神狩 響子:伍
零のヤツ、いきなり訪ねたらビビっかな。
オヤジは神皇のトコ行ったし、小夜子はアネキんトコ行った。非番のオレは、にっくき時計屋を放置して、無名ならぬ零の担当。
しかし思い返してみたら、零ン家って行ったコト無くネェか?
互いに広告塔だった所為か、家ナンざ行かなくても前線で引っ切り無しに会ってたからな。生き地獄みてえな戦場を一緒に駆け抜けて、夜になったら朝まで飲み明かしたモンだ。
そんな零が、いきなり戦場に来なくなっちまった。思えば、アレが黒嵐に就いた時なンかね。他にダチも居ネェし。ぶっちゃけ、かなり寂しい。からかわれるから、アイツにゃ言わネェけど。
やべ、久しぶりに会えると思ったら、ニヤケ顔が止まんネェよ。人が見たら、ぜってえ変人に思われる。
「っと、ココだったかな」
門を抜けて屋敷の前に立ち、軽くノック。
「零?」
フツーにノック。
「おーい」
全力でノック。
「居るー?」
シカトか?
「居ないのかー?」
フン。
ナンだよ、せっかく来てやったのに。
ガマン出来ネェから、扉に触れてみた。
「ン?」
カギ掛かってネェぞ。
中を覗き込んだら。
「エッ?」
無数の腕に掴まれた。
「げっ……ちょっ……待てや……キモ……」
引きずり込まれながら、沢山の笑い声が聞こえる。
最近、ロクな目に合ってネェ。
黒嵐ナンざ辞めたろか、関係ネェけど。
いつの間にか、オレは玄関ホールに突っ立ってた。
我に返って身体を見回すと、腕は消えてやがる。
ナンだ、今のは。
「……はー。しかしスゲェな、コリャ」
外見はちょっと大きいくれえだったけど、中は異常に広い。
ホールを抱き抱えるように、湾曲した階段が二つ。二階には左右と奥に、先が見えないくらいまでドアが並んでやがる。
「あなたは、だあれ?」
フイに声がして、咄嗟に身構えた。
十歳くらいのガキが、いきなり目の前に立ってる。
長い髪を真ん中でジグザグに左右へと分け、二つに束ねている。皮製の硬質な服には、いくつも鎖が巻かれていた。
そういや、零はメイドと二人暮らしだって言ってたな。
これメイド?
いやいや、有り得ネェっつーの。
メイドを孕ました?
零……殺すぞ。
「だあれ?」
「お、おじょーちゃん。ナニモン?」
「……タガエ」
「いやいや、名前じゃねくてね」
「タガエだよ?」
やりづれえ。
作った笑顔で必死に対応する。笑いは引き攣ってンだろうがな。
「タガエちゃんだけどさ、ココでナニしてンのかな?」
「……ねえ、パズル好き?」
ハナシ聞けや!
「パ、パズル? キライじゃネェけど」
「パズルにしてあげようか?」
背筋に怖気を感じ、後ろへ飛び退いた。
目の前の空間に、マス目が浮かぶ。
浮かんだマスはグチャグチャに入れ替わり、景色が歪んだ。
「テメー、ナニモンだ」
「だからタガエだよ」
コイツ、空間を互い違いに組み替える能力者か。
「姫が、そう呼んだんだ」
姫……神皇か!
この年で二つ名持ってやがるとは、ますますナニモンだ?
「なあ。パズル止めてさ、他のモンで遊ぼうゼ」
「なんで? パズル楽しいよ? いやだよ」
コイツ、会話が通じネェ。破壊型みてえな暴力的思考だ。死霊かと思ったが、死んだら能力を失うしな。
だとすりゃ一つだ――コイツの精神は、贋作にかなり近い。
「ワリイな、タガエちゃん。今日は帰るわ」
ダッシュで逃げた。
あのまま戦ってたら、きっとどっちか死ンでたわ。流石に、零んトコに住んでるガキとやり合うつもりはネェ――しかし、アイツはナニモンだって、零に問い質さなきゃな。




