神狩 響子:漆
早急な任務が入りやがった。
神崩跡地に入ったヤツらが、相次いで行方不明になってるらしい。
しっかし、ホントにココが神崩跡か?
ナニもネェ荒野って聞いてたけど、しっかりあるじゃネェか。
灰色の空に、無数の瓦礫が転がってる。行き止まりになってる所や曲がりくねった道、まるで迷路だ。時計屋とは、ソッコーはぐれちまったし。
「誰か居ネェのか?」
人の気配は微塵も無い。もうどっから来たのか、判らなくなっちまった。
「響子」
「アネキ?」
物陰から世輪傍が現れた。
「ドコから来たんだ?」
人の気配ナンて、全く感じなかった。
「死になさい」
「……ナニ?」
いきなりアネキは駆け出す。
「ちょっ……ナンだよ!」
条件反射で拳を握り、顔面に向けた。
「フッ!」
殴りつけたが、空中に出現した氷の面でガードされる。
「クソ!」
悪態を吐くオレの足を、氷が包み込む。
「くっ」
足元へ炎を吐き掛けようとしたら、氷の面を投げつけられた。炎を足じゃなく面に吐き、そのまま足の氷も薙ぐ。
距離を離さネェと!
「オラァ!」
火炎放射をアネキに戻し、二人とも飛び退く。
ヨシ、このまま切り返すゼ。
精神を集中し、目の前に巨大な魔法陣を出現させた。
「ナンのつもりか分かンねえけどな……やり過ぎだ!」
太い炎を噴射しアネキを包み込む。
と思ったが、ジャンプで回避された。
「まだまだ!」
上に向け、ソレを追い掛ける。
アネキは着地しない。
氷を発生させ、足場にして空中を走って来た。
「マジかよ!」
炎をものともせず、駆け抜ける。
薄い氷を張ってやがるな。
さらに精神を集中。
目の前の魔法陣に二重三重と『枠』が出現し、嵌まって大きくなった。
「喰らえ!」
炎を吐き終えると、空中にはナニも無い。
「遅い」
いつの間にかオレを越え、後ろに降り立ってやがる。
「っ!」
振り向こうとした首が凍りつき、動きが止まった。
「マズ……」
アタマに冷たく強い衝撃が走る。
拳を氷でコーティングし、後頭部を殴りやがった。
「この!」
今度は両手足が氷に包まれ、世輪傍の魔法陣が出現した。
デケェ。
ゆうに十メートルは超えてやがる。
周りも無数の魔法陣に囲まれ、動けネェ。
「死になさい」
「アネキよ、一体どういうつもりだ」
世輪傍は、大きく息を吸い込んだ。
まさか、炎を吐くつもりか?
「そうか……」
出来るンだ、アネキも。
ナンで気付かなかったンだ。
オレと同じ贋作を移植されてンだから、出来て当たり前だ。
逆にオレも氷を出せる。
「テメーの能力に、今まで気付いてなかったとはな」
オレを業火が包み込んだ。
咄嗟に氷で全身を囲い、炎に耐える。
オレの能力は、火を吐くコトじゃない。自分で能力を制限してた。
炎は与えていて、氷は奪っている。『多層回路』だからな。
熱を操る――ソレがオレの贋作。
「ク……ソ……」
もたネェ。
オレとアネキじゃ、能力に差がある。
「火炎砲、何を遊んでいる?」
身体を包む、炎が掻き消えた。
「……あ?」
霧散した世輪傍の陰から、無名が現れた。刀を納め、静かに呟く。
「貌ある幻影を相手にするな」
「幻影だと?」
「参謀は所用だ、此処には来ていない。つまり、あれは偽者だ」
そンぐれえの理由で、部下を一刀両断にするなよ。おっかネェな。
「迷いは全てを殺す、気を付けろ」
言いながら、隊長は踵を返した。
「オイ、ドコ行くンだ?」
「元凶を探す。予測通りなら、奴が居る筈だ」
「置いてくなよ」
「付いて来るな、足手纏いだ」
オイオイ隊長さん、部下の心までぶった切ンじゃネェよ。
二人で歩いてると、人の気配がした。
「あ! 響子さーん!」
「小夜子! テメー、こんなトコでナニしてやがる!」
「いえね、あんまり時間無くって……神狩博士にお聞きしたんですよ。わたし特佐に用がありまして、ここじゃないかと睨んだんです」
いネェよ。
ってかオヤジ教えんなよ。
黒嵐の任務は機密だろ?
ってか、ナンでオヤジ知ってンだよ。
「身体ぼろぼろじゃないですか! 何かあったんですか?」
「オメーこそ、よく無事で来れたな」
「……何すか?」
「誰かに会わなかったのかよ」
会ってたら、オレみたいになってたハズだ。
「あー。わたし最近は、誰が何かも忘れてきてますからねえ。取り敢えず、覚え無ければダッシュしてました」
「ナニ言ってンだ?」
「それはですね……」
小夜子の話を聞いて、ぶっちゃけビビッた。
「……オメー、ソレやばいンじゃネェの?」
「やっぱし、やばいですかね」
ぷくく、と笑う小夜子を見て、オレは感心した。ダンマリを決め込んでいた無名も、横で口を開く。
「君は強いな」
「オメー、スゲェよ」
「そんなことないですよ。楽天家なだけで」
「いや、むしろヘンタイじゃねえ?」
「そう言えなくも無い」
「酷いわ!」
「ヘンタイ」
「君は変態か」
「もういいですよ、変態で!」
「……言い過ぎたよ、歯あ食いしばンなって」
歩きながら話し込んでいると、また瓦礫から人影が出て来た。
「オヤジ……本物?」




