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  作者: あきんど
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■メイドロボを買おう

■メイドロボを買おう


アラーム音で目が覚める。

IDのディスプレイには10時。昨日は夜更かし過ぎた。

小破したパワードスーツの整備、先の事件での補修はなんとかなった。

爆風も大半は防げたのでメンバーの負傷も特に無し。まあ俺を除いた面々はlackが高いだろうしな。

が、来週のケイブ探索は打ち切りだった。

週間トレーニングもオフにして週末もゆっくりの週となりそうだった。

だから少しだけと思ってサイトを覗いたのが失敗だった。

ちなみに機体の修理や補修は難しくない。

これは俺が脳内スキルスロットに機械工学を選択してあるからだ。

必要な知識を脳内に焼き付ける技術。

故にスカベンジできたこれらのスキルデータは高く売れるし、スポーツ選手や格闘家の動画なども同様に売れる。

元々の勉学修行で身に着けたならば吸出しでそのスキルを売買する事も可能だ。

凡人なら3つ、まあギフテッドなら12と言ったところだろうか。

新城さん、飛鳥とうさぎは6。凡人の俺は3つだ。はっはっはっ。

すでに医療、機械工学で二つは埋めた。

残りの一つは予備だ。世界樹の滴はギリギリのラスボスまで取っておくタイプなのだ。

で、使うタイミング逃してクリアーしちゃうんだよな。

「しかし眠い」

掲示板で同志たちと白熱トークをやりすぎた。どのアイテムが売れるの?欲しいのか?

在来のアイテムに新しい使い方はないのか?

最近、発見されたという斬新な若返りキャンディー、赤と青で微調整可能のメルモちゃん。

オタク限らずオークションでお天井知らずのアイテムだになりそうだな。

オークションの上位に食い込むのが念写プリンターで自分の頭の中の山ほどある映像化したい

妄想画像をプリンアウトする正に最強アイテムだ。

もしもバーチャルポッドも人気だ。これはもしもこんな世界があったらとインプットするだけで、

演算、エミュレート行いバーチャルゾーンでその世界を実現する。

だがやはりメイドロボが一番人気と吠えれば、すぐさまバーチャルギアの最新18R解禁の

アイドルソフトで充分だという返し。

王様ゲームでリアル戦国体験で天下統一だとか相変わらずの混沌ぶりである。

そこがいいのだが。まあとにかく盛り上がってこの時間である。

腹も空腹を訴えている。常備してある水筒の水を一口飲んで移動する。

ここはアーコロジー二層のチーム用冒険者寄宿舎。

各メンバーの個室とガレージもあるので武器のメンテ保管には重宝している。

当たり前だが。三層より上にある民間施設区域には武器、秘密道具の持ち込みは一部を除き厳禁厳罰である。

軍、冒険者は二層を境に上に行くには入念なチェックとIDパスポートで互いに移動をする。

まあ、治安維持の面から見れば当たり前だが。

逆に、民間人、生産職が二層以下に降りる場合も同様の処置が取られる。

冒険者と民間人との差別ではない。ただ移動と検査に手間がかかるだけである。

現に冒険者の2割は2層の自分用のガレージで武器や装備を預けてしまうと上層へと昇りプライベートを満喫する冒険者も多い。

まあ、2か所を賃貸、購入するのは資金がいるけどね。

作戦会議室を兼ねているリビングに来れば先客だ。

うさぎが空気ピストル改の分解メンテ中である。

テーブルは工具やID、お菓子、ドリンクで丸々占領。

ソファーで胡座をかいて作業に没頭だ。

ガレージでやれよ。ヘッドホンから音が漏れる程の大音量。

ショートパンツにノースリーブのシャツ、見た目は大人、頭脳は子供だが限度あるだろう。

「ウィース」

対面のソファーに腰を降ろす。うさぎはようやく俺に気づいたようだ。

「おはよ」ヘッドホンを外し俺に視線を移す。

「一つ貰うよ」言いつつテーブルの、飛鳥の手製であろうクッキーに手を伸ばす。

原材料はダイソナーエリア辺りの原生林植物か回廊内のヒカリゴケであろうが、プラントにより原子レベルに

分解され炭水化物とグルテンに再構築された小麦粉と砂糖。

よく味わっても、ここに飛ばされる前に食べていた味とはまるで変わりがない。科学恐るべしだ。

「新城さんと飛鳥は?」まあ新城さんはいつもの行動パターンだと思うが。

「お姉ちゃんは惰眠をむさぼり中、新城さんはキャバクラはしごで疲れて寝てるわ」

まあ予想通りだ。しかし新城さん、報酬の大半はキャバクラにつぎこんでるじゃなかろうか。

飛鳥やうさぎも最初は呆れていたが今は傍観の極である。自分も含めて。

俺は冷蔵庫からソイジュースを取り出すとうさぎの真向かいのソファーに腰を下ろす。

朝食はこのクッキーで十分だろう。

「ねえ」

「なにさ」コイツに敬語という概念を教えることは諦めた。まあ外見アンバランスもあるしな。

「そろそろ上級の狩場に出向いてみてもいいと思わない」

「・・」俺はちらりと卓上のうさぎのIDの画面を見る。案の定だ。

冒険者ギルドのペーパーニュースだ。

内容は「青姫。フォートレスエリア世界線イオタ03のバーサーカーを撃破!」だ。コイツ触発されたな。

まあ気持ちは分かる。しかしあそこのバーサカーも撃破されたか。

バーサーカー。それはフォートレスエリアと呼ばれるエリアの入り口で陣取る固定配置モンスターだ。

警備ロボではあるが軍事用ではないかと思われる。

確か上級パーティーや軍の1中隊も退けた事もあるはずだ。

あいつが撃破されたと言うことはフォートレスエリアは今頃ごった返しだな。

一番乗りは青姫の権利だが彼女はソロだ。

それにスレイヤー専門でスカベンジやスペランは余り興味はないはずだ。

権利もマネージャー経由で売却済みだろ。

「行ってみない?フォートレスエリア」八重歯を見せる狩猟者に笑み。

まあねえ、俺もメイドロボが眠ってるという確定情報を握っていれば

意地でも茨の森をくぐり抜けて目覚のキスをかましたいけどね。

「バーサーカーが門番なんだぜ。エリア自体にどんな警備システムや罠があるかわからないだろう?」

「ハイリスクハイリターンよ。アンタ、自分の名前に恥ずかしくないの?」

だから同姓同名の別人だって、それに俺は武田信玄派なんだよ。

強さでなく決して自分の命をチップにしないで安全策を取る保守的なところが激しく同意だ(暴言)

俺のポリシーは基本、穴熊で隙があればズドン!

「あたし達は中級の上くらいには入りこんでると思うけど?」

お前や飛鳥、新城さんはね。俺は普通のモブだ。とは口にしない。

「おはよ~」どうやら飛鳥も起きてきたようだ。うさぎがヒートアップする前で助かる。

しかしうさぎは上昇思考がつえーよな。将来、コイツはいいキャリアウーマンになるであろう。

寝ぼけ眼で降りてくる飛鳥。

「おはようさん」俺が彼女の方を向いて挨拶すればお約束をかましやがった。

パジャマ上半身のみの格好である。下半身は結構白い太ももが丸見えだ。

ギリギリでパンツが見えないのが残念だ。

ゴリッと頬に何かが刺さる。うん、よく突かれるのでこの感触はよく分かる。銃口だな。

「目よ潰れ」

「日本語は正しく使え。目を潰れだ」

「なんの話~?」飛鳥は状況が飲み込めてない。

まだ寝ぼけているのかトレードマークのたれ目が一段とずり落ちている。

「お姉ちゃん、あぶない下着系アイテムの試着中?」

「ん?」飛鳥は言われて視線を落とす。

「わーっ!わーっ!」飛鳥は大慌てで部屋に撤収。普段からはとても考えられない素早さ。

うさぎはそれを確認してから俺の頬からゆっくりと銃口を下ろす。

「今日のおかずの場合は崩撃雲身双虎掌の刑ね」

やめてくれ!マジで筋肉痛で意識を失うんだぞあれ。それにチームメイトを汚すようなまねは・・

うん、漢の性だよな。とりあえず誤魔化そう。

しかし姉妹揃ってサービスがいいことで。

「飛鳥は脱ぎ癖なんてないだろ?」

「洗濯物溜めすぎて着るものがないんでしょう?皆の事より自分を優先すればいいのに」

ジト目で非難される。反論できん。さらに藪蛇のような気がする。

なにしろ飛鳥には後方支援ともいうべき炊事洗濯は任せっきりだ。

いまや俺や新城さんはパンツの洗濯まで任せている。

「ええと、お見苦しいところを見せました」待つこと30分。

オズオズと飛鳥がリビングに顔を出す。とっておきの一張羅で登場だ。

それしかないのかもしれんが奇襲を受けたからって総力戦はないだろうと思う。

「また相撲で徹夜?」うさぎの呆れたような声。

飛鳥はえへへへと笑う。

彼女の趣味は相撲観戦である。

「全盛期の千代の富士と全盛期の若乃花の取り組み。思わず、

三連戦やってもらって、録画してリプレイ繰り返してた~」

彼女が言っているのは秘密道具、ミニチュア大図鑑の話である。

これはミニチュアサイズの存在をその図鑑から取り出し研究できるというシロモノだ。

彼女はこれを悪用し、辞典に載るクラスの力士達を呼び出し相撲観戦に用いているのである。

ぼくのかんがえたゆめのかーど。が実現できるわけだ。

まあ、大図鑑に掲載されほどの有名人に限るが。

当たり前だが、この閉鎖空間では相撲は放送されていない。動画データのみだ。

というか、放送は基本、街が放送するニュース、情報番組1チャンネルのみで他はサイトも放送局もない。

ラジオ番組、チャレンジ精神豊富な動画投稿野郎もいるが数が少ないし広告収入も分母が少なすぎる。

ディスプレイはゲームで使うか動画データーを見るのが基本なのだ。

それすら飲み込まれる時にたまたま持ち込めたか、スカベンジしたもの傑作の最終回だけないなどはざらである。

故にビデオレンタル屋が発見され、個人的にどうしても見たい最終回作品があるならばオークションで

天井しらず間違いなしだ。飛鳥も発掘された相撲観戦データーでこの文化に触れどハマりした部類だ。

まあ、俺もエロゲー入手は苦労するけどな。

「切らしてる食材とか日用品とかあるから買い物に行こうと思うの~」

苦しい言い訳だなあ。おい。

「パジャマとか?」うさぎもツッコむ。

「違う、違うよ~」俺を見て赤くなるな。

うさぎは苦笑いしつつテーブルの上を片付け始める。

「待ってて準備するから」

「付き合ってくれるの~?」飛鳥はパッと微笑む。

「うん、買い出しだしね。色々買うからね。重いよね~」

うさぎがニヤニヤ笑ってこっちを見る。パシり荷物持ち催促来たコレ。

飛鳥も上目使いでこちらを見る。こっちは小動物オーラバリバリだ。

まあ普段の恩もあるしね。

「はいはい。ただ飯くらいは奢ってくれよ」

「もちろん〜だよ」「妥当な線ね」

ピコーンとフラグ(それも死亡フラグ系)が立った音を聞こえる才能がない自分が悩ましい瞬間だった。

女の準備は時間がかかる。

それはともかくなぜ外で待たされているのだろう?

ふと天井を見る。一面の青空だ。けど青空と雲は決して形を変えない。

なにしろ金属に色を塗ったものだからだ。

アーコロジーが建設され、多少のアーティファクトも発掘。多くの課題が山積みの中で

優先されたアクションがこの芸術作業だ。

絵の具、油、クレヨン、岩鉱など。青、そして白であるならあらゆるものが収集され、顔料にされた。

スカベンジした絵画や看板の青の染料を削りとる徹底ぶりだった。

1エリアの天井を丸々、青空ペイントしたことには感嘆の思いしかない。

人が精神安定としての青に飢える事も当然かもしれない。

それだけ空は人にとって心理的安定を与える重要行為かもしれない。

「お待たせ~」「行くわよ」

うさぎも一張羅に着替えたようだが、少し背伸びした女子大生にしか見えん。というか先輩キャラ?

ホント並ぶとどちらが姉貴だがわからんな。まあ口に出す度胸はないが。

武器チエックと魔力探知による検査を完了しIDを提示、上層エリアへの大型エレベーターに乗る。

警察機構は軍が管轄し、上層エリアへの密輸等も監視する。

裁判機構は運営の管轄だがボランティア組織がそのまま政府機構を受け継ぎ、社会機構としての体裁を

維持しているのが現状だ。

「ええと、小麦粉、蛋白質パウダー、洗剤、バッテリーは満タンだからOK・・」

飛鳥が買い物リストを復唱する。

「表通り、裏通り?」これはうさぎ。高いが信頼が厚い正規品か、安いが信頼が薄い非正規品のどちらの

市場に行くかという意味だ。初級の頃はよく裏通りのお世話になった。

裏通りの蛋白質パウダーは公然の秘密だが原材料はウジ、蚕の幼虫である。

これらを乾燥、水分を蒸発させ粉状にすれば栄養満点の蛋白質だ。味も正直悪くない。

ハンバーグ、メンチカツ、ソーセージとなんでもできる。後は固定観念のみである。

さて飛鳥の返答はというと。

「両方行くよ~」コイツ意外と合理主義者なんだよな。

炊事を任せた時の食事については原材料を聞かないことにしている。

精神安定所の為にも。

なんやかんやで上層に到着。

直径3キロの街並みだ。大型デパートや複合レジャー施設ホテルを連想すればいい。

まずは裏通り街から。

アーコロジーといえど。まだ物資の限界量からコンビニ、スーパー、デパートは維持できない。

表通り、裏通りの二カ所の拠点が基本物資の商業用施設だ。

後はネットオークションと物好きな雑貨屋があるくらいであろう。

裏通りも馴染みのある店で、ここで信頼できるものをテキパキと購入し表通り向かう。

十分とか言いながら今日特売の蛋白質パウダー買いやがった。ここのは安いからなあ。

うさぎも一瞬、エグい顔を見せるが我が儘は言わない。

しかしこの段階で大荷物だな。

ぼやきたいところだが、絶対音感の飛鳥の前ではな。

表通りは兎に鹿、鶏という正統派がメイン。

養殖鯉にオキアミ。貴重な魚蛋白質。こいつはチートだね。

オキアミは人工フレーバーを土台に味、食感も牛、豚、鶏のプログラムの発掘で食卓を賑やかにしている。

裏表で必需品を購入し馴染みの雑貨屋へ。

冒険の必需品。回復アイテムのポーション。漢字で書けば水薬を買う。

廃神はわざわざ、この辺にもランクを付けた。水薬、霊薬、神薬と効果が上がる。

順にポーション、エリクサー、アムリタと読ませる。すげーセンスだ。

魔術的才能があればポーション作成だけで暮らしていけるのは羨ましい。

触媒も自分の生み出す魔力と家庭菜園の薬草で十分らしい。

このコストパフォーマンスは圧倒的。

ナノテク治療アイテムはどうしても高く付くので回復系アイテムは魔法系のポーションが

市場を大きく支配しているのが現状だ。


「ようやく喫茶店へ〜キャンプインできたよ」

上層名物セントラルパーク。

ニューヨーク名物の中央公園のコピーである。まあふた回りほど小さいが。

映画やドラマと露出も多く資料も豊富にあるので再現は難しくなく完成した。

広いとはいえ閉鎖空間に違いないアーコロジーでは民間人を中心とした憩いの場だ。

見知らぬ世界で少しでも自分の知識の中のものがあると言う安心感。

露店でカフェインゼロのタンポポコーヒーとルクスロブスターもどきを注文する。

現状でコーヒー豆系のプラントやコードは元より種子も発見されていない為に珈琲は貴重品なっている。

故に発掘品はインスタントでも高く売れる。

最強クローンの西洋タンポポは天ぷらから代用コーヒーまで大活躍である。

飛鳥とうさぎは蜂蜜入りのソイジュースである。

後は養殖に成功したアメリカンザリガニのロール。

マットを広げ芝生の上でティータイム。

他にも人種は人族を中心に獣人、リザードマンなどが休憩を楽しんでいる。

話題は自然とフォートレスエリアへの探索の話になってしまった。

野外の空気の中では色気のない話だ。

うさぎはIDの画面に次々とパーティー情報と要塞エリア攻略情報を記載していく。

「昨日、バーサーカーが撃破されたばかりなのに、この情報量よ。

すぐに安全と保険を重視した攻略情報が蓄積するわよ。

そうすればあたし達でもリスク少なく潜れるはずよ」

どーでもいいが追加で頼んだ豆乳アイス食いながら演説すんなよ。味覚は子供、体は大人なんだよな。

「でも今より上を目指すなら装備の充実が不可欠だよね~」

ズルズルと追加の豆乳シェイクを啜る飛鳥。

俺達のパーティーの基本戦法はこうだ。前衛はツートップで俺と新城さん、後衛が飛鳥とうさぎ。

飛鳥がドローンと耳で索敵。エネミーを発見したら俺が囮で相手をできるだけ引きつけて時間を稼ぐ。

その間に近接戦闘アタッカーの新城さんとスナイパーうさぎがショートロング両方から倒す。

戦闘中は飛鳥が範囲監視、逐一に新城さんに報告。新城さんは戦闘状況で指示を出す。

戦闘終了後はお宝があれば俺か飛鳥がトラップを解体する。倒したエネミーはドロップという名目で

メンバー全員で解体である。荷物持ちは俺ね。以下繰り返しである。

1年間を生き延びてきた戦法である。正直、自信もある。

「もう少し私にガッツン力があれば良いんだけど・・」飛鳥の自嘲である。

飛鳥の武装は現在、歯磨きチューブ式のプラスチック爆弾とワンド、スクロールのみである。

前者も本人が使うことは少なく、新城さんが持ちきれない装備を持たせている感が強い。

後者は完全に切り札だ。滅多に使えない。

スカウトなら本来は光学迷彩やハイテク兵器でのアタッカーも兼ねるべきなのである。

お手軽なら魔法のスクロール大量ストックだが採算が取れないからね。

「それは俺も同じ。探索と罠解体は一応デキるけど精度が低いからな」

フォロー半分、本心半分だ。うさぎはともかく飛鳥は父性をくすぐるところがある。

まあ下心とも言うが。

「でもアンタのパワードスーツを買い直せば精度はすぐ向上するでしょう?」

「昨日メンテしたばかり、ジェネレーターやボルトの耐久度も十分だし各関節もまだ磨耗してはない。

対レーザー用のWaxはまだ予備もあるし穴埋め用のメタルパテも十分な量だ。というか・・勿体ない」

思わず嘆息。

「そりゃあ五号とは言わないけどせめてTー34が欲しいよ。俺の四号じゃ十分なジェネレーター出力がないからね」

ジェネレーター出力に余剰があればあるだけそれを装備に回せるのだ。

各種センサーや電算機へのパワー。レーザーやビーム兵器に至るまでだ。

電気量は性能に欠かせない要素の一つなのだ。

最新機体に乗ればそれだけでスカウトからアタッカー、スナイパーまで兼任デキるしソロも可能だ。

冒険者には魔改造でアイアンマンスーツに挑戦している猛者もいる。

「でもお金がない」正確にはメイドロボ貯金は崩せないという意味だ。

廃神は当然の権利だと言わんばかりに各パワードスーツにも名前を付けている。

それはいいが現役バリバリの中二病ニートオタが付けた名前である。

他の名前も察しもつくであろう。

パワードスーツは22世紀戦争で使われた兵器だ。

その世界線では北陣営と南陣営で多種多様なパワードスーツで派手にドンパチしたらしい。

廃神は新型がどこかでサルベージされるたびにコードネームを入力していった。

大量生産に優れ余剰設計スペースも持つスーツにはM4。

バランスのいい火力、装甲、機動性を持つTー34。

T-34をモデルにさらに進化させた五号。という風にだ。にわかマニア極まりだ。

とにかく矛盾に気付かずその場のノリでパワードスーツのみならずあらゆる方面にフロントランナーの

権利と称して名前をあてがっていったらしい。

なぜオタクはこのような意味のない名前付け設定に熱中するのであろう。俺を含めて。

まあ大体の強さが合ってるのがまたしゃくなのだが。

「とにかく俺たちがやる気でも、新城さんなら無理をさせないよ」

「ぐぬぬぬ!」まずい傾向だな。コイツ爆発するかな?14歳だけに反抗期的爆発をよく起こす。

ストッパーの新城さんがいないのが裏目に出たか。

「そ、それに対戦車ライフルとかもね。アンチマテリアル系兵器を入手してからの方がいいと思うの~」

飛鳥よ、それはフォローのつもりであろうが炎上の燃料を投下しているだけだ。

救いの神が颯爽と参上して欲しいところだ。

しかし、こう考えるとトラブルメーカーが現れるのが助っ人センサーの恐ろしいところだろ。

それはピクンとうさぎの耳が動くのと同時だった。

「飛鳥さ~ん♡」ティーン特有のソプラノ声と同時にグラップラー張りの側面からのタックルが飛鳥に決まる。

ゴロゴロと転がる飛鳥と仕掛けたティーン少女。

相手は誰かわかっている。

「牡丹ちゃん?」飛鳥が慌てて起き上がる。

「はい、そうです。先輩は相変わらず隙だらけですね♡」

髪型といい市松人形を連想するのは彼女が前衛のソードマンだからであろう。

兎のような小柄な外観だが、本性は牙を生やしたヴォーパルバニー系である。

二刀流ブレードの使い手で剣撃アマゾンシスターの通り名で知られている。

「相変わらずの妹で申し訳ない」

遅れてもう一人近づいてくる。

ゆるふわヘアーに草食イケメン面。

眼鏡のデザインが調和していないのは事情があるからだが外見通りにそれなりモテる。

許せん!が俺と同好のタワリシチでもある。共にメイド道を歩む同士なのだ。

名前はハルト。俺達と同じ中級冒険者だ。

「こんな真昼間に出会うとは珍しいな。探索中か休日ならいざしらず」

週の中頃にエンカウントとは。

こっちはゴブリン退治での損害故の休暇なのだが。

「そっちと同じ、事情があってね。ちょうどいいや」ハルトは肩を竦める。

既に腰を降ろし、飛鳥の隣に貼り付いた妹の隣に座る。

「今日の午前中で探索は切り上げてきたんだ」

ハルトは眼鏡をくいくい。実はそれがマジックアイテムであるのを俺は知っている。

というか、スペランカー達が身に付けるアクセサリーの多くはマジックアイテムだ。

定番の指輪、リボン、ネックレス、ピアス。宝石、アミュレット。

殺傷兵器系でなければ上層にも持ち込める。

なんらかの加護や能力向上を与えるこれらは流行りのファッションに関係なく身に付けられている。

大きなリボンやツインテールが多くても決して問題ない事なのである。

それは何らかの加護なのだから。

年齢的にきつくてもだ。

因みに、飛鳥もうさぎも髪に括り付けいる髪留めは矢避けの加護付きなのだ。

ないよりマシな装備だが。でもこの間のゴブリンみたいに効果高いね。

俺は速さの指輪+1ね。肌身離さず使っています。

100m走は1秒は早くなります。日常行動も少し稼げます。

ああ、ギャンブル場でのラッキーダイス系アイテムはジャミングあるからね。

「ここだけの話だけどな。俺らが近場で未踏の遺跡を見つけたと言ったらどうする?」

おいおい、それは漏らしていい話じゃないぞ。

隣を見なくてもうさぎがニンマリと笑うのが分かる。

「用件を聞こうじゃない」

これはやれやれな事になりそうぞ。


「豪華客船?」おいおいタイタニックとかじゃなかろうな。

「そうざっと調べたけど年代は19~20世紀年代、世界線は線、欧州の船じゃないかと思う」

眼鏡クイクイ

「フォレストエリアで素材探しの時に偶然ね。地面から突き出してた煙突を見た瞬間は何かと思ったよ」

中を少し調べた後は煙突を隠蔽。カモフラージュをした上で一度、撤収してきたそうだ。

理由を問えば。

「潜らせたドローンは兎も角、探知も出来ずに使い魔が食われた。

多分ゴースト系じゃないかとウチのメイジは推察してる」

まあ幽霊系はエリア内なら壁抜けできるしね。それで慌てて銀装備を整えていると言うわけだ。

ゴーストやスペクターなどには鉛玉は効果が薄い。シルバーウェポンか魔法の武器が効果が高い。

特効薬はやはり、僧侶のターンアンデッドだ。

なければ松明の火やスタンガンの電気でひるませる程度で、逃げるしかない。

科学兵器でゴーストにダメージを与えたいなら霊体が科学で再現できる23世紀以降の秘密道具が確実だ。

「まあ、他にもイレギュラーがあるんじゃないかと思うんで」

ハルトはにやりと笑う。

「合同での探索パーティを探してたわけだ」

なるほど、そしてここに手の空いた俺達がいたと。募集の前に遭遇したわけだ。

ハイリターンより確実なローリターン。草食系のハルトらしい。

合同ミッションはよくやるしね。

「そっち動ける?」

俺はうさぎをちらりと見る。ケッコー乗り気だ。狩人の本能か?

中々忙しい週末だな。まあ攻略組への背伸びよりかはいいかな。

「報酬はスカベンジした全取分の3割。レアアイテムは早い者勝ち?どう?」

「・・・条件良くない?」うさぎの意見ももっとも。

報酬はともかくレアアイテムが早い者勝ちとは少し解せない。

ハルトは肩をすくめる。

「20世紀のアルファ線世界なら科学系アイテムもそれなりだし、上手くいっても神秘が宿った

アンティーク系アイテムが一つ二つくらいでしょ?

それなら最初から換金目当てでリスクは回避すべきだよ」

石橋を叩いて渡るなあ。まあ冒険者は完全死亡率は低いがPTDSでの引退率は高いからな。

臆病くらいがちょうどいいのかもしれん。

「ところで、飛鳥先輩もそろそろ、入信しません」

そら始まった。うさぎからビキリという擬音を錯覚する。

ハルト妹は軍神を信仰するアマゾネス。要はパラディンである。

飛鳥もその才があるらしく彼女はよく勧誘してくる。

まあ、単純にラブリーというのもあるのであろうが。

「我が軍神の加護があれば癒しも浄化も思いのまま、戦いもより楽チンなのデス」

ハルト妹はキラキラお目々で飛鳥の両手を握る。

あははは~。と飛鳥は汗を一筋流して誤魔化す。

「勝手に身内を宗教なんかに引き込まないでくれる?」

あっ、コイツ尻尾が戦闘態勢だ。

うさぎとハルト妹は仲が悪い。

オオカミとアマゾネス。共に狩人。同族嫌悪なのであろうか?

いや、互いにシスコン拗らせてるだけではなかろうか?

まあ、関わらないのが一番である。しかし女でもモテるのは羨ましい。

惚れ系アイテムでも持ってたかコイツ?

ついでに言えば俺は飛鳥が軍神に入信しない理由を知っている

建御雷か野見宿禰の分け御霊と邂逅できるのを待っているからである。

「でも飛鳥先輩は、もう身内みたいなものじゃないデスか~♪。

ホントに飛鳥お姉ちゃんって呼べるのはいいと思うのデス」

にこりと歳相応の笑みを浮かべる飛鳥もまんざらでない顔。

「噛むわよ」

うさぎとしてもやはり姉には甘いたい年頃なのであろうがプライドの高さが災いする。

要は強情っぱりだ。

ただ、俺は正直、悪い話ではないと思っている。

ハルト妹が信仰している軍神。

というか神を信仰すれば僧侶の祈りが使えるのはお約束だ。

まあ憑依体質と信仰心。クレリックコードやパラディンコードが必要だけどな。

特に彼女が信仰する軍神は女性の場合、アマゾネスと称したパラディン能力が与えられる。

浄化の剣と破魔の矢をブンブンぶん回し傷を回復し攻撃できる。最高である。

ついでに言えば加護持ちのビキニアーマーも下賜される。最高である。

マジでうさぎか飛鳥、着てくれねえかな。

「牡丹も強引な真似はやめなよ。寺院での修行も考えればパーティー活動は難しくなるんだから」

ハルトもようやくフォローに入る。俺と同じく女同士の争いには関わらない主義。

だが、流石に空気を読む。

「話をまとめるけど、どうだろう?もちろん新城さんに話を通してからで構わない。

週末にはまだ日もあるし、いくら豪華客船といえど2日かければ探索も十分だろうしね」

ブーブー言ってる妹をスルーして話を進める。

「まあ新城さんも別にノーとは言わないんじゃない?」

こちらもシルバーバレットを持てばいいだけだしな。

新城さんにポチポチと相談連絡をIDへ送っておく。ホウレンソウと。

少し遅れて返答。しばし待てとの事。こちらも石橋叩きだなあ。

まあもう少しだべってれば返答もくるか?

ザリガニ味のルクスロールをパクリと運ぶ。ロブスターの味にはかなり近づけたそうだがまあ、

絶対味覚じゃないんだからこれで十分。

世間話とダンジョンでの情報交換に噂話。

実の妹とハルト妹はまるで奪い合うかのごとく互いに飛鳥に会話をなげる。

ただ飛鳥は器用にうさぎと牡丹。両名からの会話を天然で受け答え、見事に操作している。

流石はドローン使いと言うべきか。

マルチタスク並列思考はお手の物。

うさぎもそうだが、飛鳥も才能あるんだよな。牡丹が勧誘したくなる気持ちもわかるわ。

「とにかく、今のままでうちはバランスが取れてるのよ!。外からの口出しはやめてくれない?」

「でもスペランカーにヒーラーは必須なのデス。水薬や霊薬をガブガブ使っていては儲けも少ないデスよ?

優先度は射手より癒し手デス」

あからさまに飛鳥の腰に抱き付く。胸に顔をうずめるのは羨ましいぞ。

それにうさぎが静かに深く切れた。

「いいわよ」狼の威嚇の唸り声。俺もハルトも思わず腰が浮く。

「あたし達のパーティーの強さを見せてやるわよ!」

「そうですね。証明できるいい機会ですね」負けじと牡丹も不敵な笑みを見せる。

ツッコめる勇気は俺にもハルトにもなかった。

今後の勧誘をかけてのギャンブルの始まりだ。


「で、受けて立った訳だ…」

ホームのリビングに帰宅した俺たちは同じく帰宅した新城さんに事の次第を報告。

結果、オレとうさぎは頭に拳骨を喰らい正座中である。

「チップ一枚とか晩飯を賭けるとか言うのであれば止めはしないが、人事を賭けてのダンジョン攻略など

言語道断。遊びじゃないんだぞ!」

バン!とテーブルを叩く新城さん。マジ怖い。

「自分からプレッシャー掛けてマインドとスタイルを崩した状態になるんだぞ。

そんな中で命のやり取りをする気か!」

「しかも未踏遺跡!ハイリスクにも程がある!」

「あの~お茶が冷めますので一つ小休止で」

飛鳥は被害者扱いなのでお咎めなしだ。ズルくね?でも今はありがたい。

「・・・二人ともソファーに座れ」新城さんが苦虫を噛み締めながらお茶を啜る。

俺とうさぎは足の痺れの為、ゆっくりと刺激しないように慎重にソファーに向かう。

テーブルを挟んで新城さんと俺、飛鳥とうさぎが座り卓上のフォレストエリア情報に目を通していく。

「まあ済んだ事は仕方がない」

その言葉ににぱっとうさぎの顔に笑顔が浮かぶ。が新城さんが睨むと慌てて俯く。

「ハルトのパーティーは4人だったな?メンバーは入れ替わっていないな?」

「確か本人は万能型にした四号で、二刀流の脳筋妹とT-34型のパワードスーツ使い。

後衛はメイジ一人の4人よね?」

うさぎの問いに肯定する俺。しかしコイツ、ハルト達の事を根に持ってるな。

「超攻撃型編成だよね。前衛三人でガンガン肉弾戦を仕掛けてメイジが後衛でバフとデバフ」

「短期戦使用だな。専門斥候を持たず、どちらかと言えばスカベンジよりドロップ狙い。勝負がスレイヤー系の

攻略でないのがありがたい。確認するが勝利条件は1日の獲得金額が多い方で間違いないな」

新城さんの問いにうさぎが頷く。

モンスタードロップ、撃破数、サルベージに関係なく総合計金額で争うことで、うさぎと牡丹は納得している。

「あたしも武器を強くするね。ケースレス弾ライフルやレールガンは無理だけどプルパップ式の

やつならなんとか..」

「装備を更新しても慣らす時間はない。それよりも弾薬やグレネード。ポーション、スクロールを持てる限りのフル装備で挑んでくれ」

少しむくれるうさぎ。まあ新城さんの言うことはダンジョン攻略の基本だけどうさぎの言うような

新型装備で出撃も燃えるイベントなんだけどな。

「体調管理、装備のメンテナンスを徹底的に行ってくれ。トレーニングは今までの量で十分だ。

ハードワークは絶対に避けてくれ」

「食生活も気をつけるよ~。普段通りを心掛けるね」

新城さんは自分たちに指示をし終わると革ジャンを羽織る。

「少しばかり寄る所ができた。当日迄には戻るから準備を怠るな」

「なに?勝利への伏線貼りですか?」新城さんは苦笑しながら俺の頭をグリグリ撫でる。

「後は任せた。サブリーダー」勝手に指名してさっとドアをくぐって行ってしまった。

「..だってさ。飛鳥。サブリーダーとして当日までにやることまとめておかないと」

あえてボケてみよう。

「え?あたし?」お、イケるかコレ?飛鳥は押しに弱いからイケるかも。

「いや、新城さんは飛鳥を見てたよ。それに戦闘中で全体を見ているのも飛鳥じゃん。向いてるって」

これは正直な感想。俺にはそんな才能もないしね。

「無理!むり〜むり!」飛鳥はブンブン首を横に振るう。

拒絶感は強いがこのまま、たたみかけてそのまま押し切ろう。

「チョーシにのんな」ゲシッと右脛に衝撃。うさぎがテーブルの下を潜るように前蹴りをくれた。痛い。

「なんだかんだでアンタがこの中で二番目に実戦時間、探索時間が長いんだから。その経験を生かすとき

でしょう。アタシも手伝ってやるから、しっかりやんなさい」

まったく副将が勝負を決めるという名台詞を知らんのか。俺に任せたらエラいことになるぞ。

とりあえず晩飯食べながらミーティングになった。

「まあやる事はたくさんあるんだからさ。明日早速、スクロール系の補充から準備しないと」

「そうね。ポーションはあるけどね。他のはそろそろじゃない?」

「普段の冒険分はあるけどね~。アムリタは無理でもエリクサーも欲しいし採算度外視で考えるなら

倍は欲しいかな~」

飛鳥がIDを弄り装備在庫を確認していく。

予算が厳しい。三人同時にため息だ。

贅沢を言っている自覚はある。初級冒険者から見れば雲泥の装備なのだから。

森林エリアで小動物を刈り、ダンジョンの安全階でハイエナよろしく中級冒険者のお目こぼしを

拾い毎日を過ごした日々。

ある意味で懐かしい。

「まあ未踏遺跡だしなあ。お宝、レア品には出会えるから元も取れるとは思うけど。確率的に考えて」

楽観視はよくないが、この空気をなんとかしたかった。


さて草木も眠る丑三つ時である。

俺は専用スーツに着がえてパワードスーツに潜り込む。体をフィットさせてヘルメット状の頭部を降ろす。

通称は四号パワードスーツ。命名は廃神さんだ。

こいつは専用プラントが発掘され文字通りの大量生産が行われている。

初級冒険者パーティーにはかかせないアイテムだ。

そして当然、M4であるシャーマンも存在する。

M4は当時、もっとも生産された機体らしく。所々で発掘されている。

大破した機体でも三体ほど集めて部品共食いで一体にすれば貴重な戦力となる。

ニコイチである。

冒険者は初期のダンジョン潜りでポンコツでもガラクタでもこれが手に入るか否かで、

その後のパーティー面子とレベルアップ速度に差が出てしまう。

そして俺は入手出来なかった。

開き直って中古のパワードコスチュームに防弾チョッキや拾った装甲を強引に固定した。

強引に巻いた。強引に貼り付けた。強引にタンク役を頑張ったのだ。

そして一年。頑張って貯めた金で四号ワークホースを入手したのである。

そしてその記念となる一回目の冒険でM4を発掘したことを付け加えよう。確率よ仕事しろ!

ディスプレイを起動。音声、指、瞳での操作も可能。戦闘AIはかなり鍛えてある。

別にシャドウボクシングよろしくのバーチャル特訓する為に来たのではない。

いや言い訳はそれなのだが。

なんだかんだでこの強化服の電子機器はハイテクの一言だ。2000年代のスパコンなんて比較にもならない。

メラとメラゾーマくらい違うね。

エミュレータを使えばAppleのOSもマイクロソフトのOSもラグなく起動してくれる。

うん、まあ大量に入れたわけだよ。エロゲーからエロ動画まで。

なんだかんだで男の子の処理は大変何だなコレが。

で、こいつは長時間稼働が基本だから少しのカスタムで生理現象から白い液体までも処理

デキるようになっているのだ。

排泄物でもエネルギーに回されるエコ設計。

当然、音も臭いもシャットアウトである。

つまり完璧な個人空間なのである。股関節にある種のギミックをつけてあるので、はたから

見ればかりただの棒立ちにしか見えない。

外部からの情報をシャットアウト。

俺はもはや認識出来ないほどの大量のデーターの海からその日の心の琴線に触れるネタを探す。

うん、幸せだなあ。

で、30分。賢者タイムも終了して一息つく。いつもの習慣でガレージ内部をスキャン。

「!」肝っ玉冷えたね。いつからそこに居たのだろう。

うさぎが仁王立ちで睨んでやがる。

俺は深呼吸を一つすると頭部バイザーを空ける。それはバイクのヘルメットよろしく背後で固定。

「どうしたこんな夜中に?」落ち着け!俺にパニックという文字はない。

はたから見ればバーチャルでの練習にしか見えないはずだ。

「あんたこそ何してんのよ」苦虫を噛み締めているうさぎ。

「少し練習。体調とリズムを崩さないようにね。そっちは?」

大丈夫、脳内シュミレーションは何回もやっている、問題ない返答のはずだ。

「・・・言いたくない」そっぽを向かれた。じゃあ待ち構えているなよ。

俺はうさぎの視線を感じながら強化服の機能の電源を落とし脱着。というか抜けだす。

無論、消臭剤も忘れていない。

うさぎはビーストモード時程じゃなけど、鼻がいいからな。

わざとらしく欠伸をして眠気をアピール。

「じゃ、オレは・・・」

「雰囲気で聞いて欲しい事があるって察しなさいよ!」

コイツ面倒くせえ!

まあまだ14歳のJCだしな。見かけは大人、頭脳は子供。

「なんだよ。人生相談か?」

「・・・」うさぎはちらりとこちらを見たり、向こうを見たりと全く安定しない。

壁によりかかかるとズルズルと腰をはじめとする降ろし体育座りだ。

「昼のあたしのアレ。間違ってたのかな?」

勘弁してくれ。真面目な話、こちらに人生相談されても困る。こちらとまだ16歳。

しかもなんでも解決できるギャルゲー主人公のギフト持ちじゃないし道標系のアイテムもないのだ。

「・・・」兎に角、こういう場合は全面肯定だ。数少ない経験からの結論だ。

できる限りさりげなくうさぎの横に来ると壁によりかかる。

相手の目を見て話す度胸はない。パワードスーツに視線を注ぐ。

「いつかはこうなる問題だったんじゃね?この先もしつこく付きまとって来るだろうし。

飛鳥もガツンといえる性格じゃないしな」

「うん」うさぎの視線を感じるが無視しよう。チキンと笑え。

「それに勝てない勝負じゃないさ。うちもアタッカーから狙撃、探知とバランスはいいんだ。

普段通りやれば勝機は十分だし、新城さんが策を考えてくれてるさ」

「いいチームよね。あたしたち」うさぎの声に期待が籠もっているように聞こえる。

もう一声欲しいという感じかな。

「まだまだ伸びるしな」

さりげなくうさぎ見る。しかしコイツ胸あるな。立ってる俺から見下ろしているが谷間がすごい。

実はダンジョンの休憩中にそれとなく映ったお色気フェチ映像を録画編集した映像集が

あるのは内緒だ。

「まあ俺や新城さんも、飛鳥にもお前にも抜けられるとヒジョーに困るしな」

煩悩と罪悪感を誤魔化すように自分なりの決め台詞を用意する。

「まあ、アンタはあたし達のフォローが不可欠だしね」

うさぎはニヤリと笑う。少し調子が戻ってきたかな。

後はうさぎの一方的なたわいのないお喋りを聞いた。

マニュアル通りに右から左にではなくきちんと相槌を打つ。

新城さんが女にもてる為の基本だというが本当だろうか?

そして1時間。落ち着いたのか満足したのか彼女はようやく立ち上がる。

「信頼してるわよ。灰色熊とは言わないけどね」

「信頼してるぜ。シモ・ヘイヘとは言わないけどな」

と、返すつもりがうさぎはスタスタとガレージを去っていく。

我ながら切り返しの台詞が思いつくのが10秒遅かった。

「まあいいか」パワードスーツの電源OFFを確認するとガレージの灯りを落とす。

しかし今後も夜の賢者タイムは慎重に期さねばなるまい。


決戦の早朝が来た。

全員のバイタルチェックとフォーメーションの確認。武装から補給物資までの装備を整える。

ご安全に!

運営でダンジョンへの探索許可を得るとシティの出入り口の軍施設へ移動する。

自前の車両がないならエリア出入口までは軍が管轄する装甲車だ。

冒険、ダンジョン探索の基本。

まずは政庁で日帰りにしろ、長期にしろ探索許可を得る。

シティの出入り口の軍施設へ。

各行き先が決まった軍の運営する定期便バス(装甲車)か登録申請した乗用物で障壁外部のゲートへ向かう。

軍が管轄するのはここまで、基本、軍はエリアの出入り口の橋頭堡からは移動はない。

探索、発掘はあくまで冒険者の仕事とわりきっているからだ。

治安維持と防衛。エネミー排除と拠点構築。そして来るべきリヴァーへの侵入ミッションにこそ戦力を使うという考えなのだ。

現地で冒険者は活動をおこなう。マップ更新、冒険、探索と様々。

それぞれの収穫を積んで撤収。シティの出入り口で検問を受ける。

病原菌から没収指定品の確認などを行い装備を再び預けて終了。

後は決められた場所での収穫物を売買なり、整備工場での武装強化をおこなう。

その繰り返しだ。上手くいけば一攫千金で金持ちコース。豪邸暮らし。上を目指すならチート。

さらに上を目指すなら亜神コースだ。


既に出島の前にはハルトパーティーは到着済。ちなみに4名。

パワードスーツのハルト。担当タンク、アタッカー、運搬

パワードコスチュームの牡丹。担当はアタッカー

さらにパワードスーツ使いが一人。こちらはタンクと運搬メイン

メイジが一人。探知とバフデバフ。

ハルトと俺のパワードスーツは同じ四号型だが、俺は防弾ベストや大型シールドなどで防御型。

ハルトは装甲は薄目。速度重視で防御はラウンドシールドでカバー。

なんと魔法の盾で+2補正、電撃耐性あり。武装はメイスとプルトップマシンガン。

役目に応じた互いのカスタムである。

因みにスペランカーでもエキゾチックやエロチック、ぶっ飛んでるヒーローコスチュームがあるのは、

それ自体が科学や魔法の結晶だからだ。

通称はパワードコスチューム。略してパワコス。

牡丹の着ている魔法少女風衣装がそれだ。

前にも言った軍神の加護の服装。ビキニアーマー。薄手だが魔力による斥力場が防御になる。

ファンタジー世界での防御はあぶない水着、あぶない下着まで存在する。

実は飛鳥が愛用しているのだ。

神具も多く、これを作成した神々は絶対ギリシャ系、それもゼウス直系という事で満場一致がされてる。

アマゾネスに代表される伝説のビキニアーマーなどはその上に服を着る事などは許されない。

神具を隠すなどなんたる事ということらしい。性能が高いだけに痛しかゆしだが何考えてんだ軍神は。

ちなみに新城さんは科学式の全身タイツ式。

23世紀以降の特撮番組用の物などで、いかれた映画監督がモノホンのヒーロースーツを作り、

それで撮影すれば面白くね?

「という発想で誕生したらしい」

それはスクリーンでCGでもSFXでもない映像に観客は度肝を抜いたそうだ。

そりゃあ、加工なしにビルディングをひとっ飛び、弾丸をはじき返し、乗用車すら持ち上げる

ヒーローでも見れば拍手喝采だわ。

それらのスーツがヒーロー、ヴィランの物を問わずに多数発見されているのだ。

見た目の中二病要素か露出要素さえSAN値セーブに成功すれば、強力な武器になる。

まあ、新城さんはパワコスはインナーにしてその上に迷彩服を羽織っているのだが。

デザインはもっとも発見されているパワーコスチューム・typeショッカー。

先ほどの特撮番組で悪役戦闘員達が身に着けていたものである。

なにしろ、ヒーロー攻撃も本物だ。

斬撃銃撃火炎冷凍電撃キックを受けてもだえ苦しむ事無く死んだふりを演じる性能が必要になったらしい。

運営で把握したデーターでは南極、密林の踏破性能、アサルトライフル程度は無効化し、軽度のパワードスーツの怪力を持つとの事だった。

「今日はよろしくお願いします」ハルトはリーダーらしく新城さんに挨拶。

「よろしく」がっちり握手

周りを見れば早朝とはいえ中級、上級の冒険者はかなりまばらだ。

閑古鳥が鳴いている。

「皆さんはフォートレスエリア狙いかねえ」

バーサーカー撃破の話は広まっている。

大抵はそちらのエリアに出向くだろう。つかの間のバブル市場状態。

まあ俺たちはニッチ市場狙いだが。

新城さんとハルトで打ち合わせをしている。勝利条件の確認から報酬にいたるまで。

「今日は勝たせてもらいますよ」

ハルトの宣戦布告に新城さんは肩を竦めるだけだ。

出島を出れば後は各パーティの機動力での移動となる。

攻略組、大手なら装甲車から魔法の絨毯。もしくは安全通路に転移呪文で即移動だ。

こっちはそんな資金もアイテムもないので徒歩移動。

そもそもいつクリーチャーなどにエンカウントするかもわからんにだ

「さて行きますか」俺はちらりと背後の街を見る。

現在、オケアノスの中枢を司る量子コンピューターは元々は宇宙戦艦のメインシステムだったものである。

その船はリヴァーが喰らいその胴体部のみが転送。部屋丸々に押し込むように保存されたのである。

それを廃神チームが発見はしたのだが、飛翔出来なくてもそこは宇宙戦艦。

船のメインシステムのセキュリティは万全。

不審者にはレーザーの雨あられと無人ドローンでお迎えされたらしい。

廃神達は激戦の末に中央を制圧。船の無力化に成功。

ハイエナのように戦艦をバラしメインシステムであった量子コンピューターを持ち返り、

コードを書き換えてAIを説得し4シスターズ共々、アーコロジーの管理を任せたのである。


フォレストエリアに到着。

飛鳥と向こうの索敵役に周りをチェック。尾行なんていないと思うが念の為。

「周囲に味方IDも敵もいないよ〜。野生の狐さんと鹿さんがいるくらいだね〜」

「OK」ハルトの仲間のメイジが呪文を唱えれば、あら不思議。

大岩にしか見えなかった場所に巨大な落とし穴が姿を現わす。

煙突なのであろうが、ピットとしか表現できないな。

因みに幻術系は部屋の雰囲気変えからトラップ、そして今回の様な場所隠しとしても使える。

いい魔術だ。幻術最強?いつから幻術を使ってないと錯覚していた?

先陣にドローンと使い魔を飛ばし再度、橋頭堡を確認。

「煙突は途中でくり抜いて横道を作ってあるからそこから移動で」

さあ縄梯子と浮遊呪文で船内に侵入だ。

「鮫の亡霊のパターンはお断りだな。儲けがない」

新城さんの声も緊張を帯びている。

「現状ではレイスもいないよ~」

飛鳥がスワローに前進させて情報を収集させる。OK。いつものペースだ。

くり抜いた煙突途中から内部に侵入したが、近くには巨大なタービン。機関室だな。

「ハルト。この機関室を抜けたら左右に分かれて行動。それでかまわないか?」

新城さんの提案。

「はい。ただ強敵とエンカウントしたなら撤退は仕方がないとしても出来る限り情報共有をお願いします」

まあ、それが誘った理由だしな。

「情報収集でなくて、やっちゃっても構わないんでしょう?」

うさぎが八重歯を剥き出しにしてプレデターの笑みを浮かべてハルト妹を見る。

死亡フラグやめい。

でも、ハルト妹はうさぎを見てない。

彼女の視線は通路先、とそこに出現したモンスターを見ていた。

「!」俺の反応より早く牡丹が走る。

まあ俺はタンクだからしょうがない。

「前方にエネミー二体。ゴースト系」ほら飛鳥の反応よりも速いし。

飛鳥の自慢の聴覚もドローンもアストラル系には反応が遅いんだよなあ。

取り敢えず、これはアレだ。

「お手並み拝見だな」

そして今回の競争では重要なポイント源だ。

「お先!いただくデス」ハルト妹が疾駆する。

わざわざ用意してきたであろう銀刀。二刀流の剣使い。防御より攻撃重視スタイル。

低級霊という事もあろうが、閃光二閃。瞬殺である。

銀武器の効果だけでなく、彼女が退魔のスキルを持つパラディン系というのも大きい。

「じゃ、俺たちはコッチで」ハルトがシュッタと手を振る。

こいつもさっき、さりげなくポジションフォローに入っていたしなあ。

オマケに彼は強力アイテムを持っている。時を止めるアレ、タンマ時計である。

対象の時間を停止させるこれは医療から戦闘まで幅広くも活躍する。

味方が首チョンパや心臓を貫かれても、その瞬間に時間を止めれば取り合えずは死なない。

後はベースに戻り、時間凍結カプセルで待機させてる間に、準備したクローンパーツの外科手術で蘇生コース。

もしくは神様に癒しの奇跡依頼だ。

戦闘はいうに及ばない。

対象たる敵の時間を止めて爆弾でも取り付けるか、血の目潰しでもかけておけばそれまでよだ。

単純に背後に回って不意打ちが一番だが。

まあ対象物を止めるだけで空間は止めていないのでディオ様よろしくのナイフ投げはできないけどね。

言い換えれば、タンマ系アイテムで停止した存在は物理破壊不可能状態なのである。

「はあ」溜息しかでない。俺もチートアイテムがほしいよ。

少し遅れてメイジがトコトコ。ゴリラボディのT-34がドンドコと前進する。

武装は合金製の金棒。桃太郎とやり合うつもりらしい。

まあ、現実、金棒は強い。戦国時代でも刀槍と違いメンテナンスフリー。

城攻めの壁壊しから土木工作まで活躍したくらいだしな。

「まっててください。すぐにケリを付けるデス!」

去り際に牡丹は飛鳥に投げキッス。仲間たちを引き連れて客船の奥に侵攻していく。

「どーすんのよ。結構、差をつけられたわよ」

飛鳥は苦笑しているだけだが、うさぎは苛立つ。

「まあ、落ち着け」

新城さんは応じる気はない。懐から取り出した紙製の地図を見ながら念入りに方向と座標を確認している。

朝のブリーフィングの話ではスローターでポイントを稼ぐつもりのハルトのチームに対し、

レアアイテムの探索狙いと言うのが基本方針だということだが。

見つかるかはダイス目だろ?

「飛鳥、ドローンを先行。12時の方角だ。多分20mほどで下り階段があるはずだ」

なんか凄い事、言い出したぞこの人。


「前方20m、ゴブリン4体来るよ~」

おいおい、もう「壁抜け」してきたのかよ。

「チェック」×3

「シャーマンがいるよ!」飛鳥の声に恐怖がある。

ゴブリンの上位種、ゴブリンシャーマン。杖を持っているからすぐ分かる。

精神魔法を使う強敵である。主な魔法は眠りの矢、恐怖の矢、混乱の矢。

どれも抵抗に失敗したら戦線がやばいことになる。

「ぐっ!」言ってるそばからやられた。多分、眠りの矢。身体のどこかに当たったらしい。

矢と言うのはあくまで名称で目に見えないエネルギーの塊だ。

しかもコレ。近代兵器の装甲をすり抜けてくる!

睡魔が襲ってくる。セービングスロー!失敗。睡魔に負けました。

・・・ありのままに起こった事を話そう。

「!!」気付けば声も出ない強烈な激痛。筋肉がちぎれるんじゃないかという痛み。

涙目で前を見れば二匹のゴブリンが塵へと帰っている。

セービングに失敗して寝てたらしい。

そしてチーム内では自分が寝た場合は一つのルールがある。今、それが発動したのだ。

戦慄の自爆ならぬ他爆の電気スタン攻撃である。

何故パワードスーツにこんな物を付けたのか?

俺がいつ、眠っても、恐怖で動けなくても、混乱してフレンドリファイヤーを起こそうが

これで目が覚めるという寸法だからだ。

因みにスイッチはとある事情でうさぎが持ってる。こんな横暴、これ裁判でも勝てるんじゃね?

「起きた!問題ない!」アピール。宣言しないと二発目が来たことがあるからな。

AIのサポートで左横を抜けようとするゴブリンに盾バッシュをかます。

避けられる。今日はマジでダイス目が悪い!

でも倒れるゴブリン。うさぎのフォロースナイプだ。

俺はコイツのダイス目が悪いのが見たことない。ギフトファック!

ちらりと見れば新城さんは2体を倒しシャーマンへ距離を詰めている。

多種多様の未来世界の一つでは単分子ブレードやセラミックブレード、ヒートブレードによる装甲斬撃とマッスルスーツ系による超人的機動性は都市戦闘のセオリーを大きく変えたらしい。

基本は射程は神であり、敵に1mでも近づく事は死への所業。これが近代線だ。

新城さんいわく

「マラトンの戦いではないが、飛び道具の懐に飛び込む技術があれば戦術は変わるのさ」

だそうだ。

オリンピック級の速さ。体現通りに懐に飛び込む。シャーマンの詠唱より早くハルバードが喉を貫く。

まものの群れを倒しただ。素早くレアメタル回収。

「まあ幸先はいいわね」うさぎが呟く。

俺は良くないけどね。不味い展開だなこれ。

神様に祝福依頼か魔法屋でリスキーサイコロでも使ってくるべきだったかな。


新城さんがスタスタ歩く。索敵はしているが道筋に迷いがない。

まるで来たことがあるかのようにだ。

少なくても金品目当てと考えていた一等客室方面からは離れているようにも見える。

「ここだな」

扉を開ける。RTA速度で到着したここは書類の山と小箱のよう引き出しが壁一面。

そして奥に控えしは人が入れるほどの大きさの大型金庫だ。

思わず感嘆の声を上げる俺たち三人。

「この客船の金庫室だ。情報が間違いなければな」

「種明かしいいですか?」

まさか向こうの世界でこの船には因縁があったとか、ループで二週目とかじゃないですよね。

新城さんは肩を竦める。

「船ってのは意外とリスクが高い、沈む危険性もあれば衝突事故は頻繁だ。ついでに貧困国家の

海賊も現れる。だから大半が保険をかける。で保険をかける以上は保険会社は査定するわけだ」

新城さんがアイコンタクトで飛鳥を呼ぶ。解除よろしくと。

飛鳥は脳にロックスミス技能を焼き付けてある。

テキパキとピックツールと聴診器と音響センサー、AI予測でダイヤル番号を暴き出して行く。

無論、その間は俺が警戒を行う。

「査定の基準はなんだ?」

「航路とか船の頑丈さとかじゃないの?沈んだらやばいんだから」これはうさぎ。

「航路は基本だ。紛争地帯を通過とか掛け金も跳ね上がるしな。

じゃあ頑丈さの判断をどうするか。設計図だ。

国際級の保険屋には査定のために各時代の船の図面が保管されているのさ」

成程、見えてきた。

「で、今回は図書館と情報屋をあたって、クラウドやサーバーに眠る情報を片っ端から当たらせてな。

オケアノスにある限りの船の設計図を仕込んできた。船の構造はアジア式や欧州式などで区別すれば似通よる

からな。同一艦だったのはラッキーだが、天文学的幸運じゃないな」

「やり口が諜報機関ぽくないすか?」思わずツッこんでしまう。叩けば絶対埃出るなこの人。

研修とかでモサドとかにも出入りしてたんじゃないか?

「CIAも情報源の9割は誰でも手に入る情報だ。要は残り10%の分析力、使い方だよ」

ドヤ顔かと思いきや、新城さんが明後日の方向を向く。

「まあ情報屋とかツテの連中にはそれなりに謝礼はしたがな」ポソリと呟く。

聞こえなかった事にしよう。

「開いたよ〜」飛鳥がふうと額の汗をぬぐう。お約束でギギーッとゆっくり開いていく扉。

札束、証券、インゴットに宝石、装飾品。

悪くはない。札束や証券はほとんど不要だが、

宝石や装飾品は、美術品としても魔法具の材料としても価値は高い。

黄金は科学触媒からプラント材料としても言うに及ばない。

大収穫である。

「ベンジー。コピーは取っておけよ」

新城さんも声が軽い。

「周りの貸金庫もすべて開けるぞ。片っ端からだ。うさぎが周囲を警戒」

俺はアームで、飛鳥と新城さんはナイフで強引に開けていく。

こちらもいい。宝石、美術品は元より、銃だの短刀とかも出てくる。

紙幣束という外れも多いがあたりもでかい。

「これで勝ちだな。後は船長室と特一等客室を抑えて撤収するぞ。収入では追いつかれる事はないはずだ」

つまり勝負ありというやつだ。

「ええと、何とういうかコレ、達成感なくない?」

うさぎの言いたい事も分かる。

起承転結も盛り上がりもあったもんじゃない。

「達成感とか満足感を気にして戦争が出来るか?」

「・・・」うさぎも二の句が継げない。

これが新城さんの怖いところだよな。

俺もうさぎもハルトもそうだけど、今の今までこれは競争だと思ってた。

でも新城さんにしてみればこれは戦争であり、手段を選ばず目的を達成することなのだろう。

装備やフォーメーションは念入りに行うが、所詮は戦術思考。

新城さんのそれは戦略思考なんだろう。

下準備最優先。実際の戦闘なんて後片付けの段階だと聞いた事がある。

ふっと新城さんが笑った。

「行くぞ」

新城さんの背中を見つつ思わず呟く。

「新城さんに言わせると思考は合理主義7割で理想主義というロマンが1割で考えるのがいいそうだよ」

「残りの2割はなんなのよ?」

「空きスペースだって。システムは余剰を持つべきだそうだ」

「どこまで合理的なんだか」呆れるうさぎ。

「ええ〜でも新城さんはいい人だよ〜」飛鳥が会話に入ってくる。

「…まあね」

合理主義を謳いながら、根本は甘いと思う。

何しろこの二人は兎も角、凡人でしかない俺を見捨てないのだから。


Pipipipi

アラームが鳴った。でもこれはSOS信号だよ。

しかも近隣で誰かが要請したようだ。

「あれ?」思わず声が出た。

今このエリア、フォレストエリアにいる近隣のパーティーといえば一つしかない。

IDのディスプレイにはハルトパーティー名が告知されていた。

「はあ。ギブアップに早すぎない?」

うさぎの軽口。まあSOS信号とはいえ同意したくなるな。

「うさぎ、黙れ」新城さんのドスの利いた声。

文字通り尻尾を丸めた子犬のように大人しくなるうさぎ。

続いて振動が部屋を揺るがす。銃声も掠れ掠れだが聞き取れる。

「飛鳥、すぐに発信地点を確認してくれ。それと撤収ルートの確認もだ」

「ノブはドローンを追って先導してくれ。最悪、ミサイル類も使って構わん。既にアイツらは

全滅して信号機で誘き寄せられる可能性も忘れるな」

うさぎと飛鳥が絶句するが、最悪を想定するのもリーダーに責務だ。

「うさぎは64式に切り替えてくれ。発砲判断は任せる」

「行くぞ!」

心臓がいつもの倍の早さで心拍していると思う。ハルト達の安否とSOS信号を出させた存在への恐怖にだ。

正直、勝負がどうだとかは頭からすっぽ抜けていた。


「発信源はこの先の通路の先の広間から」

幸い、道中にトラップや伏兵は居なかった。飛鳥の情報を基に先を見通す。

シールドをかざしつつ全前進。中を覗けばそこは散々たる光景。

パーティールームと思われる一室だが中は戦場状態。

銃撃、剣撃、爆撃が暴れまわった後である。T-34 が両足破損し廃棄されているのが恐ろしい。

ハルト達はその端でテーブル類をかき集めたトーチカもどきに中いるようだ。

木製のテーブルは材質変換電灯で硬化させているのだろう。

牡丹の顔がチラリと見える。こちらに気付いているのだろうがエネミーの奇襲を警戒している。

ひたすら周囲をチェック、しかし敵はどこにも見えないし反応もない。

「出入り口は自分達がいるここを除けば二ヶ所だけだよね?」

タンク役の自分の隙間から慎重に新城さんは広間を覗く。

ハルト達と連絡を取りたいが無線に応答なく手信号でも気付いてはいるだろうが、

キョロキョロ周りを見るだけで反応してくれない。

どんな敵とやりあってるんだ?

「飛鳥とうさぎはこの通路で待機。俺がハルト達と合流する。援護を頼む」

姉妹はコクンと頷く。

「罠ですよね?」

「罠だな」新城さんが上唇をペロリと舐める。

ハルト達を囮に次の獲物をおびき寄せる気プンプンである。

まあ幸いにサーチの飛鳥とスナイプのうさぎがいる。悪い賭けにはならないはずだ。

「できる限り扉脇から顔を出すなよ」

新城さんは飛鳥からスモール電灯を受け取ると俺にハンドシグナルを送る。

意味はここを守れだ。タイミングを計りながらバチンとスーツの尻を叩かれる。

俺は入口で陣取って退路確保だ!攻撃来るなよ。

「GO!」新城さんが出来る限りの速さでトーチカに近づく。

頼んだよ飛鳥、うさぎ。マジで信じてるから。

しかし予想に反して敵の攻撃はない。まさか撤退した?

新城さんはヒラリとトーチカの中に入りこむ。

新城さんのバイザーを通して映るその中も酷いものだ。

メイジは両肩からナイフを生やし、ハルトも両太ももに見事な刺突傷である。

パワードスーツはどうした?取り敢えず脱着してスモールしたか。

もう1人もスーツからの脱出に成功したらしい。T-34使いに関しては足がぐずぐずだ。

これはヒーリング施設行きだろう。なんとか無傷なのは牡丹くらいだ。

「ノブは周囲を警戒しろ!」

「了解」少し前進。これで牡丹も余裕ができるはずだ。

「回復は?」新城さんが言いつつ懐から水薬と無針の注射器を出す。

通称は注射器。ナノマシンを封印した治療キットである。

「使いきったデス」牡丹はスイッチを幸いに水薬、注射器を受け取るやハルトやメイジの止血を行う。

「牡丹。状況説明。敵は?数は?」

ハルト達のパーティーを半壊させるなんてワイトか魔族でも出たか?

「ニンジャ。一人デス」

最悪じゃないか!声に出さなかったのは我ながら僥倖だと思うね。

道理で敵は見えないし牡丹もひたすら索敵を続けるわけだ。

死霊撃破でメタ張ったらハズレだよ。

「二人共、扉脇から出るな!」

「飛鳥。ドローンを全部出せ!360度だ!」

新城さんは一瞬で総力戦を始めとして判断だ。さすが。俺なら無理だね。

新城さんもうさぎも64式自動小銃を油断なく構える。

さらには銃剣として単分子ナイフを取り付ける。

「相手は光学ステルスだ。準備が出来次第スモーク撃って通路まで後退する!」

センサーを最大出力で使用する。パーティールームのような広い場所では隠形は不利な筈だ。

通称ニンジャ。光学迷彩持ちの戦闘アンドロイドの呼称総称である。

情報収集活動がルーチンの中心で、電子機器と見れば、あらゆる手段で情報を収集する。

ボディそのもののポテンシャルは俺の四号には及ばないが、

隠密重視と凶悪な戦闘プログラムがAランクの危険モンスターに認定している。

自力での活動エネルギー確保や相手の武器を奪う、使うなどは序の口。手直にあるものを武器にするわ

罠をかけるわで多くの冒険者は返り討ちにあっているのだ。

モノホンの忍者よろしく毒攻撃もお手の物。下手すれば毒手使いもいる。

23世紀前後のスタンドアローン兵器だと思われていて、ココでもエンカウント率は低いはずなのに。

「手口は!」新城さんが吠える。

「ヒット&ウェイなのデス!刃物をブンブン投げては消えて、紐付きグレネードを足にからませてきます。

油断してるとそれなりの間合いでも槍でブスリです。」

「ノブ!」言ってるそばから来た。

うさぎの警告も間に合わず右足にカラカラと何かが巻きつく。センサーが警告音。

ボーラだ。石を両脇に巻いた紐。足に絡ませて転倒捕獲させる事を目的とした飛道具。

今回のコレは両脇が石でなく手榴弾。しかもプラズマグレネード!

「最悪だ!」爆発、閃光で目が塞がれた。


あ、ありのままに起こったことをいうぜ。俺は閃光に包まれた段階で意識が飛んでいた。

気付いたときは爆発と思われる中心点で無傷で立っている。

パワードスーツもAI判定はノーダメージだ。超スピードや催眠術じゃない。

「今度は間に合った」

ハルトだ。右手には突き出した懐中時計。タンマ時計。

あれで俺の時間を停めて時間軸を取っ払ってくれたのだ。

時間軸がない物体は基本破壊不可能だから。

ラッキー!心の中で叫ぶ。マジで魂抜けでたよ。

「今ので電池切れ。次はないぞ!」

マジかよ!

「突然、右腕だけ出現しアレを投げた!」

「見つからない。見つからないよ!」背後のうさぎの苛立ちと飛鳥の泣き言。

獣人である二人の嗅覚、視覚と聴覚も欺瞞している。

「ノブ!飛鳥!うさぎ!退路を維持しろ!」新城さんの怒鳴り声。

いつもよりボリュームがデカイ。珍しく焦ってる?

取りあえず周囲を警戒しつつ新城さんがレスキューする時間を稼ぐ。

スモール電灯で負傷した三人をミクロ化し専門のカプセルに入れる。

これでカンオケ引きずって歩くという有名RPGにはならないで済む

「さて逃げ出すタイミングだけど」

いつの間にか中波したT-34が奥にありやがる。ニンジャに移動回収されたか。

「後でデータを回収するつもりだな」新城さんが舌打ちする。

ちなみに上忍機種はヒューマン系からも脳みそをハックして情報を奪って意識操作も可能である。

コイツが上忍でありませんように。

音も無くまるで水辺にいる水鳥を狙う肉食魚。現世に浮かび上がる刃。

また俺かよ。そんなにヘイト溜めてたか俺?

暗殺者の突き。足関節への装甲の隙間狙い。

「まあそう来るわな」いつに間に側に来た新城さんが器用に突撃銃でのパリィで弾く。

「戦闘はともかく、戦術ルーチンこなれてねえぜ。コスギさんよ」あれ俺、囮?

得物が見えた。

成程。槍でなく長い刀か?大太刀?斬馬刀だっけ?槍と見間違えるわけだ。

追撃でハルト妹が剣を振るうが虚空を切るだけで手応えはない。深追いはしない。

彼女はそのまま通路へと飛び込む。

これでパーティから退場してないのは俺と新城さんだけだ。

さてどーする?撃退するか、逃げるかだが。まあ少しづつ足は下がっているのだが。

再び新城さんが俺の尻を叩く。

「おいおい、ダンスの披露はこれからだぜ。こいつは三手先も読めないルーキーAIだ。

ここで仕留める。…それに」

「奴は裸足だ」新城さんが俺に向かいウインクする。

後で聞いた話だが新城さんはこいつがかなりやばい事は分かっていたらしい。

戦術が駄目でも戦闘技術は正に忍者のそれなのだから。

しかし既に逃げ腰の俺やハルト妹。浮足の飛鳥やうさぎ達をこれ以上意気消沈させる訳にもいかない。

かと言って退却したところで相手はステルス。犠牲が数人出ると予測したそうだ。

「嘘を信じさせなきゃならん。仲間にも自分にもな。リーダーの貧乏クジだ」

新城さんはそう苦笑した。


「奴は裸足だ」新城さんが俺に向かいウインクする。

ヴィランの台詞でしたよね。それ。

新城さんの声は真剣そのものだがいつもの口調だ。俺の脳がまともに回転を始める。

そして新城さんの手も見えた。後はタイミング。

まあ、囮やるしかないわな。タンクの辛いとこだわ。

「行くぞ!」

ジワリジワリと摺り足前進。マジで怖い。見えない攻撃は洒落にならん。

下がりたい恐怖を無理矢理に別の考えで押さえ込む。

新城さんの作戦、うさぎのスナイプ、飛鳥の索敵を信じろ。

俺は才能無いけど、あいつらにはある。だから大丈夫。

そして来た!再びボーラ。それも二つ。

一つは運よく構えていた盾に絡んだ。大慌てで盾ごとそれを放る。

もう一つは・・・。

「ジャックポッド!」

うさぎが見事に足に絡まる前に弾いた。神技だろコレ。

明後日の場所で爆裂するグレネード。

今がチャンス!

頭部ウージーを全弾、天井のシャンデリアに見舞う。目に付く天井には片っ端からだ。

降り注ぐガラス片と木片、インテリア破片。

断っておくが足にダメージを負わすわけではないよ。

ガラスと埃の新雪を汚す足跡。微細なガラス吹雪で浮かび上がる半透明なシルエット。狙いはコッチ。

そこに新城さん、うさぎのライフル弾幕が集中する。

何もない空間に弾丸がヒット。かん高い金属音。そこに波紋が浮かぶ。

衝撃に光学迷彩がラグっているのだろう。

ダメージはあったと思う。しかしうめき声一つ上げることなく、虚空からグレネード。

奴の足元に落ちる。一瞬で拡散する煙幕。

「ホント、忍者ね」呆れ半分、感心半分のうさぎ。

「飛鳥。Let It Go !」飛鳥は新城さんの指示で素早く腰のソレを取り出す。   

全員が扉を抜け通路に飛び込む。

飛鳥が切り札を切った。魔法のスクロールである。効果は我がパーティで現在、最強の氷の嵐。

炎系、雷撃系と違い延焼による被害拡散がないにが利点。

巻物の封を切り、書かれた呪文を読み上げる。

いつもの間延びした眠気を誘うテンポでなく、歌う様な旋律。

劇場は吹雪の嵐に包まれる。

氷塊が刃のごとく、砲弾のごとく吹き荒れる。

しかし採算度外視になるなこりゃ。ケッコー高いんだよなコレ。

嵐が収束すると同時に新城さんが切りこむ。うむ、情報の勝利だな。

初めから光学迷彩の奇襲を警戒し、ステルスを見破る方法をすぐさま実行。

相手の手口を確認しつつ後退して火力で圧倒。王道である。

凍結、氷刃、氷打の三大効果

忍者の光学迷彩は完全に破壊されたらしく、スーツの所々もパリパリと剥がれている。

丸見えだ。

「あれ?」違和感を感じた。

新城さんが氷の彫像向けて走る。長刀で迎撃に出る忍者だがこれだけの冷気にさらされては

刀の対単分子コーティングも死んでるしヒート兵器も高振動兵器も機能しまい。

このまま長刀ごとズンバラリンである。

金属と金属がぶつかり合う高周音。

新城さんの単分子コーティングをしたセラミック銃剣ががっちりと止められる。

鍔迫り合い状態。

「!」新城さんが驚愕。刀身ごとに切り裂くつもりが見事に真向から受け止められたのである。

忍者はその一瞬の隙を逃さず、手首の返しで新城さんを泳がせる。

重心が崩れた新城さんに三連突き?とにかく五月雨だ。

「ぬん!」新城さんはガードもしない。ライフルを宙に放る。

崩された体勢をそのまま活かした強化服パワーでの回転式ロシアンフック。

相打ち。新城さんは右肩を貫かれながらも前進し、忍者の側頭部へクリーンヒットを食らわせる。

ここでようやく、俺も動けた。思考と身体が再起動を開始する。

「牡丹ちゃん、こっちは任せた」後衛の護衛を任せると新城さんのフォローに入るべく前進する。

「「スイッチ!」」入れ替わりで前に出る俺。

その間にも新城さんは忍者に前蹴りを食らわせる。

その反動で肩に突き刺さった刀を抜きつつ後転で交代する。

忍者の光学迷彩のヘルメットが砕ける。

さっきの違和感がわかった。プロポーションが良すぎるんだ。小柄でボンキュバン!女だ。

「くノ一かよ!」人と寸分違わぬ造形、美人な小さい卵顔。

勘弁してよ。ドロイドでも女に刃を振るうなんてさ!やりずれえ。

ジャブの要領でヒート爪をチョンチョンと押し出す。ダメージよりも牽制と時間稼ぎだ。

しかしくノ一は楽々とパリィで弾く。

凍結攻撃、単分子ブレード、そして俺の超高熱攻撃。

多段で攻撃を受けているのに、コイツの刃はノーダメージに見える。

「なんだよ、あの刀!」思わず悪態が出る。

単分子ブレードは物理的になんでも切り裂く。対抗するには対単分子コーティングを摩耗破損させるしかない。

高周波ブレードは振動で、ヒートなら熱で皮膜を破壊する。

その為にアイスストームで露払いをしてあるのにだ。

ビームサーベルや地水火風を帯びた魔法の剣なら一目で分かる。

となると、レア素材のウェポン。オリハルコンやアダマンチウムか?

まさかの単分子の塊?

やばい、俺のスーツの装甲でも大切りバッサリだぞ。

ヒート爪が宙に舞う。ラッチ部分に刀身を突っ込まれ強制パージさせられたよ。

「くそ!」俺の腕固定武器では得物の手持ち使いには勝てん。

向こうは手首での小回り小技が使えるからなあ。

まずい、次の一手か二手で懐に入られる。こっちは盾もない足のランチャーのみ。

やりたくないがアレで行く。

AIに指示。

「はいや!」勝手に右腕が動く。それに合わせて身体も。

神速の右ストレート。

肺、脇腹、肩、足、アキレス腱、体全体が悲鳴を上げてる!

しかしコイツ、それを刀で受け止めやがった。

くノ一は刀身を両手で押し出すように前傾姿勢。

しかし両足で踏ん張るも後方へ押し出された。

まあいい、これで距離は取れた。

奴の刀はノーダメージ。鉄の拳を真向から止めるとはマジでなんだよ。あの刀は!

「だが、これで時間は稼げる」

これぞ俺の切り札。少林寺直伝。正拳突きである。

「切り札は見せないもんだがな」

無論、俺に近接格闘スキルはない。多少のノウハウはあるが素人に毛が生えたレベルだ。

言ってて情けないが俺の脳内スキルスロットはわずかに三つ。

すでに二つを使用済である。これ以上は埋める訳にはいかない。

ではどーする?自分の結論はこうだ。

なら道具に頼ればいい、外付けにすればいい。用は脳に強引に干渉するアイテムを使えばいいのだ。

例えば人間操り機。それを自分自身に用いる。

飛鳥にレクチャーを受けながら組んだプログラム。

達人の正拳突きと前蹴りをモーションキャプで取り込んだ。

それを人間操り機とスーツの自動アクション機能でー再現させているのだ。

しかも流派は、かの伝説の赤心少林拳!俺の持つレアデーターだ。

目押しタイミングという欠点はあるがそれでも強力兵器。

装甲服の関節稼働領域でできる限り、それを再現する。

故に俺の券打は免許皆伝の域に入っている!

ただ、身体は筋肉痛と筋を伸ばされの縮められので悲鳴を上げるわ。

肺と心臓は強制高速回数稼働で軽い呼吸困難になるけどね。

多分、関節八か所も同時加速しとるわ。

「しゃっ!」気合の声と共に前蹴り。くノ一を少しでも遠ざける。

さらにくノ一がしゃがむ。遅れて空気の切り裂き音。

「ざけんな!」うさぎが吠える。

好機到来のスナイプをなんなく回避したようだ。

くノ一が左右にステップを踏みながらこちらを伺う。

フェイントに注意しながら前蹴り!くノ一は一歩、いや二歩後退して躱す。

懐に跳びこまれないなら十分だ。前蹴りはK-1級格闘家のモーションキャプだが効果ありだ。

脚も迎撃されて切り落とされる事もない。

「でも、足が千切れそうだよ・・・」

しかしこれならいける、これを繰り返して時間を稼げば新城さんが回復する。

牡丹も加えて三人がかりなら確実に勝てる。

くノ一が一瞬、動きを止める。チャンス。

「だが断る」俺は自分の力量を理解している。勝敗は才能持ちに任せればいい。

凡人はサポートに徹すればいいのだ。俺はノブナガでなくて、モブナガなのだから。

AIの報告もダメージは関節部にやや負担があるだけバッテリーもまだまだ持つ。

左右にワルツのステップを踏んでいたくノ一が動きを止めて腰だめに構える。

「?」少し遅れて格ゲーのタメを連想する。居合?でも下段の構えで抜いてるし。

しかもすり足移動で俺と射線を重ねてうさぎのスナイプを阻害してやがる。

前蹴りで間合い確保と判断した瞬間にそれが来た。

信じられない距離からの突き。それも複数。追いきれん。

「右膝ジョイント。装甲損傷。」

膝に衝撃、遅れてAIからの報告。

どうやら多重突きで装甲を一点突破したらしい。

まずは機動力から封じてきますか!

「ノブ!しゃがんで!」

無茶言うな。そうしたらコイツ多分、俺を跳び越えてそっちに行くぞ。

しかもこいつはまだ、斬撃や居合も使ってこない。

さっきのでわかった。回避は無理だ。どうやら遊ばれていたのかな?

「嬲り殺しかよ・・・」乾いた笑いしか浮かばない。

とにかく時間稼ぎだ。それしかない。足のランチャーを全弾射出するか?

「ノブ!奴の刀は竹光だ。刃はない!」はい?

「嘘でしょ?」新城さんの声に思わず振り向く。

「硬度に特化した武器だ。外見に惑わされるな。打撃兵器と思え。先端は鋭利だがそれでも並みだ!」

疑問と謎解きが頭をかすめるが無視。今はその情報に藁をもすがる。

それなら打つ手はある。斬撃という選択肢を無視していいなら。

ジャンケンでグーが出るとわかっているならば。最悪、こっちは倒れてもクリティカルは与えられる。

「うさぎ。ライガーの準備!タイミングは任せる」

「っ!了解!」一瞬、逡巡したが了承してくれた。ガード重視のビーカブスタイルで前進。

来た!三連突き。今度は正確無比に関節とカメラ狙いだろう。

無視。これから使うパーツ部分だけを守る。

どちらにせよ、これは俺の最後の一撃。ケアヴェクの悪意みせてやんよ。

ガキン!と衝撃が耳につんざく。

メインカメラ、右腕と左内股に激痛。装甲の薄い部分に突き刺しやがった。

でも、遅い。人間操り機は強引に自分に決められたアクションを強要する。

強烈なGが身体にかかる。意識はあるが目の前が暗闇に包まれる。

ブラックアウトだ。

最後にくノ一の顔がばっちり見えた。チョー美人。無表情なクールフェイス。

思わず、パシャリとしたくなるが、うん、意識が遠くなる。

しかし俺、こんなに毎回、意識が遠くなって大丈夫か?


うさぎのレポート

はい、ここであの馬鹿が気絶したので状況を説明するね。

ノブが両拳を口に当てての、いないいないばあ。とにかくガードを構えて前進する。

もうアイツは攻撃をする気がない。なぜなら攻撃するのはあたしだから。

ノブが見ている映像をお姉ちゃんのサポートであたしのバイザーに映す。

なにしろノブの背中しか見えないから。ついでにあるトリガーキー貸してもらう。

獣人の集中力と反射速度を研ぎ澄ます。

相手の三連突き。見えた!後はタイミング。ノブの鎧が火花を散らす。

大丈夫。致命傷じゃない。

しかしあの馬鹿、相打ち前提の技なんて考えるんじゃないわよ!

タイミングはカウンターになってるけど。

「ハッ!」

リモコンでノブの人間操り機を起動する。

まずは、相手の突きに合わせるように、相手を数瞬止めるように、相手を崩すように右の軽い掌低。

それも腰を落としながら上から下に落とすイメージ。

元々相打ち狙いで仕掛けた技。見事にHIT!

くノ一の動きが止まったかなんて確認しない。

からくりノブは次の行動に入っている。

突きの打ち終わりと同時に全身回転運動で沈むように相手の背後に。

「フッ!」

背後に回ると同時に最速攻撃。背中での体当たり。パワードスーツのタックル。

くノ一がよろめく。そしてラスト。

「ホッ!」

無防備な背中目がけて全力の双掌打。

これが私の切り札。崩撃雲身双虎掌!

きりもみでぶっ飛ぶくノ一。

勝負あり、なにしろ破壊された部品も宙を舞っているくらいだ。

右足もちぎれ跳んでる。

ノブの人間操り機には4つのモーションがプログラムされている。

正拳突き、前蹴り、自分金縛り、そしてこの崩撃雲身双虎掌。

ノブは自分が気絶や催眠状態になっていいように保険でリモコン機能を付け加えておいたのよね。

「最後のは死んでも使わん」とアイツは言ってたけどね。

ノブのバイタルはブルーからイエローに切り替わっているけど心音モニターも

動いているから大丈夫でしょう。

「しかし良くやったじゃんアイツ」

やればできる子なんだから普段からアタッカーやるべきよね。

新城さんもそれ望んでるし。うん、明日からでもアタシが鍛えてやりましょう。

「オールレッド、オールレッド」忍者ロボットの突然の再起動。

あたしは、思わず64式を構えて駆け寄る。正直、パーツは惜しいが状況では大破させるしかない。

どこから声を出しているのか鳴り響く警告音。

「まずは感謝を」

ロボットはふんわりとほほ笑む。

「これでマスターからの無理難題オーダーから開放されました。正直、ゴールがないオーダーは

堪忍袋が青海湖より広いワタクシでも思考的にもメモリに負担をかけますので」

流暢なロボットね。

「次に謝罪を」

嫌な予感がする。これはやばいパターンだ。

「くそマスターの最終オーダーで妖刀の管理維持ができないと判断した場合は

ワタクシは破棄を名目に自爆するようになっております。

ちなみにワタクシの動力は核融合炉ですので自爆は核爆発となります」

理解するのに三秒かかった。

習性からロボットの眉間目がけてトリガーをしぼる。

「誘爆の危険がありますのでワタクシへの破壊活動はおやめください。堪忍袋は水溜りより狭い

ワタクシですので思わず、カウントダウンを早めてしまいそうです」

どうする?スモール電灯でこいつをミニチュアにする?

駄目だ。確か電灯のパワーでは弱すぎて爆発そのものを抑えられなくて爆縮とかで威力が増すはずだ。

どんぶらパウダーで地面に沈めても核爆発じゃ意味ないし。

いや、先にいつ爆発するかの確認を・・・。

「爆発3分前、皆さまには速やかな離脱をお願いします。

間に合うか馬鹿!

「飛鳥、うさぎ。それに牡丹!走れ!獣化してハルト達を咥えて離脱しろ!」

できる訳ないでしょう!

アタシは今回ばかりは命令を無視した。いや実際は結構な回数を無視してるんだけど。

一手、遅れるけど新城さんとノブを小さくしてからだ。

「退避をお願い致します」その澄んだ声は死神の宣告だった。


ようやく意識が回復した。くそ!この痛みは筋肉痛じゃねえ!筋肉断裂と刺し傷だ!

ファック!ファック!ファック!二度とやんねえぞこんな大技。

しかも起きれば、耳障りで骨まで響く警告音。何事だよコレ。

「爆発3分前、皆さまには速やかな離脱をお願いします。くノ一の声。

「退避をお願い致します」くノ一の警告。それで状況はピンと来た。

忍者名物、自爆戦法である。そこまで再現せんでもと思う。

なんだそれ!一難去ってまた一難かい!

せめて身元を誤魔化す為に顔を焼くぐらいにしてよ。

うさぎが新城さんのポシェットを漁り、スモール電灯を取り出す。

俺達をミクロ化した上で逃げ出す気だろうが、時間がないだろ?

いや、そりゃあ助けて欲しいけどね。ダメージで喋れないけど。

その時、視界の端で影を捉える。

飛鳥だった。普段のおっとりとは比較にならない俊足で仰向けに倒れたくノ一に近づくとダイビング。

そのままくノ一の首筋のプラグにコードを挿入する。

後日、本人曰く「見た?見た?かんっぺきな〜ぶちまかし~♪」だそうだ。

「いい加減、何度も同じ事を繰り返すの疲れるのですが。退避をお願い致します」

気のせいかな。くノ一の声には苛立ちを感じる。

「大丈夫!なんとかするから!」

飛鳥は高速でキーボードを弾く。

おいおい、まさかのハッキングでの命令削除かよ。

「ワタクシはバリバリの軍事用です。プロテクトは堅牢です。退避をお願い致します」

「馬鹿野郎共が!」新城さんが呆れながら飛鳥の横に腰を降ろす。

この人、仲間を、部下を巻き込むのを一番嫌うんだよな。トラウマレベルで。

「攻性防壁は五枚あります。アマチュアが突破できる訳が・・」

「一枚目!」飛鳥が高らかに宣言する。流石にくノ一もこれにはバツが悪い。

「二枚目突破。三枚目ももう少し。解除まで後、4分あれば」

「爆発まで後、1分25秒・・・24秒」くノ一の冷酷なカウントダウン。

「おいおい、お前の時計が遅れてるのか?」

新城さんがボケるがこの状況では誰も突っ込まない。

そもそも、俺も崩撃雲身双虎掌のダメージで口を聞けないしね。

ははは、こりゃあ不味いわ。泣き叫ぶか喚き散らす事もできん。

「うさぎ。なんでも言いからこの子の予備プラグに記憶媒体を差し込んで~」

「へ?」

「読み込みで少しでも演算装置の負荷をかけるの~」

口調のんびりだが手さばきは異様な速さ。まるで右手左手を別々にタッチができるピアニストだ。

「そんな都合のいいものがあるわけ」

うさぎがキョロキョロと辺りを見渡す。

「ノブのパワードスーツだ!」新城さんが吠える。

「あれには戦闘データーが山ほどある。あれを使えば」

流石!

「いや待て。俺のパワードスーツのデータだと」

それはつまり・・・

「OK!」うさぎがこれまた名前の通りの速さでスーツからコードを引っ張り出す。

洒落にならん。

戦闘データーはいいが、これにはエロ関係も山ほど入れてある。

それって事はつまりだぜ。ゴクリ。

新城さんと目が合う。ワリィと右手で拝むように頭を下げられる。確信犯かよ!

「差し込んだよ!」

まあ、確かに忍者系は情報収集をかなり上位に位置しているから少しはコンフリクトを起こす可能性はあるが。

「凄い、遅い、凄い、遅い~」飛鳥はきゃぴきゃぴはしゃぐ。

マジで?信じがたい事にくノ一は沈黙している。

まずい、エロデーターが吸い出されてる?

まさか、公開閲覧はされてないよな?

うさぎはともかく、飛鳥から生ゴミ見たいな目で見られるのは耐えられんぞ!

「ここで押すよ、押すよ、押すよ。もう前回し掴んでるからね。離さないよ〜」

テンションダダ上がりである。鼻息も荒いぞコイツ。

飛鳥の声だけが響く劇場。一同が固唾を呑んで見守る中、くノ一がようやくカウントダウンを再開する。

「爆発まで後34秒、33、32・」

「ちびっこギャング直伝。外掛け!」コイツもう意味不明な事を口走ってるな。

大仰な上段振りかぶりで人差し指を振り降ろしキーを押す。

凍りつく空気、静寂が満たす中、ようやく審判の天使が口を開けた。

「自爆命令は解除されました・・・まあ中々の腕前だと評します」

くノ一の態度は俺にも分かる照れ隠しの拗ねた感謝だった。

うん、じゃあ俺寝るね。と言うかデータ吸出しが夢である事を期待しての現実逃避ね。

目の前真っ暗。気絶しました。


「えらい目にあった」思わず独り言が漏れる。

後から聞かされたギリギリの処で阻止された核爆発の顛末。

俺はと言えば先ほどまで地母神の所でお布施を払って司祭からヒーリング。

ちなみに治療の方法ですが、分け御霊の神性存在ばかりじゃないですよ?

AI治療は最先端。

癌、白血病なども遺伝子エラー箇所を2000程ピックアップして人工知能に分析、

3分で病理を特定してもらえるからね。

これも志願した人体実験の方々のお陰である。科学万歳。

まあコスト面では魔法に分があるのだが。

AIと言えばくノ一はどうなったであろう?

俺も撤収中は完全に再起不能の棺桶状態。

スモール電灯で運ばれてそのまま寺院送りだったので経緯もわからない。

それになによりアレだよな。ばれているだろうか?

心拍数をいつもより多めにしながら我が家に帰還。

思わず扉の前で十字を切ってしまう。

さて審判の時だ。撤収の際の連絡でさりげなく飛鳥にはカマをかけたが反応はない。

彼女に嘘は付けないだろう。

いや、意外と何もかもわかって生暖かい柔らかい笑みを浮かべていた気もする。

神様お願いですから、吸い出されたデータは戦闘ルーチンのみであってください。

半ばの賢者の心境で扉を開ける。

「えーただいまお戻りなりました」尊敬語と謙譲語がぐっちゃだな。

「お帰りなさいませご主人様」

夢にまでシュチュエーションがそこにあった。

玄関前に佇みスカートの裾をつまみ一礼しているメイドロボ。

イギリススタイルのロングスカート。正統派の極みである。

整った顔立ちにメイド服でも隠せないボンキュバン。パーフェクト!

誰が購入した?それともレンタル?実は今回のミッションでスカベンジされていたとか?

たくさんの可能性がぐるぐる頭を回る中でそれらは収束され、答えを得る。

ていうか、顔で分かれよ俺!

「くノ一・・」

「あ、お帰り~」唖然としている俺に。ドタドタと飛鳥がリビングから現れる。

「具合はどう?今場所は大丈夫~?」

いや、そんな事よりコレは何よ?

「可愛いでしょ?」メイドの後ろから覗き込み、彼女の両肩をつかみ、ドヤ顔な飛鳥。

いやいや、そんな事よりコレは何よ?

「なんで、メイド服着てんの?」て言うかなんで家にいるの?修復してんの?

100歩譲ってパーティー参加でも忍者枠で変化球アタッカーでしょ?

「ん~。あれからこの子と色々と話して~」

飛鳥は頰に人差し指を当てながら空を見る

「本人が都市運営や売却よりも我が家でのご奉仕をしたいんだって。掃除洗濯炊飯まで

できるし。あっ、それとノブ君の四号スーツの修理メンテもしてくれたよ」

「後方支援はお任せください。皆様がケイブ探索されている際の管理はお任せを。

帰宅後の快適をお約束いたします」

くノ一は一礼する。

「・・・」頭が回らん。やばい。いや考えるのをやめるな。

「すまん、喉が渇いているんだ」そそくさと台所に移動する。

リビングではうさぎが、どうでもいいとばかりにライフルをメンテナンスしている。

「お帰り、美人が増えた感想は?」

彼女はニッコリ笑う。公定か否定なのかわからん。どっちだ。

これは機嫌を損なう分岐路だ。

・・・取りあえず笑って誤魔化して冷水で体を冷やそう。まずは思考の冷却だ。

冷蔵庫の取っ手を開けようとすると指を絡まれた。

うおっ!

「そのような事はワタクシがご準備いたしますので、リビングでお待ちください」

さらに間合いを詰められる。

「どうです?ご希望の従順なメイドですよ?」耳元で囁かれた。

思わずゾクリとする。無表情のクール美人系。

いやいやそうじゃない、そうじゃないんだよ。

メイドロボが戦闘するのはいいんだよ。ロマンなんだよ。

ただ諜報用のスパイドロイドがメイドをするのは違うんだよ。ただのリアルなんだよ。

小一時間説教したいところだが、

「いやそうじゃない」大事な事はなんでソレをコイツが知っているかだ。いやどこまで漏れた!

「ご安心ください。ご主人様の人格を疑われるようなHENTAIチックな情報は全て、このワタクシが

華麗に立ち回り、ワタクシ内部の記録回路のみで流出は停止させました。飛鳥様を始め皆様には

何一つ知られてはおりません」

くノ一は舌なめずりをする。

シュトロハイムは蛇に丸のみされる蛙の心境を…。

「お前、俺のこと、嫌いだろ?」

くノ一は口に手を当て大げさに驚く。

「はわわわ~」棒読みである。絶対わざとだコイツ。

「ご主人様を嫌いになる事なんてありえません」

わざわざ近づき上目づかいでこちらを見つめてくる。

「例え、この身に何度でも正拳突きや前蹴りの折檻を頂こうとも。か弱い乙女に中国拳法での

大技でお仕置きされようともワタクシの忠誠心に変わりはありません」

やっぱ根に持ってんじゃねえかよ!

「ただ、自己修復機能はあるワタクシですが。今回は困りました」

はあと嘆息するくノ一。

「光学迷彩は大破しましたし、下半身のオートバランサーはメンテナンスが必要です」

ロングスカートから黒ストの脚を見せつける。

「なにより最後の一撃が致命的です。ボディに受けるべき衝撃はできる限り流し受け、右脚に集中させましたが、

破損は免れませんでした」

「飛鳥様にマテリアルプリンタで義足は作っていただきましたが、あくまでも日常用。戦闘用には

調整されておりませんし、耐久度もございません」

「ちょっと待ってくれ。一体いくら掛かったんだ?」

ドロイドのそれもより人間に近いそれはオーダーメイドのパーツなれば価格は天井知らずにもなる。

「でもノブ君、電話口で言ってたでしょう?

女の子を傷つけて悪かったって。全額、俺が負担するから任せろって」

飛鳥が首を傾げる。

俺が支払うこと確定かい!しかもIDの登録データーから口座管理まで全部吸われてるよ!

精根尽き果ててリビングのソファーに腰を降ろす

「処でさっきから、くノ一とかメイドとか言ってるけど。名前はどうすんのよ?」

対面のうさぎが俺を見る。なんで俺?

「さっき電話で俺が決めるって言ってたじゃん」

言ってねーよ。なんだよソレさっきから。独占欲丸出し発言。ジト目で軽蔑されてんぞ俺。

耳に響くメイドの声。

「忍法、木霊返し。この声はご主人様にしか聞こえません」

マジかよ。いつの間にか俺の背後で控えているくノ一。

「ワタクシはご主人様の物ですので、名前を付ける権利はご主人様以外にありえません。

それ故に、声を複製し先ほど回線に侵入し、携帯電話から皆様にその旨を発信させて頂きました」

犯罪だぞソレ!メアドだけでなく、俺の声まで複製できんのかよ!。

「名前ですが、ラテン語で真面目を意味する語句にするのはいかがでしょうか?」

それを言ったら俺的には戦争だぞ!

いっそ、名前はBB8とかコズワースにしてやろうか。

顎に人差し指を当てて小首を傾げるくノ一。無論、ワザとだ。天然の飛鳥とは違う。

あざとい。あざとい。

もう精魂尽き果てたわ。

「・・・ケラスス」結局、密かに決めておいたネーミングを採用することにした。

「それがワタクシの名前ですか?」

ケラススは無表情に俺を見る。

うさぎがIDでぐぐってる。意味を確認するとニンマリと笑う。

ケラススもすでに検索は終えているだろう。

「よろしくお願い申し上げます」

ケラススはスカートを摘み深々と頭を下げる。

それは本当に本当に、夢にまで見たシュチュエーションだった。

ミッションクリアー報酬である綺麗なお辞儀、会釈だった。

「煩悩の一つは叶った。しかしこの叶い方は違うと思うなあ・・・」



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