■閑話休題 目指せ秘密基地
■閑話休題 目指せ秘密基地
「ご主人様、朝ですよ。起きてください」
朝はメイドさんで起こされる。うむ。万願成就のシュチュエーションだ。
誰かが言った。
メイドさんとは主人より遅く寝るもので主人より早く起きるものだと。素晴らしい。
「もう少し、後五分・・・」こちらもお約束のリアクションを取る。
まあ眠いのは事実だが。
ジャゴッと聞きなれた音が耳に入る。ポンプアクション。
「!」反射的にベッドから転がり落ちる。
間髪入れずベッドシートに食い込むゴムスタン弾。ヘビー級ボクサーパンチパワー。
覚悟を決めていても食らいたくないね。
「おはようございます。ご主人様。しかしベッドが転げ落ちる程急ぐ必要はないと思いますが」
スカートを摘み一礼するケラスス。悪いがボケに付き合える余裕はない。
「殺す気か!」
なぜか再びジャゴッとリロードするケラスス。
「うさぎ様より、起きない場合はライアットガンの使用許可をいただきました。
御寝坊さんは折檻しろとのことでした」
嘘つけ!いや正確にはうさぎなら叩き起こせくらいは言うであろうが、
これはさすがにねえよ!たぶん。
「もう少し寝かせてくれよ」半ば、現実逃避気味にしつこくお約束を続ける。
「ワタクシもその手のプレイは嫌いではないのでお付き合いしたいのは、
やまやまなのですが、皆様がお待ちかねなのも事実です。それに」
ケラススはちらりと俺の左腕を見る。時計ではない、いや正確には時計機能と
IDの連携機能はあるが、それはあくまでおまけ。
「どちらにせよ。そちらの機能で起きる事になるのでは?」
コレはスケジュール強制バンドである。
自分の意識に関係なくプログラムされた行動をその時間に実行するアレである。
いやほら、俺は努力遺伝子も少ないからさあ。
ライザップで強制的にコーチングされるように尻を誰かに叩かれないとトレーニングも長続きしないのよ。
やれ、眠い。やれ、疲れた。やれ、心が折れた。やれ、明日から本気だす。
だからこの手のスケジュール強制マシンで朝のジョギングから、動的静的ストレッチスクワット。
格闘技の型の功夫に至まで全て、これで強引に身体を動かして肉体に覚えさせるのよ。
おかげでステータス的にはハイスクール生徒の平均以上は維持できている。
ちなみにこの手の強制機は意外と需要が多い。
正確にはユーザーは少数なのだが、使用中に自分自身が構築したスケジュールに逆上し、
強制機を破壊、再購入するからだ。
ちなみに、俺もこの強制機は三代目である。
メイジに頼んでギアスもありなんだけどね。
ピシッと皺一つなくクリーニングされた私服。
まあ、彼女が来てホームの整理整頓、管理維持は徹底されている。
ついでに食事メニューもバリエーションは増加されている。
「おはよ」既にリビングでは3人がコーヒーもどきやミルクで朝食タイム。
椅子に座るとケラススがするりとハムエッグとクロワッサンを出してくる。
フレンチ風にパンにコーヒーを浸して食べたいなあ。珈琲ないけど。
前回のクエストの収支決算についてだが、
豪華客船は最終的にはハルトパーティとの合同で漁りに漁り骨の髄までしゃぶり尽くした。
金銀宝石財貨は元より、衣類から家具、食器に至るまでむさぼり尽くした。
デテクトマジック発動アイテムの乱れ打ちで片っ端から神秘が籠った年代物も回収。
くノ一アンドロイドであるケラススはこちらの報酬。
まあ、ハルト達パーティの全滅の危機も救ったという事もあり、かなりこちらに有利な分配となった。
その後にギルドに報告。この時点でホクホクだったのだが、ボーナスがさらについた。
なんと船は丸ごとギルドに買い取られた。
スモール電灯で縮小されたソレは幸い見事に原型を保っていた。
街の工場へ回収されたソレは大改装中である。
大胆にも前線基地として使用するらしい。
まあ客船とはいえ船は船。ある程度のインフラは備えてあるし装甲を付け加えて重火器とセンサー、電子機器を
取り付ければ軍船もどきの誕生である。
まあアーガスとか大鷹とか言う商船空母あるしね。
後は適当な広い地形で縮小解除。展開させれば墨俣一夜城というわけだ。
リヴァの探索は半径100キロ近くまで展開しているが今だ外壁に到達したという気配はない。
攻略組と言えども万全な補給休息地帯は街のみであり、距離的に考えても中継地点が必要になる時期なのだ。
もはや伸びに伸びた補給線は横腹を突けばたやすく分断、崩壊する。
そこで、簡易ではあるがこの豪華客船をそのまま中継地点、RPG村として採用するらしいのだ。
運営も大変な事で。
まあこっちは大収益だけに問題無し。最高にハッピーで週末を迎えられるというものだ
そして週末。バリアーで隔離された状態のアーコロジーで嵐の晩餐をやり過ごす。
過ごし方は人それぞれだ。
新城さんはキャバクラ、うさぎはトレーニングルーム、飛鳥は惰眠。十人十色のライフスタイル。
で俺はと言えば。
「それで、メイドロボの萌え具合は?」
ハルトのイケメン眼鏡の声にはやや嫉妬を感じたのは気のせいか?
「…メイドロボでなく、くノ一ロボだ」こちらは思わず仏頂面になってしまう。
ここはメイドロボ喫茶。
成功したスペランカーが全財産でメイドロボを買いあさり、それを店員とし喫茶店を始めたのだ。
趣味と実益を兼ねるとは正にこの事。
常に常時4体稼働。フル稼働では6人体制である。
メニュー自体はケッコー高いがメイドさんを愛でられるという事もあり、
頻繁にその道の客たちが通っている。斯く言う自分もだ。
ランチとたんぽぽコーヒーでひたすら、制限時間まで粘るのである。
「いいよな〜。もう自分で目覚ましで起きなくていんだよな〜。起こしてくれるんだよな〜」
ライアットガンで起こされてみなよお前。
まあ此奴が冗談で口に出していると言う事はわかるのだが。
くノ一が変装したメイドなど、メイドとして認める訳にはいかないのだ。
「で、そっちは?」
「ん。予算は7割まで何とか到達。ただグレードを考えるとまだまだかな」
ハルトはするりと目の前の通り過ぎていくフレンチスタイルのミニスカメイドの
真っ白フトモモを愛でながら答えた。まあ俺も見ているけど。
「まあ、武装強化もいるしな。この間のボーナスは悪くないけど、修理費も
それなりだったしな。ニコイチでも出費が痛い」
ハルトは苦笑する。
気持ちは分かるな。
メイドロボ購入資金は重要だが、探索の為の費用と投資をケチっては本末転倒だ。
俺もハルトも共にパワードスーツ使い。金は飛ぶ飛ぶ。
まあ、それでも中堅メンバーで居られるのはそれの性能のお陰なのだが。
ギフテッドじゃないからね。
ああ、魔力臓器や直感スキルが欲しい。
「そういや、今朝、オークションにデイドラ系アイテムが出品されたらしいぜ」
「まじ?」メイドロボは人生だが、デイドラ狙いは文学だ。
「まじまじ。シェルター樹系らしいけど」
「ふむ、若返り系と抗老化アイテムの出展はなしと・・・」
画面を弄り情報を確認。
件のやつはこれか。
「求む。人工天使シリーズ。形式問わず。こちらはマンションごっこの樹を出せます」
・・・あからさまに怪しい。手乗り盆栽のそれは地面に埋めれば、即地下10階建の木造系マンションが
できあがる。まあ1日で枯れるのだが
オークションとは宣っているが実際は物々交換掲示にすぎない。
「求む。ライトノベル入り込み靴。こちらは重力塗料、若返りの薬だせます」
と言った感じだ。
要はモノポリーの交渉に近いのかな。
デイドラ。俗語だが神気取りの連中を揶揄と畏怖を含めてこう呼んでる。
要はその人外の力で人に干渉する性悪供だ、楽しいのはわかるけどな。
俺たちスペランカーがアイテムでクラスチェンジするケースや文字通りの人外がそうだ。
デイドラと呼ばれるにはいくつかの条件がある。
1、何らかの方法で自分の世界、アジトを確保してある事
2、何らかの方法で不老不死、不死身である事。
3、何らかの相対的な万能能力で人間達に干渉する事。
このリヴァー内のどこかに亜空間系でも結界式でもいい秘密基地を作り、
竜の血でも浴びて不死身になり、マテリアルプリンターでアイテムでも与えれば立派な亜神の誕生である。
ま、大抵はひたすら積みゲー、積み動画をクリアーしているらしい。
時が経つと秘密基地内部から遠見系のスクリーンで下界を愛でて楽しむそうだ。
気に入った人間を見つけるとアイテムや能力を授ける。
ようはアーティファクトや秘密道具を駆使した神様ごっこだ。
「誰にも内緒な、僕だけの秘密基地!」
冒険者の夢の一つだね。
ただ、大抵は、途中で変質するらしい。
少し前も、レアケースだが成功者スペランカーが暴走した事件があった。
時間停止系アイテムで自分の周囲を結界化し拠点作成。
抗老化剤の大量摂取で本人曰く体感時間で100年ほどゲーム三昧だったらしいが、突如暴走。
「新世界の神になる」と宣いながら、ドローンの軍団でオケアノスへ殴り込みをかけたのである。
まあ、向こうの時間停止アイテムは22世紀。
オケアノスの時間停止ブレイクアイテムは26世紀製。
なので勝負にもならず鎮圧。全財産没収の上に冷凍刑にされたらしい。
神秘はより大きな神秘に打ち消されるものだし、科学はより進歩した科学に打破される。
「あっ。買い手がついた」
「マジ?」さっきのマンションごっこの樹の話だ。
深く考えずにポチポチしたのか、それとも使えないアイテムをコンボで化けさせるのか?
興味はあるな。
1日しか効果が持続しないアイテムでも激レアの時間固定系でなんとかなるしな
でも、俺の個人持ちで出せそうなのってデラックス電灯くらいなんだよな。
とーぜん、時間制限付き。
「お待たせいたしました、ご主人様」
メイドさんが注文したオーダーをテーブルに置く。スマイルスマイル。
ああ癒される。
オムライス。定番である。まあ鶏の卵ではないのだが。
アートラテ並みのセンスで自分のディフォルメ笑顔をケチャップを盛り付ける。
まあメイドロボならではだ。調理系や芸術系のプログラムのお陰であろう。
さらに防犯用に護身術あたりもありそうかな。
ああ、彼女にマジカルエステちゃん級のパッチを当てて60分マッサージをして貰いたい。
いや性的な意味じゃなくてね。
その後はひたすら駄弁った。
互いのパワードスーツの余剰部品の交換から新規戦法の実用性。
遺跡で拾った新作アニメ(いやこの場合は旧作になるのか?)の話題。
エロゲー、此処で二次創作活動を頑張るアーティストへの応援企画。
絵描きスキルを脳内に焼き付ければ即、漫画家か?
マジックアイテムに秘密道具の新しい使い方。
そして気付けばタイムアップ。追い出された。
「んじゃな」「また」
まあ、結局。
お喋りいう娯楽は最強最大最高なのであろう。過去でも未来でも。いつの時代でも。
しかし俺もハルトも迷宮情報だけは、特に互いにパーティーが入手した情報だけは喋れないんだよな。
まあ、仕方がないのだが。
帰宅。
「ただいま〜」挨拶は基本と。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ケラススがスカートの裾を摘んで頭を垂れる。
「…」くそ、ときめいちゃったよ
「ときめきました?」ああ、クールに無表情でなければ降参してたよ。
「お帰り〜」リビングには飛鳥が居た。惰眠タイムは終了したらしい。
例の刀、ケラススが所持していたあれだ。がコードとスキャナー機械に陵辱されている。
「で、吸い出しは出来たの?」
ケラススからの情報が確かなら、コイツはそれなりのお宝なのだ。
彼女曰く
「テンプレなワンマンアーミー計画の1つです。
これにはとある剣鬼とまで呼ばれた人物の脳をスキャンしデジタル化した剣技が内包されています。
そのデーターを分析、トレース、補助のAIと組み合わせ、そのアドバイスで
素人でも超人的な戦闘能力を教育訓練しその能力を発揮すべく開発が進められた兵器です」
腰を駆使して腕と肩の回転運動で太刀を見事に鞘から抜く。
「刀の素材そのものは単分子、それを加工し高周波振動システムを組み込んだ斬撃も
可能としたそうです。運動中であるなら理論上は破壊不能です」
完成していればですがとケラススは付け加える。要は失敗作品だと。
まあ確かに客船での戦闘でその耐久度は証明されてるけどさあ・・・。
「壊れにくい棍棒と変わりなかったですね。こんな物を守れとは前のマスターにも困ったものです。
まあ、時間的空間的にもお別れしていますので後腐れはないのはいいですが」
当たり前だが、彼女もリヴァーに招待された口らしい。
刀を守りつつリヴァー内を彷徨っていたわけだ。
しかしまあなんだ。
「切れなきゃ意味ないじゃん?」それって用は鉄パイプと同じである。
「逆刃刀の使い手の飛天御剣流はお好きですか?」
剣聖スキルか剣鬼スキルでも持ってなければ使いこなせるか!
ギリで見取り稽古スキルがいるわ!
まあ、それでも破壊不能アイテムは価値があるので装備するしかないか。
「御隋に」ケラススは頭を垂れ、すっと両手で刀を差し出した。
そして今に至る。
「う~ん。見てもらったほうがいいね」飛鳥はたははと苦笑い。
俺はディスプレイを飛鳥の背後から覗き込む。飛鳥の体臭はいい香りと。
「なんだこりゃあ」
幾何学模様に、謎の曲線、ニンジャスレイヤーの俳句のような抽象的な言語プログラム。
思考パターン。
どう解釈しても剣技の説明とは思えない。
パコパコとページを捲るが内容は変わらない
「全部こんな感じ?」
「全部こんな感じ〜」
うむ、いいツッコミありがとう。イメージ映像のみなんてどんなプログラムだよ。
「高周波振動装置は?」
「ダメ。答えてくれないよ~」つまり壊れていると。
まあこれはあれだな、典型的な後世に説明する気がないタイプの天才だな
同じレベルにまで到達した剣豪でないと理解出来ないわけだ
ガッと行ってグッとしてハッとしろとか言うやつだ。
孫子みたいに後世の見る人の事を考えた教科書でないと歴史には残らんな。
教えるのが下手な天才アスリートみたいな感じたなのだろう。
(つまり、これガラクタ?)声には出さない。これを護ってきたケラススが怖いし。
「コストがいい小技なら俺の人間操り機にプログラムを組み込みたかったんだけどな〜」
待てよ、珍しく俺の頭に悪だくみが閃く。
カードゲームでオリジナルコンボの閃きの如く。
まあ大抵は机上の空論だが、やってみる価値あるかもな。実地テストあるのみだ。
「ありがとう、飛鳥」コード類から刀を外しIDを取り出す。
まずはコンボの材料を揃えんとな。上手く言ったらご喝采と。
なお、先ほどのデイドラアイテムのオチ。
マンションごっこの樹だが、このシリーズの予想通り。時間経過で消滅する。
高値で売れるor交換できる訳もなく、このままオークションタイム終了かと思いきや
どこぞの物好きが捨て値で購入した。
駄目元で購入したのか、新しい使い方を構築したかは不明だったのだが、次の日にすぐに判明した。
大手組がクーリエに任せて購入したのだ。
使用場所は恐竜天国、ダイソナーエリアの一つ。
予め決めてあるポイントでそれを使用。
…10階マンションが地下に完成。ただし使った場所は鉱山鉱脈の真上でだ。
一瞬で地下までの安全快適なルートが完成。
タウトナ鉱山の足元にも及ばないが安全、快適、最速の縦シャフトエレベータの完成である。
後は祭り。
マンションごっこの樹の外壁から横穴を伸ばし、マイクラよろしくレアメタルの大量掘り起こしである。
樹が萎れるまでひたすら掘り続け、ピストンでアーコロジーへ持ち帰り。
巨額の利益を得たのは言うまでもない。
大型エリアのみでしか使えないギミックだが、まあ使い方というやつであろう。
なお、マンションごっこの樹も、このイベント以降、一気に高値になったのは言うまでもない。