XVII.知らないうちにバラバラになってたなんて聞いてないぞ
「諦めんな。端から確実に消していけ。後ろにまだ戦えるやつはいる。数はいないから少しでも幅を狭めろ」
知らない男の人が立ち呆けていた僕にそう言った。
僕はハッとしたように声がした方を振り向くもそこには誰もいない。片端から戦っている音がする。出てきているのは何とか見えるけどそれより進んでいるのが見えない。確実に倒し切っている。僕は反対側の端に向かった。
「あっちに行っても邪魔なだけ。数を減らすなら僕はこっちの端を少しだけでも削るんだ」
僕は範囲としてはそれほど広くはないがそれでも確実に倒し切っている。倒し切れる範囲でしか戦わないようにしている。
「やっと追いつきましたよ、イリちゃん」
「ルナ姉ちゃん、なるべく広く倒してほしいってさっき言われたんだけど、僕一人の限界がこれで、ルナ姉ちゃんどこまで広げていい?」
「あと3倍は大丈夫です。『超身強化+』」
ルナねえちゃんは僕を強化してくれた。
僕は言われた通りに攻撃範囲を3倍にした。ルナ姉ちゃんの強化のおかげかほとんど取りこぼしがない。
「イリちゃんもう少し広げても大丈夫ですよ」
「分かった!」
「5人術師、5人剣士で、俺1人盾職か。言っとくぞ、一人あれをせき止めるの無理だからな」
「そんな非道な事させるわけねいだろ」
「大剣3人も盾みたいなもんだろ」
「術師は全員にバフかけるだけで攻撃のことは考えなくてかまわない」
「じゃあ、前衛4人、中衛2人、後衛5人?」
「そんな感じだな」
勢いで決まった陣営でモンスターと戦うことになった。当然互いの得意不得意を理解しきれていない状況なのでカバーのタイミングや無駄な動きが多くなってしまっている。偏りが多いとこうなるから嫌なんだよな。
「これ、いつになったらキリが付くんだ? 森の中に入るべきか? いや、入ればこいつらを捌ききれない。ただでさえこいつらも強くって来ているんだ」
俺の攻撃には稲妻の混じる斬撃で縦横無尽に移動して、確実な急所だけを一撃で斬り裂いて倒している。余計な動きはしない。
「数が減った? これなら森に入れ……入れさせてくれよ」
モンスターが急にいなくなったので俺は森に入ろうとしたが、目の前には巨大な黄色の竜が居て入れない。
「これは、一筋縄ではいかないな」
ルナはイリちゃんに常に強化魔法をかけ続けて、イリちゃんが倒し切れなかったモンスターに止めを刺していきます。
「ルナ姉ちゃんもういないよ。アイト兄ちゃん探しに行こう」
「いえ、ダメです。ルナたちにはこれは倒せない」
そこには巨大な青い竜がいたのです。
「僕たち、これに殺されちゃうの…?」
大量の魔物たち相手になかなか統制が取れない俺たちは食い止めることしかできないでいる。
「『流石群』」
後方支援をしていた俺は攻撃魔法を出した。
「おい、攻撃しないでいいって言ったろ」
前衛から作戦と違うことを指摘される。そんなことはどうでもいい。
「みんな周りが見えてないんだ。こいつらは早く倒さないと確実に全員死ぬ」
「なんで?」
横にいる術師も気付いていない様子だ。後衛なら戦況全体より広く視野を広げろよ。
「少し視界を上げてごらん。竜だ」
全員が気付いた途端、少し離れた場所から赤い竜が炎を吐いてきた。俺たちはそのまま炎に飲み込まれた。
僕とロノスさんは冒険者ギルドの屋上から草原を見ていた。
「ゾーノ君!」
「分かってる。僕が行かないといけない様だね。全く久しぶりの仕事だよ」
「頼んだよ」
僕はロノスさんがそう言う前にはそこには居なかった。
すべてはその一瞬の間に終わらせてていた。僕は一瞬でモンスターを蹴散らし、竜を真っ二つに斬っていたのだ。他の場所は問題なさそうなのでほっておこう。
俺は突然現れた竜にも迷うことなく斬りかかった。しかし、斬撃が通らない。足でさえ断ち切れなかった。そのまま蹴り返されたように飛ばされた。
「こいつ雷効かないのか。仕方ない。なら、焼き切る!」
今度は燃えるような斬撃で足を一つ斬りおとした。雷属性の向こうか何か持っているんだろうな。
「渾身の一撃で切断面以外ダメージなしかよ。炎だと雷の機動力が出ねんだよ」
俺は自棄になりながらももう一本足を切り落とした。竜はまだ何とかバランスを保っていられるようだ。いや、立っていられるだけのバランスしかない様だ。
「立つの限界か? ならば、死ね!」
俺は竜の首を何とか斬りおとした。
俺は竜を二体とも確実に殺して、イリとルナの居る方に突っ走っていた。
「イリちゃん逃げるよ。攻撃はしなくていい。攻撃を避けつつ街に近づけ過ぎないようにして逃げよう」
「避けるので精一杯だよ!」
ようやく見つけると、二人で撹乱しているがそれでも避けるので精一杯のようだ。ルナもあまり余裕がないみたいだ。
「水玉晶」
イリとルナは水球に包んだ。竜の攻撃は一切当たらなくなった。いや、水球には当たるが衝撃もダメージもすべて吸収しているのだ。
「やっと見つけた。二人とも下がっといて」
俺は二人を軽く草原の方に移動させて水吸を弾けさせた。
「アイト兄ちゃん」
「アイト…さん。良かった、無事で」
イリとルナは泣きだした。
「ああ、もう泣いちゃう? もう感動の涙出しちゃう? まだ戦ってる途中だよね? 俺も泣きそうになるからやめて?」
俺はそう言いながら竜の背中に乗った。
「身体発火」
俺は竜を燃やした。燃やし尽くした。丸焦げになっるまで燃やし尽くした。
「アイト兄ちゃんよかったよ~」
イリは思いっきり俺に抱き着こうとした。
「いっだーーーーーい!!!」
俺の体に障った瞬間イリは大泣きしながら蹲った。
「え、俺何もしてないよね?どうしちゃったの?」
俺は焦ってルナを見つめる。ルナはイリに駆け寄る。
「大丈夫?」
ルナがイリの手に触ると、
「痛いっ」
ルナは俺の方を見る。俺はイリの方に視線を移す。特に悪いことしてないけどジト目を直視するのは毒だから。
「『鑑定』」
俺はイリの腕を鑑定してみた。
状態異常:複雑粉砕骨折・火傷
俺は目を疑った。目というよりスキルを疑った。
「どんな戦いしてたの? 滅茶苦茶に折れちゃってるみたいだけど。火傷は多分俺が燃えて熱々になった体に触ったからだろうけど…」
俺がそう言うと、ルナはハッとしたように口を開いた。
「イリちゃんはずっとすごい勢いで殴ってました。ルナが強化したまま」
「絶対そのせいじゃん! イリ無理しないって約束したよね? ルナもイリを守るって約束したよね?」
俺がそう言うと二人とも目を逸らして黙り込んでしまった。
「ま、死んでなかったらいいけどさ。取り敢えずイリ立てる? 無理でも立ってほしいけど」
イリは頑張って手を使わずに立ち上がった。
ルナも立ち上がろうとすると今度はルナが倒れた。
状態異常:魔力切れ
「ルナ、強化魔法ずっと使い続けてたの?」
「はい。そうじゃないとイリちゃんもルナも死んじゃいそうだったので」
俺は大きくため息をついて、全身を水で包んで体を物理的に冷やした。「ジュー」と鳴るほど体に熱がたまっていた。そりゃイリも火傷するよ。
「ルナは俺が背負っていくから、街に戻ろ」
三人で街に戻ろうとしたとき、知らない男がやって来た。
「見ない顔が一人増えてるね。まあいいや。一つ聞きたいんだけどさ、さっきの揺れ何?」
俺は揺れに気付いていなかったので知らないといった表情だ。ルナはビクッと少し反応を見せた。鼓動が速くなってるぞー。何を知ってるんだー? イリは目がすごい勢いで泳いでいる。二人で何したんだー?
「えっとね、あれはね、僕が、その、地面に、ドカーンってしたらね、地面がグワワってなちゃったの」
イリは動かせない手を必死に動かそうとしながら表現しようとしている。珍しく入りの言いたいことが分からない。
「意味が分からない。君があの揺れを起こしたって言うのか?」
男は少し困惑したように問う。
「う、うん……」
イリは少しおどおどしながら首を縦に振って返事をした。




