草薙 零:陸
教官室で、小夜子先生から神皇陛下の話を聞いた。
「死体愛好ですか」
「ぱ……何です?」
「いえ。それより小夜子先生、陛下の御身を傷つけるとは……」
「す、すいません」
「よくもまあ、黒嵐相手にそんな告白が出来たものですね」
下げられた彼女の頭を掴む。
「謝るだけならば、知恵のついた赤子にも出来ますよ」
徐々に力を込める。
「い、痛い……」
「傷は大丈夫なんですか?」
「だ、大丈夫です。昨日、様子を見に行ったんですけど、むしろ大歓迎して頂きました。また来い、とも……」
「大歓迎、ね」
「き、聞いて下さい!」
そこで、彼女から彼女の事情を聞いた。
「誰かが戒めなければ、取り返しが……」
彼女の行動は、自身の中に原理が有ったにせよ、結果的に陛下の為となった。しかも、その後の大歓迎。陛下が彼女を許しているのなら、下が怒るのは筋違いだ。ご配慮に背く。
「……ごめんなさい、は言いましたか?」
「は、はい。昨日、行った時に改めて」
小夜子先生の頭から、ゆっくりと手を離した。
「ふん……」
衰えぬ不満で眉間に皺を作ると、空気を読んで彼女は話題を変えた。
「……そ、そうそう。訓練生から、変な話を聞いちゃったんですよ」
「どんな話ですか?」
急須から茶を注ぎながら、彼女は言葉を続ける。
「何でも、街中に奇妙な建物を見るらしいです」
「建物?」
真逆、建築物の贋作か?
立ち回るのが面倒そうだな。
「建物は五階建てらしく、見れば中に引き込まれるらしいです」
「引き込まれるのは奇妙ですが、それだけですか?」
「問題はそこなんですよ。話をしてくれた生徒が聞いた時点では四階、しかし彼女が実際に見ると五階だったらしいです」
「つまり見る度に高くなる、と?」
「一階に辿り着き、建物から出れば逃れられるみたいです」
「逃れられる……と言うのは、中で襲われるんですね?」
「その通りです。傷だらけの化け物が襲ってくるらしいですよ」
ますます厄介だ。
屋内に引き込まれると言う事は、恐らく内部は贋作の領域――能力を発揮出来ないだろう。
「怖いですよね」
小夜子先生は、何処か嬉々として話している。
「面白がってないですか?」
「いえいえ」
人は、安全な恐怖ほど面白がる。
彼女は、自分は大丈夫だとでも思っているのだろうか。
「しかし……何か引っ掛かりますね。その相談してくれた訓練生の周りでは、同様の事件が起こらなかったんですか?」
「ええ。彼女と、彼女に話をしてくれた子だけみたいです」
「そうですか」
小夜子先生が帰り、一人になった教官室で考える。
何やら、奥歯に挟まっている感じだ。
何だ、何が――。
「……そうか」
直ぐ教官室を出た。
小夜子先生が危ない。
「間に合うか、転移に」
体験者から話を聞いた者が、追体験している――伝染しているんだ。




