プロローグ
■プロローグ
子供の頃、と言って中坊の俺だが。今までに夢というか欲望は色々あった。
変身ヒーローになる事。
秘密基地を作る事。
秘密道具で遊ぶ事。
魔法をブッパする事。
スーパーロボットに乗る事。
学校のヒロインとイチャイチャする事。
メイドロボットを買う事。
まあ様々だ。
ただ現実は残酷無惨。多くの願いも希望も叶わない。
いや、秘密基地やメイドロボなら金と時間があればワンチャンあるか?
FXや最安値の新規仮想通貨で一儲け、英語と中国語覚えてクラウド出来ればあるいは?
まあ、そんなくだらない事を考えながらの14年。
運がいいのか悪いのか。俺の側には天才とかギフテットとかが大勢いた。
学力、運動、イマジネーション。金。同世代でそれらと比べられてきたのは正直、無茶苦茶きつい。
流石に人生の早い段階で自分がニュータイプではなくノーマルだと気付かせてくれたよ。
かっての欲望もそれなりに鳴りを潜めてコツコツ生きる。
枯れた中学生だよ。
「まあ満ち足りを知る人生だよね」
で、そんな凡人普通な人生に好機到来。
どんな夢だろうが、欲望だろうが、叶えてくれる楽園のような世界へのご招待。
ただ、実力が伴うという現実だけは変わらなったけどね。
そんな事件が起きましたよ。
夏休み。上京し都会での、なけなしの小遣いでの豪遊中、それは現れた。
突然の雨雲と轟雷。遥か上空、ビルの窓から空を見上げれば、そこには銀龍。
月のように巨大なそれ。いや月さえ覆い尽くす巨大さ。引力斥力無視してね?
それがぐんぐん近づく。機械製のメカドラゴンだった
龍がゆっくりとアギトを開く。俺は何もアクションを起こせない。
そして俺の視界は暗闇に包まれた。
ダンジョンに潜ったのに手ぶらで帰還するほど憂鬱な事はない。
オンラインRPGなら再トライで済む話だがどっこいこれは現実だ。
せめて俺が着込んでいるパワードスーツのバッテリー代くらいでいいので、
どんなジャンクアイテムでも回収しておきたいところだ。
我ら4人のパーティーメンバーもそれをひしひしと感じているのか独特の空気の重さを感じる。
いつもの出島から進出し、攻略組が今週攻略済みのそれなりに安全なダンジョンを闊歩する。
ひかり苔のおかげでそれなりに明るい地下通路。
タンク役である俺が最前列で前進。才能の無い俺だがパワードスーツのおかげで十分な戦闘力はある。
警戒しつつマップが埋まっていない大型フロアを発見出来たのはラッキーだった。
フロア内は半ばひしゃげた近未来的デザインのコンクリートビル?の一部。
「さあ、お宝探しだ」
ここまではいい流れだったのだ。しかしすでに探索を開始して三時間が経過した。
普段ならばゴブリンやらゾンビ、トーテンコップが丁寧に出迎えてくれるのだが、
ここまで一度もエンカウントがない。
神様にサイコロの振り直しを要求するね。
ビルの中の各部屋も荒らされた形跡ばかりだ。元々、廃墟だったのかな?
「次の部屋の探索が終了したら休憩にしよう。全員焦るなよ。緊張感は維持しろ」
俺の後ろの二番手にいるアタッカー役のアラフォーの人族、新城さんがタイミングよく喝を入れた。
さすがリーダーというべきか。鍛えたマッチョとGI刈り。
身から漂う雰囲気は、さすが元自衛隊上がりの貫禄というべきか。
「飛鳥。エネミー反応はどうだ?」
「ん〜前方100m、後方100mにもエネミー反応はないよ~」
三番手のスカウト兼シーフ役の飛鳥の癒やし系の間延びした声も落胆が入ってる。
気持ちわかるね。
獣人のトレードマークの頭の上から生えている犬耳と尻尾が両方悲しげに垂れている。
まあ犬ではなく人狼なのだが。
俺もセンサーを起動して周りを確認する。
彼女が使う偵察用の燕ドローンの方が性能はいいが念の為だ。
反応はなにもない。残念。ただ俺のメインカメラは少し先の扉を視界に入れた。
新城さんの言うとおり焦らず前進。
ドアの前で陣形を組みゆっくりと飛鳥が扉ごしから各種センサーでできる限り部屋の内部情報を入手を試みる。
「エネミーはいないかな。扉にもトラップはな〜し」
SF映画を連想させる大型バイザーで表情は見えないが安堵のため息をつく飛鳥。
念の為にパーティー中の最大防御力を誇る俺が扉を開けて一番に侵入する。
戸袋型引き戸をスライドしてGO。チェック、チェック、チェック。ヨシ。
「クリア!」パーティーに安全を報告する。
部屋の中はこれまた驚きの空間だった。
まるでSF映画に出現しそうなハイテク内装。
いつもの事だがギャップが酷い。まるで現代的調和が取れてない間取りだった。
「世界線ベータ。22世紀くらいかな〜」
飛鳥は慣れたものでこつこつとスキャンを始めている。ホント、マイペースだよな。
「お船がある~」
飛鳥が全員のモニターに映像を転送する。
セレブが乗るような船。クルーザーの模型が飾ってあった。
ただ22世紀なら只の模型でなく巨大化機能などが付属している可能性はある。
ビンゴ!等身大へのスイッチ発見。完全な内部構造は把握できないがそれでもある程度は解析できる。
これは高く売れるぞ。
「トローリングもいいな。鮫でも退治するか?賞金3000ドルは現金か?、小切手か?だな」
新城さんがどや顔でニヤリとするが俺も含めて三人は意味がわからん。
何かの映画のセリフ何だろうが好きだよな。
新城さんは誤魔化しにコホンと咳ばらいをする。
「エネミーと罠もないな。物色前に中で小休止だ」
扉を全開にし、中に移動する一同。ドアをロックし安全を確保する。
俺は心なしか部屋の空気が明るいと感じた。生活感がある1LDKの広さの個人部屋だ。
自分もパワードスーツを半脱着する。
外の空気と気温が気持ちいい。
「ホイ」いいタイミングで4人目の狙撃担当、最年少のうさぎが水筒をくれる。
「あんがと」中学生の彼女だが外見はモデル体型の成人だ。
ツリ目がキツい印象を与えるが美人であろう。
彼女も獣人。それも飛鳥の妹だ。
姉妹共々、生活していた世界線で一部の空間ごと食われてココに来た。
彼女は心臓の弁に非常に珍しい不具合があり余命幾ばくだったらしい。
こちらにいる分け御霊による神の祈りも効果はなし。ナノテク治療も獣人故のデータ不足により無駄足。
人脈も資産もない彼女はメンテと調整が不十分なドロップされたばかりの
新型のメディカルポッドのモニター役を志願した。
なにしろ未知のテクノロジー。
失敗すれば死ぬ確率すらあったであろうが、コイツは躊躇なく自己責任の契約書にサインまでしたらしい。
結果は成功半分、失敗半分である。
成長ホルモンやネオテニーでのプログラム操作のバグがあったらしく、当時12歳であった彼女は
一気に成人に成長してしまったのだ。
彼女は健康体と引き換えにJCの身体を失ってしまったわけだ。
ゆえに言動は中学生のそれだが体型がボンキュバンだから始末に負えない。
今だってそうだ。
俺は恐る恐る水筒に口を付ける。やはり炭酸水だ。俺が苦手なのを知っててこれだ。
目が合うと菓子を片手にチシャ猫笑いである。
姉である飛鳥も手を焼くと思えば実はシスコンのお姉ちゃん子だったりする。
髪型も二人揃ってギブソンタックで決めている。
「げほ!」見事なコントロールとタイミングで俺の口へビスケットがシュートされる。
指弾でお菓子を飛ばすなよ。
「お菓子忘れてたわ。どうぞ」才能あるスナイプの才能は有効に使えよな。
「ふんふん~♪」
飛鳥はバッグからテニスボールサイズの銀色の箱を1個を取り出す。
秘密道具キャンピング球である。
巨大化すれば直径2500㎝サイズのカプセルテント。
シャワー、トイレ、ベッド完備の優れもの。
高い買い物であったが、パーティーの士気を維持するには有効なアイテムだ。
排泄管理にリフレッシュ効果は高い。
これが手に入るまでは、安価スクロールのイバラの壁3枚で強引にセーフゾーンを作ってたしな。
「先に飛鳥、ノブ。15分後に俺、うさぎだ」
「あれ?順番だと次は新城さんが先ですよ〜」飛鳥が首をかしげる。
「ん?そうだったか?」新城さんの問いに飛鳥はニッコリうなづく。
「じゃあ、俺、飛鳥で先発だ。ノブ、うさぎは見張りを頼む」
新城さんは苦笑しつつ従う。
ボールを起動、一瞬で巨大化。新城さんは素早く生理現象を済ませカプセルから退出する。
「お邪魔します~」次にウキウキで中に入る飛鳥。
コイツ、絶対持ち時間の15分でトイレのみならずシャワーまで考えているな。
俺とうさぎは交代待ち兼の見張り役だ。
まあ扉はロックしてあるけど安全マージンは必要だしね。
「ここはまだ荒らされていないか、見落としたんだろうな」
全員の休息が終わった後、新城さんが親指で後ろを指差す。
先は壁に埋め込まれた金庫だ。
「手付かず?」見れば解るけど聞かずにはいられない。
「ご丁寧に絵画で蓋をして隠してあった。いつの世もこの発想は変わらないな」
心躍る旨くいけば半年分の収入を得られるか?
まあ黄金製のゴーレムに出会ったときもこんな感じではあるが。
「解除やるよ~」前に出た飛鳥が手持ちの端子の規格を確認。
アダプターを介して金庫の端末に端子を差す。
一般用のIDでなく旧式だが軍用のIDのディスプレイには金庫の情報が流れ込む。
ああ、IDとは携帯端末と自分の個人情報を詰め込んだマルチツールね。
スーパー携帯スマートフォンパソコンクレジットカードペイ財布判子保険健康証住民票だと思えばいい。
「自閉モードで電源生きてるね」つまり電子鍵で開けられるし電子罠もあるわけだ。
無論、彼女はそれらの解除用のアプリは起動済みだ。
「うん、警報機だね」金庫やお宝の多くはトラップ付きだ。
科学系なら基本の警報アラームからコンピューターウィルス、IDのバッテリーを爆発させるBOM。
魔術系なら呪いやミミックだ。まあ今回は魔法系は除外していい。
単純マンチでバーナーで扉を焼き切る手もあるが中身が破損する可能性や違法動作での開放は
中身を自壊させる仕組みも珍しくないのでそれは最終手段だ。
首から掛けた小型キーボードを巧みに操り高速キータッチ。ハッキング作業の始まりだ。
彼女は電子機器の扱いには並々ならぬ才能がある。
普段の動きはトロい天然娘ではあるが。
「・・」なぜか作業を止めて自分を見る飛鳥。
「なに?」とりあえずとぼける。声に出してないよな?
「別に」バイザー越しではあるが彼女の特徴的なタレ目が拗ねてるような気がする。
そして五分、スプレー音、カチリという錠前が外れた音が彼女の勝利を告げる。
アラームも鳴らないし彼女のIDも爆発しない。
一安心、ここでも俺が金庫の扉を開ける係りだ。ほんの少しドアを開けてメインカメラをズーム。
トラップ糸や赤外線もなし。衝撃に備えながら扉を開ける。
OK。少し心拍数上がっただけだ。後は中身の確認だ。
飛鳥のはしゃぐ声が耳に入った。
「じゃーん。スモール電灯だよ~」飛鳥が笑顔満点で円形ポッドを見せる。
アイテムゲットである。
スモール電灯。文字通り光線を当てた対象を縮小できるアイテムである。
主な使い方はダンジョン内部で入手したアイテム類の持ち運びの為の取り敢えずの小型化。
大物アイテムを入手した際などに役立つ一品である。
ちなみに戦闘での使用はかなりリスキー。
エネミーの多くは光学兵器に対策を持つからだ。
何らかのエネルギー波で相殺するのは可愛いもの。
対光学兵器反射コーティングがされていては目も当てられない。
最悪、鏡一つで跳ね返される。しかも一定時間で効力は切れて元に戻るし良く電池は切れる。
熟練の冒険者になればなるほど戦闘では使わない秘密道具なのだ。
即死呪文より確実なダメージ呪文。物理で殴るだよな。
まあオークションでも売れるしボッタクル商店に売却してもいい。
これもこの三時間の苦労も報われる一品だ。
現金だがこれだからダンジョン潜りはやめられない。
ここにはマジで英国眼鏡魔法使い世界のアーティファクトから青い狸型ロボットが
ポケットに隠し持つ極悪アイテムまでがゴロゴロしている世界なのだ。
ヘリトンボなんて珍しくないね。
でも俺が欲しいのはメイドロボなんだよなコレが。
「購入目標額までが遠い・・・」
収穫はなかなかだった。金庫の中には新品のバイオUSBが数個。護身用のレーザー銃。古銭金貨。
更には部屋の中の照明部品を取り外し、使い方が不明な電子機器は片っ端から回収する。
鑑定は後回し、街に持ち帰ってからすればいいことだ。
各種ビタミン、ミネラル配合のビスケットで軽く腹を膨らました。
デフォだが食いすぎにメリットはない。
小休止のミーティングで新城さんの提案で撤収も決まる。
うさぎはもう少し他の部屋も見るべきだと主張したが最後には折れた。
飛鳥もうさぎも、そして俺も新城さんの教え子でありその信頼は絶大だからだ。
そして帰還を始めた途端に飛鳥のドローンに反応があったようだ。
「12時方向からエネミー2。多分トーテンコップ!」飛鳥のドローンに反応だ。
「撤収しようと思えばこれだ」
「来て欲しいときは会わない癖に!」俺もうさぎも口を尖らす。
「ノブは前進、楯役頼む。飛鳥は部屋で待機、索敵を継続。うさぎはドア影からスナイプ」
「イエッサー」「はい」「りょーかい」
手早く位置に着くメンバー。新城さんは俺の背後から攻撃役だ。
この廊下の幅ではギリギリ三人の並列移動とリアクションが限界だろう。
言い換えれば俺が弾除けになれば後方はバフとデバフがし放題だ。
敵もそうだが。
俺の武装は右腕に固定したバックラー付きのヒート爪。
新城さんは典型的なハルバードだが魔力付与による+2修正付き。
うさぎはタングステン鋼のクロスボウの矢を打ち出す空気ピストルカスタム。
空気の塊を打ち出す空気ピストルは所詮、子供のおもちゃだが、改造し圧縮空気で質量を打ち出す機能に
改造すればあら不思議。凶悪兵器の出来上がりである。
新城さんもうさぎも軍払いさげの64式自動小銃やサブアームのイスラエル製マシンガン、ウージーを持つ。
「チタン加工用の3Dプリンターとプレス加工で作成した模造品だけどね」
しかし弾は高い。
トーテンコップやゴブリン、スライムに9ミリや5.56ミリ弾を使ってたら赤字どころか廃業まっしぐらである。
ダンジョン潜りは手段であり目的ではない。
多くのサルベージ組、要は冒険者の目的は、スパロボアニメの道具級アイテムや
魔王・ザ・ハクション級のマジックアイテムの入手にあるのだから。
特にオタク御用達品に!
工場見学で聞き慣れたガッシャン音を正確にリズムよく鳴らして前進する二体の怪物。
トーテンコップ。
油圧式のパイプ動力の怪物。むき出しの金属フレームとセルロース、バイオプラスチックの格安品。
出来の悪い人間骨格のロボットだがカバーや装甲を持たないので、簡易センサーから電源ケーブル、
バッテリーも丸見え。
俗称である骸骨系のトーテンコップの名が付いた。スケルトンはいるからね。
しかし対人レーザーは初級冒険者には死の洗礼であり油圧ピストンから繰り出される戦闘用スコップの
一撃はヘビーボクサー級のそれだ。
ただ自称だけでなく運営ギルドから認可を受けた自分たち中級スペランカーなら敵ではない。
まあ新城さんは常に油断するなと言うのだが。
武装は一体がアーチャー型、つまりは対人レーザー内臓。もう一体はファイター型のスコップ持ちだ。
ロシア流、ドイツ流のスコップ活殺術は警戒するに値する。
「やつらの対人レーザーの距離だ。油断するなよ」
「‥」俺は左腕の大シールドを構え直す。そしてアーマー内部のディスプレイに表示されたバイタル数値、
要はライフポイントを確認。うん、フルゲージだ。バッドステータスもない。
AIも別に危険とは認識していない。
対レーザーコーティングは充分、対人レーザーごときでは貫通するのに一分はかかる。
言ってるそばから着弾だ。バチバチとシールドから火花が走る。
パワードスーツのモニターはご丁寧に見えないレーザーをCGで再現してくれているので防御し易い。
新城さんをしっかりスクリーンしながら慌てず前進。
俺や新城さんの間合いに入る直前に弓矢がアーチャー型の頭部に突き刺さる。
見事に頭部のセンサー部分を貫通してだ。
「ひと〜つ」うさぎの空気ピストル改である。
ファイター型がスコップを振りかぶるが正直、楯を構えなくてもOKだ。
新城さんも素早く俺の影から飛び出てファイター型のセンサーを一刺しである。
で、遅れて俺がかぎ爪で横凪に盲目状態の二体の背骨部分の油圧ピストンとケーブルを溶かし切る。
こうすればトーテンコップは動力を停止する。飛鳥からも後続の連絡もない。戦闘終了。
後は略奪タイムだ、ヒャッホー。
バッテリーは回収かその場で電気を自分らの機器にチャージ。
半導体は回収、センサー系の無事な部品もだ。スコップと対人レーザーは当然の戦利品。
骨格とケーブルは放置。初級の頃はこれだけで金になるが中級である今はお荷物になるだけである。
残った骸骨フレームも初級スペランカーが回収するか、他のモンスターがリサイクルするだろうしね。
偵察ドローンとして多数のプラントで生産されているらしいコイツらはポップ率も高いしね。
「よっと」スーツの過剰パワーは全てアイテム持ちに使われる。
背中のバックパックに詰め込みと。タンク兼運び屋だね。
コンピューターRPGでは序盤から中盤で手に入る無尽蔵収納バッグはここではSSレアだ。
故にテーブルトーク式に重量には気を使うのだ。
まあ実入りがないので今回は骸骨フレームも回収するけどね。
「おかわりが来ちゃった~。6時の方向から」
新城さんが舌打ちする。
「まあ、挟撃させるよりかはマシか」
スイッチして俺と新城さんでポジションを入れ変える。
程なくトーテンコップ共の逆方向からそれは現れた。
3メートルは超える巨体。下半身を軽く覆った布切れ、額から生えた二本角。
右手には歪な金棒もどき。
鬼、其れも人食い鬼系のオーガである。
パワーだけならパワードスーツ級、皮膚の硬さはフルプレート。
上位種のロード級なら知恵もあり魔法も使う難敵だ。
目の前の此奴は幸いノーマルだ。上級なら格好にも気を付かうし武器も豪華。
「一匹だけ?」うさぎがあからさまに警戒する。
「正面、背後にもエネミーはいないよ」飛鳥も再度、索敵。
「オーガロードじゃないんだ。変身魔術も攻撃呪文も無いだけ楽だ」
まあその分、お宝もなく骨折り損なのだが。
「さあこいオーグル」俺はジリジリと前に出る。
タンクの役割は決まっている。
後ろでは新城さんは見せつけるように俺の背後で左右に牽制、うさぎは射撃位置確保、
飛鳥は背後を取られない様に索敵だ。
オーガはその陣形と各アクションを見ても行動を変えない。力での打破。
ボクシングでいうならジャブなどいらないストレート一本。
その金棒の一撃を何とか後にステップして躱す。
未来科学と古代魔法でも破壊不能というダンジョンの床と壁はビクともしないが轟音が耳に響く。
「ほいさ」今度はタイミングを見て前進。
俺の左の大盾は腕に括り付けてのラッチ付け。
右の武器はそもそも腕固定だ。
つまり両手はフリー。新城さんが牽制している間に全パワーでオーガの両肩を掴む。
プロレス式ロックアップ!オニさんも付き合ってくれますよ。
まあ身長差があるので押し潰されそうだが。
兎に角、動きを封じればいいのだ。しかし各関節部が悲鳴を上げる。AIも警告してくる。
が、辛抱辛抱。後は。
「ナイス!スクリーン」言う前にうさぎが通路の脇からの射程を確保。
持ち替えた69式ライフルで膝を狙い撃つ。
3バーストで速射。何度目の銃声の後、ようやく銃弾が貫通。オーガが膝を突く。
新城さんはすかさず、大上段での振りかぶり。
ハルバードの斧部分を遠慮なく延髄へ叩き下ろす。
「GAGAGAGGAGA!」オーガの怒りの咆哮。あれで消滅しないのかよ。
「固いな」新城さんは慌てることもなく淡々と再度、同じ動作を繰り返す。
こっちも相手の肩をホールド維持。既にオーガは片膝を付いているんだからなんとかなる。
ま、ツボに嵌れば各上モンスターでもこんなもんだ。
オーガは三回目のクリティカルで両膝を付き大地に倒れる。
空気に溶けるように消えていくオーガ。
いつも思うが素材ドロップさせてくんないかね。打ち出の小槌クラスなら最高だ。
この際、この手の基本の魔石とかでも構わんよ。
武器であった金棒はあるが二束三文だ。まあ帰り道の護身用に使わせてもらうが。
でもこいつ。超自然的存在だけにある意味で不老不死だ。
ここで消滅させても、近隣の空気やら植物やらの精から何かで再び、物質化する。
ハイリスクゼロリターン。現実は最低である。
「エネミー反応なし。仲間を呼ばれてもいないよ~」
飛鳥の声でようやく全員が緊張を解く。
「ロードでもいたら洒落にならんしな。撤収だ」
「イエッサー」「はい」「りょーかい」
念の為、今度は俺が殿で元を来た回廊を引き返す。
「♪♪♪~」うさぎの浮かれた鼻歌が耳に入る。オタクの自分でも知ってる懐かしいメジャー曲。
どこかで発掘されたのだろうが、俺の時系列から考えればほんの三年前の曲。
思わず苦笑が漏れる。
「郷愁も感じないとは、こっちの世界に馴染んだのかな」
時に西暦2015年夏。俺は東京のオンラインRPGのオフ会に参加の為に上京した。
そして遥か未来世界、推定で40世紀は超えた時代の時空間移動マシン、通称[リヴァー]に誘拐、
いやエイリアン・アブダクション?いやいや保護されたのだ。
それも一つのビルごと。
移動先。
そこは巨大なシェルターであり多数の世界、多数の時代から多数の人間と多数の環境が救出されていた。
此方の了承もなしに?
それも当然、コイツは暴走していたからだ。
異世界どころかダイソナーよろしくの白亜紀からサムライ達の戦国時代、平行世界にエイリアン、
23世紀都市から宇宙戦艦。
おまけにドラゴンが火を噴く幽界までが引きずりこまれ、モザイクとなったとんでも世界になっている。
「やれやれ」
で、俺、織田信長はなんとか生きている。そしてこの世界を楽しんでいる。
洞窟を潜るもの。ケイバーの俗称であるスペランカーとして探索を続けている。
多くの未来道具、夢の叶う魔法のハイパーテクノロジーがあるこの世界を。
何よりメイドロボを手にれるためにも!
言っとくけど同性同名の別人だかんな!