無名
火が消えた神狩を見ると、表皮が炭化している神崩に反し、身体は燃えていなかった。二つ名、多層回路の能力――炎を吐く前に、神崩を冷気でコーティングしたな。響子は目覚めたか。
「火炎砲、神狩を連れて下がれ! 傷口を凍らせて止血しろ!」
直ぐに響子と小夜子が駆け寄る。
神狩はどうなるか判らんが、司は助からん。
まだ二人のコーティングは無理だったか。
司、じき逝くから奥方とゆっくりして居てくれ。
「貴様、何のつもりだ」
目の前の斑を見る。
「言ったでしょう? 時が来たんですよ」
「お前は、それで良いのか?」
「初めから死ぬつもりです。ここまで観客が増えるとは、思っていませんでしたけど」
周りの風景が霞み、白衣の人間が囲んだ。
その数、大よそ百人――神崩研究所の所員達だ。みな青白い顔で、我々を睨んでいる。
「恨めしそうですね」
我々は、手に持った刀を握り締めた。
「下衆な能力だ」
「それじゃあ、オーダー追加で」
斑が指を鳴らすと、さらに軍服が囲んだ。
今度は、かつての部下達だった。
「一対二百、ってとこですかね」
振り向き、近寄って来た白衣を切り捨てる。
切られた白衣は、何も無かったように掻き消えた。
「この程度……お……おれを……俺を舐めるな!」
「へえ……神崩や神狩を見て、内なる贋作を振り切りましたか」
「来い下郎……塵に変えてくれる」
メスや瓦礫や、どんな武器を持ったところで、幻は幻だ。
「百だろうが千だろうが、仮令万であろうが――切り捨てるのみ」
迫る弾丸を躱し、刀で逸らし、有象無象に捕まれようが、恨み言を吐かれようが、切って切って切りまくった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
十数分の後、最後の一人を切り捨てる。
「魂の込もっていない幻影などで、俺を殺せると思ったか?」
「……降参ですね」
目の前で、斑は両手を広げた。
「僕も退場しましょう」
「貴様」
「神崩を始末できた、それだけで十分です」
手に持った刀で、首を横に薙いだ。
瓦礫は消え、何も無い荒野が広がっている。
本部と連絡を取る響子達を放り、倒れている神崩を抱き抱えた。
「そ、総一郎……」
もはや瀕死の為か、時を数える癖は出ない。
「司……まだ、こんな道化をそう呼んでくれるか」
「どうやら、私達夫婦は此処までのようだ。付き合わせて悪かった」
「俺だって、部下の復讐に付き合わせた」
「お互い様だな」
「ああ、それに……」
「それに?」
「俺達は友達じゃないか」
「そうだ……な……」
寂しそうに笑い、親友は先立った。
「く、そ……」
時間が無い。
「くそ!」
幻影は時など関係無いか……攻撃が有効とは、侮った。
「司、俺は間に合うか?」
俺の脇腹から、血が滴っている。




