
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北宮に向かっていると、
「お嬢様!」
とアンナの声がした。振り返ると、アンナは乗馬をする時のようなパンツを履いて、左腰には剣を差し、隣にはリアムがいた。エステルが、
「訓練をしてきたの?」
と聞くと、
「はい! 久しぶりにリアムに手合わせをしてもらってきたところです」
とニコニコ顔だ。エステルも、どことなく満足そうな顔をした後、
「アンナ、日本行きの申請を出しておいて」
と言った。
「え? 日本ですか? 四つ目の石の在処が分かったんですか?」
と、ずずずいっとエステルとシンに迫って来た。エステルがチラッとシンの方を見た。シンはそれに気づくと、
「あぁ。今回、日本語でお告げがあったんだ。俺も一緒に聞いた」
と、今朝あったことを伝えると、アンナは目をうるっとさせ、
「パトリック様、私たちのことをそのように信頼してくださるとは……このアンナ、必ずやお役に立って見せます! すぐに申請してきます!」
と言って、走り去って行った。置き去りにされたリアムは苦笑すると、
「お嬢様、今回は調べ物はないのですか?」
と聞いてきた。エステルは、
「日本行きに関しては調べることは特にないわ」
と一旦言葉を切った後、
「私の部屋へ行きましょう」
と言って歩き出した。エステルの部屋に着くと、シンはソファをすすめられた。
エステルも腰を下ろすと、一呼吸置いてから話を切り出した。
「二人に頼みたいことがあるの」
エステルの、いつも以上に真剣な面持ちに、シンは嫌な予感がした。
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次回、シンの悪い予感は当たってしまうのか?
毎日一話投稿していこうと思っています。
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