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52.ポンペイ遺跡

 ポンペイ行きの申請はすぐに通った。段々と申請から承認までの時間が短くなっている。


(たまたまか、国か国王も五つの石を早く見つけることを望んでいるのか……)


 シンは、その意図が知りたかったが、近頃、集中しきれていない自分を振り払うために、まずは目の前の任務を着実にこなすことに専念しようと決めた。



 翌朝、西宮の前へ行くと、エステルとアンナは既にそこにいた。今回は、かなり現代の服装に近く、アンナは、襟のついた白のノースリーブシャツにカーキ色の細身の7部丈ストレッチパンツを合わせ、足元はスニーカーという、動きやすさ重視の格好だ。エステルは、足首まである少しゆとりのある麻のノースリーブワンピースに大きめの石が一つついたネックレスと金のブレスレットを合わせ、腰に大判のストールをルーズに巻き、人生初だというスニーカーを履いていた。


(か、可愛いな……)


シンは、自分の住む世界にエステルがやって来てくれたように感じ、ドキッとした。エステルから目を離すことができずにいると、アンに耳元で、


「シン、見過ぎ〜」


と囁かれた。シンは、ハッとした。客観的に見て、エステルのことを美しいとは最初から思っていた。実際、そう誰もが思うだろう。しかし、可愛いという感情を持ったのは、いや、そう思ったことを自覚したのは、今回が初めてだった。アンに揶揄われたせいかとも思ったが、そうではないことは自分でも分かった。


(クライアントに対して、抱いていい感情じゃない)


シンはその気持ちを奥に追いやると、


「あれ? ルビーは?」


と聞いた。アンナが、


「すぐに来ます」


と言ってにっこり笑うと、少しして、ルビーが猛スピードで走って来た。ルビーは、


「遅れちゃって、ごめんなさい!」


と言いながら、シンとアンの間に立った。シンとアンとリアムは、色違いのダボっとした麻の半袖シャツに、ラクダ色のパンツも通気性の良さそうな少しゆとりのある足首丈のパンツ、靴はやはりスニーカーだ。


ルビーは、Tシャツにふくらはぎ位の丈の薄い紺地のワンピースを重ね、歩きやすい様、スニーカーを履いている。が、よく見ると、アンのシャツとルビーのワンピースの色、それから二人のスニーカーだけお揃いだった。アンナが満足そうな笑みを浮かべながら、うんうんと一人頷いている。


ルビーが遅れたのは、アンがどの色を選ぶか見てから、ルビーのワンピースの色を揃えたためだった、ということを知っているのはアンナと、男性陣の衣装を用意したジュリアだけだ。



 エステルは全員揃ったことを確認すると、西宮に入って行った。ポンペイ行きの扉は一階にあり、それを見つけたリアムは、サッと猫の姿になった。ルビーも遅れまいとウサギになると、すぐさまアンが首根っこを掴み、自分の懐に入れた。


(大分素直になったじゃないか)


とシンが微笑んでいると、見られていることに気付いたアンが、


「なんだよ」


と照れくさそうに言った。


「別に」


とシンが笑うと、アンもふっと笑った。



*******



 ゲートを抜けると、そこは人気の少ない郊外だった。が、ゲートが閉まってすぐに、道に迷った観光客が、


「あれ? こっちじゃない?」


と角からひょっこり現れた。アンが咄嗟に、


「こっちは行き止まりだったよ」


とにっこり笑っていうと、


「あ、ありがとうございます!」


と恐縮しながら、元の道に戻って行った。


「今の人、すごいイケメンじゃなかった?」


とキャッキャと話している声が離れていくと、


「あっぶなあ。もうちょっとでゲート見られちゃうとこだったね」


とアンが言うと、エステルが、


「ゲートを通ってきた者にしか見えないから大丈夫よ」


と言った。


「え? そうなの?」


とアンも驚いたが、シンも、


(魔法の方が呪術よりもかなり自由度が高いし、活用範囲も広そうだな)


と感心した。



 ゲートから出てみて、皆、何故アンナがこのような衣装を用意してくれたのかが分かった。砂漠ほどではないが、昼間のポンペイはなかなかに暑かった。


 その暑さに、ルビーとリアムは人間化せず、それぞれエステルの腕とアンの上着の中で直射日光を避けている。そのエステルには、アンナがパラソルをさしている。アンナはいつものピクニックバッグに加え、大きなリュックも背負っていた。


「アンナちゃん、そのバッグの中、何が入ってるの?」


アンが不思議に思って聞くと、


「主に水です」

「え! そんなに? それ、すごい重いでしょ? 言ってくれれば持ってあげたのに」

「ご心配なく。これぐらいの荷物を運ぶのは慣れておりますので」


とにこやかに答えた。確かに、ここに来るまでアンナが悠々とした顔をしていたので、まさかそんなに重いものを運んでいたとは誰も思ってもみなかったのだ。


「そうかもしれないけど、女の子一人にそんな荷物持たせる訳にはいかないよ」


と言って、アンはアンナからリュックをもらい、サッと背負った。シンは、アンが背負ったリュックから、半分ほど水を取り出すと、自分の持っている袋に放り込んだ。



*******



 遺跡に近づくほど、観光客が増えていった。


「前にきた時は、大勢の観光客に紛れた方がやりやすい仕事だったから良かったけど、今回は、これだけ人がいるとやりにくくない?」


アンがもっともなことを言うと、エステルは、


「一旦入場して、夜になるのを待ちましょう」


と言い、入口に向かった。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、夜まで待つとそこには……


毎日一話投稿していこうと思っています。

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