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地下室のメアリーさん  作者: えむ
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ねずみのお話


 地下室にある古い端末が一つ。



 手元のタブレットに端末を繋いで、

 書誌情報を読み込み、

 分類してタグをつける作業の繰り返し。




 ここで働くようになってようやく2年。

 単純作業も職場の薄暗さにも慣れた。



 (一日誰とも話さないのに慣れるのも

  それはそれでちょっと困ったな。)


 

 単純作業でも頭を遣うから程よく疲れて

 帰りに人と会ってもお喋りなんかする気にもならない。




 (今度の休みは街へ買い物に行こう。)




 18歳でここに就職して2年。


 家を出て遠く離れたここには大した知り合いもいない。

 散歩するのにちょうどいい長閑な町。

 少し遠出すれば街もある。


 外の乾いた空気と同じように

 地下はそれほど寒くもなく一定の温度と湿度が保たれていた。


 

 そんな乾いた環境を好んだのか

 いつのまにか紛れ込んだ小動物が一匹。


 齧歯類 いわゆるねずみの一種だろうか。


 ふわふわした毛並みに滑らかな耳と長いしっぽ

 草原にでも居そうなねずみの


 『メアリーさん』


 雌雄はわからないけれど優美な見た目で、何となく。



 時おり地下室に現れてどこへともなく去っていく

 メアリーさんはいま

 作業台に飛び移って鼻先を震わせている。



 メアリーさん、

 しっかり餌付けされているのだ。

 与えるのはドライフルーツに干し肉、殻付きの麦など。


 「メアリーさん、今日はりんごですよ。」



 引き出しから袋を取り出して、

 差し出した乾いたりんごの切れ端を

 メアリーさんは細い手でそっと受け取る。


 その場でシャリシャリと食べ終わると、

 少し考え込むように動きが止まった。


 追加を差し出すと鼻先が震えてまたそっと手が動いた。

 食べ終えるとさっと作業台から飛び降りて

 廊下へと走り去る。

 



 長い一日のたった数分。


 これで職場の誰よりも喋る相手なのだから。。。


 本当に人相手の話し方を忘れそう。


 

 帰り際、丸い鉄製のドアを開きながら

 思わずため息がこぼれた。


 

 




SFっぽいお話になりそう?

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