神狩 響子:陸
仮面の下から、奇妙な二人組を見た。
一人は目に細いゴーグル――白い服を着て、地面には金属の杖をついてる。
一人は耳を覆う巨大なピアス――腐敗臭を放つ赤黒いボンデージを身に着け、コッチを見返してる。
「コイツら、誰よ?」
横に立つ時計屋に声を掛けた。
「このBクラスの護衛が、今回の任務です……チッ……」
「護衛ったって……」
杖の女はまだしも、オレにガンつけてるボンデージ女は、護衛なんざ要らなそうだ。
「返事なってネェな、誰だって聞いてンだろ」
「三猿……チッ……見ザルと聞かザルを移植された女性達です」
「誰から護ンのよ?」
「それこそ言わザルですよ……チッ……奴は仲間を殺された腹いせなのか引き合うのか、二人を狙っているらしいです」
「おい」
二人で話してると、聞かザルが声を出した。
「ナンだよ。聞かざるだから、聞こえないンじゃネェのか?」
「唇の動きを読んだ」
「あ、そう」
「早く宿舎まで護送しろ」
ナンだ、その命令口調は。ムカつくな。
「オイ、コラ。誤解すンなよ、護衛してやってンだからな?」
「感謝でもしろと言うのか?」
「そうだよ、むしろジュースの一本でも買って来やがれ」
「チッ……それでは護衛になりません」
睨み合うオレと聞かザルの間に、見ザルが割って入った。
「まあまあ二人とも、仲良くしましょう」
笑顔で透明感ある声に和まされ、オレも聞かザルも黙った。
宿舎への道を、オレと時計屋が挟んで歩く。
「オメー、服クセェな。ちゃんと洗ってンのか?」
聞かザルのボンデージを眺めながら言った。
「洗濯はしている。私は聞かザルと言う特性上、殲滅戦が主だからな。洗っても洗っても、染み込んだ返り血と死臭が落ちない」
「た、大変ね。聞かザルちゃん」
杖をつく見ザルが言う。
オレには、オメーの方が大変に見えるぞ。
「贋作には、断末魔で相手を死に至らしめる者も居ます……チッ……彼女は殲滅に打って付けなのでしょう」
「……しかし、ナンで今さら護衛すンだ?」
「言わザルは、長らく行方が知れなかったのです……チッ……先日、やっと戦場に現れました……チッ……取り逃したらしいですが」
「戦場で、私たちを探していたらしいです」
見ザルが言う。
「私たちも移植された贋作のせいか判りませんが、どうしても一緒に居たい衝動に駆られるんですよ」
「ナルホド。テメーらを張ってたら、言わザルは来るっつーワケだ」
「話によると、奴は人の男性に近い形態の贋作らしい」
見分けが付かネェってコトだな。
気ィ付けるか。
宿舎では二人を隣室に、さらにオレと時計屋で挟んで部屋を取る手はずが整っていた。
今日も呑むのをガマンして、部屋で十本目のタバコに火を点ける。
「おい」
部屋をノックして、聞かザルが顔を出した。
「ボンデージ、返事する前に開けてンじゃネェよ」
「煙いな」
「酒が呑めねえンだから、仕方ネェだろ」
「アルコール依存な上にニコチン依存か、護衛が勤まるのか?」
「テメー、ケンカ売りに来たのか?」
「……聞こえた」
「あ?」
「だから、言わザルが来る。私の能力は、聞こえすぎる能力だ。戦場では聞こえすぎて、膨大な音の処理に脳が追いつかなくなり、何も聞こえなくなる……だから聞かザル。だがこのように静かな場所では、聴力が最大限に発揮される。さっき聞こえた。言わザルが近付いて来ている」
二人で部屋を出た。
聞かザルを見ザルの部屋に入れ、時計屋の部屋をノックする。
「……チッ……」
ボサボサのアタマで、時計屋は顔を出した。
「オメー、寝てただろ」
「身体を休めていました……チッ」
「ソレを寝てたって言うンだよ」
予知能力者のクセに、感知が本人より遅れるんじゃ使えネェぞ。
「リミッター外しとけ、来るらしいゼ」
「……チッ……」
二人で廊下に出る。
幅はざっと二メートル――狭えな。
施設が施設だから、炎を吐いたら燃え広がる。
まったく、黒嵐は適材適所って言葉を知らネェのか。
「ヤツの能力は?」
「解りません……チッ」
「予知しろよ」
「リミッターを外していないので……チッ」
「外せって言ったろ!」
「チッ……あれを」
目の前に、和服でマスクをした男が姿を現す。
「テメーか。正面から堂々と、いい度胸じゃネェか」
ヤツはマスクを外した。
「なっ……」
口がなきゃいけネェ場所にナニもない。卵みてえに、ツルツルとしてやがる。
「バケモンが」
「失礼な女だ」
横から声が響いた。
「あン? 時計屋、ナニ言いやがる」
時計屋は、コッチを見て目を見開いてた。
「この口を借りているんだよ」
コイツ!
「俺は、口が無いんじゃない。何処にでも口を出せるんだ」
「言わザルとは、良く言ったモンだ」
「皮肉だな」
時計屋は仮面の上で口を塞ぐが、会話は止まらない。
「ナニしに来やがった」
「仲間を迎えに来た」
「もういい時計屋、部屋に戻って二人を護れ」
時計屋は振り返り、部屋のドアを開ける。
「こんな事も出来るぞ」
ソコには、巨大な口が広がってた。
時計屋の前でバクンと口が閉じ、ヤツは尻を着く。
「輪の中ならば、何処にでも出現させられる」
「このお喋りヤローが」
「此処も、だ」
面の目出し穴に、口が出た。
「目玉を舐めてやろうか?」
「クソが!」
咄嗟に仮面を外し、投げ捨てる。
廊下はラッキーだった、他に物がネェ。
「……時計屋、リミッターは外したか?」
「ええ」
後ろで言葉を返す。
オレは拳を握り、走り出した。
ヤツは両手の中指と親指で輪を作り、ガチガチと歯を鳴らす口を出現させた。
「時計屋! 予測しろ!」
時計屋は何も言わない。
「時計屋!」
返事がネェから振り返ると、時計屋は首を振っていた。
待て。
振り返ったまま、走りながら考える。
待て待て。
さっき、アイツは舌打ちしなかったぞ。
「死ね」
時計屋がボソリと言った。
口を乗っ取られてやがった!
言わザルを振り返ると、両腕で大きな輪を作っている。
「クソ!」
構わず火を吹いた。
「ごあ!」
火は両腕で作られた口を炙り、イヤな臭いが立つ。
「ナメんなよ」
そのまま、うろたえる言わザルに迫る。
「オラア!」
「……あー、ヤバかった」
「ワタクシには、貴女が馬乗りになって、一方的にボコボコにしているようにしか見えませんでしたが……チッ」
「リミッター外せっつったよな? おバカさん」
時計屋を小突く。
「チッ……」
フラつく時計屋と一緒に、再びドアを開けた。
「ああ、大丈夫でした?」
二人で凍りつく。
「こちらも、済みましたよ」
聞かザルに似た『石像』のアタマを、見ザルは撫でていた。
「オメー、ナニしてやがる……聞かザルはドコ行った」
「いるじゃないですかあ」
石を優しく、優しく撫でている。
「……オメー、能力を教えろ」
ヤツは言葉を聞かず、石を見ている。
「教えろ!」




