貴方の事が好きだった
これで終わり。やっと終わった。
私は貴方の亡骸をゆっくり床に横たえて深く息を吐いた。
女好きの貴方、いくら咎めても止めない。
それが私の悩みの種だった。
血気盛んで男らしい性格の貴方。
とても頼もしく魅力的であるがゆえに常に女性に囲まれていた。
呼ぶまでもなく全て向こうから寄ってくる。
こんな辺鄙な街によくもあれほどの人数集まったもんだ。逆に感心してしまうくらい。
もちろん、私にできることは全てやった。
近寄って来るものは全部潰した。
最初はそれこそ抵抗があったが、そんなこと言っていられなかった。そうでもしないと駄目だった。
次から次へと肉にたかる蠅のようにどこからともなく沸いて。
殺し屋や傭兵を雇ったり、あるときは自分の手で……
虫が寄ってきたら叩くでしょう?同じことよ。
貴方は何も言わなかった。でも、おそらく気づいていたはず。影で行われている惨事を。
にもかかわらず、懲りなかった。
浮気は男の甲斐性だ、とかなんとか言って。
情にほだされ結局許してしまう毎日。
一向に落ち着く気配はなく。
でも、このままこの手を血に染めて生きていく日々を続けていけるほど強くなかった。
だから、もう終わり。全部終わりにしてしまいましょう。
貴方の事が好きだった。
なんだかんだ言っても、それでも。
私は貴方を愛していた。
私の心の中で永遠に生きて……愛してるわ。
冷たくなってきた身体にそっと口づけ。
いつも貴方からだったから。私からこうするのは新鮮ね。
椅子に座ると、テーブルに置かれたもう一つのジョッキが目に入る。
自分の分として注いだもの。
一人で飲むそれはやけに寂しい味がした。
ふいに景色がぐわんと歪む。
あら……今日は酔いが早いわね。
目が回る、ぐるぐると。
床が、天井が、壁の絵画が、ぐにゃりと歪んで……
手にしたジョッキが鉛のように重い。
一度テーブルに置くと、もう持ち上がらなくなってしまった。
体に力が入らない。まるで他人の体かのように。
背筋を正すことすらままならず、ふにゃふにゃと前に突っ伏す。
まさか、これも毒入り?片方だけにするよう言ったはずなのに……
執事を呼ぼうにも舌がもつれて言葉にならない。
どこか遠くの方でバタバタという足音と共に、奥様!と呼びかける声。
何かがかけ寄ってきている、朧げな意識の中でそれだけは分かった。
視界は暗くなりほとんど見えない。闇の中。




