50.二人だけの秘密
この結末を予想したアンナは、咄嗟にエステルに目隠しをし、横で突っ立っているシンとリアムを小突いて、そっとその場から離れた。ここまでくればもう大丈夫だろうという所で、アンナはエステルを解放し、
「キャーッ! 生壁ドン見ちゃった〜♪ どうしよ〜!」
と、真っ赤になった顔を両手で挟みながら、キャーキャーとはしゃいだ。シンとリアムは、『生壁ドン』について思いを巡らせたが、生の壁をドンと押す様子を思い浮かべでもしているのか、二人ともはてな顔だ。エステルも、アンナの身に何が起こったのか分からずに、じっと様子を窺っている。
「も〜!! お嬢様も見ました? 私、ドキドキしちゃって、今夜は夢に見ちゃいそうです〜!」
自分で目隠しをしておきながら、エステルにこんなことを聞いている様子は、普段冷静なアンナからは想像がつかないことだった。さすがのエステルもちょっと引いているように見えた。
「ささ、邪魔者は去りましょう♪」
と、そこまで言ってようやく、ここが王宮ではなくイラクだったことを思い出したアンナは、
「あ……待ってないとダメですね」
と我に返った。リアムは、そんな目まぐるしく変わるアンナを見ておかしくて堪らないようだったが、片手で口を覆い、横を向いて肩を震わせていた。それに気づいたアンナは、気恥ずかしくなり、
「ちょっとリアム、見えてるわよ。この人、すぐ人のこと笑うんですよ!」
とエステルに言いつけた。エステルが、
「リアムって笑うの?」
と聞いたので、シンは、
(それをエステルが聞くか?)
とツッコミたかったが、グッと堪えた。
「しょっちゅうですよ! この人、私のことバカにしてるんですよ!」
(……そういうことは……しそうだな)
と思ったが、リアムがこんな風に笑いを堪えているのを見たのが今回初めてだったのはシンだけではなかったようだ。
「そんなことはない」
やっとのことで冷静さを取り戻したリアムが唇をひくつかせながら、何とか答えた。アンナが反論しようと口を開きかけた時、
「皆んなこんな所にいたんだ?」
とアンとルビーが向こうからやって来た。途端にアンナの顔がニマニマし、妙な空気が流れた。その空気を敏感に感じ取ったアンとルビーは、こちらに近づくにつれ、そろりと離れていった。アンは、
「この間みたいに、どっかに鍵挿すと扉が現れるの?」
と、はぐらかすように尋ねた。エステルは、
「そうよ」
と答えると、鍵を取り出し、近くの壁に挿した。ゲートの扉が現れると、リアムが扉を開け、エステルとシンが明かりを灯した。リアムが猫に戻って、エステルが抱き上げた。ルビーがウサギに戻ると、アンナの視線が突き刺さった。ルビーは、迷ったが、シンの上着に飛び込もうとジャンプしたところを、空中でアンが捕まえ、ひょいっと自分の上着の中に入れた。アンナの目が、これ以上光らないだろうというくらいキラキラと輝いた。
シンは、ふっと微笑んだ。
*******
アーム王国に戻り、前回同様、皆で王宮の礼拝堂に行くものと思っていたら、エステルが、
「アンナ、皆んなを連れて、先に食事を始めていてちょうだい」
と言った。皆、一瞬動きが止まったが、すぐにアンナが、
「では、皆さんこちらへ」
と北宮へと誘導した。
「パトリック、行きましょう」
と言うと、エステルは礼拝堂に向かった。
*******
引き出しから王冠を取り出すと、二つ目の石をどこに嵌めるべきかは、窪みの形を見てすぐに分かった。中央、つまり、正面に来る石だった。
エステルが、石を嵌めようとした時、シンは、一つ目の石の時のように、エステルが突然意識を失うのではないかと心配になり、すぐ側に寄った。
カチッと音を立てて石を嵌めた瞬間、前回と同じように、
ォオーンォーンォン……ォン
と音が鳴り響き始めた、波型になっている王冠の淵を一周するように緑の光が走った。エステルは、目を瞑ったまま立ち続けている。
シンはひとまずほっとすると、気になっていたことを尋ねた。
「今回、ここへ二人で来たのは、この間、エステルがここで倒れたことと関係あるのか?」
エステルは、一呼吸分の間を開けると、
「確信はなかったのだけれど、その可能性は高まったわね」
「……アンか?」
シンがその名前を出すと、エステルは、ゆっくりとシンの方に向き直り、
「あなたには知っておいてもらった方がいいかもしれないわね」
と言うと礼拝堂の出口へ向かって歩き始めた。
「ついてきて」
と言うと、シンをある場所へと連れて行った。
「ここからなら見えると思うわ」
エステルは、物陰にシンを連れて行くと、そう言って場所を代わった。シンはさっきまでエステルが立っていたところに移動し、その奥にあるものを見ると、
「な……!」
と息を飲み込み、口をつぐんだ。
お読みくださり、ありがとうございます!
次回、シンがそこで目にしたものとは?!
毎日一話投稿していこうと思っています。
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