神狩 響子
鮫みてェなアタマのデカブツに喰われる男。
デケェ蛇から丸呑みにされる女。
悲鳴と怒号が響き渡り、鼻を突く異臭が充満した戦場。
「神狩大尉、此処は駄目だ!」
背後の仲間が叫ぶ。次の瞬間、ヤツは犬の贋作に押し倒され、手足をジタバタさせた。
「助け……ギャ!」
すぐ傍らに飛び、群れる犬どもに拳を叩き込む。
「オイ!」
抱え上げた兵士は首に致命傷を受け、息はなかった。
「オイ!」
……クソったれ!
周りを見ると、明らかに友軍より敵の数が多い。
キリがねえ。
だが十分に引き寄せた。
「ヤローどもは先に下がれ! 女は離脱の準備をしろ!」
呼吸音を鳴らしながら息をゆっくりと吸い込み、腹を経由して口に溜めるイメージを思い描く。顔の前には、ソレと同じ大きさの魔法陣が浮かび上がった。
「調子コイてんじゃねーぞ!」
吐き出した息が、魔法陣を通して灼熱の炎に変わる。そのまま横に薙ぎ、周りの贋作どもに吐きかけていく。
動くモンが無くなったところで、息を吐くのを止める。
消し炭になった遺体と、焼け焦げた贋作の死体がゴチャ混ぜになって残された。
「地獄に還りやがれ、化けモンどもが」
吐き捨てるように言うと、生き残った兵士達が駆け寄って来る。
「終わりだ。キャンプに帰るぞ」
戦闘を終えキャンプに戻ると、見慣れない男が立ってた。
口の周りが裂けた白い仮面――仮面に反した黒ずくめの軍服。
知らンぷりして呑み始めたが、無言の視線が背中に突き刺さって突き刺さって仕方ネェ。
「……があ! テメーは誰だ!」
「二つ名、火炎砲と見受ける」
「止めろ。オレは、神皇サマが付けたあだ名が気に入らネェんだよ」
と言うか、そもそも神皇が大嫌いだ。
ナンでも思い通りになると思ってやがる。
オヤジもヘラヘラとアタマ下げやがって。
オレの『神託』だってイヤだ。
――真っ黒く塗り潰す――。
ナニ塗り潰せってンだ、むしろムカつくわ。
「用件はナンだよ。呑むジャマすんな」
「黒嵐に入れ」
「黒嵐……ハッ! ナルホドな、あの薄気味ワリィ部隊か」
神皇直属、全員が『二つ名』持ちで仮面を着けてる。
「入るハズがネェだろ、とっとと帰れ」
「零が居るぞ?」
「――零が?」
零とは、『百鬼夜行』の最中に出会った。
あの地獄で助けてもらったし、こんなオレに構ってくれてる時点で大きな借りだ。
神崩でさえ無けりゃ、スゲェ尊敬してやるのによ。
「……ナニしてやがンだよ、テメーは」
いきなり首に刀を据えられ、動くことが出来ない。
こりゃ神器か、コイツいつ抜きやがった。
女の『強化』に対し、男には『神器』が与えられた。
神崩での研究成果の一つ。
特殊な法儀式をして、通常兵器に神がかった付加を施す。それが神器だ。
「全く見えていないな。リミッターを外しているのに」
二つ名を持てば、任意にリミッターを外す許可が下りる。コイツを見た時から、警戒してさりげなくリミッターを外していた。だがぶっちゃけたハナシ、ココまで差があるとは思わなかった。
「恥じる事は無い。Sクラスが相手だ」
「Sかよ!」
ってコトは神崩出身か?
仮面を付けてるが、まさか零?
イヤ違うな。
零とは背の高さも、声も、所作からして違う。エモノも刀だ。
アイツは銃使いで有名だし、ナニより、このオレがアイツを間違えるハズがねえ。
「知っているとは思うが、黒嵐は全員が二つ名持ちだ」
強くなりてえ。
零と対等になれるように。
長い付き合いだから解る。アイツは一人でも生きていける。一人で生きて、例え他人が死んでも意に介さず、そのまま一人でナンの後悔も無く死ねる。アイツは強い、強過ぎる。そんなアイツの横に立って、共に笑っていられるように、オレは強くありたい。
「仕方ネェ、行ってやるよ」
仮面男に続いて本部の一室に入ると、同じく面を被った黒い軍服が居た。胸の膨らみから察するに女だ。同じ部隊でも、軍服や仮面の形状が違う。コッチの女は口の周りが裂けている訳でも無く、無表情な面を着けてる。
「だから誰だっつーの」
「おや、姉の姿も忘れているのですか? 響子」
「……アネキ?」
アネキっつーが、血が繋がっているワケじゃない。
神狩で最初の成功例――梔子 世輪傍。
まさか、こんな部隊に所属しているとはな。
そういや、梔子は零の好きな花だったな。
「入隊おめでとう」
軽々しくパチパチと手を叩く。昔からこの態度だ。いつもいつも、上から目線でオレをバカにしやがる。
「ココに居るってコトは、アネキも二つ名を持ったのか」
「その通りです」
「こんなヤツの率いる部隊に居て、アンタ平気なのかよ」
「こんなヤツ?」
言葉を聞いた途端、アネキの身体から冷たい風が吹き付けた。
「隊長への侮辱は、例えアナタでも許しませんよ」
確か、アネキの能力は冷気を操る『氷結』だったハズだ。
オレの火炎とは相性が悪い。コイツの下にいるトコ見ると、きっとオレより強い。からかわれンのはムカつくが、ココは引き下がるべきだな。
「悪い、ジョークだよ」
「止めろ多層回路」
口裂け面がアネキに言うと、冷気はピタリと止んだ。
多層回路……それが二つ名か。
「お前は今日からこれだ」
目の前にカラカラと音を立て、口元の無い仮面が投げ出される。
「オレが火を吹きやすいように、半面かよ」
「いえ、単純にアナタが半人前だからよ」
「チッ!」
ロコツに舌打ちしたのに、仮面の二人組はシカト。
「ふざけンな」
零、オメーは今ドコに居るんだ?




