32.王冠と石の共鳴
一行はその足で、王宮へ向かった。エステルが石戸と階段下の扉を開けると、皆、地下の礼拝堂へ入った。扉を閉めたことを確認した後、エステルは中央のタペストリーの下から王冠を取り出した。
王冠には、5つくぼんだ箇所があり、そこに石をはめられるようになっている。どれ一つ同じ形をしているものはない。
エステルは、石の形とくぼみの形をじっと観察した後、先ほどシンと自分の手のひらの間に現れた石を、王冠を正面から見たときに一番右端にあるくぼみに合わせた。カチッと音がして、王冠のくぼみにピタリと収まった瞬間、王冠がぽうっと優しく光り、シンギングボールをバチで一周回したような、
ォオーンォーンォン……ォン
という音が鳴り響いた。とても心地よいその音に、皆うっとりと聞き入っていると、突然、エステルがふっと意識を失い倒れ込んできた。隣にいたシンが咄嗟に腕に抱きかかえて止めた。
「エステル! エステル!」
何度呼んでも起き上がらない。アンナも顔面蒼白になりながら、
「お嬢さま? お嬢様!」
と叫び続けている。ルビーが、治癒魔法をかけようとしたとき、エステルの瞼がかすかに動いた。皆が様子をじっと見守っていると、エステルが徐々に目を開いた。
「エステル、大丈夫か?」
と言いながら、シンがエステルの体を抱き起すと、エステルはようやく我に返った。
「お嬢様~!」
アンナがほっとして泣き崩れている。後ろで見守っていたアンとリアムからも、ほっと一息ついているのが聞こえ、ルビーも魔法の構えを解いた。
「アンナ……もう大丈夫よ。心配させて悪かったわ」
「ほんとですよ~。も~っ!」
と、涙はすぐには止まりそうになかった。エステルは、アンナの肩に手を回し、背中をポンポンと叩いた。
静かになった礼拝堂に突如、
ぐぅ~っきゅるるるるるっ
とお腹の音が鳴り響いた。ルビーが、
「へへ……お腹空いちゃって……」
とお腹を抱えながら、真っ赤な顔で照れ笑いしながら言った。それを見たアンが真っ先に、
「ぷっ! お前は安定の食いしん坊だな」
と噴き出した。
「あ~、なんか今ので今日の疲れが取れた気がする。」
とアンが伸びをしながら言うと、アンナも、
「そうですね。私も疲れが吹き飛んだ気がいたします。それでは私、一足先に戻って、夕食の準備をして参ります!」
と言い、くるっと向きを変え、意気込んで扉に向かって歩き始めた。
エステルはアンナが勢い余って扉にぶつからないよう、彼女の後ろからサッと呪文を唱え、地上まで出られるよう扉を開けた。
アンナはしっかり者だが、興奮すると周りが見えなくなるときがあり、よくあちこちにぶつかりそうになるのだが、そんなときは決まっていつも、エステルやリアムが黙ってフォローしているということをアンナは知らない。リアムは、
(あの調子じゃ、扉が魔法で閉じられていたこと、すっかり忘れてたんだろうな。またエステル様に助けてもらって……やれやれ)
と内心苦笑していた。エステルが、
「私達も戻りましょう」
と言うと、シンは、
「さっきの……本当に大丈夫なのか?」
と尋ねた。
「えぇ。きっと緊張の糸が切れたのでしょう」
(エステルでも緊張するのか……そりゃそうか。初めて水の精霊に会って、しかも、自分が世界を正すために使わされた令嬢だと突然言われてもな……俺も、勇者って……)
そんなことを考えながら、ふと顔を上げ、目の前のタペストリーが目に入ると、シンはそのまま立ち尽くした。
「何か気になることでも?」
とエステルが声をかけると、
「あ、いや。この間から何か引っかかるんだが、思い出せないんだよな」
「では、また見にくればいいわ。まずは食事にしましょう。待ちきれない人たちもいるようだから」
と言うと、それぞれ椅子に腰かけていたルビーとアンが、一緒に大きく、うんうんと頷いた。
「気が合うのね」
とエステルが言うと、二人は
「え?」
と同時に言いながら互いの顔を見たが、すぐにパッとそれぞれ顔を反対に向けた。二人が顔を真っ赤にしているのを見て、シンが、
「腹ペコ組、行くぞ!」
と声をかけると、またも同時に、
「は~い!」
と答えながら立ち上がった。シンは、ぷっと吹きながら、
「お前ら良いコンビだよ」
と言って、礼拝堂を後にした。エステルに続いてリアムも出ようとすると、アンとルビーの二人だけが取り残されそうになった。アンは、
「め、飯、飯~っ!」
と、ややテンション高めに叫びながら、慌てて部屋を出た。最後になったルビーは、
(そんな、あからさまに避けなくたって……)
と気落ちしたが、エステルが、
「扉閉めるわよ」
と外から優しく声をかけてくれたので、
「は~い! マカロン、マカロン♪」
と気持ちを切り替え、部屋を出た。
お読みくださり、ありがとうございます!
次回、アンにもいろいろ悩みが出てきたようで……
毎日一話投稿していこうと思っています。
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