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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
34/59

草薙 零:陸

 教官室で、小夜子(さよこ)先生から神皇(しんのう)陛下の話を聞いた。


死体愛好(パラフィリア)ですか」

「ぱ……何です?」

「いえ。それより小夜子先生、陛下の御身(おんみ)を傷つけるとは……」

「す、すいません」

「よくもまあ、黒嵐相手(しんぽうしゃ)にそんな告白が出来たものですね」


 下げられた彼女の頭を(つか)む。


「謝るだけならば、知恵のついた赤子(フェアリーロイド)にも出来ますよ」


 徐々(じょじょ)に力を込める。


「い、痛い……」

(おからだ)は大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫です。昨日、様子を見に行ったんですけど、むしろ大歓迎して頂きました。また来い、とも……」

「大歓迎、ね」

「き、聞いて下さい!」


 そこで、彼女から彼女の事情(カニバリズム)を聞いた。


「誰かが(いまし)めなければ、取り返しが……」


 彼女の行動は、自身の中に原理が有ったにせよ、結果的に陛下の(ため)となった。しかも、その後の大歓迎。陛下が彼女を許しているのなら、下が怒るのは筋違いだ。ご配慮に(そむ)く。


「……ごめんなさい、は言いましたか?」

「は、はい。昨日、行った時に改めて」


 小夜子先生の頭から、ゆっくりと手を離した。


「ふん……」


 (おとろ)えぬ不満で眉間(みけん)(しわ)を作ると、空気を読んで(きまずくなったのか)彼女は話題を変えた。


「……そ、そうそう。訓練生から、変な話を聞いちゃったんですよ」

「どんな話ですか?」


 急須(きゅうす)から茶を注ぎながら、彼女は言葉を続ける。


「何でも、街中に奇妙な建物を見るらしいです」

「建物?」


 真逆(まさか)、建築物の贋作(がんさく)か?

 立ち回るのが面倒そうだな。


「建物は五階建てらしく、見れば中に引き込まれるらしいです」

「引き込まれるのは奇妙ですが、それだけですか?」

「問題はそこなんですよ。話をしてくれた生徒が聞いた時点では四階、しかし彼女が実際に見ると五階だったらしいです」

「つまり見る(たび)に高くなる、と?」

「一階に辿(たど)り着き、建物から出れば(のが)れられるみたいです」

「逃れられる……と言うのは、中で襲われるんですね?」

「その通りです。傷だらけの化け物が襲ってくるらしいですよ」


 ますます厄介(やっかい)だ。

 屋内に引き込まれると言う事は、恐らく内部は贋作の領域(オークション)――能力を発揮(はっき)出来ないだろう。


「怖いですよね」


 小夜子先生は、何処(どこ)嬉々(きき)として話している。


「面白がってないですか?」

「いえいえ」


 人は、安全な恐怖ほど面白がる。

 彼女は、自分は大丈夫(バイヤー)だとでも思っているのだろうか。


「しかし……何か引っ掛かりますね。その相談してくれた訓練生の周りでは、同様の事件(コピーキャット)が起こらなかったんですか?」

「ええ。彼女と、彼女に話をしてくれた子だけみたいです」

「そうですか」


 小夜子先生が帰り、一人になった教官室で考える。


 何やら、奥歯に挟まっている感じだ。

 何だ、何が――。


「……そうか」

 ()ぐ教官室を出た。


 小夜子先生が危ない。


「間に合うか、転移に(アポート)


 体験者から話を聞いた者が、追体験(インプリント)している――伝染しているんだ。

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