■僕は「とも」達が少ない
■僕は「とも」達が少ない
「ふむ。つまりここでは職に手を付けてこの中で就職するか。
もしくはこのバカ広い船もどきの中の斥候役のどちらか選べと言うことだな」
「はい。その通りです」
体格のいい大人とメイドの話は右から左へ抜けている。
彼女は信じがたい事にアンドロイドだそうだ。
とてもそうは思えない。
なんだろうこの高鳴る胸の鼓動は?いやそうじゃない!
僕はつい1時間前まで秋葉原にいた筈だ。
それが空に巨大なメカ龍もどきの幻覚を見たと同時に他のオフ会のメンバーと共に森の中にいた。
新型の3Dパネルを見てる最中にガス事故か何かで気絶…無理があるな。
異世界転生?神隠し?それが感想だが、女神様からチュートリアル説明は受けていないぞ!
お城で王様お願い展開でもないし。
やり直しをいや、元に世界に返して欲しい。
電気とネットとコンビニとニンテンドー。水洗トイレのない生活は御免だし。
「オタク生活が送れない世界など生き地獄だ」
現実逃避をしている間に話と展開は進む。
今だからこそわかる。
最初のエンカウントがスペランカーの一行だった事は幸運の一言なのであろう。
遭遇した鎧姿、迷彩服、ローブ姿、リザードマン。
なんでもありの一団の流暢な日本語。
既に日常茶飯事になっているのかガイド動画でざっと状況を説明された。
自分達、転移者達の間でパニックが起こらなかった。
大なり小なり全員がなんらかの鍛えられたオタクだったからだろう。
もしくはチキンの集まりか。
本当に運良く円筒系の建物に避難できた。
到着と同時に血液検査や魔法使いのコスプレさんから軽い面接を受けさせられた。
そして本格的な動画。
ここオケアノスで[リヴァー]についての説明を受けた。
事前に飲んだ飲料水は精神を安定させる水薬との事だが全然効いていない気がする。
異世界転生よりまだ酷い。
スキルチートも無いし知識マウントも無理だ。
「で、お前達はどうするんだ?」
この状況下で淡々と冷静にメイドと会話?交渉していた筋肉マンがこちらを向く
躊躇がない行動。明らかに修羅場慣れしている。
「俺はチームを作るつもりだが参加者はいるか?」
ドスが効いてる。
いつもの自分なら口八丁で逃げるところだ。
一部の面々は会話もそこそこにこの場を後にする。
残ったのは素早い判断が出来ない阿呆くらいだ。僕を含めて。
正直に告白しよう。
自分はただ寄らば大樹の陰で彼の選択を受け入れた。
結果論で言えば最高の当たりを引いた。
今後に起こる事を思えば数少ない生存成長成功フラグを立てたのであろう。
「俺の名は新城誠。…まあ元自衛隊員だ」
語尾が少し濁った。
新城さんはニンマリと笑い僕と共に残った2名を見る。合計4名。
「え~と。織田、織田信長です。同姓同名の別人です」
あとの二人もおずおずと自己紹介。
これが新城パーティの初期メンバーだ。
「とりあえず家を作らんとな」
「家?」おうむ返しに聞く
「そう家だ。帰るべきところだ。そこがあってこそ全ては始まる」
新城さんは自分に言い聞かせていたのだろう。
それが俺と新城さんの出会いだった。
水道管工のおっさんのレースよろしくの山あり谷ありのバレーコース。
そこを俺のバイクが駆け抜ける。
時間を見つけてはコツコツ作り上げた俺の箱庭ディオラマ。
オフロードサーキットコース。キャンプもできるよ。
そこを俺達はスモール電灯でミニ四駆擬きに乗りこみ負けられない戦いの真っ最中。
まあ俺はミニ四駆では無くバイクだが。
因みに只のオートバイではない。
人型への変形機能付きの自分自身がオートバイになれるスペシャル使用だ。
自分で言うのもなんだがバイクマンも真っ青である。
チラリと後ろのミラーを見る。
後ろから迫るのはアーマードハイエースだ。
「ふっふっふっふっふっ」
その巨体を操るのはうさぎ。俺を轢き殺そうと笑顔満点である。
コイツにハンドルを持たせてはいけないな。
後輪が少しアイツのボンネットにかすった。強引かまほり。
「ええい」懸命にバランスを取り転倒を防ぐ。
本当は差をつけたいがエンジンとタイヤは温存したい。
その後ろにピッタリ貼り付きスリップストリーム。
チャンスを待つのはアストンマーチンDB4のシリーズ5。
かの殺人許可証を持つ男の車である。
これってMI6もIMFも使うだけのスパイの名車なんだよなあ。
乗り込んでいるのはケラススだ。
クノイチという諜報には相応しい車だな。
「でもボンドガールは嫌いではないでしょう?」
うん。かなり嫌いじゃない。
3車は団子状態でコーナーを抜けていく。中々に差は作れない。
最後の直線前の連続コーナー。
頃合いと見たのかケラススが前に出る。
お約束のオイル攻撃か?
と、思いきや窓からバナナの皮を大量に放り投げたよ。
「私、卵摘めるどころかバナナ剥けるんですよ」
ロボットハンドのマジネタやめい。
だが想定範囲内。
「ハッ!」変形!人型モード。ジャンプでバナナを跳び越す。
「ちょ!」
そして後ろのうさぎは飛び越せない。哀れその場でくるくるスピンだ。
「ざまあ」これは心の中で呟く。
再びバイクモードに。そしてケラススの横に並ぶ。
後方をチラリと見れば今度は白い影がアーマードハイエースのどデカい図体を踏み台に大ジャンプ。
「追いついた~」
飛鳥の狐のメカアニマルだ。必死に背中にしがみついている。
まあオフロード不整地では車輪より4足歩行が効率がいいというデータもあるしね。
見事に最終局面で食いついたよ。ナビはAI任せの様だな。
「いいプログラムだ」
まあこれで彼女も最後の直線で追いついた。
さあ三つ巴だ。
後は互いがどれだけ脚を残しているか。
結局はここまでの積み重ね、どれだけ体力を温存したかで勝負は決まるのだよ。
「と言うわけで、そんな段取り無視でナイトロ噴射!」
暴力的なニトロ加速で前に出る俺。一瞬ウィリーしたわ。
「あっずるい」
「マスターは卑怯千万ですね」
飛鳥もケラススもブー垂れるがほとんど差は出ていない。
飛鳥はちゃっかりとリミッター解除。
ケラススもロケットブースターで応戦する。
デッドヒート!
だが短距離加速ならマシン重量とパワーによるパワーウェイトレシオ。
そして空気抵抗への対策がすべてだ。。
オートバイはかなり有利なのだ。
少しだけ前に出た俺。
一馬身差で勝つる!
と思いきや俺の横を黒い影が追い抜いた。
鼻の差。
「あたしの勝ちね」うさぎだ。
ビーストモード。狼に変身してコースをショートカットしてここまで駆け抜けやがった。
いや、そりゃあルールではライダーそのものが走っちゃいけないとか決めてないけどさ~。
「アイアムルールブックかよ」
息も絶え絶えの癖にいい笑顔のうさぎが皆を見る。
「とりあえず、ここまでの勝負でポイントはあたしが5点。
お姉ちゃんが6点、でアンタが6点。好勝負よね」
うさぎは明後日の方向を見ながら強引に話を進める。
内心では自分でも流石にコレはないだろうと思っているのだろう。
俺もジト目でうさぎを見てしまう。
お姉ちゃんである飛鳥が空気を変えにでる。
「そ、そろそろスモール電灯の効果も切れる頃だよ~」
そうでした。ジャンク品の格安なんで効果が短いんだよな。
でも、こいういゲームくらいには丁度いい。
解除光線を浴びて元の大きさに戻る。
振り向けば激戦を演じたレースディオラマとマシンがある。
破損したアーマードハイエースのキット。
「しかし派手に壊しやがって・・・修理が大変だ(歓喜)」
プラモの修復作業は積み重ねた知識がモノを言う知的ゲーム。
それが面白いのだ。
プラモデル作成カメラのルナティックモードで実物でも写真でも撮影すれば
恐ろしく精巧なモデルが作れる。
完成したそれらで乗り回す、戦うのは一つのカタルシスだ。
「無論、魔改造するけどね」ぼくのかんがえたさいきょうのキット。
飛鳥がメカアニマルを分解しつつ摩耗具合を確認している。
俺もそうだ。
ここで得たデータを元にダンジョン内での実戦投入も検討しているのだ。
まあ俺のは半ば趣味だが。
因みに短時間ならこの精密モデルをビッグ電灯で実車サイズで使用することも十分可能だ。
まあ装甲強度やらエンジンパワーなどで短時間でイカれるが。
「さあ、泣いても笑っても最後の勝負。いくわよ」
うさぎが吠える。
一戦目はコップを使った表面張力ゲームだった。
ほとんど水が満杯なコップに全員が交代でコインを落とすアレだ。
水がこぼれたら負け。
因みに敗者はうさぎ。負けたと同時に「さあ三本勝負、ここからが本番よね」
とかいう王道すらやりやがった。無理すんな14歳。
しかたなく、落としたコインの枚数をポイント変換して順位を決めた。
で、なぜこんな事をしているのかと言えば。
「最近、新城さんが怪しくない?」うさぎがぼそりと呟いたからだ。
俺、うさぎ、飛鳥、ケラスス。4人でのおやつタイム中の事である。
最近の新城さんは大好きなキャバクラ通いもやめている。
ひたすら第二都市の騎士団の育成に勤める日々が続いている。
まあ仲間内で副業が禁止な訳では無いし、和を乱さない以上は個人の自由だ。
だが明らかに怪しい。
行動目的を問い詰める?いや正確には答えは互いに出ている。
「ようはそれを誰が担当するかということだ」
誰もがなかなか聞きにくいし報告しにくい。
そして最大の貧乏くじを誰が引くかという事。
うさぎも新城さんの前では借りてきた猫だ。
なら恨みっこなしでゲームで決めようとなったわけだが。
「さあこれでサプライズのボスを決まるわよ」
うさぎが俺の手札からカードを一枚引く。
ニンマリ笑ってハートとエースの2を山札に捨てる。
ババ抜きである。
「責任者決めてもやる事は山積みだぞ。このままでもいいかもしれないけどね」
「でも新城さんもそろそろ大銀杏を切り落としどきかな~」
俺が飛鳥からカードを引く。残念揃わず。
つまりは親方。後進育成に力を注ぎたいのではないか?というのが俺たちの推測だ。
あながちハズレではないと思う。
俺を育てている事でもわかるが何か自罰的なところがあの人にはある。
過去に何か大きなトラウマを抱える事件があったのであろう。
それぞれが新城さんから聞いた事があるボヤキや忠告、態度からの判断だ。
サバイバーズギルトとまでもいかないだろうが少し怖い。
新城さんにとって俺たちを育成したり騎士団を鍛える行為。
それは心理学で言うところの代償行動なのであろう。
俺もうさぎも飛鳥も新城さんには恩がある。
少しでも返したいというのが人情と人狼情であろう。
ならそれを後押ししたいと言う気持ち。
「指導役には専念してもらうとして」
だが、問題はその後だ。
新城さんというリーダー兼アタッカー兼ダメージディーラ。
それが不在というのはパーティ崩壊の危機でもある。
物理的にも精神的にもだ。
天使な俺と悪魔な俺が議論を始める。
新人を募集して新城さんを安心させて後方に回すべきだ。
いやいや、このまま新城さんにリーダーを任せよう。
現状を維持した方がダンジョンで死ぬ確率は低いぞと。メイドロボが近づくぞ。
とりあえず悪魔の声は無視しよう。
まだ慌てるような時間じゃない。
「まあ新人を入れてミッションランクやダンジョンの探索エリアを限定すれば対応はできるしな」
「タンクかアタッカーの募集がいるわよね」
「いや、タンクは二人もいらないだろ?」うさぎのボケにツッコむ。
流石にタンク役の自負は俺にだってある。
「いや、アンタがアタッカーやればいいじゃん」ボケではなかった。
飛鳥がうさぎからカードを引く。
うえ~、と苦い苦いコロンビア系のブラックコーヒーを飲んだ様な顔。
それは俺がしたい顔だ。
うさぎは俺からカードを引いてニンマリ。エース同士を捨札置き場へ落とす。
俺は1枚、うさぎが2枚、飛鳥も2枚。オーラスだ。
「俺、筋力はそんなに高くないのだが…」
「でもノブ君。先月はエース候補にランクインしてたよ~」
飛鳥がニンマリと2枚のカードを俺に見せつける。
うん、そうね。奇跡的に中級魔族に大型装甲服の怪物を撃破できたからね。
通称、冒険者マガジンにランクインしたのは久しぶりだったね。
そしてもう今月はランクから遥か圏外に落ちているけどね。
「さて俺の番だけど」
確率は50%。どちらかはジョーカーだ。
テンプレだがカードは見ない。見るには飛鳥の顔のみだ。
右のカードを掴む。飛鳥は赤くなり顔を背ける
「ふえ」
左のカードを掴む。飛鳥は赤くなり顔を背ける。
「ふえ」
どっちやねん。
「乙女の顔をジロジロ見るんじゃないわよ」
飛鳥が口を尖らす。
確率二分の一。てや!…うん、ババ引いたよ。
「き、切り札は常に俺の所に来るようだぜ…!」
完璧な負け惜しみ。
飛鳥はうさぎからカードを引いてクリア。一番乗り
そして見事にうさぎは見事にジョーカーを回避する。
俺のビリが決定した。
一位はケラスス。さっさと上がると俺の背後にメイドスタンスを確保中。
通しはしなかったよね?
「じゃあ、新城さんへの報告はよろしく~」
全く運に見放されたヘテクロミアさんの気分だ。
謀反なんてしないけどね。
「まあそれよりも、問題はどうやって期待の新人、大型ルーキーを見つけるかだ」
オーソドックスな方法はギルドにメンバーを依頼をするのが良いのだが今回はできない。
新城さんにバレては意味がない。
今は騎士団の育成に楽しんで欲しいのだ。無駄な思案はさせたくない。
決してサプライズを狙っているわけではない。いや狙っているのだが。
「どうやって見つけるかだよね~」飛鳥は首を傾げる
「ギルドであれをレンタルで借りてくればいいだろ」
「アレね。的中確率7割だっけ?」
手持ちぶたさか、うさぎが意味もなく慣れた手つきでカードをショットガンシャッフルする。
アレとはとある探索アイテムだ。
物欲センサーありきのこの世界。
如何にドロップ確率を上げる事。
そのアイテムがどこに存在しているのかを探知する事は重要となる。
ギルドではその手のアイテムと情報は高額買取キャンペーンという形で常時展開している。
そしてそれらは販売する事はなくレンタルという形で莫大な利益を得ているのだ。
しかもドロップ率向上魔法やアイテムとの抱き合わせでである。
「しかし現実問題、入れるならアタッカー優先だろ」
大技で攻撃系のドローンに任せるという手もある。
影に隠れたり影を武器にする式神系の犬とか最高じゃん。
もしくはブレス攻撃、近接戦闘、バイク変形ができるワンコロボなら超サイコー。
まあそれで索敵が疎かになっては本末転倒だが。
我が隊は旧日本軍のミッドウェーの愚は犯さんのですたい。
「できれば回復系も使える魔法戦士をゲットしたい」
うさぎが贅沢を言う。
まあパラディンが居れば大体の問題は片付く。
「忍者、アサシン枠はいるからいいとして」
「…」俺の後ろでスタンばっているメイド擬きは素知らぬ顔だ。
見事にスルーしやがった。
うさぎも飛鳥も苦笑する。
「まあ、忍かどうかはともかく、ケラススが遊撃するだけでも動きが違うもんね」
「ありがとね~」
「お褒めいただき光栄です。何しろ主人からは、いつもねぎらいがありませんので」
「最低ね。コイツこの間も…」
新メンバーか。確かに考える。そして皆様には悪いが同性を希望する。
女が三つで姦しいと書く。というか発言権がないに等しいのだ。
今の現状がそうだよ。全く勘弁して欲しい。居た堪れんわ。
ピクンとケラススが動く。
「新城様が帰宅しました」パッシブセンサーに感ありだ。
「帰ったぞ」
少し遅れてガチャリと玄関からリビングへ現れる。
「なんだ。全員揃って内緒話か?」新城さんが訝しむ。
さりげなく広げてあるトランプなどのお遊び道具には目もくれない。
直感スキル高いなあ。
「ん。どーやったらコイツにアタッカーが務まるかという相談」
うさぎがフォローする。恐ろしい事に本心からだ。
これは釘を刺した方がいいな。人間には得手不得手があるんだぞ。
新城さんも俺を見つつ苦笑するしかない。
「まあ本人次第だな。チームのバランスもあるし。
何より例のブレードを使いこなす時間もいるだろう。それよりもだ」
新城さんは一同を見回す
「ロスベルクからの仕事の依頼だ」
なんとなく嬉しそうなのがわかるよ。
「成程」「まあそうよね」「ぴったしカンカンだよ」
納得してしまう俺達。珍しく新城さんが怯んでしまった。
[リヴァー]内の人類の第二の拠点ビートフェルト。
ただ、この名前は臨時であり軍の将軍が命名したものだが余りにも不評だった。
この将軍。前にも野営地をクリスタルレイクなどと名付けた前科がある。
というか、この都市そのものから苦情が入った。
元々の名前であるロスベルクに変更。
と言うか戻される事になった。
そして今回はそのロスベルクからの一番偉い人からの依頼である。
新城さん案件でなければ勘弁だな。
「魔眼ですか?」
なんとロスベルクの殿下は貴重技能持ちだった。
「ああ、それも鑑定眼だそうだ」
超レア。オケアノスでも今まで一人しかいない貴重スキル。
俗に言うアカシックレコード閲覧能力。
世界記憶から見た対象の全てを解析する。
脳に負担はかかるのでスキルや魔力数値、特殊能力などに形を限定して鑑定する。
それでも情報は圧倒的だ。
ああ、因みに体力系ステータス数字は年1でのモダンペンタストロンとデカスロンの合計点数がそれね。
俺と飛鳥は男女学生の平均スコア。
新城さんとうさぎは五輪強化選手級のスコアを叩き出している。
「殿下を担ぐ連中からしてみれば待ってましたと言わんばかりの能力だろうな。
毎日10人程でいいから鑑定するだけで人材の能力の把握もできる。
アイテムの鑑定をすれば無限に金は集まるしな。
派閥争いに終止符が打たれるわけだ」
「え、でもそれってその派閥争いに巻き込まれない?妨害任務で暗殺者登場とかやだよ」
俺の心の声が漏れたのか新城さんが苦笑する。
「この情報は今の所、俺と家宰しか知らん。殿下が最近の自分の体調から不安になってな。
幻覚が見えると言うので俺に相談してきたと言うわけだ」
「流石、騎士団指南役。信用ある~」うさぎが茶化す。
新庄さんはいい笑顔でうさぎの髪をシャカシャカ。
「そう言えば騎士達の育成はどうですか?」
俺の質問に新城さんは苦笑を返す。
まあ痛し痒しの速度か。
騎士団内では冒険者教育も行なっている様だが、まだまだの様だ。
いっそ、焼き付けで一般教養や軍人知識を脳内スロットに入れればいい。
でもロスベルクの住人の間では未だ脳内焼き付けは普及してはいない。
上役の貴族は積極的に用いて街の治安維持と政治に活用している様だが、いかんせん。
未知の技術の受け入れには時間がかかる。
まあ、20世紀の俺たちでも脳が弄られるという感覚は受け入れられる者も少ない。
「カメラ撮影は魂を抜かれるんです~」
中世人なら尚更だ。
魔術師も基本、焼き付けはしない。魔力操作に支障が生じるらしい。
RPGでいうところの限界成長レベルが下がるのだ。
新城さんは話を戻す。
「ただ、此方に来て能力が目覚めたばかりでなコントロールができていない。
それで魔眼操作の為のアイテムがいる。定番なのは集束の眼鏡だな」
納得。つまりは
「今回の依頼は眼鏡探しと言うわけだ。最終的にはだが」
RPGでお馴染みの買い物、お使い、たらい回しイベントだがオケアノスではそれらは殆どない。
予め、依頼、寄せられた情報を統括し無駄な交換回数を省いているからだ。
今回のケースで言えば、殿下は能力を収束する為の魔眼の眼鏡がお望みらしい。
しかし眼鏡を作成できるのはドワーフのみ。
そしてドワーフは材料として百年は魔力を蓄えた水晶が必要との事。
「で、ここからは俺の経験からの想像も入るのだが」
まずはロスベルクはこの件を内密でギルドに依頼。
ギルドは依頼を分析する。登録情報にヒット。
百年ものの水晶を持つのはとある冒険者パーティ。
その冒険者パーティが同一価値として欲しいのがとある情報。
で、その情報を知っているのがオケアノス内の生産職のとある親父さん。
無論、親父さんはその情報の貴重さを理解していない。
よくある事だ。
その親父さんの情報への見返りとしてのお願いがオケアノス内のその親父の子供のレア玩具探し。
ギルドは玩具探しをいくつかの路銀が少ないルーキーチームに依頼。
ルーキーチーム達は玩具をダンジョンか骨董屋などを必死に探し周りゲット。
どこかのチームは報酬を入手する。
ギルドはレア玩具を生産職の親父に渡し代わりに情報を貰う。
ギルドは高名なメイジから別の依頼を受けていた。
メイジはこの時期、この季節に合わせて大魔術を行いたいらしいが、それにはある触媒が必要。
で、そのメイジが依頼している触媒がフォレストエリア内で見つかるレアアイテムの満月草というわけだ。
因みにこのアイテムは特殊レアで月一しか取れず、時間停止保管以外は保存もできない所がポイント。
必要な時には、直接取りに行くしかないわけだ。
比較的手に入り安いが、保存ができない故のレアアイテムなのである。
まあ、時間制限ありイベントでもあるが。
ギルドはロスベルクに縁のある俺たちにこの任務を依頼。
幸い今週の満月草が咲く場所は確認されている。
後は俺たちが満月草を入手してギルドに届ければ、ギルドはメイジの依頼解決。
それと引き換えに冒険者→ドワーフと交渉し眼鏡を殿下らに渡すという訳だ。
ダイアキュートよろしく一度の連鎖で必要アイテムが手に入る。
無駄な情報収集や行動ない。win-win。
「まあ、どの位の手数料がギルドに入るのかは考えないでおこう」
やって来ましたフォレストエリア。今回はアルファ。
ダイソナーエリア系と並んでの巨大エリアだ。
セオリーでイバラの壁のスクロールを何枚も使い星形の陣地を形成。
キャンピング球とモンベルテントで居住とインフラ確保。
後は警戒ドローンで即席砦だ。
星形の利点はエネミーは出角からは攻撃しにくいし事。
かといって入角側から攻撃すれば両脇からの十字砲火の餌食というのが美味しいよね。
五稜郭サイコー。新撰組は地上最強。
でも大砲対策に塹壕は作ろうね。
今回の基本ミッションはこうだ。
「満月草が開花するまで後2、3日。それまでに候補地で陣を貼り開花まで見張ればいい」
新城さんがニヤリと笑う。
つまりそれまではメンバーはひたすら拠点待機なわけだ。
でも今回はその待機時の休憩時間はやる事があるんですぅ。
新城さんに重大部分は省いた事情を説明して休憩時間を副業に当てると説明。
胡散臭さそうな顔はするが了承は得た。
で、それがこれだ。
「尋ね人スタッフ~」
俺は自信満々でギルドから借りたアイテムを取り出す。
地面に立てて手を離せば、あら不思議。目的の人物のいる方向へ倒れてくれるのだ。
「これで俺たちのパーティと相性がいいメンバーを見つければいいのだ」
まあ的中率は7割だが。
でも今回は大丈夫。ラッキーフード系の幸運のナッツを買ってあるのだ。
神殿で祝福をかけてもらうか、リスキーサイコロで勝負に出るか悩んだが。
「まあ今回はコレで十分だろう」
大ばくち 身ぐるみぬいで すってんてん。とか御免だしな。
「まあこいつを食べて10%は底上げだ」
これで確率は更にドン!
干し葡萄と一緒に一摘みパクリ。
うさぎもパクリ。何故か同行しない飛鳥もパクリ。もう一度パクリ。
「まあいいか」
新城さんには貴方の代わりの新しいメンバー探しとも言えないので別の理由を説明してある。
「無問題」まあその別の理由ともかなり酷いのだが
「う~んと。じゃあうさぎのお友達候補を探して」それがコレだ。
「オイ」うさぎはドスの効いた声。
杖はパタンと南の方向に向けて倒れる。
まあ確かにパーティに入会してもらう=友達。成立する数式ではあるが。
飛鳥は胸をそらしてふんぞりかえる。
お姉ちゃんとしては当然の行動よね。という感じ
新城さんは大爆笑。
カモフラージュとしては一人の乙女にいらん心の傷を与えたかもしれん。
まあ必要な犠牲と思ってもらおう。
「と、とにかく行くぞ」強引にうさぎを宥めすかし南へ移動を開始する。
後から群れに弱者は必要ないだの役割はしっかり決めろとか何か聞こえるが無視だ。
さあスイッチを切り替えよう。
AIと連携。周囲360度の確認。アクティブセンサーを最大へ。エネミーチェック。
飛鳥ほどではないがこれでサーチはなんとかなる。
うさぎも無言で俺との距離を一定にしつつ付いていくる。
ある程度移動した所で再び尋ね人スタッフを立てる。
位置を微調整しながら移動を繰り返す。
途中で狼だの猪だのとセンサーに反応はあるが、犬笛よろしくの不快音波、スメル弾で追い返す。
「戦う必要はないな」縄張り侵入、空腹なら兎も角、そもそも獣は臆病だ。
そして俺は杖を倒しながら考える。これで上手くいけば俺もコレで友人探すかな。
物をくれる友達、医者である友達、頭のいい友達を。by徒然草。
きっかけだけでもいい。特にメイドロボ入手の為の人脈としての友人ならパーフェクト。
センサーに感あり。互いのID反応チエック。味方だ。
「あれノブ君?」
金髪ショートボブの美形を中心にするチームがそこにいた。
ビンゴ。いやOB。アウトオブバウンズか?
俺は咄嗟にコイツの胸部をズーム。魔法金属の胸当てを押し当てて、なお強調する胸を確認する。
「よし今日は女だ」心の中で安堵する。
その安堵の呼吸に合わせるように一瞬で間合いを詰められアーマーの上からハグされる。
「あれ、うさぎも?二人行動とは珍しいね」
後ずさるうさぎ。でも彼女の方が遥かに早い。笑顔で抱擁される。
縮地からの神速タックルである。
通り名はアナヒータ。攻略組のエースだ。
魔術と奇跡。武芸百般、ユニークスキル。攻撃防御、近距離と遠距離。全てにおいて死角がない。
最強ユーティリティープレイヤーの一角だ。とある理由で俺とは縁がある。
誰が呼んだか[万能勇者]
因みに同世代だ。ギフテッドは羨ましいねえ。
そして性別も死角がない。
コイツは冒険の初期段階で性別を操作できるアイテムを入手。
ファッション感覚、その日の気分で性別を変えている。
元々女顔イケメンな事もあり、男の時でも男装の麗人と言われるレベルだ。
「僕は平等なだけだよ。うん、バイセクシャルだね。かわいいは正義!」
とは本人の談。
「なんでアンタらがここにいるのよ」
うさぎはなんとか両腕でアナヒータを引き剥がす。
まさか満月草狙いじゃないよな?ギルド依頼だから優先権はこちらだが。
「うん、友人から魔力回復薬の薬草が無いから採取を頼まれた。10分もしないで撤収するよ」
アナヒータはニコニコ笑いながら説明する。
勇者パーティに頼む依頼じゃないだろうに。
そんなのはヒヨコの殻がようやく取れた新人チームで十分だ。
アナヒータの後ろを見れば彼女のチームメイトもなんとも言えない顔だ。
でもコイツら全員、そんなとこがいいとか惚気てるんだろうな。
勇者チームのメンバーは全員が男性女性を問わず、アナヒータと何らかの関係を持っている。
恋愛感情、友情、忠義、崇拝、そして肉体関係。まあ複雑怪奇。
俺はため息。こちらも事情説明。満月草採取の件を説明する。
コイツなら説明しても問題ないだろう。
「へえ、新城さんもかなり入れ込んでるね。ひょっとしてそのスタッフもその辺が理由?」
わかる人にはわかるか。いや、コイツの直感スキルの桁が違うだけだろ。
雑談している間に彼女のチームメイトのミッション終了という声がかかる。
まあ薬草拾いなんて彼らにしてみればすぐだしな。
「じゃあまたね。新庄さんと飛鳥にもよろしく」
アナヒータはこちらに笑顔を向け仲間の元へ向かう。
彼女?は手を振りつつ呪文動作に入る。
瞬間移動魔法。空間移動用の扉作成系ではなく文字通り自らが空間を移動する大魔術。
彼女は仲間共々瞬時に消え失せた。
対転移結界の外にあるオケアノスの出島砦までひとっ飛びだ。
「転移スクロールもどこでも系アイテムもいらないのは準チートだよな」
うさぎは空気ライフルに全体重を預けるようにズルズルとヤンキー式に座り込む。
「友達?」俺は言ってから失敗を悟った。
「んなわけないでしょう!あたしはハーレムにも修羅場にも飛び込む趣味はないわよ」
顔が近い。顔が近い!
まあ彼女を仲間にするのは無理だろ。
俺だって痴話喧嘩と修羅場に巻き込まれるのはまっぴらだしな。
残り確率3割のハズレクジを引いたかな?
底上げもしたんだけどなあ。
「まあこういう時もある」俺は誤魔化しつつ尋ね人スタッフ再び起動。
うさぎの友達はどっちだ?
しかしコレ、新城さんへの言い訳には意外といいかもな。
あ、できれば仲間は趣味の合う同世代同性がいいが、巨乳ロリでも可。
冗談抜きにすれば魔法の心得あればなおよし。
「段々と言ってる事が違ってくるな」
再びうさぎを連れて探索する。うさぎはあひる口でブー垂れてるが無視だ。
ただ皆が見張る中、散歩するのも悪い。
体力系、精神系問わず。目に入る薬草は採取し晩飯の獲物もうさぎにハンティングしてもらおう。
鹿の群れに遭遇。晩飯ゲットかな?
しかし[リヴァー]はマジで生態系管理の仕事しないよな。
方舟内に何箇所も存在する各フォレストエリア。
基本、ランダム化されるこの中では数少ない場所が変わらないエリアだ。
フォレストエリア内での生命体切り替えや押し込みなどはあるものの座標そのものは変わらない。
ここで水、空気、食料などの生存支援物質が入手できなければオケアノスも手詰まり。
といかないまでも活動はかなり制限されていたと思う。
でも猪とかミツアナグマくらいなら兎も角。
グリズリーとか豹が同一エリア内に生息しているのは流石に管理不行き届きでしょ!
「クレームもんだよ」
ルーキー時代に木の上から豹に覆い被された時は死ぬかと思ったわ。
最近ではミノタウロスとかオーガとかオニとかの三マッチョもエントリーして来るし油断はできん。
門番ならまだしも徘徊タイプのFEOはまじで勘弁だ。
センサーに感あり。使徒を肉眼で確認。
「また知り合いだよ」
いや正確には知人か?レイドバトルで一言二言くらいしか話した事ないし。
黒髪、目は髪に隠れているので判別しづらい。
アラブ系らしいが、仏頂面。多分、俺と同世代。
メカクレのイケメン野郎だ。
通称はカラミティ。
職業はアルケミスト。コイツもアナヒータほどではないが万能型だ。
自分のアルケミーで作り出した武具と防具、装飾品で身を固め作成したマジックアイテムで
大抵の戦場は乗り越えてきている。羨ましい。
本名は不明。
この業界は魔法絡みでコードに引っかかるのか名前を隠しているのは珍しくない。
セイバーだのライダーだので通す人すらいる。
「でも後で黒歴史だよね~」
疫病神の通り名が表すようにツキがない。
何度か組んだパーティも流石に全滅まではいかないがほぼ100%アクシデントに巻き込まれている。
結果的にただ働きも頻繁に起こり大赤字も当たり前らしい。
結果、ソロプレイヤーとしても有名だ。
なのに、後ろには女の子。テンガロンハットの銀髪巨乳娘と一緒だよ。
ガンナーかハンターなのが丸わかりだな。
「護衛。ギルドから頼まれた」
カラミティは不本意、明らかに不本意という表情で呟く。
身体からは責任持てんぞとネガティブオーラが発している。
しかしツレの子はそんな事は気にしてない。
「うむ。ハンティングじゃ」後ろの巨乳娘が応じる。
言うなりバンバンと口での効果音を加えて、くるくる周りながら四方にマスケット銃を構えていく。
ああ、間違いなく素人のお登りさんだ。
一応はハンティングスタイルではあるが冒険者のそれじゃあない。
金持ち道楽のお嬢様だな。しかしいい感じで揺れるなあ。
カラミティは苦虫を噛み締めたような顔である。
「まあ俺達と同じく。アイテムや情報入手の為の断れない依頼なんだろうなあ」
でも美人相手でラッキーじゃん。
こちらも当然、概略は省くが満月草採取イベントを説明する。相互理解、重要な事だ
カラミティはまだガンマンごっこをしているお嬢様を無視。
胸のネックレス。五円玉の様に真ん中に穴が空いた円石を覗きこむとそのまま辺りを見渡す。
「いたぞ。北西、鹿の群れだ」
先程の鹿の群れか。あれは千里眼系アイテムか。売ってくんないなか?
「うむ。魔弾の射手もかくやという余の腕を見るがよい」
巨乳ちゃんはハイテンションで応じる。
ふとその瞳。金色眼がこちらを見る。
ジト目。いや正確にはうさぎを見ている。
「狼人。それも変身できるのか。かなり珍しいと聞いたが」
「!」一瞬、うさぎから殺気とまでは気配が変わる。
取立てて言うほどではないし秘密にしている訳でも無い。
でも見知らぬ相手が自分のスキルを知っていると言うのは中々の恐怖だな。
「だったら何よ。マトリクスでも欲しいの?」
ユニークスキル持ちのDNA情報。マトリエクスは実験対象としてそれなり高価で売れる。
植物、動物問わず。モンスター、そして人間類までだ。
無論、レアスキルが再現出来るとは限らない。
砂漠の中でお目当ての一粒の砂を探すという作業に等しい。
けど実験の過程で副産物やお宝データが出る事もある。
この人、実は科学者?そっちの人?
「いや、それはどうでもいいのじゃ」でもすぐに彼女はそれを否定する。
チシャ猫笑いを浮かべてうさぎの前に立つ。
「耳と尻尾を触らせてくれんかの」
思わず吹き出した。まあ気持ちはわかる。俺ですら触りたい事は多々ある。
彼女は両手をワキワキとじわりじわりとうさぎに近づいてくる。
「こっちくんな」後ずさるうさぎ。
「怯える事はないぞ。余は可愛いものの大家。すぐにピンと来たのじゃ。
変身後の姿でもモフモフさせてくれんかの。勿論。代価は払う」
俺も払っていいわ。
「獣欲、業を征す。良い言葉だと思わんか」
グフグフと笑う獣フェチ娘。
俺を中心にぐるぐる周り始める二人。
「いい加減にしてくれ」
カラミティも拉致があかないと判断したのだろう。
文字位通り襟首を掴み引きずる様に移動を開始する。
「しばし待て。IDの番号だけでも登録するから」
カラミティは無視して前進。うさぎも俺の背後に周り威嚇しつつ見送る。
「諦めんぞ~!」お嬢さんの怨讐の叫び。
ここは敬礼で見送ろう。
涙は流さなかったが無言のフェチの詩があった。奇妙な友情があった。
うさぎは空気ライフルに全体重を預けるようにズルズルとヤンキー式に座り込む。
「なんなのよ。あの変態」
「ボンボンの道楽だろ。顔は見かけないけど議員の一族じゃない?」
オケアノスでも4姉妹の次の次の次位に権力を持つのが議員だ。
まあ君子危うきに近寄らず。
「ハンティングもいいけど獲物をちゃんと食べてくんないかな。遊ぶ半分で狩るのはやめて欲しいわ」
いかにもうさぎらしいなと思う。
「…」うさぎがじっとコチラを見る。
「なんだよ?」少し嫌な予感がする
「アンタも触りたいの?」
難問キタコレ。
まずいな。選択肢を間違えると好感度がダウンだ。
というかオタク認定だ。それはまずい。
落ち着け・・・落ち着いて考えるんだ。わしにはパニックという言葉はない。
深呼吸一つ。
ヨシ。ここは当たり障りのないノーマルで行こう。
「ペット好きなら普通だろ。犬とか猫とかハグしたくはなるものだし、耳とか尻尾を
触りたくなると言うのは、学術的に言うところのグルーミング行為だろう。
多くの動物間でも見られるアクションだし、そもそも触るという行為でエンドルフィンとかの
体内麻薬を分泌する効果もあるし、マッサージによる緊張を緩和する効果もある。
要するに何が言いたいかと言うとだな。スキンシップの一環として耳をフニフニするというのは
(早口)…」
「キモ」うさぎは一言で片付けた。
けっこー胸にくるぞ。ソレ。
当たり障りの無い答えに終始したつもりだが解せん。
まああの二人を仲間にするのは無理だろ。
メンバーの事も考えればラックステータスが著しく低いのはかなりやばい。
もう一人のボンボンなぞどんな行動をするか検討もつかない。
またも残り確率3割のハズレクジを引いたかな?
「と、とにかく3度目の正直だ。倒すぞ?」
確率的な期待値は十分なはずだ。
しかし今度は杖は倒れない。故障?それとも近くに対象がいない?
原因は直ぐに判明した。ID反応。
「あれ織田さんと飛鳥さんの妹じゃないデスか」牡丹ちゃんだ。
「チェンジで」
うさぎは空気ライフルに全体重を預けるようにズルズルとヤンキー式に座り込む。
今度はハルト達のパーティだった。
まじで確率よ。仕事してる?
「どーなってんのよコレ!」うさぎはスタッフを俺に突きつける。
「まあ、俺もそう思う」苦笑するしかないわな。
仏の顔も3度まで。まあコイツにしては三回まで持ち堪えたのだから記録更新かもしれん。
意外とマジで友達が欲しかったのか?
でも会う連中会う連中、パーティ組んでるか変人ばかり。
まあ人の事は言えんが。
まさか引き抜きしろとか言う選択肢じゃ無いよな?
いやそもそもメンバー探しでなくうさぎの友人探しなのだから間違いでないのか?
今度は俺の友達探しにするか?
いや、それだと趣味がモロバレするしな。隠せる部分は隠さんといかん。
待てよ。友人。オタク友。とも?
「ああ、そういうことか」
我、得たりと手をポンと叩く。
「どうやらこの杖は音読み訓読みオタク読みまで入力されているようだな」
「?」うさぎは疑問符を頭に浮かべている。
「あーつまりだな。「とも」という字はこう書く」俺は小枝で地面に友と言う字を書く。
だが、ある業界ではともはこう書くのだ。
「強敵」と続けて俺は地面に書いた。
「よーするに?」うさぎの目が座ってる
「このスタッフは強敵。ライバルとか書いて、とも、と読んだんだろう」
確かにライバル達だしな。確率7割は正しいと言う事だな。正しく見つかったよ。
ラッキーフードもいい仕事をしたな。
「…」
うさぎは両手でしっかりと杖の端と端を握る。
「ふん!」
さらに杖に真ん中あたりに膝を当てると腕で引いた。
しかし無情にも杖は折れない。流石、マジックアイテムだ。何ともないぜ。
うさぎは倒れ込み膝を押さえて呻くだけだ。
「さて、後はうさぎの怒りの矛先を俺に来ないように仕向ける方法を考えんとな」
小声で呟き、転がった杖を回収する。
「うん、友人探しにこう言うショートカットは駄目だよね」
しかしこのオチは酷くない?
「煩悩の一つは叶った。しかしこの叶い方は違うと思うなあ・・・」