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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
35/59

神狩 響子:陸

 仮面の下から、奇妙な二人組を見た。

 一人は目に細いゴーグル――白い服を着て、地面には金属の杖をついてる。

 一人は耳を(おお)う巨大なピアス――腐敗臭を(はな)つ赤黒いボンデージを身に着け、コッチを見返してる。


「コイツら、誰よ?」


 横に立つ時計屋(とけいや)に声を掛けた。


「このBクラスの護衛が、今回の任務です……チッ……」

「護衛ったって……」


 杖の女はまだしも、オレにガンつけてるボンデージ女は、護衛なんざ()らなそうだ。


「返事なってネェな、誰だって聞いてンだろ」

「三猿……チッ……見ザルと聞かザルを移植された女性達です」

「誰から護ンのよ?」

「それこそ言わザルですよ……チッ……奴は仲間を殺された腹いせなのか引き合うのか、二人を狙っているらしいです」

「おい」


 二人で話してると、聞かザルが声を出した。


「ナンだよ。聞かざるだから、聞こえないンじゃネェのか?」

「唇の動きを読んだ」

「あ、そう」

「早く宿舎まで護送しろ」


 ナンだ、その命令口調は。ムカつくな。


「オイ、コラ。誤解すンなよ、()()()()()()()()()()()()?」

「感謝でもしろと言うのか?」

「そうだよ、むしろジュースの一本でも買って来やがれ」

「チッ……それでは護衛になりません」


 (にら)み合うオレと聞かザルの間に、見ザルが割って入った。


「まあまあ二人とも、仲良くしましょう」


 笑顔で透明感ある声に(なご)まされ、オレも聞かザルも黙った。



 宿舎への道を、オレと時計屋が挟んで歩く。


「オメー、服クセェな。ちゃんと洗ってンのか?」


 聞かザルのボンデージを(なが)めながら言った。


「洗濯はしている。私は聞かザルと言う特性上、殲滅(せんめつ)戦が主だからな。洗っても洗っても、染み込んだ返り血と死臭が落ちない」

「た、大変ね。聞かザルちゃん」


 杖をつく見ザルが言う。

 オレには、オメーの方が大変に見えるぞ。


贋作(がんさく)には、断末魔(だんまつま)で相手を死に(いた)らしめる者も()ます……チッ……彼女は殲滅に打って付けなのでしょう」

「……しかし、ナンで今さら護衛すンだ?」

「言わザルは、長らく行方が知れなかったのです……チッ……先日、やっと戦場に現れました……チッ……取り逃したらしいですが」

「戦場で、私たちを探していたらしいです」


 見ザルが言う。


「私たちも移植された贋作のせいか(わか)りませんが、どうしても一緒に居たい衝動に駆られるんですよ」

「ナルホド。テメーらを張ってたら、言わザルは来るっつーワケだ」

「話によると、奴は人の男性に近い形態の贋作らしい」


 見分けが付かネェってコトだな。

 気ィ付けるか。



 宿舎では二人を隣室に、さらにオレと時計屋で挟んで部屋を取る手はずが整っていた。

 今日も()むのをガマンして、部屋で十本目のタバコに火を()ける。


「おい」


 部屋をノックして、聞かザルが顔を出した。


「ボンデージ、返事する前に開けてンじゃネェよ」

(けむ)いな」

「酒が呑めねえンだから、仕方(しかた)ネェだろ」

「アルコール依存な上にニコチン依存か、護衛が(つと)まるのか?」

「テメー、ケンカ売りに来たのか?」

「……聞こえた」

「あ?」

「だから、言わザルが来る。私の能力は、()()()()()()能力だ。戦場では聞こえすぎて、膨大な音の処理に脳が追いつかなくなり、何も聞こえなくなる……だから聞かザル。だがこのように静かな場所では、聴力が最大限に発揮(はっき)される。さっき聞こえた。言わザルが近付いて来ている」


 二人で部屋を出た。

 聞かザルを見ザルの部屋に入れ、時計屋の部屋をノックする。


「……チッ……」


 ボサボサのアタマで、時計屋は顔を出した。


「オメー、寝てただろ」

「身体を休めていました……チッ」

「ソレを寝てたって言うンだよ」


 予知能力者のクセに、感知が本人より遅れるんじゃ使えネェぞ。


「リミッター外しとけ、来るらしいゼ」

「……チッ……」


 二人で廊下に出る。

 幅はざっと二メートル――(せめ)えな。

 施設が施設だから、炎を吐いたら燃え広がる。

 まったく、黒嵐(こくらん)は適材適所って言葉を知らネェのか。


「ヤツの能力は?」

(わか)りません……チッ」

「予知しろよ」

「リミッターを外していないので……チッ」

「外せって言ったろ!」

「チッ……あれを」


 目の前に、和服でマスクをした男が姿を現す。


「テメーか。正面から堂々と、いい度胸じゃネェか」


 ヤツはマスクを外した。


「なっ……」


 口がなきゃいけネェ場所にナニもない。卵みてえに、ツルツルとしてやがる。


「バケモンが」 

「失礼な女だ」


 横から声が響いた。


「あン? 時計屋、ナニ言いやがる」


 時計屋は、コッチを見て目を見開いてた。


「この口を借りているんだよ」


 コイツ!


「俺は、口が無いんじゃない。何処(どこ)にでも口を出せるんだ」

「言わザルとは、良く言ったモンだ」

「皮肉だな」


 時計屋は仮面の上で口を(ふさ)ぐが、会話は止まらない。


「ナニしに来やがった」

「仲間を迎えに来た」

「もういい時計屋、部屋に戻って二人を護れ」


 時計屋は振り返り、部屋のドアを開ける。


「こんな事も出来るぞ」


 ソコには、巨大な口が広がってた。 

 時計屋の前でバクンと口が閉じ、ヤツは尻を着く。


()()()ならば、何処にでも出現させられる」

「このお(しゃべ)りヤローが」

此処(ここ)も、だ」


 面の目出し穴に、口が出た。


「目玉を()めてやろうか?」

「クソが!」


 咄嗟(とっさ)に仮面を外し、投げ捨てる。

 廊下はラッキーだった、他に物がネェ。


「……時計屋、リミッターは外したか?」

「ええ」


 後ろで言葉を返す。

 オレは拳を握り、走り出した。

 ヤツは両手の中指と親指で輪を作り、ガチガチと歯を鳴らす口を出現させた。


「時計屋! 予測しろ!」


 時計屋は何も言わない。


「時計屋!」


 返事がネェから振り返ると、時計屋は首を振っていた。


 待て。

 振り返ったまま、走りながら考える。

 待て待て。

 さっき、()()()()()()()()()()()()()


「死ね」


 時計屋がボソリと言った。


 口を乗っ取られてやがった!


 言わザルを振り返ると、両腕で大きな輪を作っている。


「クソ!」


 構わず火を吹いた。


「ごあ!」


 火は両腕で作られた口を(あぶ)り、イヤな臭いが立つ。 


「ナメんなよ」


 そのまま、うろたえる言わザルに迫る。


「オラア!」



「……あー、ヤバかった」

「ワタクシには、貴女(あなた)が馬乗りになって、一方的にボコボコにしているようにしか見えませんでしたが……チッ」

「リミッター外せっつったよな? おバカさん」


 時計屋を小突(こづ)く。


「チッ……」


 フラつく時計屋と一緒に、再びドアを開けた。


「ああ、大丈夫でした?」


 二人で凍りつく。


「こちらも、()()()()()()


 聞かザルに似た『石像』のアタマを、見ザルは()でていた。


「オメー、ナニしてやがる……聞かザルはドコ行った」

「いるじゃないですかあ」


 石を優しく、優しく撫でている。


「……オメー、能力を教えろ」


 ヤツは言葉を聞かず、石を見ている。


「教えろ!」

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