33.アンの悩み
アンナが用意してくれた食事を食べた後、
「今日は疲れたでしょうから、今後のことは明日話しましょう。皆ゆっくり休んでちょうだい」
というエステルの言葉でお開きとなった。食事のときには既に猫とうさぎになっていたリアムとルビーは、そのままエステルの部屋へついて行った。
シンとアンは、自分達の部屋へ戻ると、アンが、
「お先~」
と言いながら、風呂に入って行った。シンと入れ替わりで風呂から出てきたアンは、
(そういえば、こっち来てから美容院行けてないから、そろそろやばいかな?)
と、鏡を覗き込んだ。
実は、アンの髪はもともとは黒いのだ。それを、なぜか赤ん坊の頃からずっと母であるマヤが自分と同じブラウンに染めていた。
思春期に入ると、さすがに母親にやってもらうのは恥ずかしくなり、自分で定期的に美容院に行って染めるという約束でマヤに染めてもらうことはなくなった。何故染めなくてはならないのか聞いたこともあるが、
「あなたの肌や瞳の色に黒髪は似合わないから。黒だけは絶対にダメ!」
と言って譲らなかった。母親とそんなことで喧嘩をこじらせて、お互いに嫌な思いをすることもないだろうと、アンもそれ以上対抗するのはやめた。実際、マヤは、黒以外なら何色に染めても文句を言わなかった。父の龍司はあきれていたが、仕事に支障がなければ構わないと言ったので、これまでいろんな色に染めてきた。一巡して、もとのブラウンに落ち着いたところだったのだが、久しぶりに鏡でよ~く見ると、根元が黒ではなく、白く光っていた。
「え? え? まじで?」
「どうした?」
風呂から出てきたシンが鏡を見ながら狼狽えているアンに尋ねた。
「いや、いつの間にか白髪が……うわ……軽くショックだわぁ」
「心理的なものじゃないか? 結構ショックなことあったろ?」
シンが意味ありげな笑みを浮かべている。突然人間化したルビーのことを指していたのだが、アンは、
「まぁな。裏の表の世界に来たと思ったら、エジプト行って、海底神殿で水の精霊に会って……」
と話を変えようとした。シンはすかさず、
「まさかそこで、ルビーが人間になるなんてな」
と話を戻し、さらに続けた。
「しかも、お前好みの」
「な……!」
アンが反論しかけたのを遮るように、
「どストライクだろ? ルビー」
と畳みかけてきた。アンの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「いつもお前言ってたじゃないか。小柄で色白で目がくりっとしてて、ショートかボブヘアの活発な感じの子が好みだって。で、明るく、物おじせず、自分の意見をちゃんとぶつけてくる子だろ? 俺が、それルビーじゃんって言ったら、『まじでルビーが人間だったら良かったのにな~』って、言ってたよな?」
シンが念を押すように問いかけてきた。忍びというのは、こんなときは本当に厄介に感じるものだ。人が言ったことを一語一句覚えている。その上、こちらも忍びだ。自分で言ったことも全て記憶している。反論のために口を開きかけたが、言い逃れができないことはよく分かっていた。何も言えずにわなわなと震えていたアンが、ついに観念したように、
「あーっ! もう! 言ったよ、言ってました! うさぎのままでも十分からかい甲斐あるけど、喋れたらもっと面白いんだろうなって思ってたし、もし人間だったら可愛いんだろうなって想像したこともあるよ! けど、本当に人間になるなんて思わないだろ? しかも、くっそ可愛いし……悪いかよ!」
アンは、やけくそになって頭をかきながら想いをぶちまけた。
「悪くないさ。でも、あれじゃぁ、ルビーが可哀想だぞ」
「え? 何で?」
シンは、アンがそんなことを聞いてくるなど意外過ぎて驚いた。女心は手に取るように分かると言っていたアンが、いや、実際これまでそう振舞えていたのをシンも見てきていた。
(ルビーのことになったら、こんなにも見えなくなるとは……)
「あんな態度取られたら、嫌われたって思ったとしても不思議じゃないだろ」
「そんなんじゃ!……だって、ついさっきまで、うさぎだったんだぞ! 人間になったからって、急にそんな……どうすりゃいいんだか……分かんねぇよ……」
(なんだ? アンの奴。まるで初めて女を好きになったみたいなこの反応……)
シンは目を丸くしながら、
「お前、もしかして……初恋?」
「は? んな訳ないだ……」
シンの問いかけに対して即答しようとしたアンだったが、
(あ……れ? 俺って、今まで本気で好きになった子なんていたっけ?)
と考え始めた。
当分かかりそうだと思ったシンは、アンの邪魔をしないよう、そっと自分のベッドに潜り込んだ。
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次回、アンナの腕前が光ります!
毎日一話投稿していこうと思っています。
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