二章 プロローグ
■プロローグ
墓場と言えばゲゲゲときてカランコロン。
周囲を見渡せば卒塔婆に墓石に柳の木。
コレで人魂でも浮いてればチープなお化け屋敷の完成だ。
「まあ妖怪共が創り出した結界世界だけに一層の安っぽさはあるが」
現在、我らパーティは結界内に閉じ込められ妖共と戦闘継続中。
しかも二方向からの挟み撃ちときたもんだ。
ダンジョン探索を開始して僅か1時間。
小さな小部屋に侵入した途端にコレだ。
チュートリアルもくそもない。殺しにきてるのがここのダンジョンだ。
「今回は採算取れるのかね?またメイドロボ購入が遠のくよ」
愚痴を言っても始まらん。リーダーの指示でメンバーを二つに分け応戦。
俺のすべき事は時間稼ぎ。
もう片方のメンバーがモンスター共を撃破してこちらに到着するまで持ち堪えればいい。
いつもの事だ。
「でも目の前にいる奴はいつものゴブリンやトリフィドじゃないけどね!」
二本足で歩く黒色の馬。しかし頭部は双角の一つ目。魔獣ホウソウババだ。
スキルは疫病撒き散らし。流石に棺桶や墓石攻撃は用いないのは救いだ。
けど肩や腕、腰にはしがみつく様に火鼠や鉄鼠、小玉鼠共。
ピリリと辛い連中までお供につけてやがる。
ホウソウババは口からガスを吐いた。疫病ブレスだ。
俺はそれを盾で遮る様に受け止める。
パワードアーマーの俺はBC兵器を無効化できるが背後にいる仲間達はそうはいかない。
「ホウソウババの背後にもう1匹現れたよ~」
斥候である彼女の燕ドローン達の有り難い情報。
狼人族の飛鳥だ。犬耳がピクピク揺れる。役割はシーフ。探知と解錠役。
「ええい!」右腕を鉤上にたたみホウソウババに叩きつける。
怪異は思わず腰を落とす。
「かち上げ~」キャイキャイ騒ぐ。まあこのように相撲大好き娘だ。
尻餅をついたホウソウババの背後に目を凝らす。ズームイン。
見れば巨大なスケルトンが具現化しつつある。
「10mはあるんじゃないか?」
流石にそこまでの天井高はなくコイツは収まりきれない。
なんとか仰向けで寝そべりながらの登場だ。
匍匐前進している巨大ガイコツ。シュールだな。
コイツがここに到着前にホウソウババは無効化しておきたい。
ここで鉄鼠、火鼠、小玉鼠が参戦だ!
それぞれが、鉄をも喰らう、火を操る、爆発すると嫌な能力ばかり持つ。
小動物だけにダメージは低いがボディブローの様にジワジワと効いてくる。
例によって魔族共のゲリラ戦法の小道具だ。
繁殖ポップが早いネズミとこいつらを交配ハイブリッドでばら撒いているのだ。
手軽なだけに魔族や妖怪、悪い魔法使いと多くのヴィランが使役している。
「青猫型ロボットじゃないけどネズミは嫌いなんだよ!」
弾薬が勿体ないが、頭部のバルカン擬きで迎撃を考える。
その俺の視界の隅。
ウィルスの煙の中をものともせず白黒のパンダカラーが疾る。
「あっ、そういやもう一人、BC兵器耐性持ちがいるわ」
メイド服を着込んだクノイチロボであるケラススだ。
メイドの皮を被った乱破である。
この度、改めてスペランカーとして参入している。
本調子のボディではない為、性能は落ちてはいるが牽制役としては十分だ。
苦無三連射。
隙を見てこちらに飛び込もうとしていた妖怪鼠共に突き刺さる。
小玉鼠が爆発。そして仲間にも誘爆。諸行無常。
縁がありパーティの一員になったドロイド。役割はニンジャ。遊撃役
「グッジョブ」
「はい。貴方の忠実なメイド。忠実なロボのワタクシです」
わざわざ、メイドとロボの部分を強調してくる。
…まあ有能はあるのだが。でも俺はお前をメイドロボとは認めんからね。
匍匐前進してきた骸骨野郎が射程に入った。
遠慮なく足首に固定したポッドからのミサイル。
効けば儲けもの。
爆発。「やったか?」なんて言わないよ。
効果も無く、煙の中からそいつは顔を出すのだが。
まあ嫌な予感はしたんだよ。
「スケルトンじゃない。コイツはガシャドクロ系だ」
物理攻撃効きにくいんだよな。
しかも人間を捻り潰すくらいのパワーはあるぞ。
威嚇だろうか器用に歯を鳴らす。
更には狭い天井をものとせず両腕を大きく開く。
「あっ、合掌捻り!」飛鳥の声。
そんな格好いいものかよ。ただの猫騙しだっつーの!
まあパチンと潰される俺からしてみればどちらでも同じだが。
必死に後退。なんとか顎から免れる。
だがホウソウババもガシャドクロの懐に入り込まれる。
厄介になってきた。
ミサイルポッドを再び。今度は電撃のテイザー弾だ。
「顔面にお見舞いするぜ」
ガシャドクロは直射日光を遮るように右腕でガード。
効果あり。骸骨なのに苦悶ぶりがわかる。
八つ当たりの如く、再び蚊トンボパッチン。
でも俺は慌てない。センサーが後方から近づくそれらを捉えているから。
奴の左腕だけをシールドでガード。食い止める。
「うん、無理」力の均衡もなく仰反る俺。
でも俺は倒れる事はない。
ケラススだ。素早く俺の背後に周り背中合わせ。
絶妙の体重操作。クッションとふんばり。骸骨の左腕の掌打の威力を抑え切る。
「文字通り、人の字でアナタをお支えいたします」
ドヤ顔なのが目に浮かぶ。
まあゾルディック家のお子様には及ばないものの見事はフォローだけどね。
そして右腕側は。
「すまん。遅れた」
迷彩服のマッチョマン。
常人離れした速さで俺の脇を抜けると跳躍。
上段に振りかぶった槍斧こと、ハルバードを振り下ろす。
戦車級の硬さを持つボーン野郎の右腕が宙を舞う。
この人がアンダーに着込んだ軽装式のパワードスーツの恩恵だ。
超人領域の運動力を発揮できる強力アイテム。
俺の様な重装フルプレート式ではないので防御と稼働時間に難があるが、
速度と手軽さでは比較にならない。
「おまえの中の強い恐怖を感じるぞ。ガシャドクロ。憎しみと怒りを抱いているな」
何処かの悪役伯爵みたいな台詞入りました。
パーティの頼れるリーダー。新城さん。まあ映画ネタはいつもスベるけどね。
役割はアタッカー。攻撃役。
ホウソウババがここで大きく息を吸い込む。
「まあ、当然の動きだわな」
新城さんは頭部はミリタリー式ヘルメットのみ、肌は露出している。
ここでブレスを吐かないわけがない。
だからこそ。
「トリはあたしで決まりね」
うさぎがドヤ顔でホウソウババの一つ目に矢玉をピンショットで決めた。
カスタム空気ピストルから放たれた銀の矢が見事に突き刺さったのだ。
ブレスどころではない。必死に両手で矢を抜こうとする。まあ蹄では難しかろう。
「ジャックポット!」
パーティ最後の一人。
こいつも狼人族。飛鳥の妹。
でもプロポーションはどちらが姉かわからないくらいに凄いんです。
医療ポッドの実験に失敗し彼女の身体は14歳のそれから18歳に急成長してしまった。
まあ本人はまるで気にしてはいないようだが。
素早く飛鳥お姉ちゃんの隣に伏せポジション。かなりのシスコンだ。
ごきげんなのか尻尾がリズムよく揺れる。
役割はスナイパー。狙撃役。
ついでに後から散々、自慢されたが新城さんが切り落とした右腕。
ハルバードが振り下ろされる前に絶妙の狙撃を腕に決め亀裂を入れて置いたとの事。
「まあ確かに凄いが、その亀裂に正確に斬撃を加えた新城さんが更に凄いんじゃね?」
とはまた話が拗れるので言わない賢さが俺にはあるが。
「しかし・・・」ちらりと俺は後ろを見る。
確か後方にはトロルが複数いた筈。
それを新城さんとお二人で楽々撃破ですか。
あいつらヒーリングファクター持ちよ。倒すのに時間かかるはずよ。
まあヴィブラとかロングホーンとかチタンとかの骨でないと駄目か。
「俺も一部、骨を変えようかな?」
人体取り換え機で。
あれ人と機械の人体の一部をも交換できるからな楽々サイボーグ可能だよ。
実際に友人にアクセサリー気分で身体を交換して楽しむ奴もいるし。
まあこれで全員の紹介も終了。そして戦闘も終了段階だ。
ガシャドクロとホウソウババは同一線上にいる。
そうなれば後は手順だ。
「ライトニング~」飛鳥の持つワンドが火花を散らす。駆ける電光。
一直線にホウソウババ、ガシャドクロを貫く。
シーフと言ったな。あれは嘘だ。彼女は大火力のスクロールやプラスチック爆弾。
全体防御兵器から日常品の運搬担当でもある。
で、俺は発掘品や略奪品の運搬担当ね。
「まだだぞ!ノブとうさぎはガード。残りは追撃だ!」新城さんが的確な指示。
その言葉に呼応するようにホウソウババは断末魔のブレス。
ガシャドクロは残った左腕で全てを薙ぎ払うラリアートだ。
「しゃあ!」新城さんがジャベリンよろしくハルバードを力任せに投擲。
髑髏の側頭部にスコンと突き刺さる。
反動を利用しそのまま転がるように姉妹の傍に来る。
ホウソウババの疫病ガス。最大にまき散らす。
でも、新城さん達には届かない。
不可視な壁、正確には風圧がガスを遮り続けている。
風の壁。
素早く飛鳥から渡されたスクロールをうさぎが唱えたのだ。
質量攻撃には効果は薄いが、ガスと炎ブレス、矢に弾丸と躱せる対象は意外と多い。
特に炎攻撃での一酸化炭素中毒、酸欠回避にはベストな選択である。
後はこのラリアート。
俺のガードでは防げない。新城さんも無茶を言う。
「となれば」
自動アクションモード!腰を落とし両足固定。手の甲は地面に向け引手動作。
的がでかいのでタイミングは楽々だ。
「赤心少林拳正拳突きゃぁや!」
思わず叫ぶ。俺の達人コピーの大技だ。
AIに任せて強引に機体に達人のトレースした動きを再現してもらう。
狙いはこの巨大がいこつの左手首。
当然、直撃!
当然、吹っ飛ぶ俺。ゴロゴロ転がる。
漫画みたいに仁王立ちで勝利のポーズとはいかんわな。
身体中がきしむわ。でも仕事は果たした。
ラリアートはなんとか弾いたぜ。
「飛鳥、ケラスス任せた!」
「土俵際まで追い込んでくれたもんね。任せて。ライトニング!」
再び閃光。その口の中に吸い込まれる雷光。
髑髏が器用に苦悶を浮かべ塵となり崩れる。
しかしホウソウババはしつこい。
「はい、生き残りの始末がワタクシの仕事です」
縮地とは言えないが見事な速さで懐に飛び込む。
遠慮なく親指での喉突きでブレスを止める。
続いて掌底でのハートブレイクショット。
トドメにレアメタル製のブーツのつま先での金的蹴りだ。
三連攻撃。喉、心臓、金的。えげつないよな。
最近、新しい近接戦闘技術をインストールして実践を積んでるらしい。
「だからくノ一なんだよ」思わずつぶやく俺。
断末魔の叫びもない。
崩れる様に両膝を付き灰塵と化す。静寂。
「終わり?」うさぎの声。
その言葉が解除ワードのごとく。
このお化け屋敷地帯が元の小さな小部屋に戻っていく。
結界を維持していたのはホウソウババだったようだ。
どの分御霊でも大妖怪でもこの[リヴァー]の天井壁素材には干渉できない。
それでも魔法か妖術で室内の空間を捻じ曲げられる。
明らかにサイズが違う結界による異界は創りだせるのだ。
今回、閉じ込めらたのはそれだ。
「でも、俺は認めないよ。コイツらはアイテムを残さず塵と化すから」
ただ働きもいいところだ。スクロールもミサイルも消費。
アーマーにもかなり負荷をかけた。
「そうでもないな」新城さんがにやりと笑う。
油断なく周りを警戒している。
あっ。残心を忘れてた。後の反省会で説教か?
「ラッキー~」これは飛鳥。
消えたホウソウババの場所に何かが落ちている。
妖怪の角だ。何も残さないといったが例外はある。
レアケースだが陰陽五行の妖怪どもは身体の一部である角。
時には変化の触媒か糸、枝などを残す時がある。
それぞれが高値で取引され利用価値も高い品だ
俺もこれを見るのはそれなりに長いケイブの中で二回目だ。
「まあ、これで引き上げても十分な黒字だな」
「そうですね」俺は周りの警戒をアピール。フォローフォロー。
「遅い」苦笑しながらコツンと頭を叩かれる。
それで皆も気づいたらしい。
残心。常に周りに注意をおき、心理的死角を持たない意識。
それを途切れさせない事。
ケラススを除く全員が顔を竦める。
「だが、皆いいチームワークだ。成長したな」
新城さんがにこやかに笑う。
「?」少し違和感があった。なんだろう?
「撤収だ。飛鳥はドローンを頼む。ケラススはアシストしてくれ」
ケラススはスカートの裾をつまみそっと一礼。わざとらしい!
俺はそれを見てつくづく思う。
なんとしてでも本物のメイドロボを手に入れたいと。
時に西暦2015年夏。俺は東京のオンラインRPGのオフ会に参加の為に上京した。
そして遥か未来世界、推定で40世紀は超えた時代の時空間移動マシン、通称[リヴァー]に誘拐、
いやエイリアン・アブダクション?いやいや保護されたのだ。
それも一つのビルごと。
移動先。
そこは巨大なシェルターであり多数の世界、多数の時代から多数の人間と多数の環境が救出されていた。
此方の了承もなしに?
それも当然、コイツは暴走していたからだ。
異世界どころかダイソナーよろしくの白亜紀からサムライ達の戦国時代、平行世界にエイリアン、
23世紀都市から宇宙戦艦。
おまけにドラゴンが火を噴く幽界までが引きずりこまれ、モザイクとなったとんでも世界になっている。
「やれやれ」
で、俺、織田信長はなんとか生きている。そしてこの世界を楽しんでいる。
洞窟を潜るもの。ケイバーの俗称であるスペランカーとして探索を続けている。
多くの未来道具、夢の叶う魔法のハイパーテクノロジーがあるこの世界を。
何よりメイドロボを手にれるためにも!
ちなみに同性同名の別人だかんな!