■少数で多数を征するのは武人(笑)の本懐とロマンだね
■少数で多数を征するのは武人(笑)の本懐とロマンだね
[リヴァー]。それが俺達をのみ込んだコレの名前だ。
巨大な龍の外見をしているであろうコレは時空間を移動する。
通常は虚数空間移動を行っているらしい。
運良く運悪く現出した時間と世界で、その巨大な咢で空間ごと存在を収集、捕食する。
捕食された側は存在を情報単位まで一度分解されリヴァー内部の無数の保管庫で再構築される。
小は人の金歯から大は都市単位までだ。
現状で把握していることは
①コレが箱船よろしく生命、文化を保護する存在であること。
②コレが暴走していること。
③コレは暴走後も保護対象を集め続けていること。
④コレは過剰になっている都市面積級の各倉庫に強引に救出対象やサンプルを詰め込め続けているということ。
⑤コレは週に一度、捕食を行い対象を保護、ランダムに自分の内部を整理整頓を行うこと。
⑥リヴァー内部は小部屋大部屋多数の正方形の倉庫ブロックがランダムに配置され迷路になってしまった事。
はるか未来の高次元存在が、まあボランティアか何かで作成した時空間移動型のノアの箱舟もどきというのが
運営、自分達のホームである都市型アーコロージー[オケアノス]での見解だ。
この都市自体も、いくつかの幸運により誕生したものだ。
大抵の場合、人間はここに転移されるなり、水、食料、インフラ維持、そして防衛もできずに
ゲームオーバーとなる。
「事実、多くのスぺランカーは探検中に、滅びているいくつかの拠点やホームを発見している」
[オケアノス]に関してはいくつかの幸運があった。
何度目かも確認できない難民グループ。
追い詰められた彼らの前に現れたのが、只のヒューマン。
通称、[廃神]。メイドロボを従えたチートだった。
彼は奇跡的に[リヴァー]に食われた直後に、彼女らメイドロボを発見したらしい。
お約束の戦闘技能付きの彼女らを護衛に、探索を開始。秘密道具や魔法品を入手。
小さいながらも拠点を作った処で難民達と遭遇しRPGから内政ゲーに切り替えた訳だ。
まあルナティックモードだが。
幸いにチートアイテムは盛り沢山である。
それを駆使し次々と生命維持の為のシステムを生み出す。
メイドロボの反応炉で発電システムを構築。電気さえあれば、後のインフラは手順だ。
水に関しては既に発見されている超大型倉庫のフォレストエリアや恐竜万歳のダイソナーエリアから
回収すればいい。
難民達に科学者や、なろう知識持ち、魔法使いがいれば更にブースト。
酸素供給装置があれば水からいくらでも水素と酸素が生み出せる。
まあ重力と酸素濃度は完全維持されてはいるが。
工場での食料培養での最低限ではあるが飢餓解決。
保護された別世界の魔法使い達は本来は攻撃魔法である塩酸、硫酸系の魔術で化学アイテム製作のお手伝い。
挙句には分子変換装置の登場で大抵のトラブルは解決する運びとなった。
言い換えればリヴァーの内部は各時代各世界各文明各システムの宝の山だったという訳だ。
たとえそれが暴走し無尽蔵に秩序なくサンプル回収を続けたとしても。
問題はリヴァーが捕食した存在がこちらに再構築される際に、座標が重なった場合である。
「つまり、いつ何時に自分がいる空間に別の空間が重なってくるかわからないと言うことだ!」
ハエ人間として生きていけるならまだ幸運。最悪は転送先が岩場なら。
「石に中にいる」である。
まあ実際は、観測チームが空間を飲み込むであろう余波は感知しているし、そのタイミングには
街では時空間干渉を弾くバリアーを展開する。
統計では一週間に一度。通称、嵐の晩餐に関してはこれで対応できる。
大雑把に分けられたエリアごとに喰われた何かがこの牢獄に招待されるわけだ。
そもそも龍そのものはでかい。推定で1000キロ級。東京から札幌間である。
そして全幅も富士山級。これだけの巨大さでは船一つ村一つが転移してきたところで、直撃する
可能性など宝くじで一千万円より低い。
まあ怖い事は変わりないが。
廃神は、その後女神級とも言うべき3体のスーパーメイドロボを更にゲット。
最も古い馴染みのロボはフルカスタムでフラグシップに。
名実ともにチート無双の名を欲しいままにした。
この4体のメイドロボも如何にもなネーミングの4シスターズと呼ばれ、
[リヴァー]に食われてくる難民を保護すべく活動。
こうして紆余曲折。自給自足都市、アーコロジーである「オケアノス」を築き上げたのである。
当初は難民キャンプでしかなった場所は今や総人口は5000人。
単純計算、5人1家族で1000家族。うち900家族は都市機構維持。100家族がスペランカーとして活動。
その内訳は10家族がフロントランナー、30家族が中級スペランカー。
残りの60家族がルーキーやぬるま湯冒険者というわけである。
インフラ、特に電源供給は重力子をエネルギーゲインにする彼女達が交代で担当。
都市の2,3つは賄える核融合炉を超える電力パワーを供給している。
そしてもはやビッグブラザーともいうべき量子電算機が情報統制管理を行い、
4シスターズと共に産業、運輸、通商管理、裁判と治安を管理維持をしている。
まあ、軍もあれば選挙とその代表者もいるのだが。
物資のスムーズな交換移動の為に、疑似通貨を発行。
まあ単位が円なのは興が削がれるところだ。
ゴールドとかクレジットとかギルとかの候補もあったそうだが、廃神が日本人である事。
馴染みやすさと物資の価値単位のわかりやすさで決まったらしい。
いつかリヴァーの外壁にたどり着き侵入ゲートを見つけ、中枢に突入し暴走を止める。
あわよくば時空間操作を解明し元の時代に戻る。
それがリヴァーを探索する半数のスペランカーの目的だ。
「でも半数はこの未来道具と魔法道具を楽しめる世界に満足してるんだよね」
そして廃神はといえば、役割を終えた勇者は迫害されるのが相場。
だが、彼は街の管理を[軍]と議員。量子コンピューター、4シスターズに任せると自らは引退。
手持ちのプライベート閉鎖空間で惰眠怠惰スーツという最強装備を身にまとい、
お気に入りのメイドロボ達にルーティンで膝枕。
ひたすら居眠りと積ゲー、積動画、積漫画の日々らしい。
まこと、羨ましい。羨ましい。俺も必ずメイドロボを手に入れる!
で、その為にはスキル強化と資金蓄積と。
そして効率のいい努力を惜しむなだ。
「常に備えるのだ!」
「今度はどうだ?」先生の採点を待つ生徒。それが今の俺の立場。
向かい側に座る先生役の飛鳥。タブレットを見せて判定を待つ。
「う〜ん?ココとコッチのチャートが余分かな。少し絡まってる気がするよ〜」
何度目かのダメ出し。
ポリポリと頭を書きながらプログラムの再チェック。
「もう、お姉ちゃんに任せた方がいいんじゃない?」
背後で銃のメンテをしているうさぎがぼそっと呟く。
正論だが、器用貧乏でも限定型オールラウンダーを目指す俺としては譲れんのだ。
何より想像創造行為は楽しみなのだ。
黙殺して、再度プログラムを確認。
今回の冒険報酬で新しいアイテムを入手したのはいいが、使い方に難がある。
俺は一見、ネックレスのようなそれを見つめる。
オーガを撃破し、アーコロジーへ帰還した俺たち。
まずは運営にてケイブ内部でのお宝を売却。
目玉のミニチュア帆船、スモール電灯はバッテリーの残量次第だが平均的に高く売れる。
幸いまだ十分に使えるソレは高く売れた。
ボーナスが出た俺は早速、マーケットを巡りあるアイテムを見つけ購入したのである。
人間操り機。
操り系アイテムはケッコーある。
ガンド魔術系列の脱魂からの憑依式。
ゴムペッタンやシール、針などで相手に接触。魔眼でギアス。
取り付けた者の精神まで影響するフレンドリーコントロールもあれば、
単純に強制で人を動かすラジコン式、顔の表情だけを動かすものなどだ。
今回、オークションで入手出来たのは壊れかけのラジコン式のネックレス型である。
コントローラの所々も壊れており、中のプログラムもかなり破損しているとの事だった。
まあ、其れだけに格安でライバルもなく入手出来たのだが。一番人気は針タイプね。
エネミーに刺し易いし。わかるだろ?「自害しろ」の強制命令もサイコー!
其れを徹底改造中、いや徹底断捨離中なので有る。
壊れたコントローラで操作しようするから駄目で、壊れたプログラムを走らせるから駄目なのである。
つまり動かない部分と要素は全て削除。
基礎OSのみでギリギリで動く範囲のアプリのみにして使えばいいだけの話。
これでもスキルの脳内焼き付けで機械工学level3持ちである。
既に使い方は立案してあるのでお楽しみにだ。
そういう訳で借家ホームに戻った俺はマザーボードもある工房で早速、オーバーホールを開始。
暇を潰していた飛鳥とうさぎを巻き込んで改造中である。
尚、新庄さんはキャバクラ梯子中である。いい歳してよくやるよ。
「しかし如何せんエラーが多い」
集中も切れるし飽きて来る。
ちらりと飛鳥を見れば、鼻歌でコツコツと藁を編んでいる。
もとい、藁でのミサンガアクセサリー作りだ。
ただの藁ではない。
わらべし長者。
因果律操作で御伽話通りに交換を続ける事で最終的に自分が望むアイテムを手に入れる事ができる
スーパーアイテム。
しかしこのリヴァーの中では因果律操作の交換条件が揃わないのか、中々発動しない。
簡単なトレードなら直ぐに発動するのだが、閉鎖環境で有るココではフラグも立ちにくい。
其れでも飛鳥は発動を信じてミサンガ状に編み込み腕に括り付けている。
それを見るたびにこの姉妹二人との出会いを思い出す。
元々は新城さんのパーティは4人ではあったが、飛鳥とうさぎは居なかった。
リヴァーに喰われた際のアキバでのオフ会で参加していた新城さんもココに招待されていた。
彼を中心にその会場にいた新城さんと俺、他の2名で徒党を組んだのである。
戦闘、サバイバル技術はすべて新城さんが教えてくれた。
俺は脳みそ焼き付けで機械工学を身に着け、パワードスーツのタンク役に。
正直、新城さんは自衛隊。それもトンネル企業当たりの資金で賄われているシークレット特殊部隊か
Sか何かの出身でないかとにらんでいる。
本人は自衛隊出身という事以外は話はしないが。
で、順調にトップ集団に食い込めるかと言う時に、大きな仕事でのイレギュラー。
俺は兎も角、残りの二人はそのイレギュラーイベントでPTSDが発症。
残機も全て失いスぺランカーを引退してしまった。
幸い、二人とも命に別状はなく健康そのもの、それなりに貯めた資金で今では生産職として
第二の人生を歩んでいる。
ただ、新城チームとしては文字通りの戦力半減。
新たにメンバーを募集せざるをえない状況となってしまう。
ところが新城さんときたら有名ソロプレイヤーや他チームからの勧誘は考えずに一から育てると言い出した。
まあ、俺みたいなド素人を育てる精神的余裕があるくらいだかね。
その内、理由を問いただすかな?
そんな訳で冒険もしばらくはお預けで生活費稼ぎのアルバイトミッションがしばらく続いた。
そんな中で知り合いから頼まれたハイポーション作成イベントが発生。
必要素材も各フォレストエリアで、それなりに採取できる植物アイテム。
手間賃程度の報酬だが、恩もあれば義理もある仲だ。
俺と新城さんは念の為の転移スクロールを装備して採取に向かった。
採取そのものはすんなり終わり、さて帰還しようとする時に、それを聞いた。
獣の遠吠えと絹を引き裂く乙女の悲鳴。
近くに味方認識のID反応はない。
つまりは罠かリヴァーに連れてこられた遭難者というわけだ。
俺が思考を進めて答えを出す前に新城さんは既に走っている。
現場に到着すれば火を噴くワン公、定番のヘルハウンドの群れに襲われた獣人と狼だった。
戦闘そのものはすぐに終了した。
漂流者保護は金銭補填もある。遠慮なく弾を気にせずスメル弾で犬を麻痺。
後は新城さんのハルバードと俺のパワードスーツの怪力で撃破。
楽勝である。
そして邂逅したのが、人が騎乗できるほどの狼モード中のうさぎと、その首元にしがみつく飛鳥だった。
「こちらを威嚇するうさぎは怖かった」
狼に変身していたうさぎは正直、飛鳥がティムしたビーストだと思っていたわ。
その後は運営に連絡を取り被災者を発見、救助要請。
そのまま護衛役を兼ねてアーコロジー帰還。
彼女たちは現在の状況説明を聞いた上での体内スキャンや病原菌チエック。
軽い心理テスト、魔術と呪いのディスエンチャントを行い、市民IDを発行。
後は2週間の猶予が与えられ、職の選択を迫られるだけ。
生産職、管理職として都市内部で貢献するか、冒険者として貢献するかだ。
能力は問題ない。
脳内焼き付けスキルで職ノウハウをインプットすればいいだけだ。
ただ、ここで少し問題発生したらしい。
うさぎだがホームまで戻る道中はずっと狼スタイルのままだった。
その時はこちらを警戒していたのかと納得していた。
しかし後から聞いたのだが人間形態には自分の意思では戻れないらしい。
心臓の持つ病気とその負担からくるのがその原因だとか。
運営側で認識している獣人は獣耳と尻尾という型が基本。
うさぎのような変身能力を持つのは獣人でも珍しく、太古の獣人が持っていた能力らしい。
要は先祖返りだ。ただうさぎは変身能力は不安定で無意識、興奮状態で姿がかわるらしい。
検査の結果は心臓と一部遺伝子に不具合があるとの事。
心臓の病と変身を安定させる事はできるが、副作用の可能性あり。うさぎは迷わず治療を選択。
結果、当時12歳の彼女は治療は成功し変身能力を操作できるようにはなったが、
一気に推定年齢18歳に成長してしまった。
うさぎはこれで安心して生活できると気にしてない様子だが姉である飛鳥は違っていた。
数日して、我らがホームへのドアのノック。
開ければいたのは飛鳥。
スぺランカーになりたいのでパーティーに入れて欲しいと言うわけだ。
妹の事情を話し、目的は若返り薬の入手。
彼女も新城さんのある噂を聞いた上での判断だ。
だから、飛鳥の藁ミサンガを見れば願い事はすぐにわかってしまう。
新城さんはニンマリ笑いながら、了承した。
どこぞの人妻さんかアンタは。
そしてお約束なのか、豪快に叩くノック音。
誰かは大凡の検討はついた。
ある意味で人間形体のうさぎとは初めての邂逅である。
そしていきなり襟首を掴まれた上で朽ち木倒しからの変身。
狼モードでのマウントポジションを取られ首に軽く甘噛み状態。
我ながら自慢じゃないがパワードスーツがなければこんなもんだ。
「お姉ちゃんを返せ!」
今でも思う。飛鳥よ、家族にはせめて嘘でもいいから行き先連絡と、帰るコールはしろ!
助けもせずにケラケラ笑う新城さん、慌てる飛鳥。
ろくでもない出会いだった。
おまけにヒューマンモードになれば当然、服も破けているので俺の私服を貸し出すはめになる。
飛鳥がうさぎに事情を説明するも今度はうさぎもスペランカーになると言い出す始末。
のほほんとした飛鳥が声を上げて怒ったのはこの時だけだ。
「危険だ」「ヤクザもののすることだよ〜」「ブラック企業」「エッチな身の危険もあると」
そこまで言わんでもいいだろう。
そして全部、ブーメランで自分に返ってきた。話は平行線だったが、
新城さんはすったもんだの末に飛鳥を説得し、うさぎを加入させる事にした。
「まあ手元で見ているのが一番の安全さ」という事だ。
後は純粋培養、短期育成。
格闘、銃撃、隠密などの軍隊式トレーニングの後で二人にポジションを確認。
まあ、我ながら可愛い後輩ができるとルンルンだったが、現実は甘くない。
二人とも十分なスキル持ちだったのである。
飛鳥は反響定位。コウモリの持つあれだ。
本人曰く音の反響である程度の映像がイメージできるらしい。
うさぎは絶対色感。信じがたいが夜目が赤外線レベルらしい。
姉妹揃ってとんでもない事だ。
ちなみに新城さんはクロスドミナント、両手利き。
俺を除いて全員、特殊能力持ち。
「ずるくない?先輩の立場なくない?」
ついでに言えばスキル焼き付けの可能な脳内スロットの数も三人とも常人以上の数が焼き付け可能だった。
俺は3個と平均点なのに。
・・・先手を打って、堅苦しい敬語もなしにしようとさりげなく伝えておこう。
まあ、その後は元々のタンク系の俺。
アタッカーの新城さん。
索敵能力の高い飛鳥がシーフ。
視力がチートのうさぎがスナイパーという組み合わせができたわけだ。
組んだ当初は色々とトラブルがあったが、いつの間にか早1年。
中級冒険者の位置には返り咲いている。
ゴツンと後頭部を銃口で押される。
「どこ見てんのよ」
回想にふけるあまり飛鳥を凝視していたように見えたらしい。
ここで「いやいや、中々豊満だな」とか言えればいいが俺、チキンだし。
「考え事だよ。チーム組んで一年は経過したなと思って」
うん、人間、正直が一番だ。
俺は再びプログラム構築に集中する。せめて起動できる様にはしておきたい。
準備は怠るべきではないのだ。いつイベントが起きるかはわからないのだから。
ただどんなイベントが起こるかはわからないのだけどね。
「戻ったぞ」新城さんだ。声が荒い。
ドカドカとリビングに現れたが不機嫌を隠そうとしない。
「あれ、午前帰り?なんかやらかした?振られた?」
新城さんは無言でうさぎの頭をコツンと 、叩く。
舌出すうさぎ。
「あ、今。お茶いれますね」いそいそと飛鳥がキッチンへ向かう。
「いや、いい。それより仕事だ」面倒くさそうに後頭部をボリボリかく。
ああ成る程、キャバクラでいちゃついてる時の仕事の連絡か。
不機嫌にもなるわ。
しかし週の後半に入っての仕事という事は運営の緊急クエストかお宝情報かな。
「運営からの依頼。怪物退治だ」前者だったな。それもスレイヤー系。
「あらま」うさぎは対して興味無さげを装うが口元はニヤついている。
「新人パーティがいくつか手痛い目にあったらしい。場所が比較的アーコロジーに近いんでな。
今の内に潰して欲しいとの事だ」
で、中堅で今週は前半でお宝入手してオフに入りホームの居る俺たちにお声がかかったと。
「今からですか?」答えがわかっている確認だな。これ。ブラック企業。
新城さんは苦虫を噛み潰す用にうなづく。
「で、目標はなんです?」
まあ中級認定の俺達には、アーコロジーの運命は一人の男の手に託された系じゃないだろうしね。
「ゴブリン退治だ」新城さんは肩を竦めた。定番ですな。うん、これもイベントだ。
「しょうがない。時間喫茶に行きます?」まずは作戦を立てますか。
俺たちはギルドにて依頼内容を再確認後、とある喫茶店へ向かう。
予めIDで予約。運よく部屋は空いていた。
時間喫茶。時ゲートという秘密道具で調整されたこれらの部屋は、外界と比べ時の速さが遅くなる。
外界での1分が部屋内部で60分に相応する。
忙しい中で5分しか自分の時間がなくても、ここで部屋を借りれば300分相当は余裕ができる。
使用者は漫画喫茶感覚で金を払い、プライベート空間で個人時間を満喫するというわけだ。
これならばブラック企業にいようが、名作RPGでもガンガンクリアーできるし、
溜まり動画もガンガン閲覧できる。
プロは食糧から娯楽器具、生理現象操作ポーションを一か月分は持ち込み、苦行に勤しむ。
その分、年単位でバカやるなら、歳は取るから老化防止キャンディは必需だがな。
まあ要するに、快適な精神と時の部屋だと言うわけだ。
マジで戦闘民族宇宙人よろしく、修行する強者もいるのだが。
ただ、今回は緊急の作戦会議の場として利用する。
ここで念入りに打ち合わせをしても外界ではほとんど状況は変化しないだから使わない理由はない。
金は掛かるがね。
さて4人で入り緊急に打ち合わせ。段取り、定番のゴブリン退治だ。
ゴブリン。
子供なみの身長と体格。緑の肌、巨大なる黒眼。
グレイを連想させるそれは命名者によってファンタジックな名称を与えられた。
確かに小剣や弓を使うその姿はRPGのモロそれだ。残虐性も同レベルのアンファンテリブル。
実際は学術では存在を否定されつつある珪素系生命体だ。
本体は豆程の大きさのレアメタルに過ぎない。
ある触媒で柔軟に砂や土、鉱石などでボディを構築。姿を形どり人型として活動、繁殖を繰り返している。
知能も小学生並みだが典型的な略奪種族。繁殖力も鼠級でテリトリーを拡大している。
ここリヴァーではデカい顔をしている種族の一つである。
幸い、幻想世界のゴブリンよろしく弱い。それなりの衝撃を与えればボディを維持できず、
ただの砂や塵に返る。残るのは先ほど言ったわずかな触媒。マテリアル素材である。
1000匹倒せばそれなりのレアメタルは入手できる。
塵も積もればマウンテン。多くの冒険者は遠慮なく撃破している。
「まあ油断はしないようにしないとな」
こいつらは厄介な事に、岩盤から崩落エリアや水源、天然ガス地帯などを巧みにスルーし抜け道を構築する。
上位種のシャーマンなら[壁抜け]の魔術を使うほどだ、
スペランカーが必死に攻略し構築したインフララインと安全地帯にポップしてくるのだ。
そして空き部屋を見つければ巣を作り、居座り、略奪を開始する。
しかもポップだけならまだしも人類の天敵イベントすら切り札に出してくる。
ハイブである。自分達が転移される確率を無視して巣を作る習性は恐怖の一言。
幸い、今までは要塞、城塞どころか砦以下のセーフハウス級で破壊しているが、いたちごっこの感はある。
「ゴブリン王の帰還」イベントなんぞ運営としてはやりたくもない。
定期的にアーコロジー周辺はスペランカー達やドローンが回っているし、
初心者冒険者にも発見の報告義務が課せられている。
その後に攻略するのは自由である。
幸い、収支は悪くない。
此方のゴブリンはレアメタルも持ってれば、偶然に見つけたであろう秘密道具も
持っているケースも珍しくないからだ。
慎重に斥候と情報収集を行い、数と上位種、罠と攻撃的道具すら把握すれば美味しいイベントではある。
「逆に言えばきちんと作業手順を踏まないスペランカーは全滅するか大損害での撤退を余儀なくされるんだよな」
今回もそのケースで新人スペランカーズが意気揚々とゴブリンハウス攻略に挑んだのであるが罠と毒攻撃、
さらには運悪くどこかで入手した拳銃による銃撃。最後は数の暴力で敗退したらしい。
半分は死亡し蘇生システムのBポッド送り。
因みに蘇生ポッドは何度も使うと対象者はゾンビ化する。
残機は普通で二機くらいと言われている。
残機が切れれば引退というわけだ。まあ冒険にはよくあること。
しいて言えば、今回はそれが三か所同時に発生したということか。
可能性だが侵攻イベントの可能性もあるという事だ。
中級チームが三つ駆り出されたのである。
で、その情報を入手した自分たちは念入りにオペレーションを組むと。
「となると問題は拳銃使いとホブ野郎だな」新城さんが数、武装、地形ETC情報を確認する。
戦争とは始める前の準備の段階で勝敗は決まっている。
外界感覚で1分、内部では1時間程のミーティングを終えると、探索準備と装備を身に付ける。
後は行動、途中までは軍の輸送車両で移動する。
ふと、後ろを振り返る。バベルの塔よろしく円筒型の巨大建築物。我らがホーム。
自給自足を可能にしたアーコロジー。
発掘した宇宙戦艦の装甲や大型レーザー砲やレールキャノンで武装した防御システムを持つ。
酸素供給、淡水製造、食糧プラント、マテリアル工場。転移防御結界。
発見発掘発明され続ける科学と魔法の結晶だった。
直径は3キロ、それが縦横9キロの巨大ブロック内の中心にそびえている。
ブロック全体には対転移攻撃電磁バリヤーを展開。
嵐の晩餐による空間転移とそれに生じる衝撃的風圧を防ぐという訳だ。
今度は前を見る。出島である。東西南北、四箇所あるその1つだ。
ここから先は電磁バリヤーも結界も効果はなく、基本的に軍も運営も関与しない。
ケイブ探検。そしてケイバー達の楽園。そして間抜けなスペランカーの領域だ。
「さて冒険を始めますか」
まるで3DRPGマッピングのようなマス目の地形。
それはまるで大小に統制されたボックスを無造作に組み合わせて作成された
積み木細工の迷路に見える。
当初、リヴァーは平安京のような縦横統一された通路と保管庫だったのであろうが、
今や、ひたすら貪る龍は飲み込んだ存在を大きさに合わせて通路と法則を無視して保管庫を配置している。
まるで無秩序のテトリス上海ジャンガである。
ボックスという単位で3メートルを基本に3×3×3が基本の最小単位。6×6×6と9×9×9と続く。
これらの大小様々のボックスが入り乱れ配置され、複雑なマップとなる訳だ。
方眼紙に正確に線を描く様に常に大小の正方形同士で構成される画一化された世界。
ただある程度の法則は存在する。
森林と湖のフォレストエリア、恐竜とその時代の環境のダイソナーエリア、
各時代の人の文化、市街地のストリートエリア、門番が守るフォートレスエリア。
海洋のシーエリアなどだ。
これらの環境が維持されているのは、リヴァーがあくまで救済船であるからだ。
通路と保管庫を構成する天壁素材は時間で淡い光を放ち24時間の光量を調整する。
コンクリートなどと違い二酸化炭素を吸収する事もなく放射線も遮断する。
強度についても現技術では破壊不能である。
宇宙戦艦の動力源が爆発するという事故があったのだが、密閉空間で爆発したにも関わらず、
この素材には傷1つシミひとつ付かなかったそうだ。
故にスペランカーは1週間毎に一部が切り替わるこの保管庫群を通路を渡り歩き、
移動、ゴールに近づくしかないのである。
今回向かうのはフォレストエリア世界線ベータ19。
森林と洞窟、湖などで構成されるエリアである。
中世社会ではないが自分達にとっても生命線でもあるエリアだ。
燃料から食料までとしての森の恵み言うに及ばず、酸素や淡水供給源としても一役かっている。
まあ、生態系を無視して狼だの山猫だの灰色熊、トロルだのヘルハウンドだのいるのは勘弁してほしいが。
リヴァーよ、せめて欧州、アジア、北米は元よりファンタジー世界や見知らぬ星の未知の生命とかを
喰うなとは言わないが整理整頓を心掛けて欲しい!
因みに、出島を出てからは各自の能力での移動である。つまりは徒歩だ。バギーでも欲しい。
幸いリヴァー内部なら瞬間移動は可能だが、場所によっては電磁バリヤーや結界には弾かれるので注意が必要。
でも欲しい!
気持ちを切り替えてゴブリンハウスと思われるその周辺を燕ドローンで索敵。
すぐ、見つかる。如何にもな洞窟の中。カモフラージュする気ねえよなコイツら。
「見張りなし、典型的なゴブリンの思考ルーチンだよ〜」
門兵を立てることも、鳴子や塹壕を作る事もない。まあこちらとしてはありがたい。
「問題は秘密道具だな」
小学生並みの知能と戦闘力でも火器やマジックアイテムを持たせるだけで状況は一変する。
あやとり名人の小学生の道具の使い方の応用性は恐怖に値する。
まあ、その後のループのごとく調子に乗り。そこからの転落は別の意味での恐怖に値する。
「ルーキー達はあくまで、火器とホブに押されての敗退」
切り札という発想はないだけに所持していないか、攻撃型の物品ではないと思う。
ちなみにゴブリン退治の基本である洞窟丸まる煙り燻し戦法はココでは使えない。
ただ抜け道から逃げて、次の拠点候補を探すだけだからだ。残念。
作戦は決まった。
新城さんが囮を務め、一撃を加えて後退、ゴブリン共をうさぎと飛鳥のいる殺しの間奥へと誘い込む。
で、自分が予め迂回しゴブリン共の背後に回り挟撃する。獣道を把握して入れば十分可能だな。
森林だけに飛鳥がうさぎの狙撃でサポートする。
「半径500m、エネミー反応なし。大丈夫だよ」
「OK、始めよう。ノブは迂回を」
「了解」小走り。バイザー内部の映像には俯瞰ビジュアルが表示される。
新城さん、俺、うさぎ、飛鳥の位置が一目でわかる。ハイブもどきにいるゴブリン共の数もだ。
約30匹。固まっとるわ。どうやら罠もなさそうだ。
「これ以上はもっと近づかないと無理だよ?」
うさぎがしょぼくれるがこれだけでも貴重な情報なのだ。
横目で見ていると新城さんが移動を始める。洞窟へ突撃。少しして怒号と銃声。
後退した新城さんを追いかけるようにゴブリン共がゾロゾロ動く。こちらも移動開始。
ブースト機能で速度を上げておく。
イレギュラーなし、もう少しで背後に出れる。
後、10m。ここで一部の最後尾のゴブリン群が俺に気付く。だがさすがに遅い。
「到着!」正面に盾を展開してショルダータックルの要領で気付いたゴブリンを跳ね飛ばす。
シールドバッシュ!無双ゲーよろしくぶっ飛ぶゴブリン達。
あ、火器持ちいたわ。ラッキー。
30匹の内、もたもたしていた2匹はこちらの挟撃から逃れた。慌ててハウスに引き返す。
「無視しろ。蓋をしっかり支えろ」
YES、YES、YES。見れば罠に嵌めた残りの奴らにはホブがいる。
ホブ。要は大型ゴブリンの略だ。
子供の群れに大人がいるようによく目立つ。
生意気にも俺たちスペランカーから奪ったボディアーマーを強引に着込んでやがる。
しかも武器は何かの魔法のアックスかよ。淡い光を放つ魔法系武器はすぐ分かる。
ホブは新城さんより重装、鉄の塊のこっちにターゲットを変更した。
というか半数は新城さんに向かい、半数がこちらに来た感じだ。
リーダーもいないので各自がバラバラに動く典型だった。
スーツのAIに命じて挑発行動の肩すくめアクション。
コレ単純命令なら疑似サイコミュで自動行動が可能なんだよね。
ヨシ。ホブゴブリンは確定でこちらをタゲにしてくれた。
俺は頭部ユニット横に取り付けたウージーピストルをばら撒く。それなりに命中!
うむ。頭部のバルカンは男のロマンだな。弾代がもったいないけど。
ゴブリン共の動きが止まる。ホブ以外は。
「ボディアーマーはずるいだろ」
ホブは怯むことなく突進し最上段からアックスを振り下ろす。
左腕シールドでガードするも9ミリパラの銃撃に対し無傷のコイツに思わず舌打ちする。
シールドも大きく切られた!
再び最上段。今度は慌てない防御しつつ、相手の太ももに触れるようにクローを這わす。
「!!!!」瞳が真紅に染まるホブ。何か喋れよ。
とにかく防御。攻撃なんざジャブ程度で十分。タンクは時間を稼げばいいのだ。
そうすれば。
「上手く避けてよね」受信と同時にホブの顔が弾けバッタリ倒れる。
こんな風にダメージディーラーが決着をつけてくれるわけだ。
新装備によるスキルを試すまでもなかったな。まあシュミレーターで練習は重ねておこう。
しかしうさぎの奴。ヘッドショット決めてから注意勧告してないか?
ホブゴブリンは足元で塵と化していく。そして心臓の位置、豆粒程の大きさで露出していくレアメタル。
珪素系生命体と定義されているコイツらだが人間並みのキルダメージを与えれば
このようにレアメタルを残し塵と化す。
独特の生態系と構造であり運営側ではサンプル調査の結果では核であるレアメタルに付着している
タンパク質に注目しているらしい。
現在は更なる調査中とのことだが、眉唾であろう。
情報は独占からの分散公開にこそ価値があるからね。
まあとにかく、要の銃持ちガンナーとホブは潰した。後は駆逐のみだな。
さあシールドをかざしガンガンプレッシャーをかけちゃうぞ。舐めプはしないが楽勝モード。
うん!弱い敵でも無双は楽しい。
「周囲に敵影ないよ~」飛鳥が大きく安堵の息をつく。
戦闘は10分程で終了した。
辺り一面は塵と化し核でもあるレアメタルを露出したゴブリンの死骸だけだ。
しかしまあ俯瞰視線と火器、挟撃、装甲スーツ。でなにより陣を敷いた上での釣り野伏せ作戦。
これだけ揃えればゴブリン中隊でも物の数ではないわな。
逆に言えば、誘い込まれて、挟撃食らって、飛び道具で弾幕貼られれば、ゴブリンも脅威なわけだ。
「用心、用心」傲慢が綻びを生むというのか。
俺と飛鳥が周囲を警戒しつつ、手際よく新城さんとうさぎがレアメタルを回収していく。
ついでに武装も吟味。使えそうならお土産と。
「トカレフT-33か。こいつらには持ってこいだな」
頑丈だけどなにしろ安全装置すらない銃だしね。新城さんはトカレフをベルトに挟む。
他の武器は錆ついた小剣や斧。ホブの魔法のアックスとボディースーツくらいかな。
鉄くずジャンク屋とボッタクル商店送りだな。
こりゃあ楽勝か?
「えーーーー」飛鳥の突然の悲鳴。
「洞窟からゴブリン君達がどんどん出てきてる」
おいおい、第二陣かよ。しかも斥候隊が先でこちらが本体とか。一端の戦術じゃん。
「100匹は超えてるよ〜!」
「ドン引きだな」どうやら丁度、壁抜けの魔術で侵攻用の大部隊が到着した直後だったらしい。
そこに俺たちは攻勢をかけたわけだ。
「タイミングが不味かったか」新城さんがボリボリと頭をかく。
常に最悪の事態は起こる。あるある。
「後退、プランBでいく」でも新城さんは慌てない。
想定の斜め上を考えているから。普段から何を考えているんだろう
「よ、よろしくお願いします」おずおずと飛鳥が近づいてくる。
「ほいっと」人狼族の癖に鈍足な飛鳥をお姫様抱っこ。
「う、きゃん!」飛鳥の意味不明な声。これは思わぬ役得と言いたいが…。
「アーマー越しだと意味ね〜」心の声だが何故かうさぎには聞こえたらしくジロリと睨まれる。
運悪くゲートから101匹大行進。
「後退!」全員が一斉にダッシュ!プランBに従い移動を開始する。
森に中ゆえ速度より足元注意が最優先。
幸い、ゴブリンの足は子供級、驚異的ではない。まあぶっちぎる事もできないが。
AIが警報。センサーが捉えたのは上空を飛来する無数の矢玉である。
枝葉に多くが遮られるが数が違う。
「来るぞ!」
俺が抱えた明日香は兎も角、うさぎも慌てた様子はない。
カンコンと俺のアーマーに当たる矢と礫。あっ!石斧も混じってやがる。
しかし飛鳥個人には命中しないし、横を走るうさぎにも擦りもしない。
というか、明らかなに矢玉は二人を避けている。
姉妹が身に付けているお揃いの髪留めのお陰である。
実はこれマジックアイテム。その効果なのだ。
新城さん?問題無し。文字通り後ろに目が付いているかの如く避けるはパリィするわで被弾ゼロ。
マジパネエ。
「到着」で目的地到着。
イバラの壁。基本魔術の一つ。触媒に魔法屋での触媒種子がいるがスクロールも安価で手に入る。
強度的に進路妨害程度にしか役に立たない壁だが
これを3回唱えて三角式のビバーク場所を設置するのが中級冒険者達の嗜みである。
で、これを何枚と使用する。
そこは陣地。という長い壁。
イバラの壁の魔術で築き上げた即席の砦である。
我がパーティではイバラの壁のスクロールは在庫が豊富なのである。
運良くキャンピング球を入手して以降は使い道も少なく鞄の肥やしだったのだ。
ちなみにある場所で黒坂命という武人が茨の城を造り盗賊を撃退する話がある。
そこは茨城県という。
更にこの長いイバラの壁群のあえて作った隙間。出入口であり虎口だ。
そこにうさぎ、新城さん、俺と飛鳥と滑り込む。
壁の向こうは即席塹壕。ブレーキもかけず突貫。
ゴブリン共はは茨城の入口に殺到する。一部は壁を越えようとするもイバラが阻む。
ダメージは少ないが心理効果はでかい。
更に追い討ち。
「飛鳥やれ!」新城さんが吠える
「え〜と電撃!」飛鳥が取り出したのは杖。30センチ程度の長さ。
壁と壁の入り口に殺到したゴブリンに向け杖を振るう。
杖の先から迸る電撃。火花を纏う光の手槍とも言うべき存在が放たれる。
その軌道上にいたゴブリン共。瞬時に7、8匹は貫いた。
「うん。敵を一直線にさせるのは電撃呪文の基本だよね」
うちには二大魔法兵器がある。一つはスクロールの氷の嵐。
もう一つはチャージ式の電撃だ。
飛鳥が持つのはワンド。決められた呪文を充填できる特性の杖。
3回ストック可能。ホームの魔術師に金を払って装填するわけだ。
因みに。
30センチ級がワンド。充填式。
90センチ級がスタッフ。魔術強化式。
あ、ロッドは僧侶用ね。
なお、名付け親は廃神です。
本当は10回チャージできる炎の嵐とか欲しいのだが、強力にして便利にして回数が多い
ワンドは攻略組が金に糸目をつけず独占している状態なのだ。何しろ充電式な上、多少の魔術師素養が
あるなら手軽に使えるからね
オークションでもすげー高値で買いやがる。
「電撃2回目!」飛鳥が再びワンドを振るう。
またも7、8匹は貫くが、そこまでだ。小鬼共は罠口には近寄らずイバラの壁を登り始めている。
次々とゴブリンが壁の上から顔を出す。数が多すぎる。当然、射撃では間に合わない。
「でもね、そのイバラの壁の中にクレイモア地雷が隠してあるの知ってる?それも沢山」
横を見れば新城さんの狩猟者の笑み。
カチンと起爆スイッチを押す。
爆発、吹き飛ぶゴブリン共。
「1発」
ゴブリンに最大被害を与えらる用に巧妙に取り付けられた成果。
「2発!」
ゴブリンは何が起こった理解できずに次々と宙を巻い塵と化していく。
「3発」
既に壁によじ登っていたゴブリンは存在しない。
「4、5発」
連鎖爆発。左右に広がったゴブリンに合わせての左右に爆発。
「6発。新記録だ!」
新城さんノリノリである。でも死亡フラグ注意してね。
「7発」
この段階で勝敗は決した。
「信じられん!」
ようやくゴブリンも遁走するも数は片手で数える程だ。
それもうさぎが背後からスナイプで仕留めていく。
「圧倒的ではないか。我が軍は!」
うん、やはり少数で多数を征するのは武人(笑)の本懐とロマンだね。
まあ大軍揃えるのが戦争の基本なのではあるが。
「飛鳥。ドローンを洞窟内部へ」新城さんが敵影が無いことを確認した上で指示。
「はい」飛鳥がよっこいしょと塹壕からよじ登る。
周囲を索敵しつつ前進。ケイブ前に到着。残敵もなし。これで後は運営のミサイルを待つだけだが。
新城さんは運営と連絡を取るべくPDAを取り出す。
「ん?」怪訝な顔。
「5分前からコールが来てる」新城さんはスイッチをオンにする。
「二番隊。聞こえますか」
運営の自動人形のややノイズかかった声。
「発信が途絶えていたので全滅したかと思いましたが無事でしたか」
「ああ、すまん。ゴブリンの大群に襲われてな。処理するまで手間取った。小鬼が7分で地面が3分だ」
まああれだけボンボコ爆発させてれば聞こえんわな。
常にタイミングが悪い時にそいう事は起こるのだ。
そして死刑宣告。
「すぐに撤収を。ハイブに向かって一番隊が集合中のゴブリンへミサイルを撃ち込みました。
今度は彼らの担当の住処の抜け道でゴブリン軍団の進撃直前だったらしいです。」
頭を高速回転させよう。
ゴブリンの中継拠点である砦からゴブリン共は多数の抜け道を掘り進み住処を増やしてくわけだ。
つまり大体の住処と砦は繋がっている。
そこの砦めがけてミサイルを射出し大爆発を起こしたならその爆風やバックドラフトはどこへ向かうだろう。
うん、つまりはここだ。
「すぐに引くぞ!」新城さん指示を出すが遅かった。
洞窟からもふりと熱風が来たよ!
「ゴブリンの呪いかよ!」思わず吠えた。いやこの場合はお約束の自爆コマンドというべきかも。
「伏せろ!」視界に隅で新城さんが二人を押し倒すのが見える、
「この!」こちらは諦めてシールドを構えて新城さん達の前に出る。タンクは辛いよ。
機体のリミットも開放し全力で爆圧を封殺すべく両腕にありったけの力を籠める。
衝撃!10秒は耐えたと思う。
そしていきなりの無重力感覚。意識はここで無くなった。
途切れる直前のAIの警告音は小破サウンド。うん、少し安心した。
メイドロボットを買うまでは死ねるか!
いや、残機はあと一機あったな・・・
しかしこのオチは酷くない?
「煩悩の一つは叶った。しかしこの叶い方は違うと思うなあ・・・」