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55.人間の業

 エステルは、咄嗟に水の魔法でアンナを覆っていた炎を消し止めた。ルビーも瞬時にアンナの元に飛び、治療魔法を施した。それでもアンナは、ぐったりと床に横たわったままだ。シンとアンは、まだ飛び交っている残りの火の玉が、皆に及ばないよう、剣で振り払っている。皆がアンナを救おうと必死になっている間、火の精霊は、


「ハーッハッハッハッハッハ! これは面白い! 仲間を火だるまにするとは!」


と高笑いを続けていた。リアムが怒り心頭で火の精霊に向かっていこうとしたとき、火の精霊が、この間に溜めて大きくしていた火の玉をリアムに向けようとしているのがルビーから見えた。ルビーは、リアムを落ち着かせようと、


「アンナなら大丈夫! お嬢様の水は、水の精霊から受けたものだから、治療効果があるの! それに、私も今、治療魔法をかけてるから……」


そこまで言うと、


「もう、元よりも……綺麗なお肌……に、なっちゃった……わよ……」


とアンナが途切れ途切れに続けた。今にも消え入りそうな声を聞いたリアムは、即座にアンナの元に駆け寄ると、


「見せてみろ!」


と、両頬に手を当ててポーズを取ろうとしているアンナの腕をとった。アンナは、


「ちょっ……レディの腕を……

いきなり掴むなんて……」


と苦しそうな笑みを浮かべながら、リアムの頭をバシッとはたいた。いつもとは違う力の無さに、リアムは恐怖を覚えた。リアムは、アンナの手を頭上で掴むと、恐る恐るアンナの顔を覗き込んだ。


「ほんとに、大丈夫だから……」


とアンナが見つめ返してきた。確かに、少しずつだが、顔色もさっきよりは良くなり、息切れも治まってきてはいる。リアムはそれでも不安を拭い去れず、アンナの頭を右手で優しくなでるようにして頬の位置で手を止めた。アンナは、リアムがあまりに心配そうにまっすぐ見てくるので、少し気恥ずかしくなり視線を外したとき、震える手を見つめながら、立ち尽くしているエステルが目に入った。アンナはハッとし、すぐさま立ち上がろうとしたが、よろめき、リアムが瞬時に差し出した腕に支えられた。


「お嬢様! 私は、何ともありませんから! 大丈夫ですから!」


と言いながら、リアムに助けてもらいながら立ち上がると、エステルの震える手を握りしめ、


「お嬢様! 私が勝手に、お嬢様の前に出たから、いけなかったんです。お嬢様のせいではありません! ほら、見て下さい! 何の痕も残っていないでしょう?」


 治療魔法が効いてきたアンナが矢継ぎ早に言葉を重ねていく。エステルは、ようやく視線をアンナに移すと、大きな瞳でじっとアンナの顔を見つめた。そして、ようやく


「……本当に、大丈夫なのね?」


と言いながらアンナをぎゅっと抱きしめた。


「大丈夫に決まってます! 丈夫なだけがとりえなんですから!」



 一同が一息ついたとき、火の精霊が口をはさんできた。


「友情ごっこは終わったか?」

「何だと?!」


リアムが再び飛びかかりそうになったのを、シンとアンが二人ががりで止めた。今や、火の精霊の手元では、巨大な火の玉が蠢き、狙いをエステルに定めている。



「ふっ、我が息子が、人間に仕えるとは……お前も、人間どもがこれまで何をしてきたか知っているだろう?

 この世界に生きる全てのもののために与えた力を我が物にしようと奪い合い、自滅する度に許しを請うてくる。始まりの令嬢と勇者が自らの危険を顧みずにここまでやって来ることに免じて、我らも幾度となく立ち直るチャンスを与えてきた。しかし、ついに今、人間どもは、取り返しがつかなくなるのを承知で自然を破壊している! これ以上、見過ごすことはできんのだ」



 火の精霊が言っていることはもっともだった。リアムも、そこに異を唱えるつもりはないようだ。しばらくの間、両者の睨み合いが続いた後、火の精霊は、


「何故そこまでして、皆、その令嬢を庇おうとする?」

「お嬢様は私利私欲のために動く方ではない」


リアムはまだまだいくらでも言えるという顔をしていたが、その一言を発したときの空気から、皆も同意していることは伝わったようだった。火の精霊は、ふっと小さく笑うと、


「ここまで、精霊を二人も従えて来た始まりの令嬢は初めてだ。勇者と共に来たのもな。そして何より……」


と言ったところで、火の精霊は、ちらっと何かを見た。シンは、その視線の先にいる者を確認した。


(アンか……)

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、三つ目の石を手に入れることはできるのか?!


毎日一話投稿していこうと思っています。

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