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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
序章
5/59

神崩 司

 発足(ほっそく)から一年で、このような事態になるとは。

 奴が異常な日記を付けているなんて、夢にも思わなかった。

 日記が現実のものならば問題は無い。だが()()()()()()()を日記に書き残していた。

 気付くのが完全に遅れた。

 書き記したモノの性質から、徐々に侵食していたのだ。

 彼は能力を自覚している。自覚した上で、わざと書き記した。


 これは、私への復讐だ。


 世界は変わってしまうだろう。いや、(すで)に変わり始めている。

 ()()()()()()()()()()()。これこそが奴の能力だ。

 妻は(わか)っていたのか。解っていて、私に()()()()()をさせたのか。


 過ぎた夢を見たものだ。


 人生は、何かが、一瞬で、絶望に変わる。



 数日後、親友の草薙(くさか)が訪れたので、全てを話した。


「それは本当か?」

「本当だ」

「その話が真実で有れば、今の状況は奴が(つく)り出した事になる」

「解っている。私は、妻の御蔭で認識出来ているんだ。逆を言えば、こんな存在になっていなければ、事態を把握(はあく)出来なかった」

(にわ)かには信じられない」

「信じてくれ。お前だけなんだ、こんな事を信じてくれるのは」


 草薙は静かに(うなず)き、真っ直ぐ私を見た。


「それで、日記は止めさせたのか?」

「ああ、鍵も付けて封印した」

「後で確証を()よう。今は、世界を何とかしなければ」


 二人で奴の部屋に向かうと、友人と一緒に()た彼は、ゆっくりとこちらを振り返った。


「遅かったね」


 草薙は直ぐ刀を抜いた。


「そんな物で、僕を殺せるのかな」


 構わず刀を構える。


「周りを見てごらんよ」


 今、入って来たドアが消えている。


 家具が消えている。


 ()()()()()()()()、暗い曇天(どんてん)が広がっている。


「さっき、日記を開いて読み返したんだ」

「馬鹿な! 確かに鍵を掛けた!」

「あれ? 鍵なんて掛かってたかな?」


 言いながら日記帳を(かか)げる。


 しまった。

 奴の前では、鍵など無いのと同じなのだ。


「草薙、すまん。しくじった」

「何?」

「大規模な投影が始まっている」


 徐々に進行していた現象が、読んだ、つまり書き込みを確認した事によって加速した。このままでは、今まで無いくらい『贋作(がんさく)』が発生してしまう。


「案ずるな、神崩(かみなだ)


 草薙は、次第に変わっていく室内を走り出した。


「元凶を殺せば良い」


 奴の胸に、光る刃が吸い込まれる。手からは日記帳が落ちた。


「草薙!」

「あ……あ、あ……」 


 余りの出来事に、(かたわ)らの友人は動けない。一方の奴は、突き立つ刀を見て、不思議そうに首を(かし)げた。


「く、草薙。血が、血が出てないぞ」


 胸から血が出ていない。


「さあ、どうしてでしょう」

「ならば、せめて投影を留める」


 刀を引き抜き、部屋の壁に突き刺した。ぼやけていた風景は明瞭(めいりょう)になり、そのまま()ちていく。


「神崩、施設の中も時間を早めた。日記帳を取れ! 逃げるぞ!」


 私は床に落ちた日記帳を拾い、草薙に渡した。


「あーあ、今の状態でそれを取ったら危険だよ」

「な、に?」

「これから……」

「あ……?」



「これから、世界が死んでいくよ」



 私の研究所は、発足から一年で消滅してしまった。

 施設も、その中で働いていた所員達も、文字通り()き消えた。


 施設の在った場所からは、数人の男女と一冊の日記帳が発見された。


 勿論(もちろん)、その中に私と草薙は居ない。

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