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召喚された世界はどこまでも理不尽だった  作者: 伍煉龍
其之壱:冒険者になる
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II.助けた獣人娘はしっかり者の熊娘だった

 森の中に放り出された俺は、しばらく動かずにいた。袋の底が湿り切っている。運んでいた男も最後は自棄(やけ)になって投げ捨てていた。投げられた衝撃はすごく痛かった。頭割れたかと思ったんだけど?


「お腹すいた。何か食べ物ない?」


 目が充血していて腫れているのかな? ものすごく痛い。

 俺は袋の中を漁る。中から出てきたのは、白いローブ、木の杖、皮の小袋、人の手が左右3つずつだけだった。え?人の手⁈


「この手、もしかして…」


 俺は唖然とした表情で固まった。その手は俺は何度も見たことがある手だった。家族の手だ。恐らく手首で千切れていた部分を隠して一緒に入れられたのだろう。すごく吐き気がする。

 俺は無心に手を抱きかかえ、うずくまり号泣した。俺は()れ果てた涙を流し、血涙を流している。やっぱりずっと泣いていたらしい。


 俺は泣き止むと小袋に手を伸ばした。


「何か入ってないかな」


 そう呟きながら俺は小袋に手を突っ込んだ。小袋は俺の(てのひら)くらいのはずなのに、なぜか肩まで入っている。


「なんでこういうのだけファンタジー要素になるんだよ。てか、この装備、俺は魔法使いにされたのか? 絵に描いたようなつだな。アニメとかのよりは絵画とかの方がイメージとしては近いな」


 俺は完全に心を失った声で呟いた。呟きながら装備を身に着ける。いつの間にか小袋は投げ出していた。当然のように空っぽだったローブを纏い、杖を持ち、小袋を腰につるした。家族の手は小袋にしまって持ち歩くことにしたようだ。


「あの男のせいだ。あの男が俺を、俺たちを召喚したせいで、みんな死んだんだ。あいつだけは、絶対に俺の手で殺してやる」


 そう言いながら俺は木の杖を強く握りしめた。


「それはそうと、腹減りすぎて(なん)もする気が起きないんだよな~。どっかに飯でも落ちてねぇかな」


 そう言いながら俺は周囲を見渡す。見渡す限り木しかない。

 俺は足元の雑草に手を伸ばすも、寸前で手が止まる。たとえ拾えたとしても、口に運ぶ途中で落とす。


 少し歩くと茸が生えていた。見た目は毒々しいが、どんな茸なのかは見てすぐわかった。


「『最果ての茸|(食用) 効果なし』って、一応食えるのか? あの〇〇堂のスーパーマ〇〇に出てくるような紫色の茸だぞ。これで食用って言われて出されても普通に食べたくないんだけど? なんでこんな茸が食用に分類されてんの? この世界者は自殺志願者ばかりなの? それとも事実食用なの?」


 そう言いながらも俺は茸を手に持っている。○○堂のスーパー○○〇の毒キノコだったら触るだけで死んでいるだろう。なら食えるのかな? いや、やめておこう。死ぬのは怖い。


「別に赤でも食べないよ? だって、食べると大きくなれる赤いキノコのモデルは幻覚を見る毒キノコでしょ? だったら赤でも紫でも変わらないよ。死ぬか自分が大きくなったって錯覚するかの二択じゃん。もしかして、『食用』って『観賞用』じゃないって言いたいだけなのかな? それだったら保留にするしかないよ? どこかに『毒物』とかって書かれてるものがない限り食べられないよ? よし、ひとまず保留だ。絶対に毒じゃない証明ができないなら食べるのはやめておこう」


 俺は拾った『最果ての茸』は小袋にしまった。しまったというよりかは投げ入れていた。


 ずっと飲まず食わずでいた俺は遂に限界を迎えた。さっきしまった『最果ての茸』を取り出した。小袋の中身は未来の耳をかじり消された猫型ロボットのポケットの要領で取り出せるようだ。思ったら飛んでくるんだよ? 手に向かって突進してくるんだよ? 怖いよ。


「このまま何も食わなくても死ぬならいっそのことこいつに賭けてみるか。毒茸でも死ぬことに変わりはないんだからな!」


 俺は覚悟を決めて『最果ての茸』を一口で食べた。()(しゃく)も最低限にして飲み込んだ。


「美味い。ていうか、なんで俺はこんなうまいものを食べようとしなかったの? 戻ればもっといっぱいあるよね? 保存食にするから全部積んじゃおう。そもそも人間がそんな簡単に死ぬわけないんだから食えばよかった。俺は何にビビってたんだよ。採りに戻るのメンドイんだけど。てか、さっき『最果ての茸』って何の違和感もなく見てたけど、これって鑑定系の能力があるんだよね? じゃあ自分を見てみればいいじゃん」


 俺は一人でいると考え事も何もかもを口に出す癖がある。逆に人前だと陰キャ過ぎて何か言われないと何も言えな。自分でも言ってることに気付かないことは多々ある。

 俺は『最果ての茸』を採るために進んできた道を戻る。しかし、茸が全然見つからない。適当に歩いていたせいで元居た場所に戻れなくなったのだ。元から方向音痴の俺は、考えなしに歩くと絶対に元の場所には戻れなくなるのだ。特に目印の無い森の中では。


 俺は道を戻るという命題で森を彷徨(さまよ)っていると川に出た。


「川だ。この川の水って飲めるのか? いや、飲めなくても飲めると信じて飲んでみよう! さっきの茸だって食べてみれば全然大丈夫だったし。流石に水で死ぬことはないだろ。これだけ透き通ってる水なんだし」


 川の水を飲むのは衛生上あまり良くないので推奨されたことではない。それでもしばらく何も飲んでいなかった俺はそんな事気にしていられなかった。何せ人間は3日水を飲まないだけで死ぬと言われているのだから。本能的に止められなかったのだ。止められたとしても止めないよ? 死ぬのは怖いし?


「プハー。生き返るー」


 俺は顔を川に潜らせて川の水をゴクゴクと飲んでいる。


 休憩も一段落して、俺はまた森の中を彷徨(さまよ)っていた。その最中、獣人の少女が魔人に襲われていた。


「嬢ちゃん、こんな所で一人で何してるんだい?」「ここが俺たちの縄張りだと知っててうろついてるんじゃないだろうな?」

「えっと、その、僕は……」


 魔人2人に絡まれている獣人はかなり怯えている。

 俺は何も言わずに魔人を一人殴り飛ばした。というか、気が付いたら殴っていた。もう一人の魔人も殴り飛ばそうとすると、避けられた。危うく獣人の少女を殴りそうになっていた。


「貴様、一体何者だ」

「自己紹介とか嫌い。てか、人に名前聞く前に自分から名乗れよ」


 俺は(しか)め面をしながら呟いた。獣人の少女な俺を魔人の壁にするように立った。


「貴様、覚えてろよー」


 そう言って俺に殴られた魔人は(さっ)(そう)と逃げ出した。


「お、お前、そんな事したらレイバル様に怒られるぞ。あっ、お前……」


 追いかけるようにもう一人の魔人も走り去った。俺は一瞬の出来事に何もできなかった。


「何かよく分かんないけどまぁいっか。あれ? 俺どっちから来たっけ? どうでもいいや。いつか何処かに流れ着くでしょ」


 周りを見渡しながら俺はそんなことを考えていた。そのまま適当に歩き出した。


「あの!」

「ん? どうかした?」


 獣人の少女が俺に声をかけてきた。


「えっと、そっちは、今お兄さんが飛び出てきた方ですよ。それと、助けてくれて、ありがとうございます」

「あー、俺こっちから来たんだ。てか、別に俺は感謝されるようなことはしてないけど。じゃあ、俺はもう行くね」


 そういって俺はその場を立ち去ろうとした。


「待って! あの、僕も、僕も一緒に行ったら駄目ですか? いや、迷惑なら別にいいんですけど、その、あの……」

「いいよ。ていうか、ダメって言ってもどうせ着いてくるでしょ?」

「え、そんなことは……」

「てか、俺一人だと森から出られないし、道分かんないから」

「そうですか。分かりました」


 獣人の少女は安心したように俺に抱き着いた。


「えっ、ちょ、ま……何?」

「僕はイリ。お兄さんの名前は?」

「え? ああ、俺は逢兎」

「アイトって言うんだ。じゃあアイト兄ちゃんだ! よろしくね」


 イリは満面の笑みで、(つぶら)らな瞳で俺を見つめている。俺はイリの顔を見ないようにしている。絶対に見ないようにする。見たら動けなくなる気がする。熊耳なのに蛇なの? メデゥーサじゃないよね?


「お、おう。じゃあ行くぞ」

「アイト兄ちゃん!そっちじゃないって! さっきも言ったじゃん!」

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