TS幼女は迷宮を散歩する
※少しだけですが、一部の方が極端に不快に感じるであろう表現や、本シリーズでは滅多にない暴力描写が今回は使われております。無理だとお感じになられましたら、すぐブラバでも何でもして回避をお願い致します。
“TS幼女は~”シリーズです。
今回はダンジョンアタックをそれなりに描写したものです。
“TS幼女は方々を駆け回る”ではさらっと流したものを、ネチっと描写してみました。
タイトル読んだ?現在タイトルの通りの事をしてるよ。
3月上旬。管理ダンジョンに登場する魔物に対して、ひな祭りにちなんだ衣装を着せたり、ドロップ品にひなあられとかヒシ餅とか小物とかを混ぜたイベントも終わった。
ホワイトデーイベントは手作りクッキーと、コンペー草とか言う金平糖が採れる異世界植物。
それとカップル冒険者に特攻かけて自爆(ダメージは極小、煤ける程度)する、爆弾に手足が付いたような魔物の期間限定投入で決まり、準備を始めるにはまだ数日余裕がある。
そんな時に、時折尻が勝手にフルフル動くヒヨコの着ぐるみパジャマを着て買い物に行こうか~と、本拠地ダンジョンの入り口脇にジャンプしたその時に。なんか俺の格好を見た多くの冒険者やお巡りさん達が、とても可愛いものを見たような、幸せそうな顔をしていたその時に。
国からの伝言を持った、土地を使わせてもらっている役所の職員から声がかかった。
「中級ダンジョンでも通用する冒険者が出てきたこのタイミングに、最上級ダンジョンだって攻略出来る者がいると夢を見させて、盛り上がりに拍車をかけたい」だそうだ。
神も『あの調子に乗ったダンジョンの魔物達に、幼女ママのゲンコをお願いします』とか言うゴーサイン?が出たから、ちょっとダンジョンアタックしてくる~。となった訳だ。
装備はアクセサリー以外はネタ装備のいわゆる舐めプ。
状態異常無効とスキルで後付けした即死無効の効果を持つティアラと、属性攻撃軽減のベルト。
あとは某6文字アルファベットが書かれたダンボールとその下の服一式のセット装備と、蛍光色に塗られた野球のプラバットとアルミ鍋のフタ。それに、戦闘記録を撮るカメラは肩(ダンボールの端っこ)に設置。
あえて武器を持つ。ゲンコしろ?知ったことか。
そして、こんな装備で大丈夫か?って?
大丈夫、問題ない。駄目だったら装備を変えるだけだから。
で、アタックしてみたが、
さすがスキルのデパート俺。ロクな備えをせんでも、安全かつ楽に潜れる。罠の位置は把握楽勝だわ、現在の階のマップが即開示されたわ、隠し扉も部屋もあまさずバレバレだわ、魔物だって丸見え。
真っ赤な大蝙蝠、こちらを未発見でバットの風圧にて一撃。仰々しい装備の骨戦士、プラバットに武器をいなされ蹴り一発。
毒々しい柄のラプトルモドキ、ナベブタで頭を弾かれ頭蓋粉砕。完全武装の中級悪魔風、ダンボールアーマーの正面衝突で壁に埋まり沈黙。
おや、中級で見た多頭ワンちゃんはこの辺だと7つか。ワンちゃーん野球やろうぜー……って、背骨バキバキでもうダメか。
お前はどうだ?半裸のウシ頭。……ohスマン、ボールとソレを間違えちまった。打撃無効の大型スライム種?ホームラン!……スライム核が粉々だ。
きまぐれで開ける宝箱から、ボロボロ良い装備とか素材とか薬とか魔道具とかが出てくるけど、どれも持ってる良いモノよりはショボいからギルドに売却決定。
たまに見かける鉱脈を、インベントリから出したツルハシでガシガシ掘る。おお、流石超級ダンジョン。ダンマスが配置できる最上位の稀少鉱石がゴロゴロ出てくる。毎度あり~。揺れるアホ毛は楽しそう。
神から聞いていた階数の半分を越えても、お昼の時間までまだ遠い。装備もやっぱり問題なかった。ステータスがデタラメでトンデモだからな。
ここで拾える装備でさえ、強くなれてるって実感出来るほどの物がほとんどない。もっと強い魔物の素材で自作した方が強いとかもあり得る。
「踏破は昼を少し過ぎた辺りになりそうだな」
独り言でぽつりと言ってみるが、なんか虚しかった。
おーおー。あのワンちゃん、今度は頭が8つ。今回は尻尾を持ってジャイアントスイングで沈黙。ん、あれは上級悪魔かな?なに、ヒトの胸を見ながら「俺様の女になれ」だぁ?俺は男だ馬鹿野郎!……アホ毛が顔面貫いてKOてオイ。
あ、ウサちゃんこんにちは~……っ!?ヤベーヤベー、コイツ首はねウサギだ。アクセサリーが無ければ即死だった。
ここは魔物の溜まり場だよな?今度こそ、野球で一杯遊べるな!おーい、やきゅーー!ワクワクでアホ毛もバットの形でブンブンだぜー!
なんで一発ホームランすると、巻き添えで20体とか食らって、みんな死ぬんだよ!もっと野球で楽しもうぜ!?ほーらもう一回、真芯を捉えた弾丸ライナー!……コラーー!お前ら弱すぎるんだよぉぉっ!!
っと!!?お前泥棒する魔物だな?ヒトの物をこっそり盗もうなんざ、出来ないと知りやがれ。ピッチャー振りかぶって……投げた!
……当たった魔物が爆散するって、どれだけ弱いのお前らはさぁ。
あー、ここ隠し部屋。……おお、剣が岩に刺さってる。聖剣的なアレだろ?取れるかなー取れるかなー?
……岩ごとズボっと取れたけど、コレはアリ?鞘からは抜けないけど、取れたぞ?おい。
なんて楽しく散歩をしていたが、ついに最奥のボス階。
入ってみたけど、出てきたのは9つ頭のワンちゃん20匹と、最後に相応しい大きな黒いドラゴン。でも鑑定すると、中位竜とか出てくる。
『汝、この迷宮に何の用だ?』
――――無駄に偉そうでムカつく。あっちのドラゴンなんざヒトのステータスを肌で感知して、その瞬間に友好モードに変わった賢い種族だったのに。
「ここまで来てるんだから、分かるだろ?」
攻略だよ。神からは乗っ取っちゃダメと言われてるから、無目的な攻略だけどさぁ。
『そうか、我の集めた財宝を奪いに来たか』
「違うっての」
思わず声に出した。出してしまった。
『ならば力ずくで我を倒し、奪うがよい』
「だから違うっての」
定型文しか喋らないタイプの木偶だった。安心して、違うと繰り返せた。
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「よし、ボス戦の回収忘れは無いな?」
……最後の戦闘?連中の中心位置にスルッと入り込んで、強くバットを地面に叩き付けた際に出た衝撃波で即殲滅。盛り上がりが特になかったからカット。
「神からの依頼は達成できたかな?」
一応メニューの依頼確認欄には達成!とあるけど、こんな簡単で良いのかと不安になる。ゲームならもう一段階強いのが出て来て、コレがオーラスだ!みたいな展開がよくあるし。
まあ来ないならいいや。ここのダンジョンコアに用は無いから、帰還魔法陣に乗る。少し遅いお昼は、どこで食べようかな?
「ただいまー」
〈おかえりなさい、マスター。遅かったですね〉
「攻略自体は早かったけど、ギルド本部で時間がかかった」
〈お疲れ様です〉
本拠地のダンマスルームに帰還して、ソファーにバフリと寝転ぶ。結局お昼はギルド本部の近くの店で、顔を出す前に寄って適当に食べた。美味しかった。また機会があれば寄ってみるのもいいかも。
でも、そんな余韻は無いんだよ。問題はその後なんだよ。
「超級ダンジョンの戦利品は、首都の冒険者ギルドに持っていけって言われてたからさぁ。持ってったのよ」
「そしたら何だコレは!だの、向こうの鑑定持ちも鑑定して高性能なのは分かったろうに、こんなショボいのが超級の品だと信じられない!だの、市場に出回っていなくて値段がない品だからお前へ払う買取金額は10万なーだの。アホかっつーの!」
ここからは愚痴のオンパレード。
タマちゃんはとっくに聞いておらず、俺の独り舞台。分かっていても、止められない止まらない。
最上位のダンジョンすら楽すぎる、ギルドはドケチでヒトを騙してくる。
あれやこれやと出るわ出るわ。ただし、何度かループしてる気がするが知ったこっちゃねえ。
しかし、一時間もすれば勢いは弱まるもので。
〈……今回のダンジョンアタックは、休暇になりましたか?〉
「ならなかった。アタック自体は、暴れられて楽しかったよ?でもギルドで脂ぎったオッサン達が、俺の体を舐め回す様に見てきたり、戦利品を買い叩こうとしてくるし。その上買取り値の引き上げに、ゲスい要求をしてくるとか本当に勘弁。楽しかった気分が完全に台無し」
話題を切られたからちょうど良いタイミングだと、タマちゃんと情報を共有すべく、まとめた情報の放出を始める。
と言うかダンマス業から少し離れたかったのを、タマちゃんに気付かれていたってのは中々恥ずかしい。
〈結局、ドロップ品は売ったのですか?〉
「いや、売ったら敗けだと思った」
〈ダンジョン攻略依頼の報酬は〉
「ウヤムヤ。超級を攻略した証拠にもなるし、そこでドロップしたぞって証拠にもなるはずなんだが、お前の所有ダンジョンでドロップした物かも知れないとか言いがかりをつけられて物別れ」
〈苦情とかは出しましたか?〉
「出した。現状唯一の超級ダンジョンのソロ踏破者相手に、とっていい態度じゃないって」
〈反応は?〉
「受け取った苦情係の人は、それを小馬鹿にするような表情で半笑い」
〈ギルドでのやりとりの証拠とかありますか?〉
「あるよ。持ち込んだ時のは録画機器を念動魔法で操って、四角の天井付近からバッチリ。受け付けのはアホ毛に持たせて、ヒトの胸をジーっと見てる場面も撮った」
〈ネットにばら蒔きますか?〉
「俺からだとアレだし、ネットがトモダチの親友にやってもらうよう、帰りがけに頼んできた」
〈おや、マスターに友達……親友なんて人がいたのですね?〉
「………………すまん、アホ毛を見てくれ。シオシオだ。タマちゃんとじゃれる気力が無いんだ」
ソファーには仰向けに寝ていたが、あの重みで息苦しくなってきてゴロリと半回転。うつぶせになりたかったが、今度は上半身が妙に反った上に肺を圧迫してくる。
……むぅ、横じゃなきゃダメか。
〈分かりました。ダンジョン管理はおまかせ下さい〉
「おやすみ、タマちゃん」
〈お休みなさいませ、マスター〉
ホワイトデーイベント直前のダンマスルーム
「……思ったより早かったな」
〈何が早いのですか?〉
「冒険者ギルドのオッサンどもへの処置」
〈ああ、マスターが酷いセクハラを受けたアレですね?〉
「ネットにあの様子をばら蒔かれて、内々で無かったことに~って打診を国から受けていたのを、シカトし続けた甲斐があるわ」
〈あー……つまり、和解金で手打ちにされそうになったのですね?〉
「併せて、戦闘からドロップ回収までほとんど年齢制限モノでモザイクだが、超級ダンジョン戦闘記録と言う証拠も、ネットにばら蒔いて貰ったからな。言い訳不可能で即懲罰だったみたいだな」
〈マスターの端末で見せて頂きましたが、あれは罰を受けるべきですよ〉
「幼女相手にしていい態度ではないからな」
〈集団威圧、鑑定詐欺の買い叩き、その他。あの映像でも言い訳していたら豪の者ですよ〉
「あとあの苦情係な。アレも罰をしっかり貰ったみたいだ」
〈折角、超級ダンジョンも頑張れば踏破できるんだよ~って、冒険者を煽り立てようとしたのに、上の方が特大の不祥事でギルドの立場が暴落〉
「自業自得だな。これで連中の意識が変わると良いが。とにかく親友グッジョブ。後でなんか美味い菓子かなにかでも持ってくかぁ」
〈マスターの手料理なら、泣いて喜ぶと思いますよ〉
「嫌だよ、なんで礼だとしても野郎に俺の手料理を食わせなきゃならないんだよ。やっても奢る位だよ」
〈……マスターの親友さん、可哀想〉
「何でだよ!?アイツは良いやつ、親友だ!悲しませてねーはずだぞ?」
〈マスター、お嫁さんが見つかると良いですね?〉
「……ホントにな。って、それが親友とどう関係あるんだ?」
〈……はぁ(ため息)〉
「いや、教えてよ!」
※ダンマス幼女と、幼女の親友がどうにかなるとか、読み手としては面白ければOKですが、作者の立場的にはその展開を書く気は毛頭ありません。ご了承下さいませ。