行平 康太:漆
自分と慎吾と姫桜――三人で、百鬼夜行の森に立っている。
「ふんふんふー」
「ノリノリですね」
「久しぶりの遠足だもんねえ」
「違います」
姫桜を見ていると、本当に百鬼夜行か疑いたくなるが、周囲の森はそれを否定していた。
彼女が源典に触れる時、自分達は彼女に触れる。その瞬間、風景は暗い森へと変化したのだ。捩れた枝が生い茂り、木漏れ日の差し込みすら許さない。もっと遅いかと思っていた。自分が受けてから一年も経っていない。姫桜は、まだ任期の最中なのだ。
「コータの時は私用で抜けたんだから、今回はしっかり働きなよ?」
姫桜が信悟の脇腹を突く。
「あう」
彼は眼鏡を中指で持ち上げ、言葉を返した。
「あ、当たり前です」
「……そう言えば、副隊長はどうしたんだ?」
「彼女は別の役目です」
「副隊長なのに、部下を危険な目に遭わせて良いのか?」
「誤解無いよう言っておきますが、重要な役目を担っています。まとめた終息論を、本部へ報告して下さっているのです」
「それって、隊長の役目じゃないのか?」
自分の言葉に、姫桜は胸を張る。
「本部なんて行きません!」
「えー」
「迷うから!」
「えぇ……?」
「それに彼女だって大変ですし、ね」
「何?」
「彼女も対峙する者、来年は彼女が補助です」
副隊長までオリジナルだったのか。普段は連絡係とは言え、馬鹿に出来ないな。
「って、それじゃ副隊長は一年ごと大変じゃないか」
確か、今オリジナルは二人だけだ。
「そうなんですよ。姫桜にも、もっと考えて貰わないと」
「い! や!」
さすが我らが姫君、酷い暴君っぷり。
「……それで、今回は誰を補助するんですか?」
「今回こそ、彼女達ですよ」
「誰?」
「こないだ会ったでしょう?」
ああ、先日の双子か。
あの二人、百鬼夜行の日々で姫桜に会いに来ていたとは、精神力が強いな。
「さて、ぼちぼち行きますぞ」
「また意味不明なキャラクターになって……誰です? それ?」
その言葉に、姫桜が固まった。
「ああ、余り深く考えないで」
今度は、その言葉に目を見開いて口を広げる。
「想定外でした、みたいな顔は止めて下さい」
彼女が立つ木の陰から、数メートルはあるムカデが這い出てきた。
「危ない!」
銃声が響き、ムカデが消え去る。
いつの間にか、信悟が両手に銃を持っていた。
「さっさと行きますよ」
自分も刀を抜く。
「え?」
服の腰元を引っ張られて横を見ると、隊長殿が上目使いで自分を見ていた。
「コータ、守ってね」
か、可愛い。
在りし日の妹のようだ。
「はい!」
姫桜の指示で信悟が前衛、自分は後衛となった。
巨大な鰐の口をバック転して避け、回転しながら銃撃――大蛇の噛み付きを身を屈めて回避し、そのまま前後左右を見ずに銃撃――人の顔が浮かんだゴキブリの軍勢を、連続して正確に銃撃――袖口からカートリッジをスライドさせ、一瞬でリロード。
先行した信悟は、瞬く間に贋作を撃ち消していく。
「凄いな」
「ダメだなあ、手え抜いてるよ」
「……あれで?」
後衛は暇で仕方無く、ついつい口数が増えてしまう。
それでも姫桜と合わせ、迫る敵を防御し、足止めし、打ち倒した。
しばらく進んで行くと、遠くに異様な光景が見えた。
贋作が殺し合っている。
「あ、あれは?」
前を進んでいた信悟が割って入り、あっという間に殲滅した。
「ありゃりゃ、出番なかったね」
横で姫桜が呟く。
中央には、二人の女性が立っていた。
「姫桜様」
「ご苦労様です」
礼する二人に、姫桜も頭を下げる。
「試験終了だね、おめでとう」
周囲は、贋作の痕跡すら消えている。
こうして、大した事件も無く、彼女達の百鬼夜行は終わった。
神皇が名付けた彼女達の二つ名は――。
盤上遊戯。




