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60.アンナの両親

 アンナが考えごとをしながら歩いていたら、いつの間にか、裏通りに入ってしまっていた。


(いっけない! この辺、治安が悪いんだった)


と思い、引き返そうとしたとき、突然後ろから腕を掴まれた。


「よう姉ちゃん。わざわざめかし込んでここに来るってことは、金が必要なのか? だったら、俺が買ってやってもいいぜ」


と、190cmはあると思われる大男が、にたぁっと笑って立っていた。アンナはその瞬間、思い出した。


(そうだ! ここはあの時の……)



-------


 アンナの両親は、王宮近衛騎士団員だった。当時、女性で登用されることは非常に珍しく、入隊が許されたこと自体名誉なことであったが、アンナの母親は度胸があり、男でも怯むような過酷な戦地にも赴き、次々と手柄を立てていった。

 アンナの父親は当時、団長を任されており、そんな母親のことを頼りになる部下として、信頼をおいていた。父親は団長らしく、武に長けていただけでなく、人柄も良く、皆から慕われていた。そんな二人が一緒になることは自然の成り行きだった。

 二人の間に生まれた女の子は、とてもお転婆だったので、有り余る力を発散させようと剣術や護身術を遊びの代わりに教えてやっていた。そうしているうちに、両親の任務の大変さも、子どもながらに分かるようになったのか、いつしか、自分から家の仕事を手伝うようになっていた。

 アンナは、母親よりも料理のセンスがあった。両親が「美味しい、美味しい!」とモリモリ食べてくれるので、嬉しくなってどんどんと腕を上げていった。アンナは、この幸せな日々がずっと続くと信じていた。


しかし、それが崩れる日は突然やってきた。



 内乱が起こり、騎士団員の家族も狙われる事態となってきた時、両親はアンナを町外れの小屋に連れて行った。そこは、母親が昔住んでいた家で、今は誰も使っていない。母親は、


「アンナ、よく聞いて。今、町はとっても危ないの。お父さんとお母さんの仕事は皆んなを守るために戦うことだっていうのは分かってるわよね?」

「うん……」

「お父さんとお母さんが戻ってくるまで、ここから出てはダメよ。食べ物と飲み物はここに入れてあるから、少しずつ食べなさい。もし、身の危険を感じたら、この中に入りなさい」


そう言いながら、床の隠し扉を開けた。大人が一人やっと入れるぐらいの大きさの保管庫だった。アンナなら余裕で入ることができる。


「お父さんとお母さん以外の人が迎えに来ても、絶対に出てはダメよ」

「知ってる人でも?」

「知ってる人でもダメ」



 両親は、周りの人たちと信頼関係を築いていくことの大切さを常日頃から語っていた。その両親が、誰であっても信じてはダメだと言っていることに、子供心にも何か大変なことが起こっていると感じた。


「分かった……でも、絶対迎えに来てね」


母親は、にっこりと微笑み、アンナをギュッと抱きしめると、


「良い子ね。アンナ、どんなことがあっても、誰かを、そして、何かを恨んではダメよ。本質を見極める目を持ちなさい。アンナ、愛してる」

「父さんも愛してるよ。アンナは父さんと母さんの自慢の娘だ」


そう言って今度は父親がギュウッと、長い間抱きしめた。



 アンナは、家を出て行こうとしている二人に、


(待って! 行かないで!)


と言いたかったが、二人の笑顔を見ると、胸がつかえて何も言えなくなり、


「アンナ、行ってくるわね」

「アンナ、行ってきます」


と言う二人に、ただ、


「うん……行ってらっしゃい」


とだけ答えた。二人が出た後、アンナもすぐに家を飛び出た。それに気づいた二人は、姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。アンナは手を振ることもできず、ただただ、両親の姿を目に焼き付けるように、立ち尽くしていた。それが、両親を見た最後になった。


何日経っても、両親は迎えに来なかった。待っている間には、外で怪しい人たちが行き交う声がして、床下に隠れたことも何度もあった。その度にアンナは、保管庫の中で、


(お父さん、お母さん、早く迎えに来て!)


と繰り返し唱え続けた。



(何日経ったんだろう……)


暗い保管庫にじっと入っていると、時間の間隔がなくなる。ただ、とにかく気が遠くなるくらい、長い時間に感じた。



 両親が用意してくれていた飲み物も食糧も底をついた。空腹も我慢の限界になると、夕方、アンナは外に誰もいないことを確認し、こっそり町の水飲み場まで行って、水をガブガブと飲んだ。


 その時、向こうから大人たちがやって来るのが見え、慌てて物陰に隠れた。男達は、騎士の様だった。


「こんなことになるなんて、まだ信じられないよ」

「あぁ。ご家族のことを思うと、居た堪れないよ……団長んとこ、まだ小さいお嬢さんがいるんじゃなかったか?」

「あぁ。アンナちゃんだったかな。すごく可愛がってたのに……まさか、両親いっぺんに失うことになるなんて……」


(え……今なんて?)

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、すみません、四つ目の石はまだ出てきません……でもアンナとエステルの出会いのシーンが!


毎日一話投稿していこうと思っています。

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