表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/106

13.それぞれの夜

 婚約披露をするはずだったパーティー会場から退場を余儀なくされた後、カークハムの屋敷に帰るなり、アルバンは息子のアーサーを怒鳴りつけながら何度も殴った。


「この役立たずが! 侍女と夜な夜な密会だと? あのような話をでっちあげられ、婚約破棄されるとは! しかもなんだ? あの無様な決闘は! この恥晒しが!」



アーサーは、頭が朦朧としていた。決闘のことも、どうやって屋敷まで戻って来たのかも、よく覚えていなかった。アルバンは、怒りに任せ、今度はアーサーの腹を蹴り上げた。


「ぐはっ!」


アーサーは両膝をつき、腹を抱えてうずくまった。


「あなたっ! おやめください!」


アーサーの母が止めに入ろうとしたが、アルバンが恐ろしい形相で睨むと、怯んで後ずさった。



「お前のような者でも王位に就かせてやろうとお膳立てしてやったというのに、何だこの様は?」



ようやく我に返ったアーサーは、


(お膳立て? そんなもの、私は望んでいなかった)


そう思っても、それを口にするなど許されないことだとよく分かっていた。



「……も、申し訳ありません」


なんとか口を開いて答えると、アルバンはアーサーの前にしゃがみこみ、指先であごを持ち上げると、アーサーの顔をぐいっと自分の方に向けた。


「伝統ある我がカークハム家門の後継者からアーロンの名をはく奪するだと? 王位継承権がなんだ。王位を継ぐ者がいなければ、何の意味もなさないだろう。こうなったら、王太子も王女も、ついでに国王にも消えてもらおうじゃないか。そうすれば、誰がこの国を治めるべきか、誰につくべきか、皆も分かるだろう」

「ち、父上! そんなことをしたら……!」

「なんだ? 私に口答えする気か?」

「……そ、それは……」

「ふん、お前に、もう一度だけチャンスをやろう。次はしくじるなよ」




*******




「アン、風呂空いたぞ」


シンが頭をタオルで拭きながら、バスローブ姿でバスルームから出てきた。



「おぅ」


と返事をしながらアンがルビーの方をチラッと見ると、ルビーは目をパッチリ開けてシンをポーッと見ていた。


(あいつは本当にシンが好きだな。俺が主人だってのに)


何だかちょっとイラッときたアンは、イタズラ気味に言った。


「ラビ、お前どこ通ってきたんだ? 背中が真っ黒だぞ」



アンにそう言われ、ハッと我に帰ったルビーが慌てて自分の背中を見ようとクルクル回っていると、


「プハハッ! 一生ぐるぐる回る気か? 俺が洗ってやる!」


と言って首根っこを掴み、風呂場に連行していった。



内側からガリガリガリッと扉を引っ掻く音がしていたが、その音が止むと間もなく、バスルームからバシャバシャッと、けたたましい水音が聞こえてきた。


「こらっ! 暴れるな! いてっ! まだここ汚れてんだよ! 何だよ、人がせっかくキレイにしてやってんのに!」


ジャバジャバッ、ザッパーンッ!



派手に水が飛び散る音がし、どうやら風呂から上がったらしいことが分かった。今度はブオーンッとドライヤーの音がなり始めた。


「おぉ! これも魔石パワーか! すごいな。ほらラビ!」


ブルブルブルブルブルブルブルブルッ!


「うわっ! 冷たっ! そんなビショビショのまま体振るなよ! 大人しくしろって! ちゃんと乾かさないと風邪引くだろ! 痛いって!」




やっと静かになったと思ったら、もっさりとタオルに包まれたルビーを小脇に抱え、傷だらけになったアンがバスローブを適当に羽織った状態で出てきた。かなりの死闘だったことが窺える。



「いつもこんな調子なのか?」


シンが気の毒そうな顔でアンに尋ねると、


「いや。実家では、いつも母さんが入れてやってるし、俺ん家に来た時は入らないから。シンと一緒の時はどうなんだ?」

「え? てっきりお前ん家で入ってると思ってたから、俺も入れたことないけど……ルビー、今までどうしてたんだ?」



ルビーは、アンに巻き巻きにされたタオルからようやく脱出し、床で一息ついていたが、お風呂で温まったせいもあってか、真っ赤な顔をしながら、


余計なお世話よ!


と二人をギロっと睨みつけてきた。シンは、その勢いに押され、白旗を上げた。


「明日は、アンに任せるか」

「え? 俺?」

「いや、アンナに」

「あぁ……そうだな」


アンもルビーの睨みに臆して同意すると、


そうしてくれ!


という表情でルビーは目をギラつかせた。



「ちぇっ。何だよ、可愛くないやつ」


アンは少しふてくされたように、ルビーの額を人差し指で軽くツンと押した後、ベッドにダイブした。



「は〜っ。こんなフカフカベッドで寝られるなんて、史上最高の任務じゃね?」

「どうだろうな。明日、依頼内容を聞いてみないことにはな」

「まぁな。おい、ラビも来いよ。フカフカだぞ」


アンが、自分の枕元をポンポンと叩いて、ここ、ここと誘ったが、ルビーは、ツーンと横を向いて寄ってくる気配はない。


「まだ怒ってんのか? あっそ。俺はもう寝るからな。おやすみ〜」

「あぁ。寝られる時にしっかり寝とかないとな」



二人がすぐに寝息を立て始めると、ルビーはそっとアンの枕元へ行って丸くなった。


ルビーの一番のお気に入りの場所だ。

お読みくださり、ありがとうございます!


次回、ルビーがちょっぴり活躍?!


毎日一話投稿していこうと思っています。

ご感想、ブックマーク、評価、大変励みになります!

どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ