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17.歪な王冠

 全くの壁にしか見えなかったところから突然現れた引き出しの中には王冠が入っていた。エステルは、その王冠をそっと取り出して皆に見せた。


 純金で出来ていると思われるその王冠は、今も輝きを失っていない。但し、水滴を落として跳ね上がったときのような形をしたそれは、通常思い描く左右対称に造られた王冠とは異なり、アンバランスな印象を受ける。


「これは……さっきの神殿の女神がしてたのと同じ王冠か?」

「恐らく」


シンの質問に答えた後、エステルは続けた。



「この王冠には、元々五つの石が埋め込まれていたはずなの」



跳ね上がった先端部分に石が埋め込まれていたようで、窪みの大きさから、それぞれの石の大きさを推測できるが、全て不揃いで規則性もない。金属面には、細かな模様が打ち込まれ、その合間合間に小さな宝石が散りばめられており、それだけでも売ればいい値になりそうだ。恐らく、五つの石もかなり価値のある宝石が埋め込まれていたに違いない。この豪華さを見るに、この王冠が作られた時代が、いかに栄えていたかが窺える。



「この三枚のタペストリーにも王冠が描かれていて、この特徴的な形からして、この王冠を指していると思うの」



あった! ここだよ! ここ!


と、ルビーが三枚のタペストリーの前をぴょんぴょんとジャンプしながら移動し、三つの王冠が描かれている箇所を指し示した後、エステルのもとに戻った。エステルが、


「いい子ね」


と言って頭を撫でてやると、ルビーは得意そうな顔をしてリアムを見た。リアムは、やれやれといった表情をしている。勝ち誇った顔をしているルビーをアンがひょいっと摘み上げた。



「ん? 左のタペストリーに描かれている王冠には石が一つ付いてるな」


タペストリーをずっと眺めていたシンが言った。



 左のタペストリーには、大きな太陽の元に神殿が描かれ、神殿の左側は砂漠、右側は海の中なのか王冠をかぶった人魚が泳いでいる姿が描かれている。


「本当だ。あ、この人魚、石を一つ手にしてる……痛っ!」


人魚の絵をじっと見ていたアンが、ルビーに手を引っ掻かれながら答えた。



 右のタペストリーでは、中央に描かれた火山が噴火している。その右側の麓にある鳥居には海から津波が押し寄せ、左側の麓には草木をつむ女性がいる。やはり王冠をかぶっているが、石が四つ付いている。そして、


「こっちの美女も手に1つ石を持ってるんだな」


アンがマジマジと絵を見ながらそう言うと、美女にばかり反応するアンをルビーがまた一掻きした。


「痛っ! 何だよ、下ろしてほしいのか?」


何故引っ掻かれたのか、まだ分かっていなさそうなアンに机の上にポンっと乗せられたルビーは、ちょっとふてくされた様子で、サラダをつまみ食いした。



「これは……それぞれの大天災後に、王冠に石を一つずつ嵌めていったってことか?」

「恐らく。復興のために、石の力が使われたんじゃないかと思うの。ただ……」

「今ここに四つ嵌められているはずの石が、この王冠にはない」

「えぇ。四つの石はどこに行ったのか、そしてもう一つ気になるのは、このタペストリーの絵がループしているように見えること」



よく見ると、葉を摘んでいる女性の頭上には星が輝いている。これは、中央のタペストリーの絵柄と酷似している。


「これは私の仮説だけど、このタペストリーに描かれている規模の大きな天災は人類史上四度だったけれど、私たちの生活を揺るがすのに十分な天災ならば、これまでに何度も起こっている。それらの復興のためにも、この王冠にあった石の力が使われ続け、消滅したか、あるいは戻っていったか……」

「石が消滅するなんてことあるのか?」

「魔石ならば、力を使い尽くして存在ごと消えてなくなるものと、ただの石になるものがほとんどよ。でも、五大精霊が創った魔石だけは、その力を失ったとき、創り出した精霊のもとに戻ると古い書物に書かれていたのを見たことがあるの」

「五大精霊?」

「簡単にいえば、精霊たちの親ね。それだけの力を持っていた石ならば、五大精霊が作り出した魔石だった可能性が極めて高いわ」



ここで、アンが割って入ってきた。


「だとすると、今、ここに魔石が一つもないってことは、今度、天災が来ちゃったら、復興できないってこと?」

「完全に人の手だけによって復興しなければならなくなるから、かなり厳しいものになるでしょうね」

「うわぁ、やばいじゃん」

「だから、あなた達に依頼したいの」

「なるほど、石探しか。どこか心当たりはあるのか?」

「5つの石のことなら、前に本で読んだことがあるわ。そこに、在りかのヒントなることも書かれていた」

「へ〜、どこなの?」


アンが再び会話に割り込んできた。


「……禁書に書かれていたの」

「うんうん、それで?」


アンは宝探しでも始めるようなワクワクした目をしながら、身を乗り出してきた。


「食事を終えたら、王立図書館へ行きましょう。案内するわ」


……忘れたんだな。


そう思ったのはシンだけではなかったが、ツッコんではいけない雰囲気だったので、皆素直に王立図書館へついて行くことにした。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、過去の大天災で何が起きたのか……


毎日一話投稿していこうと思っています。

ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

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