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これから世界が死んでいきます  作者: 狐面
生きる人々
31/59

桔梗 小夜子:伍

 あれ?

 お休みなのに、何でわたしは軍本部なんか歩いているんだっけ?

 う、ん。

 あー。

 駄目だ。駄目、駄目、思い出せない。

 しっかし、昨日は疲れたなぁ。

 掃除を手伝わされるなんて、やっぱり行かなきゃよかった。

 と言うか手伝ってないよ、あれ。

 何をしているのか、どんどん物が散らかっていく。

 掃除は苦手なのかな。


 人嫌いで有名な響子(きょうこ)だけど、わたしには好感が持てた。言葉(づか)いが荒いだけで、みんな(かん)違いしている。

 リミッターを付けていても聞こえてしまう『声』で、特佐とは正反対。でも、心の中と話す言葉にズレがない。つまり嘘を()かない。子供でも嘘を吐く世の中で、これはとっても珍しい。


「あ、そうそう」


 独り言を(つぶや)きながら、ぽんと手を叩く。

 参謀さんに会うんだった。


 黒嵐(こくらん)神皇(しんのう)直属の部隊だけあってか、父のコネは意味を()さなかった。代わりに響子が話を通して、梔子(くちなし)特尉(とくい)への取り次ぎが叶った。

 ちなみに、今日は髪を(たば)ねていない。リミッターを外した耳元を、視線から隠す必要があったから。響子から情報を引き出せなかった分、今回は少しでも持ち帰らなきゃ。


 廊下を歩いていると、背の高い女性が立っていた。

 とても美しい顔立ちなのに、周りの風景から浮いている。例えて言うなら、放置された人形みたい。


「アナタが桔梗(ききょう)殿ですか?」

「は、はい」


 短いものと長い(そで)が重なってはいるが、確かに黒い軍服。


「参謀の梔子と申します。時間が有りませんので、用件は手短に」


小夜子(さよこ)、元気でナニよりだ』


 『声』が大きい。

 それに、まるでわたしを知っているような口ぶり。


「失礼ですが、以前お会いしたことありますか?」


『感知能力を持ってたハズだな』


神狩(かがり)で。アナタの施術(せじゅつ)を見ました」

「そうですか」


『注意しなくては』


 心では警戒している。わたしの手術を見たなんて、きっと嘘だ。能力については、響子から話が出た時に聞いたんだろう。詳しくは(わか)ってないみたいで助かる。


 響子には源典(げんてん)……かいき?のことを聞けと言われたけど、まずは。


「ところで、隊長さんのことをお聞きしたいのですが」


『総一郎』


「隊長ですか?」


 総一郎?

 この人、確かに総一郎って言った!

 隊長って、神崩(かみなだ)消滅で行方不明になった草薙(くさか) 総一郎(そういちろう)大佐なの?!


「ええ」

 

 身体の震えを感づかれちゃ駄目だ。思わず手を握り締める。


「そう言えば、副隊長から双子の話を聞かれませんでしたか?」


 副隊長?

 ああ、特佐のことか。

 返事をはぐらかされたけれど、今の心情を変えるには十分だ。


「ええ。先日、聞かれたような気がしますけど」


『双子の生存は確認してる。どうやら、無事に近づけたみてえだな。上手くいった』


 なんのことだろう?

 この人、『()』の話し方が神狩 響子に似ている。

 姉貴って呼んでたけど、本当に姉妹なのかな。


「失礼、隊長の話でしたね。彼がナニか?」


 どうしよう。話を戻されてしまうと、さっきの言葉のせいで頭が真っ白になる。


「アナタ、ナニが知りたいのです?」

「あの、その……」


『大丈夫ですか?』


 口を開いて、優しい言葉を掛けてくれた。


「大丈夫です」

「大丈夫ですかって、口を動かしただけで喋っていませんよ」

「しまっ……」


 わたしの足を氷が包み込む。


「驚きましたね。感知どころか、心を読む能力者だったとは」


 冷たい。

 足が動かない。

 話す()()をした言葉に、まんまと返事をしてしまった。


『その能力で(ふた)()を持っていないとは、上官に(けむ)たがられたのか、何か事件を起こしてしまったのか』


 止めて。言わないで。


「まあ、いい」

「えっ?」

「勘違いしないように。コレは忠告です」

「ち、忠告?」

先程(さきほど)までの言葉を、誰にも話さないなら見逃してあげましょう」


 言いながら、髪に隠された耳元に触れてくる。


「油断しました。軍規違反を犯す覚悟で来るとは思わなかった。中々(なかなか)の度胸……その度胸に免じて、今回は見逃してあげます」


『早く返事なさい、凍傷になる』


 くそう。


「わ、かり、ました」

(よろ)しい」


 すぐに氷が消えた。


「もう帰りなさい」


 なんの、このまま終わってなるものか。


「最後に一つだけ、いいですか?」

「ナンです?」

貴女(あなた)は特佐の味方ですか?」

「ええ。例えアナタが先に()っても、彼の味方で在り続けます」


『安心しろ、小夜子』


 この人、何者だろう?

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